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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)258号 判決 1999年2月24日

東京都中央区日本橋本石町3丁目3番16号

原告

株式会社存在社万寿パブリケーション

代表者代表取締役

伊藤實

訴訟代理人弁護士

岩田廣一

同弁理士

高橋敏忠

高橋敏邦

同復代理人弁護士

前田恵三

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 伊佐山建志

指定代理人

木下幹雄

六車江一

田中弘満

小林和男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成8年審判第7507号事件について、平成9年9月5日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、平成5年6月2日、名称を「製版フィルム及びその製造方法」とする発明(以下「本願全発明」という。)につき、特許出願(特願平5-131700号)をしたが、平成8年4月15日に拒絶査定を受けたので、同年5月20日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を、平成8年審判第7507号事件として審理したうえ、平成9年9月5日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同月22日、原告に送達された。

2  本願全発明の特許請求の範囲第3項に記載された発明(以下「本願発明」という。)の要旨

シート状部材と、シート状部材に最終原稿の情報表示用のトナーの粒子やインクを固着せしめる性質を有し且つシート状部材の表面を被覆している定着層と、該定着層上に存在し且つ複写機、レーザプリンタ、インクジェットプリンタのいずれかにより最終原稿の情報が出力される情報表示層とを有し、前記情報表示層ではシート状部材の情報が出力される側の表面と情報が焼き付けられる版材の感光面とが直接接触する様に最終原稿の情報が左右反転して出力されており、前記シート状部材及び定着層は共に透光性を有しており、且つ、前記最終原稿の情報が出力された後もトナー或いはインクが付着していない領域には透光性が維持されていることを特徴とする製版フイルム。

3  審決の理由

審決は、別紙審決書写し記載のとおり、本願発明が、特開昭54-44903号公報(以下「引用例1」という。)、特開昭48-89002号公報(以下「引用例2」という。)、特開平3-197957号公報(以下「引用例3」という。)及び特開平4-216561号公報(以下「引用例4」という。)にそれぞれ記載された発明(以下、それぞれ「引用例発明1~4」という。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。

第3  原告主張の取消事由の要点

審決の理由中、本願発明の要旨の認定、引用例1~4の記載事項の認定、本願発明と引用例発明1との一致点並びに相違点1及び2の認定、相違点1についての判断の一部(審決書10頁3~11行)、相違点2についての判断の一部(審決書11頁15行~12頁1行)は、いずれも認める。相違点2についての判断のうち、引用例1の複写機が「トナー粒子を固着する」(審決書12頁3行)との認定は誤りであるが、引用例1と引用例3~4に記載されている事項が複写機を用いトナー粒子を「付着」する透明シートに関する技術の点で共通していること(審決書12頁2~4行参照)は争わない。

審決は、引用例発明2の認定を誤った結果、本願発明と引用例発明1との相違点1についての判断を誤ったものである(取消事由)から、違法として取り消されなければならない。

1  相違点1の判断誤り(取消事由)

審決が、相違点1の判断において、「引用例2の・・・電気回路の接続を変更することにより左右を逆にして原画を模写する旨の事項・・・は、各々本願発明の・・・最終原稿の情報が左右反転して出力される事項・・・に相当することが明らかである」(審決書10頁12~19行)と認定したが、「左右を逆にして模写する」という事項のみを引用例発明2から切り離して、引用例発明1に適用することは許されない。

すなわち、特許法2条1項で定義されている「発明」として成立するためには、少なくとも技術として成立する可能性(技術的見地から見て確実性がある可能性)を有するものでなければならず、単なる問題(課題)の提出又は願望の表明に止まり、どのようにこれを実現するかが分からないものは、「発明」としての具体性を欠くものである。

そして、引用例2においては、上記のとおり、「電気回路の接続を変更することにより」という機序が、「左右を逆にして原画を模写する」という記述と不離一体に記載されており、引用例2の内容を「発明」として特許法29条2項に適用するのであれば、「左右を逆にして原画を模写する」旨と「電気回路の接続を変更する」という機序とを一体的に解釈せざるを得ない。しかし、媒体に直接電気回路を形成し、その「電気回路の接続を変更する」という引用例発明2の機序を、引用例発明1や本願発明のような電子写真方法を用いたコピー機、レーザープリンタ、インクジェットプリンタに適用することは、技術的に実施不可能であるから、適用すること自体が許されない。

また、仮に、引用例発明2から、「左右を逆にして原画を模写する」という事項のみを切り離した場合には、「左右を逆にして原画を模写する」ための機序が示されていないから、これは単なる願望の表明であり、これをどのように実現するかが全く不明である。したがって、「左右を逆にして原画を模写する」という事項のみでは、特許法2条1項の「発明」としての具体性を欠くものであって、「引用例発明」にはなり得ず、引用例発明1に適用することは許されないのである。

2  被告は、「左右を逆にして原画を模写」して印刷版の感光剤面に密着させる種板を作成することが、1つのまとまりのある技術的事項であると主張するが、引用例2において、どのような技術的手段によって「左右を逆に」するのかが特定されていない以上、これは単なる願望の表明にすぎず、発明として認められる程度の具体性を有するとはいえない。

したがって、審決の相違点1についての判断(審決書10頁12行~11頁13行)は誤りである。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は理由がない。

1  取消事由について

引用例2には、電気回路の接続を変更するという具体的な構成に支持された「左右を逆にして原画を模写する」技術が開示されており、この「左右を逆にして原画を模写する」技術は、原画を模写した半導電体層を印刷版の感光剤面に密着させる種版においで、原画を模写する形態として、1つのまとまりのある技術的事項として把握される。しかも、この技術的事項は、本願発明において「最終原稿の情報が左右反転して出力され」る態様を具体的に記載することなく発明の構成としているのと同様に、当業者にとって、電気回路の接続を変更するという機序と一体でなければ成立し得ない技術ではなく、この機序と一体的に解釈すべき必然性は何ら存在しない。

審決が、引用例発明2として認定したのも、「左右を逆にして原画を模写する」技術事項であり、この認定した技術事項が、電気回路の接続を変更するという機序と関係のない技術として把握される以上、引用例発明1や本願発明のような電子写真法を用いたコピー機等に適用することが技術的に実施不可能であるとする原告の主張は、前提となる引用例発明2の解釈が誤っており失当である。

2  したがって、相違点1に関する審決の判断(審決書10頁12行~11頁13行)に誤りはない。

第5  当裁判所の判断

1  取消事由(相違点1の判断誤り)について

審決の理由中、本願発明の要旨の認定、引用例1~4の記載事項の認定、本願発明と引用例発明1との一致点の認定、「本願発明は『情報表示層ではシート状部材の情報が出力される側の表面と版材の感光面とが直接接触する様に最終原稿の情報が左右反転して出力され』を構成としているのに対し、引用例1にはかかる構成が記載されていない。」(審決書9頁11~15行)点で相違すること(相違点1)は、いずれも当事者間に争いがない。

ところで、引用例2(甲第3号証)には、「本発明の光学的写真複製用種板の製作に用いる素材としては、透明性乾式電解記録シートを用いる。ここに言う透明性乾式電解記録シートとは、光透過性膜状支持体の片面に不透明な導電体層を形成し、該導電体層の上に粉末状金属酸化物半導体を主成分とする半導電体層を形成したものである。」(同号証2頁右下欄4~10行)、「透明性乾式電解記録シートの導電体層と半導電体層との間に電圧を印加し通電することによつて、粉末状金属酸化物半導体が金属に還元される。この場合、電圧の印加を原写真と対応させて微小部分ごとに行ない、かつその電圧の高さを、原写真の各微小部分の光反射強度に対応する変化を有する電気信号としておくことによつて、透明性乾式電解記録シート上で還元生成する遊離金属の量およびその拡がりが各微小部分ごとに変化し、ここに写真が複製される。・・・その際、必要であれば電気回路的、機械的に工夫を加えて上下左右を逆にし、拡大もしくは縮小し、または明部と暗部を反転させてもよい。」(同3頁左下欄13行~右下欄18行)、「露光時に光の拡散にもとずくインク附着部分の輪かくの不明確が生じないようにすることも必要で、そのためには、1)なるべく薄い透光性支持体を使用すること、2)支持体を外側にし、半導電体層を感光材面に密着させること、3)露光用光線としてレンズ等により集光された発散光もしくは平行光束を用いるなどの方法を用いるのがよい。」(同5頁右上欄4~11行)、「実施例2 実施例1と同一の透明性乾式電解記録シートを用い、電気回路の接続を変更することにより左右を逆にして同一原画を模写した。模写条件は、線密度を10本/mm、印加電圧を最大70ボルトとした他は実施例1と同様である。通電後、同様の現像処理を施して写真印刷用種版を得た。この種版の半導電体層をオフセツト印刷用平版印刷版(富士写真フイルム製PS版「GNK」)の感光剤面に密着させ、とつレンズで集光されたカーボンアーク灯(30A)の光を焦点から50cmの距離で 分間照射し、所定の現像処理を行なって平版印刷用原版を得た。」(同6頁左上欄13行~右上欄6行)と記載されている。

これらの記載によれば、引用例2では、光学的写真複製用種板として、導電体層と半導電体層とを有する透明性乾式電解記録シートを用いること、この種板に基づいて、原写真を複製した種版を作製する際、電気回路的あるいは機械的に工夫を加えて、上下左右を逆にしたものや、拡大・縮小したもの、明部と暗部を反転させたものが形成可能であること、その実施例の1つとして、電気回路の接続を変更することにより、左右を逆にして原画を模写した種版を得られること、種版の半導電体層をPS版の感光剤面に密着させ、種版の非密着面側から光による焼付け(露光)を行うこと、焼付け後のPS版を現像処理して平版印刷用原版を得ることなどの技術事項が、写真製版においてそれぞれが連続して行われる独立した技術思想として開示されているものと認めるられる。

そうすると、当業者は、引用例発明2から、電気回路的あるいは機械的に工夫を加えることにより、光学的写真複製用種版として、左右を逆にして原画を模写したものを用いる技術事項を容易に把握できるものといわなければならない。

原告は、引用例発明2において、「電気回路の接続を変更することにより」という機序が、「左右を逆にして原画を模写する」旨と不離一体に記載されており、「発明」としては両者を一体的に解釈しなければならないことを前提としたうえ、「電気回路の接続を変更する」という引用例発明2の機序を、引用例発明1や本願発明のような電子写真方法を用いたコピー機等に適用することは、技術的に実施不可能であると主張する。

しかし、「電気回路の接続を変更することにより」という機序が、「左右を逆にして原画を模写する」旨と一体のものであるとの主張は、実施例2に関する前記具体的記載に拘泥したものであり、引用例発明2では、前示のとおり、電気回路的あるいは機械的な製造方法の内容を問わず、「左右を逆にして原画を模写する」ことが、透明性乾式電解記録シートを種板とした種版の作製方法の1つとして開示されており、当業者は、左右を逆にして原画を模写して種版を作製することを、その種版をPS版に焼き付けること等と同様の―連の技術事項として把握できるものである。

したがって、原告の主張は、その前提において誤りがあり、これを採用することはできない。

また、原告は、引用例発明2から、「左右を逆にして原画を模写する」という事項のみを切り離した場合、「左右を逆にして原画を模写する」ための機序が示されていないから、これは単なる願望の表明であり、「発明」としての具体性を欠くものであると主張する。

しかし、引用例発明2では、前示のとおり、製造方法の内容を問わず、原画から左右を逆にして模写された像を透明支持体上の不透明部分として実在させた「種版」が、独立した技術事項として開示されており、しかも、「左右を逆にして原画を模写する」こと自体は、例えば、透明支持体上に記載された原画と同方向の文字や絵たついて、透明支持体の裏からそのまま、あるいは別の透明支持体を重ねてなぞれば実現できることであり、これは当業者にとっての技術常識というべきものであるから、「左右を逆にして原画を模写する」ことが、機序の不明な単なる願望の表明でないことは明らかであり、原告の上記主張も採用することができない。

そうすると、審決が、本願発明と引用例発明の相違点1について、「引用例2の・・・電気回路の接続を変更することにより左右を逆にして原画を模写する旨の事項・・・は、各々本願発明の・・・最終原稿の情報が左右反転して出力される事項・・・に相当することが明らかであるから、引用例2からは上記相違点1に相当する構成が把握されで。」(審決書10頁12~20行)と判断したうえ、「引用例1および引用例2に記載の事項は、原稿の情報を複製する手段が相違しているが、平版印刷用原版を製造する際にPS版に密着して用いる写真印刷用の種版であって、透明シート上に情報表示層を有する種版である点で共通しており、加えて、引用例2には引用例1と同様に該種版の型としてポジ型とネガ型の2種の種版が開示されているから、引用例1に引用例2に記載の構成を適用して上記相違点1の構成を想到することに何等困難性は認められない。」(審決書11頁4~13行)と判断したことに誤りはない。

2  以上のとおり、原告主張の取消事由には理由がなく、その他審決に取り消すべき瑕疵はない。

よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

平成8年審判第7507号

審決

東京都中央区日本橋本石町3丁目3番16号 日本橋室町ビル7F

請求人 株式会社存在社

東京都港区西新橋2丁目13番3号 藤喜ビル3階 髙橋特許事務所

代理人弁理士 髙橋敏忠

東京都港区西新橋2丁目13番3号 藤喜ビル3階 髙橋特許事務所

代理人弁理士 髙橋敏邦

平成5年特許願第131700号「製版フィルム及びその製造方法」拒絶査定に対する審判事件(平成6年12月13日出願公開、特開平6-342204)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

(手続の経緯・請求項3に係る発明)

本願は、平成5年6月2日に出願されたものであって、その請求項3に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成8年6月18日付け手続補正書により補正された明細書および図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項3に記載された次のとおりのものと認める。

「シート状部材と、シート状部材に最終原稿の情報表示用のトナーの粒子やインクを固着せしめる性質を有し且つシート状部材の表面を被覆している定着層と、該定着層上に存在し且つ複写機、レーザプリンタ、インクジェットプリンタのいずれかにより最終原稿の情報が出力される情報表示層とを有し、前記情報表示層ではシート状部材の情報が出力される側の表面と情報が焼き付けられる版材の感光面とが直接接触する様に最終原稿の情報が左右反転して出力されており、前記シード状部材及び定着層は共に透光性を有しており、且つ、前記最終原稿の情報が出力された後もトナー或いはインクが付着していない領域には透光性が維持ざれていることを特徴とする製版フィルム。」

(原査定の拒絶理由)

これに対して、原査定の拒絶の理由の概要は、本願発明は、下記の引用例1、2に記載された発明及び下記の引用例3、4に記載された周知慣用の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることできないというものである。

引用例1:特開昭54-44903号公報

引用例2:特開昭48-89002号公報

引用例3:特開平3-197957号公報

引用例4:特開平4-216561号公報

(引用例)

引用例1の記載内容:

「本発明は平版印刷に用いる印刷原版を製造する方法に関するものである。」(第1頁左下欄第9行~同欄第10行参照)、

「以下本発明の実施例を説明する。一般の用紙上に写真植字、手書きその他の手段で必要なる文字、図形等の情報を記載して原稿を作成する。原稿を一般公知の電子写真機のプラテン上に載せる。一方、電子写真機のコピー用紙載置収納箇所(トレイ)上に透明シートを載置セットする。この状態で電子写真機をスタートさせると原稿の文字、図形等の情報が透明シート上に黒くコピーされて排出口から排出される。このコピーざれたものを種板とし、ポジ型のPS版に密着して焼付け、しかる後処理して印刷原版を作成する。」(第1頁右下欄第19行~第2頁左上欄第12行参照)、

「本実施例ではポジ型のPS版を使用したが例えば予め原綿を白黒反対に作成(情報部分を白く)するか、あるいは電子写真感光材料の特性に反転性(情報部分を白くコピーする性質)を有するものを使用した場合には種板がネガ型となるので、ネガ型のPSを使用することができる。」(第2頁左上欄第18行~同頁右上欄第4行参照)、

が記載されている。

引用例2の記載内容:

「本発明の光学的写真複製用種板の製作に用いる素材としては、透明性乾式電解記録シートを用いる。ここに言う透明性乾式電解記録シードとは、光透過性膜状支持体の片面に不透明な導電体層を形成し、該導電体層の上に粉末状金属酸化物半導体を主成分とする半導電体層を形成したものである。」(第2頁右下欄第4行~同欄第10行参照)、

「透明性乾式電解記録シートの導電体層と半導電体層の表面との間に電圧を印加し・・中略・・電圧の高さを、原写真の各微小部分の光反射強度に対応する変化を有する電気信号としておくことによつて、透明性乾式電解記録シート上で還元生成する遊離金属の量およびその拡がりが各微小部分ごとに変化し、ここに写真が複製される。・・中略・・その際、必要であれば電気回路的、機械的に工夫を加えて・・中略・・明部と暗部を反転さ章ておいてもよい。」(第3頁左下欄第13行~同頁右下欄第18行参照)

「とつ版方式もしくは平版方式における写真印刷版の製作を行なう場合には、・・中略・・露光時に光の拡散にもとずくインク附着部分の輪かくの不明確が生じないようにすることも必要で、そのためには、・・中略・・2)支持体を外側にし、半導電体層を感光材面に密着させること、・・中略・・などの方法を用いるのがよい。」(第5頁左上欄第18行~同右上欄第11行参照)、

「実施例1と同一の透明性乾式電解記録シートを用い、電気回路の接続を変更することにより左右を逆にして同一原画を模写した。・・中略・・通電後、同様の現像処理を施して写真印刷用種版を得た。この種版の半導電体層をオフセツト印刷用平版印刷版(富士写真フイルム製PS版「GNK」)の感光剤面に密着させ、光を・・中略・・照射し、所定の現像処理を行なつて平版印刷用原版を得た。」(第6頁左上欄第14行~同頁右上欄第6行参照)、

が記載されている。

引用例3の記載内容:

「本発明は、静電乾式複写機を用いて記録する記録媒体に関するものであり、特にOHP(オーパーヘッドプロジェクター)用等の光透過性記録媒体に適した静電乾式複写機用記録シートに関するものである。」(第1頁左下欄第13行~同欄第17行参照)、

「記録シート上に形成されたトナー像の定着を強固なものにするためには、前記シート上にも光透過性のバインダーカの強い樹脂をインク受理層として設けることにより、耐擦性に優れ、OHP用紙として使用できる・・中略・・その構成は、透明なプラスチック基板上に、厚みが2μm以上の光透過性のインク受理層を設けて成ることを特徴とするものである。」(第1頁右下欄第16行~第2頁左上欄第5行参照)、

が記載されている。

引用例4の記載内容:

「従来、静電乾式複写機を用いてOHP印画等に使用されてきたシートとしては、透明プラスチックフィルムから成る基材の表面に、・・中略・・トナーの定着性を向上させるために粗面化処理を施したり、或は疎水性樹脂を塗工し、その上にトナー定着層を設けたもの等がある。」(第2頁左欄第19行~同欄第24行参照)、

が記載されている。

(対比・判断)

本願発明と、引用例1に記載のものとを対比すると、引用例1における透明シート、原稿、電子写真機、PS版、種板は、各々本願発明におけるシート状部材、最終原稿、複写機、版材、製版フイルムに相当し、引用例1に記載の電子写真機をスタートさせると原稿の文字、図形等の情報が透明シート上に黒くコピーされる旨の事項は、原稿の情報表示用のトナーの粒子を固着せしめる透明シート上に存在し且つ電子写真機により原稿の情報が出力される情報表示層を有する事項として把握される。そして、該透明シートは原稿の情報が出力された後もトナーが付着していない領域には透光性が維持されていることは明らかであるから、

引用例1からは、本願発明の「シート状部材と、最終原稿の情報表示用のトナーの粒子を固着せしめるシート状部材上に存在し且つ複写機により最終原稿の情報が出力される情報表示層とを有し、シート状部材の表面と情報が焼き付けられる版材の感光面とが直接接触する様にされており、前記シート状部材は透光性を有しており、且つ、前記最終原稿の情報が出力された後もトナーが付着していない領域には透光性が維持されている製版フィルム。」に相当する構成が把握され、この点で両者は一致しており、以下の点で相違していると認められる。

(相違点1)

本願発明は「情報表示層ではシート状部材の情報が出力される側の表面と版材の感光面とが直接接触する様に最終原稿の情報が左右反転して出力され」を構成としているのに対し、引用例1にはかかる構成が記載されていない。

(相違点2)

本願発明は「シート状部材にトナーの粒子やインクを固着せしめる性質を有し且つシート状部材の表面を被覆している定着層を有し、前記定着層は透光性を有しており」を構成としているのに対し、引用例1にはかかる構成が記載されていない。

先ず、上記相違点1について検討する。

引用例2には、透明性乾式電解記録シートを素材とする光学的写真複製用種板を用いてオフセツト印刷用の平版印刷用原版の製作を行なう場合、透明性乾式電解記録シートの光透過性膜状支持体の片面に形成された半導電体層に電気回路の接続を変更することにより左右を逆にして原画を模写し、該半導電体層をオフセツト印刷用平版印刷版の感光剤面に密着させる旨の事項が開示されており、

引用例2の半導電体層、電気回路の接続を変更することにより左右を逆にして原画を模写する旨の事項、半導電体層を印刷版の感光剤面に密着させる旨の事項は、各々本願発明の情報表示層、最終原稿の情報が左右反転して出力される事項、シート状部材の情報が出力される側の表面と版材の感光面とが直接接触する事項に相当することが明らかであるから、引用例2からは上記相違点1に相当する構成が把握される。

そこで、引用例2に開示の構成を引用例1に適用して上記相違点1の構成を想到することの容易性について検討する。

引用例1および引用例2に記載の事項は、原稿の情報を複製する手段が相違しているが、平版印刷用原版を製造する際にPS版に密着して用いる写真印刷用の種版であって、透明シート上に情報表示層を有する種版である点で共通しており、加えて、引用例2には引用例1と同様に該種版の型としてポジ型とネガ型の2種の種版が開示されているから、引用例1に引用例2に記載の構成を適用して上記相違点1の構成を想到することに何等困難性は認められない。

次に、相違点2について検討する。

引用例3~4には、静電乾式複写機に用いる光透過性記録媒体に関し、透明なシート状部材の表面がトナー像の粒子を固着せしめる性質を有する定着層で被覆され、前記定着層は透光性を有している構成が開示されており、この構成は、上記相違点2として記載した本願発明の構成に相当することが明らかである。

そして、引用例1と引用例3~4に記載されている事項は複写機を用いトナー粒子を固着する透明シートに関する技術の点で共通しているから、引用例1に引用例3~4の構成を適用して上記相違点2の構成を想到することに何等困難性は認められない。

従って、引用例1に引用例2~4に記載の事項を適用して本願発明の構成を想到することは当業者にとって容易になし得たものと認められる。

そして、本願発明の奏する作用効果として、引用例1~4の各々から予測される以上の格別なものは認められない。

(むすび)

以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1~4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成9年9月5日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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