東京高等裁判所 平成9年(行ケ)244号 判決 1999年3月11日
名古屋市瑞穂区苗代町15番1号
原告
ブラザー工業株式会社
代表者代表取締役
安井義博
訴訟代理人弁護士
新長巖
同
弁理士 武藤勝典
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 伊佐山建志
指定代理人
佐藤久容
同
高木彰
同
井上雅夫
同
小池隆
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1 請求
特許庁が平成8年審判第10374号事件について平成9年8月29日にした審決を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、平成2年2月14日、名称を「通信端末装置」とする発明(以下、「本願発明」という。)につき特許出願(平成2年特許願第33470号)をしたが、平成8年4月22日拒絶査定を受けたので、同年6月27日拒絶査定不服の審判を請求した。特許庁は、この請求を同年審判第10374号事件として審理した結果、平成9年8月29日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年9月15日原告に送達された。
2 本願発明の要旨
ホストコンピュータと通信を行うことが可能な通信端末装置において、
前記通信端末装置内に設けられ、当該通信端末装置の使用回数を計測する計測手段と、
前記ホストコンピュータとの接続状態を識別する識別手段と、
該識別手段の識別結果に基づき、前記計測手段の計測した使用回数を初期化する初期化手段と、
前記計測手段の計測した使用回数が所定値に達したとき、それ以後の前記通信端末装置自体の使用を不可能にする使用不可能手段と
を備えたことを特徴とする通信端末装置。
(別紙1第1図参照)
3 審決の理由の要点
(1)<1> 本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。
<2> ところで、本願明細書の記載によると、本願発明は売り上げデータやトラブル状況を遠隔地で把握するために通信回線でホストコンピュータと接続されている業務用カラオケ装置やパソコン用ソフトウエア自動販売機などの通信端末装置について、これらの端末装置が盗難にあっても単独では使用できないようにし、しかもホストコンピュータ側のダウンや回線トラブルなどのオフライン状態でも短時間内に回復すればその短時間内には使用できるようにすることを目的とし、特許請求の範囲に記載した事項と同じ事項による解決手段によってこの目的を達成したというものであり、また、識別手段はホストコンピュータとの接続状態を識別し、初期化手段は識別手段の識別結果に基づいて通信端末装置内に設けられている計測手段によって計測した使用回数を初期化し、そして、計測手段の計測した使用回数が所定値に達すると、使用不可能手段はそれ以後の通信端末機の使用を不可能にするというものである。
また、実施例の説明を参酌すると、上記の使用回数は、パソコンソフトの種類やカラオケの曲目のいかんにかかわらず、これらのソフトの1回の使用をもって使用回数1としてカウントするのであるから、特許請求の範囲の記載における「使用回数」は上記の使用回数を意味するものと認められる。
したがって、本願発明はスタンドアロンでの端末機の使用を許容する単位をその稼働時間ではなく、実際のソフトの使用回数によって規定するものであり、また、このようなスタンドアロンでの使用回数によって許容使用限度を規制するために、「計測手段の計測した使用回数が所定値に達したとき、それ以後の前記通信端末装置の使用を不可能にする使用不可能手段を備えた」というものである。それゆえ、本願発明は要するに、通信カラオケ端末装置などのスタンドアロンでの使用許容限度回数を規定し、スタンドアロンでの使用回数がこの規定値に達したときに、例えば電源を遮断し、あるいは端末機内の記憶装置からの情報の読取りを禁止し、あるいは記憶情報を消去するなどの任意の方法によって、それ以後のソフトの無断使用を不可とするものであるといえる。
<3> ところで、例えば通信カラオケ装置等のオンラインソフト販売システムにおいては、予め端末機に読み込まれたソフトを使用した回数に応じて課金するものであるから、スタンドアロンでの使用は原則的に課金されない不正使用であり、この不正使用を防止するための何らかの予段が講じられるべきことが常識である(必要なら、「NTT施設1988/VOL40.NO2」46頁ないし49頁(甲第6号証)参照)。
本願発明は、理由のいかんを問わずスタンドアロンでの使用状態が生じたとき、その使用を許容する限度をソフトの使用回数とし、この使用許容回数を予め規定しておいて、スタンドアロンでの使用であることを確認して後、その使用回数をカウントし、この使用回数が上記規定値に達したときに何らかの手段によって、端末機による上記ソフトの使用を不能にするものであるといえる。
(2)<1> ところで、各種のオンラインソフト販売システムにおいては、課金などのためにホストコンピュータと端末機とを交信させてソフトの使用状況を監視するが、この交信が遮断されてそのためにホストコンピュータによる子機の監視が不可能になり、これが所定時間継続した場合にその状態での使用を不正使用と見倣して、端末機によるソフトの使用を不能にすることが、特開昭57-196680号公報(甲第2号証。以下「引用例1」という。)に記載されている。このものは上記の交信不能を検知したときにタイマが起動して経過時間をカウントし、このカウント値が許容規定値に達するとその使用を不能にするものである。
<2> なお、引用例1には、規定時間内に交信が再開されたときはタイマをリセットする旨の記載はないが、継続して一定時間以上使用されたことを検知するというタイマによって時間を計測することの目的からして、このことは当然のことである。
(3)<1> また、引用例1に記載されたソフト通信販売システムは、販売に供されるソフトの単位が時間単位であるために、ホストコンピュータと端末機との交信が不能になってから一定時間に限ってその使用を許容し、規定時間経過が判別されたとき、そのソフトの不正使用を不能にするものであるが、通信カラオケ等のソフト通信販売システムについては、ソフトの使用回数のカウンタをもともと備えていること、ソフトの使用回数をソフトの販売単位とするものであることから、ソフトの使用回数を基準に使用許容限度を選定することは、引用例1に記載された発明の基本思想に倣って当業者が容易に想到し得たことであるといえる。
<2>(a) さらに、通信カラオケシステムにおいて、端末機に予め蓄積されたソフトの使用回数(具体的には個々の曲目の演奏回数)をカウントし、このカウント値が規定値に達したとき、そのソフトを自動的に消去してその使用を不能にすることが特開昭60-253082号公報(甲第3号証。以下「引用例2」という。)に記載されている。
(b) 引用例2には、端末機のスタンドアロンでの不正使用を禁じることを目的とするものである旨の記載はないが、既に読み込んである音楽情報(ソフト)の使用を自動的に不能にするための手段として、ソフトの使用回数カウンタ(カラオケ端末機がもともと内蔵しているもの)によってカウントし、このカウント値が設定した規定値に達したことを判別し、これに基づいて上記ソフトの使用を不能にするという点においては本願発明と軌を一にするものである。そして、通信カラオケシステムの端末機においては、スタンドアロンでの演奏が可能であり、これが著作権などの課金を免れた不正使用に繋がることは常識であることを勘案すると、少なくともこのような不正演奏の回数を規定し得ることは当業者が容易に推測できたことであるということもできる。
<3> また、スタンドアロンでの使用許容限度をソフトの使用回数とするにつき、あるいは、それ以上のソフトの使用を不能にするについて本願発明が特別な技術的工夫を講じたものとも解されず、またそのように解すべき特段の理由は本願明細書の記載に見出せない。
(4) 以上のとおりであるから、本願発明は、通信カラオケなどのソフト通信販売システムにおいて、スタンドアロンでの不正使用(課金されない使用)を防止するための何らかの手段を講じるという当業者の常識を前提とすれば、引用例1に記載された発明思想、及び引用例2に記載された発明思想に基づいて、本件出願前に当業者が容易に発明することができたものであるといわざるを得ない。
したがって、特許法29条2項の規定により本願発明について特許を受けることはできない。
第3 審決の取消事由
審決の理由の要点(1)は認める。
同(2)のうち、<1>は認め、<2>は争う。
同(3)のうち、<1>は争う。<2>のうち、(a)は認め、(b)は争う。<3>は争う。
同(4)は争う。
審決は、引用例としての適性を有しないものを引用例とし(取消事由1)、相違点を看過し(取消事由2)、相違点についての判断を誤った(取消事由3)結果、進歩性の判断を誤ったものであるから、違法なものとして取り消されるべきである。
1 取消事由1(引用例1の引用の適否)
審決は、本願発明が容易に発明することができたことの論理づけの主たる引用例として引用例1を引用するが、その点においてそもそも誤っている。
(1)<1> 引用例1(別紙2第1図、第2図参照)に記載の端末装置28は、センター1とケーブル3、6、9の専用回線により物理的に連結され、画像信号及び作動状況検索信号をセンター1から常時供給されて動作し、端末装置28の使用状況はセンターにより常時管理されている。しかし、端末装置28が盗難などによりセンター1から物理的に遮断された場合には、画像信号も検索信号も端末装置には一切供給されなくなるので、端末装置28単独では動作することができない。また、引用例1のようなCATVシステムの端末装置の使用料金は、毎月の基本料金と有料番組の特別使用料金との合計であり、センターとの通信時間に応じて課金されることはない。
<2> これに対して、本願発明に関係する業務用カラオケ装置などの通信端末装置は、公衆通信回線を用いてホストコンピュータと連結されていることから、CATVシステムの端末装置のように画像信号などの供給のためにホストコンピュータと常時通信を行うと、通信回線料金が高額となり実用上大きな問題となる。そこで、業務用カラオケ装置などは、例えばその使用する時などの特定の時点に限ってホストコンピュータと通信を行い、その特定の時以外はホストコンピュータの管理を離れて単独で動作できるスタンドアロンの構成となっている。このため、スタンドアロン動作中は、CATVシステムとは異なり、ホストコンピュータにより端末装置の使用状況を管理することができなくなる。
<3> したがって、引用例1は、本願発明と連結通信技術が基本的に異なる端末装置を開示し、しかも、その端末装置には盗難による著作権使用料金の回収不能という問題が本来発生せず、本願発明のような構成は考慮する必要のない技術であるから、本願発明の引用例として適用することができないものである。
(2) 被告は、両者は、一般にホストコンピュータやセンターと称されるところに蓄積された著作権を伴うソフトについて、通信端末装置を用いて使用する点において共通するものであるから、同一の技術分野に属するものである旨主張する。
しかし、引用例1のCATVシステムの端末装置28は、センターからソフトとしての画像信号の供給を受けるのに対し、本願発明の通信端末装置は、主にスタンドアロンで使用されることから、端末装置自体に蓄積されたソフトを使用する構成であり、引用例1の端末装置とは構成・動作が異なる。また、本願発明は、通信端末装置自体の蓄積するソフトを使用するスタンドアロン動作中の不正使用を防止することを解決課題としており、この解決課題はスタンドアロンとして全く動作不可能な引用例1の端末装置には本来存在しない。
したがって、構成・動作と解決課題との点で全く相違する本願発明と引用例1の技術とが同一の技術分野に属するものと解することはできない。
2 取消事由2(相違点の看過)
審決は、本願発明の計測手段と引用例1のタイマー部との相違点を看過している。
(1) すなわち、本願発明の計測手段は、通信端末装置の使用回数を常時計測するものであり、通信端末装置がホストコンピュータと接続状態にある時のみならず、その接続が遮断されたスタンドアロンの時でも使用回数を計測する。
(2) これに対し、引用例1のタイマー部34は、センター1が特定の信号を受信できなくなった時から経過時間を計測するものであり、本願発明とは構成を異にする。
(3) この構成の相違により、本願発明は、ホストコンピュータにより管理できないスタンドアロン動作中の通信端末装置の使用状況を計測手段の計測結果により監視することができ、その後にホストコンピュータと正常に通信できた時に計測結果を送信することにより、ホストコンピュータはスタンドアロン動作中の端末装置の使用状況を管理することができるようになる。
3 取消事由3(相違点についての判断の誤り)
(1) 被告主張の相違点(a)について
<1> 引用例1に記載された発明における「経過時間を計測するタイマー部」に代え、「通信端末装置の使用回数」とすることは当業者が容易になし得る程度の事項である旨の判断は、誤りである。
引用例1に記載された発明のタイマー部の動作は、引用例1の記載からは明確でないが、数分間のタイムロスを計時する動作を行うとしても、クロックの送出が無くなった時から端末装置の不使用時間を含めて単に数分間の経過時間の計時を行うのみであり、端末装置が有料番組を視聴している時間を区別してその視聴時間のみを計時している旨の記載や示唆は全く見当たらない。また、タイマー部に設定される数分間のタイムロスは、引用例1の記載から、予備機器によるセンターの復旧を許容するための時間と考えられ、また数分間という時間は有料番組の視聴を許容する時間としては余りにも短すぎることから、タイマー部が端末装置の使用時間を計時するものとは到底考えられない。
したがって、通信端末装置の使用状況を監視するためにその使用回数を計測する本願発明の計測手段が、異なる目的で時間の経過を単に計測する引用例1のタイマー部と容易に置換できるとする判断は誤っている。
<2> また、引用例1において、通信端末装置が正常に接続されている状態からオフライン状態へ移行すると、経過時間に応じてタイマー部が予め定められた計測時間分のカウントを行う必要があり、タイマー部が初期化された状態からカウントを開始することは明白である旨の認定は、誤りである。
引用例1には、タイマー部がカウントを開始する時の状態が記載されているのみで、タイマー部が何時どのように初期化されるのかについては一切記載されていない。このように初期化する手段について詳細な検討がされないまま、計測手段において初期化することは従来普通に知られている技術であるとする認定は誤っている。
<3> 以上のとおり、本願発明の計測手段は、引用例1のタイマー部と目的、構成及び動作のすべてにおいて異なり、両者を置換することは不可能である。また、本願発明の初期化手段は、識別手段との関係で特別の構成を備えており、普通に知られている技術に属するものではない。
(2) 被告主張の相違点(b)について
オフライン状態にある通信端末装置について短時間内の使用に制限する手段として、経過時間か、使用回数かの相違は、通信端末装置の使用量を計測するために採用した手段が、経過時間であるか使用回数であるかに伴う差異であり、単なる構造上の微差にすぎない旨の判断は、誤りである。
引用例1のタイマー部は、前記のとおり、単に経過時間を計測するものであり、本願発明の計測手段のように端末装置の使用量を計測するものでない。したがって、この点の判断は、引用例1の経過時間について解釈を誤ったものである。
(3) 被告主張の相違点(c)について
ホストコンピュータに蓄積された著作権を伴うソフトの使用を制限するに当たり、通信端末の操作を不可能にすることは、通信端末を使用不可能にすることの一態様であり、この点に実質的な差異は認められない旨の判断は、誤りである。
本願発明は、ホストコンピュータではなく通信端末装置に蓄積されたソフトの使用管理及びその制限を目的とするものであり、引用例1のように通信端末装置の操作を不可能とし、その端末装置の使用を部分的に制限するのみでは、盗難後の端末装置は引き続き無制限に使用することができ、スタンドアロンで動作可能な端末装置全体の使用管理などを行うことはできない。
したがって、通信端末装置の使用管理及び制限を目的とする本願発明において、端末装置の操作の不能化と装置全体の使用不能化とは技術的に全く相違し、この点の審決の判断は誤っている。
第4 審決の取消事由に対する被告の反論
1 取消事由1(引用例1の引用の適否)について
(1) 引用例1には、
センター1と通信を行うことが可能なCATVの端末装置28であって、
前記端末装置内に設けられ、前記センターと接続されていない時に信号を出力するクロック検出部33と、
前記クロック検出部からの信号により作動し、経過時間を計測するタイマー部34と、
前記タイマー部の計測した経過時間が所定の計測時間に達したとき、それ以後の前記端末装置の操作を不可能にする手段と
を備えるCATVの端末装置
に関する発明が記載されている。
(2) 技術分野についての対比・判断
本願発明と引用例1に記載された発明の技術分野について検討すると、次のとおりである。
<1> 本願明細書には、「従来、業務用カラオケ装置やパソコン用ソフトウエア自動販売機などの通信端末装置にあっては、その売上データやトラブル状況を遠隔地で把握するために通信回線でホストコンピュータと接続されているものがあった。」(甲第4号証2頁1行ないし5行)、「業務用カラオケ装置やパソコン用ソフトウエア自動販売機などにあっては機器の被害だけでなく、カラオケ装置においては著作権使用料の回収ができない、パソコン用ソフトウエア自動販売機にあってはソフトウエアの大量無断複製ができてしまうなどの間接的な被害が派生して損害が著しく大きくなるという欠点があった。」(同2頁15行ないし3頁1行)と記載されている。
引用例1に記載された発明に関しては、「本発明は、センターと端末装置をケーブルで結び、双方向にデータ通信できるCATVシステムに関し、特に、端末装置側で不正に番組を視聴するのを防止することができるCATVシステムにおける盗視防止装置に関する。」(甲第2号証1頁左下欄15行ないし19行)、「(C)有料番組 新作映画や特定の番組などであり、ビデオディスクプレーヤ16、ビデオテープレコーダ17による録音番組や、スタジオ18で制作されて生番組はIFモジュレート回路20で変調されるとともに、スクランブル回路21によって画像信号に特定の同期信号を加えてそのまま受像しても正常な画像にならないように加工されている。次いでアップコンバータ回路22で特定のチャンネルの周波数にその周波数を高め、幹線ケーブル3に送る。」(同2頁左下欄11行ないし20行)と記載されている。
したがって、両者は、一般にホストコンピュータやセンターと称されるところに蓄積された著作権を伴うソフトについて、通信端末装置を用いて使用する点において共通するものであるから、同一の技術分野に属するものである。
<2> 次に、本願発明の目的についてみると、本願明細書の発明の詳細な説明には、「ホストコンピュータ側のダウンや回線トラブル等のオフライン状態でも短時間内に回復すればその短時間内は使用できるようにすること」(甲第4号証3頁10行ないし13行)と記載されている。
一方、引用例1には、「タイマー部34では数分間のタイムロスを設定してあるが、これはセンター1内のコンピュータ26或いはデータ送受信機25が故障して特定周波数の搬送波、或いはクロックが送出出来無くなった時にただちに盗視行為と判別するのを防ぐためであり、この数分間以内にセンター1中の予備の機器で特定の信号を送出すれば端末装置28側ではセンター1側の故障とは無関係に継続して番組を視聴することができる。」(甲第2号証4頁左上欄4行ないし13行)と記載されている。
したがって、引用例1には、本願発明の目的についての示唆もされている。
(3) 以上のとおりであるから、引用例1を本願発明の引用例とした点に誤りはない。
2 取消事由2(相違点の看過)について
(1) 審決の趣旨は次のとおりである。すなわち、
本願発明と引用例1に記載された発明の構成を比較すると、本願発明の「ホストコンピュータ」、「通信端末装置」、「識別手段」は、それぞれ引用例1に記載された発明の「センター」、「CATVの端末装置」、「クロック検出部」に相当するから、両者は、
ホストコンピュータと通信を行うことが可能な通信端末装置において、前記ホストコンピュータとの接続状態を識別する識別手段を備えた点において一致し、
以下の点で相違する。
(a) オフライン状態にある通信端末装置の使用期間を計測する手段として、
本願発明が、通信端末装置内に設けられ、当該通信端末装置の使用回数を計測する計測手段と、識別手段の識別結果に基づき、前記計測手段の計測した使用回数を初期化する初期化手段を有しているのに対し、
引用例1に記載された発明が、通信端末装置内に設けられ、クロック検出部からの信号により作動し、経過時間を計測するタイマー部を有している点。
(b) オフライン状態にある通信端末装置について短時間内の使用に制限する手段として、
本願発明が、計測手段の計測した使用回数が所定値に達したときとしているのに対し、
引用例1に記載された発明が、タイマー部の計測した経過時間が所定の計測時間に達したときとしている点。
(c) オフライン状態にある通信端末装置の使用を制限する手段について、
本願発明が、通信端末装置自体の使用を不可能にする使用不能手段であるのに対し、
引用例1に記載された発明が、通信端末装置の操作を不可能にする手段
である点。
(2) 本願発明の通信端末装置における計測手段について、特許請求の範囲の記載には、「前記通信端末装置内に設けられ、当該通信装置の使用回数を計測する計測手段と、前記ホストコンピュータとの接続状態を識別する識別手段と、該識別手段の識別結果に基づき、前記計測手段の計測した使用回数を初期化する初期化手段と、前記計測手段の計測した使用回数が所定値に達したとき、それ以後の前記通信端末装置自体の使用を不可能にする使用不可能手段と」と記載されており、また本願明細書の発明の詳細な説明には、実施例として「次に第4図のフローチャートを用いてその動作を説明すると、まず電源が投入されると制御装置3はダウンカウンタ2の値を-1減じ(ステップS1)、・・・ユーザーはカラオケ再生装置4を操作して、カラオケを楽しむ。(ステップS3、ステップS4、ステップS5)一曲分の演奏が終了したことを制御装置3が検出すると通信制御装置1を用いてホストコンピュータ5に売上ログを送信する。(ステップS6)制御装置3は正しく売上ログが送信されたことを確認後ダウンカウンタ2に予め決められた初期値、例えば10、を設定する。」(甲第4号証5頁2行ないし17行)と記載されている。
したがって、本願発明における計測手段は、通信端末装置が正常に接続されている状態から正常に接続されていない状態へ移行すると、通信端末装置の使用に応じて、使用回数を初期化された状態からカウントを開始するものである。
一方、引用例1には、タイマー部について「タイマー部34では数分間のタイムロスを設定してあるが、これはセンター1内のコンピュータ26或いはデータ送受信機25が故障して特定周波数の搬送波、或いはクロックが送出出来無くなった時にただちに盗視行為と判別するのを防ぐためであり、この数分間以内にセンター1中の予備の機器で特定の信号を送出すれば端末装置28側ではセンター1側の故障とは無関係に継続して番組を視聴することができる。」(甲第2号証4頁左上欄4行ないし13行)と記載されていることから、CATVの端末装置が正常に接続されている状態から正常に接続されていない状態へ移行すると、CATVの端末装置の使用に応じて、時間のカウントを開始するものである。
したがって、引用例1に記載されたCATVの端末装置は、計測手段が時間を計測する点で本願発明と相違するものの、正常に接続されていない状態を計測する計測手段を有している点で一致しており、原告が主張するように本願発明の構成要件である計測手段と引用例1のタイマー部との相違点を看過しているものではない。
3 取消事由3(相違点についての判断の誤り)について
(1) 引用例2には、
親局1と通信を行うことが可能な子局2Aに、前記親局から送られてきた音楽情報31を記憶するデータファイル12と、
前記子局において前記データファイル内の音楽情報を使用した或る曲目の演奏回数が一定数に達したならば、自動的に前記データファイル内の当該音楽情報を抹消する手段と
を設ける技術が記載されている。
当該技術の「親局」、「子局」、「演奏回数」は、それぞれ本願発明の「ホストコンピュータ」、「通信端末装置」、「使用回数」に相当し、また、データファイル内の音楽情報が抹消された後オフライン状態の子局の当該抹消された音楽情報の使用が不可能になるから、当該技術には、
ホストコンピュータとの通信を伴わない、すなわちオフライン状態における通信端末装置について、
通信端末装置の使用回数を計測する計測手段と、
当該計測手段の計測した特定演奏曲目の使用回数が所定値に達したとき、それ以後の前記演奏曲目を抹消すること、すなわち前記演奏曲目を使用不能とする手段を設けることが開示されているものと認められる。
(2) 相違点(a)について
<1> 通信端末装置について使用量を計測するに当たり、当該通信端末装置の使用回数や使用期間、使用時間等が考えられ、そのいずれを採用するのが望ましいかは、それぞれの通信端末装置のもつ機能等に伴い決定されるものである。
そして、引用例2に示されているように、通信端末装置の使用量を計測するに当たり、使用回数を用いる技術が知られているから、引用例1に記載された発明における「経過時間を計測するタイマー部」に代え、「通信端末装置の使用回数」とすることは当業者が容易になし得る程度の事項である。
<2> 次に、本願発明が、識別手段の識別結果に基づき、前記計測手段の計測した使用回数を初期化する初期化手段を有しているのに対し、引用例1に記載された発明には記載されていない点について検討する。
本願発明の「識別手段の識別結果に基づき、前記計測手段の計測した使用回数を初期化する初期化手段」の「識別手段の識別結果」とは、通信端末装置がホストコンピュータと正常に接続されていることの識別結果であると解釈できるから、本願発明が初期化手段を有しているのは、通信端末装置が正常に接続されている状態から正常に接続されていない状態(オフライン状態)へ移行した場合に、使用回数を初期化された状態からカウントを開始させるためのものであると解釈できる。
一方、引用例1に記載された発明におけるタイマー部について、「タイマー部34では数分間のタイムロスを設定してあるが、これはセンター1内のコンピュータ26或いはデータ送受信機25が故障して特定周波数の搬送波、或いはクロックが送出出来無くなった時にただちに盗視行為と判別するのを防ぐためであり、この数分間以内にセンター1中の予備の機器で特定の信号を送出すれば端末装置28側ではセンター1側の故障とは無関係に継続して番組を視聴することができる。」(甲第2号証4頁左上欄4行ないし13行)と記載されていることから、通信端末装置が正常に接続されている状態からオフライン状態へ移行すると、経過時間に応じてタイマー部が予め定められた計測時間分のカウントを行う必要があり、記載はないもののタイマー部が初期化された状態からカウントを開始することは明らかである。なお、この種の計測手段において初期化することは従来普通に知られている技術である(例えば、乙第3号証参照)。
(3) 相違点(b)について
通信端末装置の使用量を計測するために採用した手段が、経過時間であるか使用回数であるかに伴う差異であり、単なる構造上の微差にすぎない。
なお、通信端末装置の使用回数を所定値と比較する構成は引用例2に開示されているものである。
(4) 相違点(c)について
ホストコンピュータに蓄積された著作権を伴うソフトの使用を制限するに当たり、通信端末の操作を不可能にすることは、通信端末を使用不可能にすることの一態様であり、この点において実質的な差異は認められない。
そして、そのような差異に伴う格別な効果の差異も認められない。
理由
1 一致点、相違点の認定
(1) 本願発明の要旨は当事者間に争いがない。
審決の理由の要点(2)<1>(引用例1の記載事項の認定)は、当事者間に争いがない。そして、甲第2号証によれば、被告主張の引用例1の記載事項(第4、1(1))が認められる。
(2) そうすると、本願発明の「ホストコンピュータ」、「通信端末装置」、「識別手段」は、それぞれ引用例に記載された発明の「センター」、「CATVの端末装置」、「クロック検出部」に相当すると認められ、両者は、
ホストコンピュータと通信を行うことが可能な通信端末装置において、前記ホストコンピュータとの接続状態を識別する識別手段を備えた点において一致し、
(a) オフライン状態にある通信端末装置の使用期間を計測する手段として、
本願発明が、通信端末装置内に設けられ、当該通信端末装置の使用回数を計測する計測手段と、識別手段の識別結果に基づき、前記計測手段の計測した使用回数を初期化する初期化手段を有しているのに対し、
引用例1に記載された発明が、通信端末装置内に設けられ、クロック検出部からの信号により作動し、経過時間を計測するタイマー部を有している点。
(b) オフライン状態にある通信端末装置について短時間内の使用に制限する手段として、
本願発明が、計測手段の計測した使用回数が所定値に達した時としているのに対し、
引用例1に記載された発明が、タイマー部の計測した経過時間が所定の計測時間に達した時としている点。
(c) オフライン状態にある通信端末装置の使用を制限する手段について、
本願発明が、通信端末装置自体の使用を不可能にする使用不能手段であるのに対し、
引用例1に記載された発明が、通信端末装置の操作を不可能にする手段
である点で相違するものと認められる。
2 取消事由1(引用例1の引用の適否)について
原告は、引用例1は、本願発明と連結通信技術が基本的に異なる端末装置を開示し、しかも、その端末装置には盗難による著作権使用料金の回収不能という問題が本来生じないのであり、本願発明の引用例として適用できないものであり、審決は、主たる引用例として引用例1を引用した点においてそもそも誤っている旨主張する。
(1) 本願の特許請求の範囲は、「ホストコンピュータと通信を行うことが可能な通信端末装置」というものであり、ホストコンピュータと通信端末装置との間の通信手段に何らの制約はなく、しかも、「通信を行うことが可能」であればよいものであるから、引用例1に記載された発明のように常時センターと接続されたものも含むものであり、引用例1は本願発明と連結通信技術が基本的に異なる端末装置を開示するものと認めることはできない。
さらに、甲第4号証によれば、本願明細書には、「本発明は、・・・カラオケ装置やパソコン用自動販売機等の通信端末が盗難にあっても(オフラインでは)単独では使用できないようにし、しかもホストコンピュータ側のダウンや回線トラブル等のオフライン状態でも短時間内に回復すればその短時間内は使用できるようにすることを目的としている。」(3頁6行ないし13行)、「ホストコンピュータへの不正接続による使用等を防止することができる。」(9頁下から3行ないし末行)と記載されていることが認められ、甲第2号証によれば、引用例1には、「本発明は、・・・特に、端末装置側で不正に番組を視聴するのを防止することができるCATVシステムにおける盗聴防止装置に関する。」(1頁左下欄15行ないし19行)、「加入者が盗視を行うため何らかの手段によって端末装置28に下りデータ信号のみを受信できない様にすると、受信部32はその特定の信号の周波数を受信できず、これによりクロック検出部33はクロックが無いことを検出してその出力をタイマー部34に伝える。タイマー部34では数分間このクロック検出部33からの検出信号が続いた時に動作停止信号をチューニング信号発生部35に出力し、チューニング信号発生部35からのチューニング信号を予め設定してあるチャンネル(空きチャンネル又は無料番組のチャンネル)に強制的に変更させ、盗視を防止させる。」(3頁右下欄9行ないし20行)、「センター1内のコンピュータ26或いはデータ送受信機25が故障して特定周波数の搬送波、或いはクロックが送出出来なくなった時・・・この数分以内に・・・特定の信号を送出すれば端末装置28側ではセンター1側の故障とは無関係に継続して番組を視聴することができる。」(4頁左上欄6行ないし13行)と記載されていることが認められ、これらの記載によれば、両者は同様の目的・課題を有するものと認められる。
以上によれば、本願発明と引用例1に記載された発明とは、同じ技術分野に属すると認められる。
(2) さらに、引用例1に記載された発明においては、本願発明とは異なり、盗難による著作権使用料金の回収不能という問題をもともと考慮する必要がないとの原告の主張についてみても、前記説示のとおり、本願明細書には「本発明は、・・・カラオケ装置やパソコン用ソフトウェア自動販売機等の通信端末が盗難にあっても(オフラインでは)単独に使用できないようにし、しかもホストコンピュータ側のダウンや回線トラブル等のオフライン状態でも短時間内に回復すればその短時間内は使用できるようにすることを目的としている。」(甲第4号証3頁6行ないし13行)と記載されており、この記載によれば、本願発明の端末装置は、オフライン状態では使用できない端末装置を前提に、短時間内での回復の場合には使用できるようにする手段を設けたものであり、盗難による著作権使用料金の回収不能の問題は本来生じないものであるから、本願発明と引用例1に記載された発明との間に、原告の主張するような差異はないものである。
(3) なお、本願発明と引用例1に記載された技術とは、特許分類を異にし、特許庁内での審査担当分野が相違するけれども、このことをもってしても、上記認定を左右するものではない。
(4) 以上によれば、引用例1は本願発明の進歩性を判断するための主引用例とすることができるというべきであり、原告主張の取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(相違点の看過)について
原告は、本願発明の計測手段が通信端末装置の使用回数を常時計測するものであり、通信端末装置がホストコンピュータと接続状態にある時のみならず、その接続が遮断されたスタンドアロンの時でも使用回数を計測するのに対して、引用例1のタイマー部34はセンター1が特定の信号を受信できなくなった時から経過時間を計測するものであり、この構成の相違により、本願発明は、ホストコンピュータにより管理できないスタンドアロン動作中の通信端末装置の使用状況を計測手段の計測結果により監視することができるようになるが、審決はこの相違点を看過している旨主張する。
(1) 甲第4号証によれば、本願明細書には、「本発明の通信端末装置は、識別手段がホストコンピュータとの接続状態を識別し、初期化手段は識別手段の識別結果に基づいて通信端末装置内に設けられている計測手段の計測した使用回数を初期化する。そして計測手段の計測した使用回数が所定値に達すると、使用不能手段はそれ以後の通信端末装置の使用を不可能にする。」(4頁5行ないし11行)、「まず電源が投入されると制御装置3はダウンカウンタ2の値を-1減じ(ステップS1)、その値が1以上であることを確認後カラオケ装置を起動させる(別紙1第4図参照)。(もしダウンカウンタ2の値が0以下ならばカラオケ再生装置を起動しない)(ステップS2、ステップS3)」(5頁3行ないし8行)、「制御装置3は正しく売上ログが送信されたことを確認後ダウンカウンタ2を予め決められた初期値、例えば10、を設定する。(ステップS7、ステップS8)」(5頁14行ないし18行)と記載されていることが認めれられる。
上記記載によれば、本願発明の実施例においては、正常に使用されている場合、ホストコンピュータと接続されているときにはステップS8で必ず初期値にセットされ、その後電源投入時にダウンカウンタの値を1減ずることを繰り返すだけであって、計測手段であるダウンカウンタは初期値(10)と初期値-1(=9)のどちらかの値を示し、この値が通信端末装置の使用回数を示しているわけではない。また、ホストコンピュータや通信回線に何らかの故障が生じ、数回(初期値より少ない回数で)使用後に通信端末装置がホストコンピュータと接続することができた場合、故障中に計測手段(ダウンカウンタ)の計測した使用回数は初期化されるのであって、故障中の使用回数をホストコンピュータに送信する構成とはなっていないことが明らかである。
したがって、本願発明においては、通信端末装置がホストコンピュータと接続状態にあるときは計測手段であるダウンカウンタが通信端末装置の使用回数そのものを計測しているものと認めることはできないから、本願発明の計測手段が通信端末装置の使用回数を常時計測するものであるという原告の主張は誤りであり、故障の後にホストコンピュータと正常に通信することができた時に、故障中の計測手段の計測結果を送信することにより、ホストコンピュータはスタンドアロン動作中の通信端末装置の使用状況を管理することができるとの主張も誤りである。
(2) よって、原告主張の取消事由2は理由がない。
4 取消事由3(相違点についての判断)について
(1) 引用例2記載の技術について
甲第3号証によれば、引用例2には、「親局1と通信を行うことが可能な子局2Aに、前記親局から送られてきた音楽情報31を記憶するデータファイル12と、
前記子局において前記データファイル内の音楽情報を使用した或る曲目の演奏回数が一定数に達したならば、自動的に前記データファイル内の当該音楽情報を抹消する手段と
を設ける技術」が記載されていることが認められる。すなわち、引用例2には、オフライン状態における通信端末装置について、通信端末装置の使用回数を計測する計測手段と、当該計測手段の計測した特定演奏曲目の使用回数が所定値に達したとき、それ以後の前記演奏曲目を抹消すること、すなわち前記演奏曲目を使用不能とする手段とを設けることが開示されていると認められる。
(2) 相違点(a)について
<1> オフライン状態にある通信端末装置について短時間内の使用に制限する手段が、本願発明では使用回数であるのに対し、引用例1に記載された発明では経過時間である点について
通信端末装置について使用量を計測するに当たり、当該通信端末装置の使用回数や使用期間、使用時間等が考えられ、そのいずれを採用するのが望ましいかは、それぞれの通信端末装置のもつ機能等に伴い決定されることと認められる。
そして、上記(1)に説示のとおり、引用例2には、通信端末装置の使用量を計測するに当たり使用回数を用いる技術が開示されているから、引用例1に記載された発明における「経過時間を計測するタイマー部」に代え、「通信端末装置の使用回数」とすることは当業者が容易になし得ることであると認められる。
<2> 本願発明が、識別手段の識別結果に基づき、前記計測手段の計測した使用回数を初期化する初期化手段を有しているのに対し、引用例1に記載された発明には記載されていない点について
本願発明の「識別手段の識別結果に基づき、前記計測手段の計測した使用回数を初期化する初期化手段」の「識別手段の識別結果に基づき」というのは、通信端末装置がホストコンピュータと正常に接続されていることを識別した場合と解釈することができるから、初期化手段を備えたのは、通信端末装置が正常に接続されている状態から正常に接続されていない状態(オフライン状態)へ移行した場合に、使用回数を初期化された状態からカウントを開始させるためであると解することができる。
一方、甲第2号証によれば、引用例1には、タイマー部について、「タイマー部34では数分間のタイムロスを設定してあるが、これはセンター1内のコンピュータ26或いはデータ送受信機25が故障して特定周波数の搬送波、或いはクロックが送出出来無くなった時にただちに盗視行為と判別するのを防ぐためであり、この数分間以内にセンター1中の予備の機器で特定の信号を送出すれば端末装置28側ではセンター1側の故障とは無関係に継続して番組を視聴することができる。」(4頁左上欄4行ないし13行)と記載されていることが認められ、この記載によれば、通信端末装置が正常に接続されている状態からオフライン状態へ移行した場合、タイマー部が予め定められた計測時間分のカウントを行うものであり、そのためには、タイマー部が初期化された状態からカウントを開始することは自明のことと認められるから、タイマー部の計測時間を初期化する手段は、引用例1に記載されているに等しいものと認められる。
<3> 原告は、通信端末装置の使用状況を監視するためにその使用回数を計測する本願発明の計測手段が、異なる目的で時間の経過を単に計測する引用例1のタイマー部と容易に置換できるとする判断は誤っている旨主張する。
しかしながら、本願発明の計測手段が通信端末装置の使用回数を常時計測するものとは認められないことは、前記3に説示したとおりである。
そして、甲第4号証によれば、本願明細書には「本発明は、・・・ホストコンピュータ側のコンピュータ側のダウンや回線トラブル等のオフライン状態でも短時間内に回復すれば短時間内は使用できるようにすることを目的としている。」(3頁6行ないし13行)と記載されていることが認められ、一方、甲第2号証によれば、引用例1には「タイマー部34では数分間のタイムロスを設定してあるが、・・・この数分間以内にセンター1の予備の機器で特定の信号を送出すれば端末装置28ではセンター1側の故障とは無関係に継続して番組を視聴することができる。」(4頁左上欄4行ないし13行)と記載されていることが認められ、これらの記載によれば、本願発明の計測手段を設ける目的と引用例1のタイマーを設ける目的には、親局や通信回線が故障やダウンしても短時間内であれば使用することができるようにする点で共通しているから、上記の置換を妨げる要因はないというべきである。
<4> したがって、相違点(a)についての判断の誤りをいう原告主張の取消事由は、理由がない。
(3) 相違点(b)について
<1> この点は、通信端末装置の使用量を計測するために採用した手段が、経過時間であるか使用回数であるかに伴う差異であり、単なる構造上の微差にすぎないと認められる。
なお、通信端末装置の使用回数を所定値と比較する構成は、上記(1)に説示のとおり、引用例2に開示されているものである。
<2> 原告は、本願発明の計測手段は端末装置の使用量を計測するものであることを理由として、経過時間か使用回数かの相違は単なる構造上の微差にすぎない旨の判断は誤りである旨主張する。
しかしながら、前記3に説示のとおり、本願発明の計測手段は通信端末装置の使用回数を常時計測するものとは認められないから、相違点(b)についての判断の誤りをいう原告主張の取消事由は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
(4) 相違点(c)について
<1> ホストコンピュータに蓄積された著作権を伴うソフトの使用を制限するに当たり、通信端末の操作を不可能にすることは、通信端末を使用不可能にすることの一態様と認められ、この点の相違に伴う格別な効果の差異があるとも認められないから、相違点(c)は、実質的な差異とは認められない。
<2> 原告は、本願発明は、ホストコンピュータではなく通信端末装置に蓄積されたソフトの使用管理及びその制限を目的とするものであり、引用例1記載の発明のように通信端末装置の操作を不可能とし、その端末装置の使用を部分的に制限するのみでは、盗難後の端末装置は引き続き無制限に使用することができ、スタンドアロンで動作可能な端末装置全体の使用管理などを行うことはできない旨主張する。
しかしながら、甲第2号証によれば、引用例1には、「タイマー部34では数分間このクロックの検出部33からの検出信号が続いた時に動作停止信号をチューニング信号発生部35に出力し、チューニング信号発生部35からのチューニング信号を予め設定してあるチャンネル(空きチャンネル又は無料番組のチャンネル)に強制的に変更させ、盗視を防止させる。このとき、コントロールボックス12からの選択の信号よりもタイマー部34からの停止信号を優先させてあるため、コントロールボックス12をどの様に操作してもチャンネルの選択動作は不可能になる。」(3頁右下欄14行ないし4頁左上欄4行)と記載されていることが認められ、この記載によれば、引用例1記載の発明においては、盗視行為を防止する必要は有料番組についてのみあるため、有料番組を聴視することができる操作を不可能とする(原告の表現によれば、端末装置の使用を部分的に制限する。)ものと認められるところ、本願発明においては、その全部の使用を制限する必要があるため、その金部の使用を制限するものである。そして、ホストコンピュータに蓄積された著作権を伴うソフトの使用を制限するに当たり、通信端末の操作を不可能にすることは、通信端末を使用不可能にすることの一態様と認められるから、これと同趣旨の認定を前提とする審決の判断に誤りはなく、この点の原告の主張は採用することができない。
<3> したがって、相違点(c)についての判断の誤りをいう原告主張の取消事由も理由がない。
5 結論
以上のとおり、原告主張の取消事由はいずれも理由がない(なお、審決には、通常の審決の構成とは異なる書き方をしている部分があるため分かりにくい点もあるが、そのことをもって理由不備等の違法があるとまで解することはできない。)。
よって、原告の本訴請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結の日 平成11年2月16日)
(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)
別紙1
<省略>
別紙2
<省略>