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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)286号 判決 1999年2月17日

大阪府東大阪市吉田3丁目13番15号

原告

奥田朔鷹

訴訟代理人弁理士

葛西四郎

富崎元成

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 伊佐山建志

指定代理人

佐藤荘助

木村史郎

田中弘満

小林和男

主文

特許庁が、昭和62年審判第10982号事件について、平成9年9月12日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

主文と同旨

2  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和58年11月24日、名称を「ホイールクレーン杭打機」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(特願昭58-221856号)が、昭和62年3月26日に拒絶査定を受けたので、同年6月24日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を昭和62年審判第10982号事件として審理したうえ、平成9年9月12日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年10月22日、原告に送達された。

2  本願発明の要旨

車台と、前記車台の下部に自走用の車輪を設け、前記車台の上にはクレーン本体を水平面内で回転自在に設け、前記クレーン本体を回転駆動する垂直軸駆動装置を設けたホイールクレーン車において、前記クレーン本体には伸縮する伸縮ブームの一端を揺動自在に設け、前記伸縮ブームの他端にはスパイラルスクリューを備え、前記スパイラルスクリューを回転駆動するための回転駆動機構を内蔵したアースオーガー装置を設け、前記伸縮ブームの揺動中心点の近傍に前記アースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するために前記ブームを牽引し前記ホイールクレーン車の重量を用いて前記アースオーガー装置を強制的に押圧するための油圧シリンダ装置である牽引装置の一端を枢着して設け、前記牽引装置の他端を前記クレーン本体に枢着して設けたことを特徴とするホイールクレーン杭打機。

3  審決の理由の要点

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明が、特開昭55-142826号公報(以下「引用例1」という。)に記載された発明(以下「引用例発明」という。)並びに実公昭45-18857号公報(以下「引用例2」という。)及び特公昭45-33034号公報(以下「引用例3」という。)に記載されているように従来周知の技術手段である「ブームを有する建設作業装置において、車台上の台枠とブーム本体との間にブーム俯仰手段としての油圧シリンダー装置を設け、この油圧シリンダー装置を操作してブームを上・下回動させること」並びに慣用技術手段である「建設機械であるショベル系の油圧式掘削機の車体に起伏自在に枢支したブームを、車体とブームとの間に設けた油圧シリンダー装置により牽引してブームを下回動させ、ブームの先端に設けた掘削用アタッチメントを地面に押しつけると共に、更にブームを下回動させることにより車体の前方を浮き上がらせ、ブームの先端に設けた掘削用アタッチメントに車体本体の重量を付加させ地面への押込力すなわち掘削力を増大させること」に基づいて、当業者が容易になし得たものと認められ、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本願発明の要旨の認定、引用例1の記載事項の認定中、審決書8頁19行~11頁14行に摘記された部分、本願発明の「スパイラルスクリュー」が引用例1の「オーガースクリュー」に相当すること、本願発明と引用例発明との相違点1の認定及びこれについての判断は認める。本願発明と引用例発明との相違点2及び3の各認定並びにこれについての判断は争う。

審決は、引用例1の技術事項を誤認して、本願発明と引用例発明との相違点2及び3の各認定並びにこれについての判断を誤ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1(相違点2の認定及びこれについての判断の誤り)

(1)  審決は、本願発明と引用例発明との相違点2として、「本件発明(注、本願発明)では、伸縮ブームの揺動中心点の近傍にアースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するためにブームを牽引しアースオーガー装置を強制的に押圧するための油圧シリンダ装置である牽引装置の一端を枢着して設け、牽引装置の他端をクレーン本体に枢着して設けているのに対して、引用例1では、伸縮ブームにアースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するためにブームを牽引しアースオーガーを押圧するための装置を有してはいるものの、ブームを牽引しアースオーガーを押圧するための装置が、一端は伸縮ブームの揺動中心点の近傍に、他端はクレーン本体に枢着して設けているのかどうかが不明である点」(審決書14頁17行~15頁10行)と認定した。

この相違点2の認定のうち、引用例1(引用例発明)に係る「伸縮ブームにアースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するためにブームを牽引しアースオーガーを押圧するための装置を有して」いるとの部分は、審決の引用例1の記載事項についての「引用例1には、車台と、前記車台の下部に自走用の車輪を設け、前記車台の上にはクレーン本体を水平面内で回転自在に設け、前記クレーン本体を回転駆動する垂直軸駆動装置を設けたトラッククレーンにおいて、前記クレーン本体には伸縮する伸縮ブームの一端を揺動自在に設け、前記伸縮ブームの他端にはオーガースクリューを備え、前記オーガースクリューを回転駆動するための回転駆動機構を内蔵したアースオーガーを設け、前記伸縮ブームに前記アースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するために前記ブームを牽引し前記アースオーガーを押圧するための装置を前記伸縮ブームとクレーン本体との間に設けことを特徴とするトラッククレーン杭打機、が記載されている」(同12頁12行~13頁7行)との認定に基づくものである。

しかしながら、引用例1には、引用例発明が「伸縮ブームにアースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に庄入するためにブームを牽引しアースオーガーを押圧するための装置を有して」いることは全く記載されておらず、示唆されてもいないから、相違点2の認定のうちの上記部分は誤りである。

被告は、審決が、俯仰装置とウインチを「アースオーガーを押圧するための装置」と認定したものであると主張するが、審決にそのような認定をした旨の記載はないのみならず、本願発明の油圧シリンダ装置である牽引装置と、引用例発明のウインチとでは、反作用力を生じさせる反力部材が前者ではホイールクレーン車であり、後者では地球であって、力学的な原理が異なるものである。

(2)  審決は、上記相違点2について、「引用例1には、ブームをクレーン本体に対して下回動させること、および、ブームの先端を介して、アースオーガーに下向きの力を付与するとの記載があることからして、直接的な記載はないものの、主ブームをクレーン本体に対して下回動させ、かつ、アースオーガーに下向きの力を付与するための何らかの手段を有するものである。この点について、ブームを有する建設作業装置において、車台上の台枠とブーム本体との間にブーム俯仰手段としての油圧シリンダー装置を設け、この油圧シリンダー装置を操作してブームを上・下回動させることは、引用例2、3に記載されているように従来周知の技術手段であることからして、直接的な記載はないものの引用例1におけるトラッククレーンも、ブームをクレーン本体に対して下回動させ、かつ、アースオーガーに下向きの力を付与するための手段として、上記従来周知のブームを有する建設用作業装置と同様にブーム俯仰手段としての油圧シリンダー装置すなわち牽引装置を有するものである。」(審決書16頁12行~17頁11行)と判断した。

しかしながら、引用例1に後記のとおり、「主ブーム25をクレーン本体24に対して下回動させてアースオーガー2に下向きの力を付与する」との記載があることは認めるが、「ブームを有する建設作業装置において、車台上の台枠とブーム本体との間にブーム俯仰手段としての油圧シリンダー装置を設け、この油圧シリンダー装置を操作してブームを上・下回動させることは、引用例2、3に記載されているように従来周知の技術手段であることからして、直接的な記載はないものの引用例1におけるトラッククレーンも、ブームをクレーン本体に対して下回動させ、かつ、アースオーガーに下向きの力を付与するための手段として、・・・牽引装直を有するものである」との判断は誤りである。

すなわち、引用例1の当該部分の記載は、「回転駆動機構5に依りオーガースクリュー6を推進方向へ回転させる。同時に主ブーム25に対して副ブーム26を短縮させると共に主ブーム25をクレーン本体24に対して下回動させてアースオーガー2に下向きの力を付与する。」(甲第5号証4頁右上欄17行~左下欄1行)というものであり、この記載によれば、引用例発明において、「主ブーム25をクレーン本体24に対して下回動させてアースオーガー2に下向きの力を付与する」際の「下向きの力」は、ブームの自重並びにスクリューの頂部に設けた駆動装置及びウエイト等の自重に、スパイラル状の羽根を有するオーガースクリュー(スパイラルスクリュー)が土中に食い込んでいるときのスクリューの回転力の分力が加わって発生するものであることが明らかである。一般に、クレーン車のブームの起伏駆動手段は、ブームの先端で重量物を吊り上げるためのものであり、「ブームの先端を介して、アースオーガーに下向きの力を付与する」ためのものではないのみならず、仮に、何らかの原因でブーム下向きの力が発生するとクレーン車の車体前部が浮き上がり車体の重量バランスを崩して転倒しかねない危険な状態となるので、法令上又は油圧回路上、基本的には下向きの余分な力を発生させられないような構造とされていた。したがって、引用例1の特許公報に係る出願当時、トラッククレーン車のブームの先端で下向きの力を発生させるという技術思想はなく、むしろ危険であるとして否定的に考えられていた。

そして、引用例2に記載されたブーム垂直移動装置は、電柱等を立てるため、最大でも約2~3m程度の深さの穴を堀るのに使用されるものであって、油圧シリンダーのピストンロッドの僅かな移動を4節リンク機構によって拡大する構造を採用している。このようなブーム垂直移動装置から、該リンク機構等を捨象し、油圧シリンダーのみを抽出して上記引用例発明に適用しようという発想は生じ得ない。

また、引用例3に記載された発明は、ブームの起伏と伸縮の運動を連動させ、ブームの先端を垂直線に即して移動させるための同調装置に関するもので、ブーム起伏用の油圧シリンダは従来と同一の構造機能のものであり、アースオーガーの上端に強力な押圧力を加え得るものではないし、これを積極的に加圧するという技術思想の開示は一切ない。

したがって、引用例1のほか、引用例2、3の技術内容をみても、引用例発明のブームを「牽引装置」により積極的に牽引して、ブームの先端からアースオーガーに加圧する動機付けとなるようなものを見い出すことはできず、引用例発明と引用例2、3に記載された技術とを結合する必然性はない。

2  取消事由2(相違点3の認定及びこれについての判断の誤り)

(1)  審決は、本願発明と引用例発明との相違点3として、「本件発明(注、本願発明)では、ブームとクレーン本体との間に設けた油圧シリンダ装置である牽引装置により、ブームを牽引しホイールクレーン車の重量を用いてアースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するものであるのに対して、引用例1では、ブームをクレーン本体に対して下回動させ、ブームの先端を介して、前記アースオーガーに下向きの力を付与するものの、クレーン車の重量を用いてアースオーガーに垂直方向の押圧力を与えるものであるか否かが不明である点」(審決書15頁12行~16頁1行)と認定した。

しかしながら、この相違点3の認定のうち、引用例1(引用例発明)に係る「ブームをクレーン本体に対して下回動させ、ブームの先端を介して、前記アースオーガーに下向きの力を付与する」との部分に関しては、上記1の(2)のとおり、引用例1には、ブームの自重並びにスクリューの頂部に設けた駆動装置及びウエイト等の自重に、スパイラル状の羽根を有するオーガースクリュー(スパイラルスクリュー)が土中に食い込んでいるときのスクリューの回転力の分力が加わって、「下向きの力」が発生することが記載されているのであり、この点を意図的に捨象したうえでなした上記部分の認定は、その意味内容を変化させることになるので、誤りというべきである。

(2)  審決は、上記相違点3について、「本願発明が、牽引装置により、ブーム本体を牽引しクレーン車の重量を用いてアースオーガーを強制的に押圧するようにした点については、建設機械であるショベル系の油圧式掘削機の車体に起伏自在に枢支したブームを、車体とブームとの間に設けた油圧シリンダー装置により牽引してブームを下回動させ、ブームの先端に設けた掘削用アタッチメントを地面に押しつけると共に、更にブームを下回動させることにより車体の前方を浮き上がらせ、ブームの先端に設けた掘削用アタッチメントに車体本体の重量を付加させ地面への押込力すなわち掘削力を増大させることは、従来よりショベル系の油圧式掘削機においてよく用いられている慣用手段である。そうすると、相違点3は、引用例1に上記慣用手段を適用して本願発明のように構成することは、当業者が容易になし得る程度のものと認める。」(審決書17頁13行~18頁9行)と判断したが、この判断は誤りである。

すなわち、審決は、「車体に起伏自在に枢支したブームを、車体とブームとの間に設けた油圧シリンダー装置により牽引してブームを下回動させ、ブームの先端に設けた掘削用アタッチメントを地面に押しつけると共に、更にブームを下回動させることにより車体の前方を浮き上がらせ、ブームの先端に設けた掘削用アタッチメントに車体本体の重量を付加きせ地面への押込力すなわち掘削力を増大させることは、従来よりショベル系の油圧式掘削機においてよく用いられている慣用手段である」とするが、そのような慣用手段は存在しない。

被告は、本訴において、該慣用手段の存在の証明として、実願昭50-123621号(実開昭52-36701号公報)のマイクロフィルム(乙第5号証、以下「慣用例1」という。)、実願昭50-125092号(実開昭52-38101号公報)のマイクロフィルム(乙第6号証、以下「慣用例2」という。)及び1979年4月20日発行の加藤三重次著「建設機械(1版4刷)」79頁(乙第7号証、以下「慣用例3」という。)を提出した。しかし、慣用例1、2に記載されたものは、ブームに相当するアームの先端にジゼルを備えたブレーカが取り付けられ、該ジゼルを岩石等の破砕物に押し付けて毎分300~500回の打撃を与え破砕するというものであり、また、慣用例3に記載された掘削装置は、油圧ではなくワイヤーによりブームを上下駆動させるものであり、アタッチメント、ブーム等の重量によりバケットを地盤に食い込ませて必要な掘削作業を行うものであって、いずれも「ショベル系の油圧式掘削機」に当たらないから、慣用例1~3によって、上記慣用手段の存在が認められるものではない。

のみならず、仮にそのような慣用手段が存在するとしても、ショベル系の油圧式掘削機は、本体前方の作業装置を積極的に下回動させて掘削作業する土木機械であり、この作業装置は、それ自身の重量、油圧シリンダー等で地盤に押圧されて地形を改変させるためのエネルギーを消費することにより、必要な掘削作業を行うものである。これに対し、本願発明は、アースオーガーのスクリューの回転トルクによりエネルギーの大半を消費して、掘削作業を行うものであり、アースオーガーへの押圧力はその軸線方向に押圧するスラスト力として作用するが、掘削のためのエネルギーとしてはそれ程作用するものではない。このように、本願発明とは掘削の原理が異なるショベル系の油圧式掘削機において、車体の前方を浮き上がらせ、ブームの先端に設けた掘削用アタッチメントに車体本体の重量を付加させて掘削力を増大させることが慣用技術であったとしても、これを引用例発明に適用して本願発明のように構成することが、当業者において容易になし得るものということはできない。

第4  被告の反論の要点

審決の認定・判断は正当であり、.原告主張の取消事由は理由がない。

1  取消事由1(相違点2の認定及びこれについての判断の誤り)について

(1)  原告は、引用例1に、引角例発明が「伸縮ブームにアースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するためにブームを牽引しアースオーガーを押圧するための装置を有して」いることは全く記載・示唆されていないから、審決のした引用例1の記載事項についての認定、ひいては相違点2の認定が誤りであると主張するが、理由がない。

すなわち、引用例1には、「クレーン本体に対して俯仰する主ブーム及びこれに対して伸縮・・・する副ブームを備えたクレーン機の前記副ブームの先端に、回転駆動機構にて回転されるオーガースクリューを備えたアースオーガーの頭部を枢結すると共に、・・・前記アースオーガーの掘削と前記クレーン機の各ブームの動作に依り該アースオーガーと被圧入物とを略垂直に土中へ推進し、所定深さに達すると被圧入物のみを土中に残存させてアースオーガーを引抜く様にしたことを特徴とする圧入工法」(甲第5号証特許請求の範囲1項)、「何れにしてもクレーン機のブームの動作をアースオーガー並びに被圧入物の推進に直接利用する事は為されていなかった。本発明は叙上の問題点に鑑みこれを解消する為に創案されたもので、その主たる目的はアースオーガーの頭部をクレーン機のブーム先端に直結し、前記ブームの動作を利用してアースオーガーと共に被圧入物を垂直に土中に圧入する工法を提供するにある。」(同2頁右上欄18行~左下欄6行)、「該本体24には俯仰回動する主ブーム25が枢設されている。・・・クレーン本体24には通常ウインチ27を装備して居り、被圧入物3等の吊上げに供せられる。」(同3頁右下欄5~14行)との各記載があり、これらの記載と第1~3図からみて、引用例発明には、主ブーム25をクレーン本体24に対して俯仰させる装置が設けられており、その俯仰装置は、ブームとアースオーガーを下回動させることにより、それらの自重による下向きの力を付与するための装置でもあることが明らかである。

また、引用例1には、「圧入すべき被圧入物の近傍に既設の被圧入物がある場合に於いて、クレーン機に装備されたウインチのワイヤー先端を該既設被圧入物に止結し、ウインチの巻取動作に依り各ブームに降下力を付与せしめ、アースオーガー並びに被圧入物の押入力を増大させたことを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の圧入工法。」(甲第5号証特許請求の範囲2項)、「本発明の第二の目的はクレーン機に装備されているウインチを活用し、とりわけ圧入すべく被圧入物の近傍に既設の被圧入物がある場にはこれにワイヤーの先端を止結し、前記ウインチの巻取動作に依りアースオーガー並びに被圧入物に押入力を付与せしめ、より一層の圧入効果を発揮させる圧入工法を提供するにある。」(同2頁左下欄7~13行)、「既に埋設された被圧入物3がある場合には第1図並びに第5図に示す如くこれに所定状態にて連続すべく旋回機構8を作動させて押入位置を決定し、回転駆動機構5に依りオーガースクリュー6を推進方向へ回転させる、同時に主ブーム25に対して副ブーム26を短縮させると共に主ブーム25をクレーン本体24に対して下回動させてアースオーガー2に下向きの力を付与する。」(同4頁右上欄13行~左下欄1行)、「前記被圧入物3を押入する場合に於いて、第1図に示す如く既に埋設された被圧入物3があった際にはウインチ27に巻回されたワイヤー33の先端をこれに止結し、前記ウインチ27の巻取動作に依りアースオーガー2並びに被圧入物3に圧入力を付与せしめる事が出来る。この場合、各被圧入物3には吊下げ用の吊穴34が穿設されて居り、ここへワイヤー33の先端に取付けたフック35を引掛けるものとする。」(同4頁右下欄2~10行)との各記載があり、これらの記載と第1~3図からみて、引用例発明が、既に埋設された被圧入物3がある場合には、より一層の圧入効果を発揮させるために、ワイヤー33の先端をこれに止結し、ウインチ27の巻取動作に依りアースオーガー2に下向きの力を付与しながら、アースオーガーの回転駆動機構によりオーガースクリューを推進方向へ回転せしめるものであることが記載されている。

このように、引用例1には、引用例発明の俯仰装置により付与されるブームとアースオーガーの自重による下向きの力に加えて、ウインチによりブームを牽引し、被圧入物を地盤に圧入するためにアースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与することが記載されているところ、審決は、この俯仰装置とウインチを「アースオーガーを押圧するための装置」と認定したものであるから、審決の引用例1の記載事項についての「引用例1には、車台と、前記車台の下部に自走用の車輪を設け、前記車台の上にはクレーン本体を水平面内で回転自在に設け、前記クレーン本体を回転駆動する垂直軸駆動装置を設けたトラッククレーンにおいて、前記クレーン本体には伸縮する伸縮ブームの一端を揺動自在に設け、前記伸縮ブームの他端にはオーガースクリューを備え、前記オーガースクリューを回転駆動するための回転駆動機構を内蔵したアースオーガーを設け、前記伸縮ブームに前記アースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するために前記ブームを牽引し前記アースオーガーを押圧するための装置を前記伸縮ブームとクレーン本体との間に設けことを特徴とするトラッククレーン杭打機、が記載されている」との認定に誤りはない。

そして、審決は、上記引用例1の記載事項の認定に基づき、本願発明と引用例発明とを、牽引する装置としてどのような装置を用いているのか、及びその設置場所がどこであるのかという観点で対比して、相違点2の認定をしたものであるところ、本願発明は、アースオーガー装置を強制的に押圧するための油圧シリンダ装置である牽引装置を用いており、その設置場所は、該牽引装置の一端を伸縮ブームの揺動中心点の近傍に枢着し、他端をクレーン本体に枢着して設けたのに対して、引用例発明は、アースオーガーを強制的に押圧するための装置として、俯仰装置とウインチとを用いているが、俯仰装置が伸縮ブームとクレーン本体との間に設けられていることは明らかであるものの、引用例1には、それがどのような構造のものであるかは明記されておらず、したがって、その設置場所が一端は伸縮ブームの揺動中心点の近傍に、他端はクレーン本体に枢着して設けられているかどうかも不明であることから、「本件発明(注、本願発明)では、伸縮ブームの揺動中心点の近傍にアースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するためにブームを牽引しアースオーガー装置を強制的に押圧するための油圧シリンダ装置である牽引装置の一端を枢着して設け、牽引装置の他端をクレーン本体に枢着して設けているのに対して、引用例1では、伸縮ブームにアースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するためにブームを牽引しアースオーガーを押圧するための装置を有してはいるものの、ブームを牽引しアースオーガーを押圧するための装置が、一端は伸縮ブームの揺動中心点の近傍に、他端はクレーン本体に枢着して設けているのかどうかが不明である点」を相違点2としたものであって、該相違点の認定に誤りはない。

(2)  原告は、審決の上記相違点2についての判断が誤りであると主張するが、理由がない。

すなわち、上記(1)のとおり、引用例発明は、ブームをクレーン本体に対して下回動させ、かっ、アースオーガーに下向きの力を付与するための手段として、俯仰装置とウインチを有するところ、ウインチ以外の下回動させる手段(俯仰手段)は具体的にどのような手段(例えば油圧シリンダ等)であるのかが不明であるため、審決は、「引用例1には、・・・主ブームをクレーン本体に対して下回動させ、かつ、アースオーガーに下向きの力を付与するための何らかの手段を有するものである。」と認定したものである。そして、ブームを有する建設作業装置のブームを上下回動させる俯仰機能として油庄シリンダ装置を用いること、及びその装置をブームと車体本体の間に設けることは、引用例2、3に記載されているほか、特開昭52-22305号公報(乙第1号証)、実願昭55-105113号(実開昭57-31343号公報)のマイクロフイルム(乙第2号証)、実公昭49-19612号公報(乙第3号証、以下「周知例3」という。)、実願昭54-91718号(実開昭56-8633号公報)のマイクロフィルム(乙第4号証、以下「周知例4」という。)にも記載されているとおり、周知の技術手最であり、さらに、引用例2、3には、ブームを牽引しアースオーガーを押圧するための装置は記載されていないが、周知例3、4に記載された杭打機としても利用可能な汎用パワーショベルが、ブームと車体本体の問に設けられた油圧シリンダがブームを上下回動させる俯仰機能を有すると同時に、ブームを強制的に下回動させる牽引機能も有することはよく知られたことであり、油圧シリンダがブームを強制的に下回動させる牽引機能を有することも、やはり周知の技術手段である。他方、上記(1)のとおり、引用例1には、俯仰装置とウインチとによりアースオーガーに強制的に下向きの力を付与する技術思想が開示されているから、引用例1記載のウインチの代替手段として、周知の牽引機能を有する油圧シリンダを用いて本願発明の構成とすることは、当業者において容易に想到できたことである。その場合に、この油圧シリンダの一端をブームの揺動中心の近傍に枢着し、クレーン本体に他端を枢着することは、ブームの長さや重量及び油圧シリンダのパワー等を考慮して取り付けることから、この点は設計的事項である。審決は、以上のような趣旨で、「ブームを有する建設作業装置において、車台上の台枠とブーム本体との間にブーム俯仰手段としての油圧シリンダー装置を設け、この油圧シリンダー装置を操作してブームを上・下回動させることは、引用例2、3に記載されているように従来周知の技術手段であることからして、・・・引用例1におけるトラッククレーンも、ブームをクレーン本体に対して下回動させ、かつ、アースオーガーに下向きの力を付与するための手段として、上記従来周知のブームを有する建設用作業装置と同様にブーム俯仰手段としての油圧シリンダー装置すなわち牽引装置を有するものである。」と判断したのであり、その判断に誤りはない。

2  取消事由2(相違点3の認定及びこれについての判断の誤り)について

(1)  原告は、審決の相違点3の認定につき、「ブームをクレーン本体に対して下回動させ、ブームの先端を介して、前記アースオーガーに下向きの力を付与する」との部分が、ブームの自重並びにスクリューの頂部に設けた駆動装置及びウエイト等の自重に、スパイラル状の羽根を有するオーガースクリュー(スパイラルスクリュー)が土中に食い込んでいるときのスクリューの回転力の分力が加わって、「下向きの力」が発生することが引用例1に記載されているのに、この点を意図的に捨象したうえでなされ、その意味内容を変化させることになるので、誤りであると主張するが、上記2の(1)のとおり、引用例発明において、アースオーガーに下向きの力を付与するのは、俯仰装置とウインチであることが明らかであるので、原告の上記主張は理由がない。

(2)  原告は、、審決の相違点3についての判断が誤りであると主張するが、理由がない。

すなわち、慣用例1~3に記載されているように、固い岩盤を掘削・破砕する際には、ショベル系の油圧式掘削機においては、ブームの俯仰用油圧シリンダを強制的に押圧してブームを牽引し、車体の重量を用いてアタッチメントに力を増加させることにより掘削・破砕することは、本願発明出願前において慣用手段であったところ、引用例発明のウインチの代替手段として汎用パワーショベルの牽引機能を有する油圧シリンダを用いることが当業者において容易に想到できたことは、1の(2)のとおりであり、そうであれば、硬い岩盤に対し杭打ち作業を行う際には、クレーン車の重量をアタッチメントの先端にかけて行うことは当然のことである。

原告は、ショベル系の油圧式掘削機と本願発明とは掘削の原理が異なるから、ショベル系の油圧式掘削機において、車体の前方を浮き上がらせ、ブームの先端に設けた掘削用アタッチメントに車体本体の重量を付加させて掘削力を増大させる慣用技術を引用例発明に適用して本願発明のように構成することが、当業者において容易になし得るものということはできないと主張するが、引用例発明のウインチの巻取動作に依りアースオーガーに下向きの力を付与しながら、アースオーガーの回転駆動機構によりオーガースクリューを推進方向へ回転せしめる掘削原理は、本願発明の掘削原理と同じであるから、原告の主張は失当である。

第5  当裁判所の判断

1  取消事由1(相違点2の認定及びこれについての判断の誤り)について

(1)  本願発明の要旨が、「車台と、前記車台の下部に自走用の車輪を設け、前記車台の上にはクレーン本体を水平面内で回転自在に設け、前記クレーン本体を回転駆動する垂直軸駆動装置を設けたホイールクレーン車において、前記クレーン本体には伸縮する伸縮ブームの一端を揺動自在に設け、前記伸縮ブームの他端にはスパイラルスクリューを備え、前記スパイラルスクリューを回転駆動するための回転駆動機構を内蔵したアースオーガー装置を設け、前記伸縮ブームの揺動中心点の近傍に前記アースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するために前記ブームを牽引し前記ホイールクレーン車の重量を用いて前記アースオーガー装置を強制的に押圧するための油圧シリンダ装置である牽引装置の一端を枢着して設け、前記牽引装置の他端を前記クレーン本体に枢着して設けたことを特徴とするホイールクレーン杭打機。」であること、審決が認定した本願発明の要旨もこれと同一であることは当事者間に争いがない。

他方、審決は、引用例1の記載事項として、「引用例1には、車台と、前記車台の下部に自走用の車輪を設け、前記車台の上にはクレーン本体を水平面内で回転自在に設け、前記クレーン本体を回転駆動する垂直軸駆動装置を設けたトラッククレーンにおいて、前記クレーン本体には伸縮する伸縮ブームの一端を揺動自在に設け、前記伸縮ブームの他端にはオーガースクリューを備え、前記オーガースクリューを回転駆動するための回転駆動機構を内蔵したアースオーガーを設け、前記伸縮ブームに前記アースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するために前記ブームを牽引し前記アースオーガーを押圧するための装置を前記伸縮ブームとクレーン本体との間に設けことを特徴とするトラッククレーン杭打機、が記載されている」(審決書12頁12行~13頁7行)と認定した。

そして、被告は、引用例1には、引用例発明の俯仰装置により付与されるブームとアースオーガーの自重による下向きの力に加えて、ウインチによりブームを牽引し、被圧入物を地盤に圧入するためにアースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与することが記載されており、審決は、この俯仰装置とウインチを「アースオーガーを押圧するための装置」と認定したものである旨主張する。すなわち、審決の認定したブームを牽引する装置はウインチであると主張するものである。

確かに、引用例1(甲第5号証)の、被告の引用する「圧入すべき被圧入物の近傍に既設の被圧入物がある場合に於いて、クレーン機に装備されたウインチのワイヤー先端を該既設被圧入物に止結し、ウインチの巻取動作に依り各ブームに降下力を付与せしめ、アースオーガー並びに被圧入物の押入力を増大させたことを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の圧入工法。」(同号証特許請求の範囲2項)、「本発明の第二の目的はクレーン機に装備されているウインチを活用し、とりわけ圧入すべく被圧入物の近傍に既設の被圧入物がある場にはこれにワイヤーの先端を止結し、前記ウインチの巻取動作に依りアースオーガー並びに被圧入物に押入力を付与せしめ、より一層の圧入効果を発揮させる圧入工法を提供するにある。」(同2頁左下欄7~13行)、「既に埋設された被圧入物3がある場合には第1図並びに第5図に示す如くこれに所定状態にて連続すべく旋回機構8を作動させて押入位置を決定し、回転駆動機構5に依りオーガースクリュー6を推進方向へ回転させる、同時に主ブーム25に対して副ブーム26を短縮させると共に主ブーム25をクレーン本体24に対して下回動させてアースオーガー2に下向きの力を付与する。」(同4頁右上欄13行~左下欄1行)、「前記被圧入物3を押入する場合に於いて、第1図に示す如く既に埋設された被圧入物3があった際にはウインチ27に巻回されたワイヤー33の先端をこれに止結し、前記ウインチ27の巻取動作に依りアースオーガー2並びに被圧入物3に圧入力を付与せしめる事が出来る。この場合、各被圧入物3には吊下げ用の吊穴34が穿設されて居り、ここへワイヤー33の先端に取付けたフック35を引掛けるものとする。」(同4頁右下欄2~10行)との各記載と第1~3図とを併せ考えれば、引用例1には、被圧入物の近傍にある既設の被圧入物に先端を止結したワイヤーをウインチで巻き取ることにより、アースオーガー及び被圧入物に押入力を付与することが記載されており、この場合の押入力とは、ワイヤーの先端を止結した既設の被圧入物の該止結点に作用するワイヤーの張力の反作用力であり、ブームの先端に対し下向きに働くことになるから、ブームを牽引する力といえないことはなく、したがって、ワイヤーを巻き取るウインチがブームを牽引する装置であるといえないこともない。

しかしながら、審決の前示引用例1の記載事項の認定中の「前記伸縮ブームに前記アースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するために前記ブームを牽引し前記アースオーガーを押圧するための装置」との記載が、俯仰装置とウインチの複数の装置を意味すると解するのは不自然であるのみならず、仮にこれが俯仰装置とともにウインチも意味するのであれば、端的に「ウインチ」と特定記載しなかった理由が明らかではない。

さらに、引用例1の記載事項として審決が認定した事項(審決書8頁19行~12頁11行)のうちには、ブームを牽引する装置がウインチである根拠として被告が引用する引用例1の前示各記載が全く含まれていないだけでなく、ウインチの巻取動作によるブームの降下力とは直接関係のない「クレーン機4が装備しているウインチ27を使って被圧入物3を吊上げ、」(審決書10頁15~16行)、「既に埋設された被圧入物3がある場合には第1図並びに第5図に示す如くこれに所定状態にて連続すべく旋回機構8を作動させて押入位置を決定し」(同10頁末行~11頁3行)との各記載を除いては、「ウインチ」や「既設の被圧入物」に関する記載も含まれてはいない。

加えて、審決は、前示「引用例1には、車台と、前記車台の下部に自走用の車輪を設け、前記車台の上にはクレーン本体を水平面内で回転自在に設け、前記クレーン本体を回転駆動する垂直軸駆動装置を設けたトラッククレーンにおいて、前記クレーン本体には伸縮する伸縮ブームの一端を揺動自在に設け、前記伸縮ブームの他端にはオーガースクリューを備え、前記オーガースクリューを回転駆動するための回転駆動機構を内蔵したアースオーガーを設け、前記伸縮ブームに前記アースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するために前記ブームを牽引し前記アースオーガーを押圧するための装置を前記伸縮ブームとクレーン本体との間に設けことを特徴とするトラッククレーン杭打機、が記載されている」との認定に基づいて、「本件発明(注、本願発明)では、伸縮ブームの揺動中心点の近傍にアースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するためにブームを牽引しアースオーガー装置を強制的に押圧するための油圧シリンダ装置である牽引装置の一端を枢着して設け、牽引装置の他端をクレーン本体に枢着して設けているのに対して、引用例1では、伸縮ブームにアースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するためにブームを牽引しアースオーガーを押圧するための装置を有してはいるものの、ブームを牽引しアースオーガーを押圧するための装置が、一端は伸縮ブームの揺動中心点の近傍に、他端はクレーン本体に枢着して設けているのかどうかが不明である点」(審決書14頁17行~15頁10行)を、本願発明と引用例発明との相違点2として認定したものであるが、仮に、引用例1(引用例発明)についての「ブームを牽引」する装置がウインチを意味するのであれば、本願発明の「ブームを牽引しアースオーガー装置を強制的に押圧するための油圧シリンダ装置である牽引装置」に対して、引用例発明においては「ブームを牽引しアースオーガーを押圧するための装置」がウインチである点を相違点として認定して然るべきであるのに、そのような認定はなく、却って、ウインチであるとすれば意味をなさない「一端は伸縮ブームの揺動中心点の近傍に、他端はクレーン本体に枢着して設けているのかどうかが不明である点」を相違点として認定している。もっとも、この点について、被告は、一端は伸縮ブームの揺動中心点の近傍に、他端はクレーン本体に枢着して設けられているかどうかが不明であるのは、「アースオーガーを押圧するための装置」のうちの他一方である俯仰装置のことであると主張するところ、そうであれば、「ブームを牽引しアースオーガーを押圧するための装置が、一端は伸縮ブームの揺動中心点の近傍に、他端はクレーン本体に枢着して設けているのかどうかが不明である」との文言のうちの、「ブームを牽引し」の部分と、「一端は伸縮ブームの・・・設けているのかどうかが不明である」の部分とが異なった装置を対象とした記述であるどいうことになるが、それは文脈上極めて不自然であり、翻って、「ブームを牽引し」の部分がウインチについていうものであるとの主張が誤りであることを裏付けるものといわざるを得ない。

以上によれば、審決の前示「引用例1には、車台と、前記車台の下部に自走用の車輪を設け、前記車台の上にはクレーン本体を水平面内で回転自在に設け、前記クレーン本体を回転駆動する垂直軸駆動装置を設けたトラッククレーンにおいて、前記クレーン本体には伸縮する伸縮ブームの一端を揺動自在に設け、前記伸縮ブームの他端にはオーガースクリューを備え、前記オーガースクリューを回転駆動するための回転駆動機構を内蔵したアースオーガーを設け、前記伸縮ブームに前記アースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するために前記ブームを牽引し前記アースオーガーを押圧するための装置を前記伸縮ブームとクレーン本体との間に設けことを特徴とするトラッククレーン杭打機、が記載されている」との認定は、そのブームを牽引する装置として、被告の主張するウインチを認定したものでないことは明白である。そして、引用例発明の「俯仰装置」がブームとアースオーガーの自重による下向きの力を付与するものであって、ブームを牽引することによりアースオーガーに垂直方向の押圧力を付与するものでないことは、被告が自認するところであるから、結局、審決の前示認定に係るブームを牽引する装置は存在せず、審決の前示引用例1の記載事項の認定は、この点で誤りがあるものというべきであり、したがって、これに基づいた前示相違点2の認定も誤りといわざるを得ない。

(2)  審決は、相違点2について「引用例1には、ブームをクレーン本体に対して下回動させること、および、ブームの先端を介して、アースオーガーに下向きの力を付与するとの記載があることからして、直接的な記載はないものの、主ブームをクレーン本体に対して下回動させ、かつ、アースオーガーに下向きの力を付与するための何らかの手段を有するものである。この点について、ブームを有する建設作業装置において、車台上の台枠とブーム本体との間にブーム俯仰手段としての油圧シリンダー装置を設け、この油圧シリンダー装置を操作してブームを上・下回動させることは、引用例2、3に記載されているように従来周知の技術手段であることからして、直接的な記載はないものの引用例1におけるトラッククレーンも、ブームをクレーン本体に対して下回動させ、かつ、アースオーガーに下向きの力を付与するための手段として、上記従来周知のブームを有する建設用作業装置と同様にブーム俯仰手段としての油圧シリンダー装置すなわち牽引装置を有するものである。」(審決書16頁12行~17頁11行)と判断したものであるが、審決が、相違点2において、本願発明と対比して認定した引用例発明の相違点は、前示のとおり、「引用例1では、・・・ブームを牽引しアースオーガーを押圧するための装置が、一端は伸縮ブームの揺動中心点の近傍に、他端はクレーン本体に枢着して設けているのかどうかが不明である点」であって、前示判断がこのような相違点に対して、直接対応した判断をしたことにならないことは明白である。

もっとも、前示のとおり、審決の相違点2の認定のうちの、引用例発明がブームを牽引する装置を有するとの点は誤りであり、したがって、引用例発明は、ブームの俯仰装置は有していても、それが、本願発明の「アースオーガー装置を強制的に押圧するための油圧シリンダ装置である牽引装置」という構成を備えるものではないところ、審決の前示相違点2についての判断が、引用例発明と本願発明のかかる相違点を想定して、これに対する判断としてなされたものであり、かつ、「引用例1におけるトラッククレーンも、ブームをクレーン本体に対して下回動させ、かつ、アースオーガーに下向きの力を付与するための手段として、上記従来周知のブームを有する建設用作業装置と同様にブーム俯仰手段としての油圧シリンダー装置すなわち牽引装置を有するものである。」との判断の趣旨が、引用例1におけるトラッククレーン、すなわち引用例発明に、その摘示する従来周知の技術手段を適用すれば、アースオーガーに下向きの力を付与するための手段として、油圧シリンダ装置である牽引装置を備える構成に想到することは容易であるというものであるとすれば、その容易に想到し得るとの結論の当否はともかく、相違点の認定とこれに対する判断として対応しないという訳ではなく、被告の縷々主張するところも、結局、そこに帰着するものと解される。

そこで、審決の前示判断の趣旨がそのようなものと捉えることができるかどうかという点の検討はしばらく措き、仮に、審決の判断の趣旨がそのようなものであるとした場合に、その判断が正当であるかどうかについて検討する。

引用例2(甲第6号証)には、「ブーム2の基部2bと腕5、6、7によって平行四辺形を形成する様に各々枢着すると共にブーム2の後端2bに一端が枢着された腕5の他端を延長して台枠1の一端に枢着すると共に台枠1の他端に枢着された旋回腕4の端部を腕6と7との枢着部aに枢着し、更にこの枢着部aに台枠1の他端側に枢着されたシリンダー3を枢着して成るブーム垂直移動装置。」(同号証実用新案登録請求の範囲)が記載され、考案の詳細な説明中には、「本考案は軌道車或は自動車等の運搬車に取付け特に電柱等の穴掘に使用するブーム垂直移動装置に関するもの」(同号証1欄19~21行)、「本考案の他の目的とするところは、ブーム起伏機構に油圧シリンダー等の伸縮機を使用し強力なる上下腕力を得ると共に機構的にも無理のないブーム垂直移動装置を提供しようとするものである。」(同欄25~29行)との記載があり、さらに、「シリンダー3」に油圧シリンダを用いること(同号証2欄13~14行)が記載されている。また、引用例3(甲第7号証)には、「1 支持枠に一端を枢着した操作杆とブームに固着のアーム先端とに関着12、16したリンクの両端がブームの水平時にその軸着点4との間に一直線をなす如く形成し、該操作杆の他端とアーム間に油圧シリンダ17を介設し、該油圧シリンダと操作杆の連結部を適宜移動可能に形成し、該油圧シリンダ17とブームに内設した伸縮用油圧シリンダ間に適宜両シリンダを連通させる油圧回路を形成し、油圧シリンダ8の伸縮がブームと操作杆及び油圧シリンダ17の作動に応答してブームの先端を垂直線移動させる同調装置。」(同号証特許請求の範囲)が記載され、発明の詳細な説明中には、「この発明はアースオーガ、高層作業車、クレーン車などにおいてブームを回動した場合、ブームの伸長位置、傾斜角の如何にかかわらずブーム回動時先端が垂直線上を移動するようにした同調装置に関するものである。」(同号証1欄20~25行)との記載がある。これらの記載及び各引用例に添付された図面によれば、引用例2、3には、ブームを有する建設作業装置のブームを上下回動させる俯仰機能として、油圧シリンダを用いることが記載されているものと認められる。

しかしながら、引用例2、3には、ブームを牽引するための装置が記載されていないことは被告の自認するところである。そうであれば、審決が、「ブームを有する建設作業装置において、車台上の台枠とブーム本体との間にブーム俯仰手段としての油圧シリンダー装置を設けこの油圧シリンダー装置を操作してブームを上・下回動させることは、引用例2、3に記載されているように従来周知の技術手段である」旨、引用例2、3を引用して認定した周知技術は、引用例2、3に含まれる限りの技術事項、すなわちブームを有する建設作業装置のブームの俯仰機能として油圧シリンダを用いる技術に止まることが明らかであり、これとは別個の技術事項である該油圧シリンダがブームを強制的に下回動させる牽引機能を有することも含めて周知め技術手段と認定したものということはできない。

そうすると、審決は、引用例発明に、建設作業装置のブームの俯仰機能として、ブームを牽引する機能を有することを含まない単なる油圧シリンダ装置を用いる技術を周知技術として適用することにより、アースオーガーに下向きの力を付与するための手段として、油圧シリンダ装置である牽引装置を備える構成に想到することは容易である旨判断したことになるところ、その判断は、油圧シリンダに、ブームを強制的に下回動させる牽引機能を備えさせる契機を欠くものであって、誤りというべきである。

この点につき、被告は、周知例3、4を引用して、ブームと車体本体の間に設けられた油圧シリンダがブームを上下回動させる俯仰機能を有すると同時に、ブームを強制的に下回動させる牽引機能も有することはよく知られたことであり、やはり周知の技術手段である旨主張するが、仮に周知例3、4に、油圧シリンダがブームを強制的に下回動させる牽引機能を有することが記載されており、かつ、それが周知技術であるとしても、審決が、周知例3、4を引用していないことはもとより、油圧シリンダがブームを強制的に下回動させる牽引機能を有することを周知技術と認定引用し、これを引用例発明に適用して前示相違点に係る進歩性を判断することを経ていない以上、審決取消訴訟において、かかる主張をすることは許されないものといわなければならない。

したがって、審決の相違点2についての判断は、いずれにせよ誤りである。

2  以上のとおり、審決は、本願発明と引用例期との相違点2の認定友びこれに対する判断に誤りがあり、その余の点につき判断するまでもなく違法であるから、その取消しを求める原告の請求は理由がある。

よって、原告の請求を認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

昭和62年審判第10982号

審決

大阪府東大阪市吉田3丁目13番15号

請求人 奥田朔鷹

東京都港区西新橋1丁目13番4号 T・Sビル2階 富崎・円城寺特許事務所

代理人 富崎元成

東京都港区新橋6丁目6番9号 岡田ビル4階 葛西特許事務所

代理人弁理士 葛西四郎

昭和58年特許願第221856号「ホイールクレーン杭打機」拒絶査定に対する審判事件(昭和60年6月19日出願公開、特開昭60-112924)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

1.(手続きの経緯・本願発明の要旨)

本願は、昭和58年11月24日の出願に係るものであつて、その要旨は、出願当初の明細書および図面、昭和62年6月24日差出しの手続補正書、平成8年5月20日差出しの手続補正書、平成9年4月15日差出しの手続補正書の記載からみて、その特許請求の範囲に記載されたとおりの、「車台と、前記車台の下部に自走用の車輪を設け、前記車台の上にはクレーン本体を水平面内で回転自在に設け、前記クレーン本体を回転駆動する垂直軸駆動装置を設けたホイールクレーン車において、前記クレーン本体には伸縮する伸縮ブームの一端を揺動自在に設け、前記伸縮ブームの他端にはスパイラルスクリユーを備え、前記スパイラルスクリユーを回転駆動するための回転駆動機構を内蔵したアースオーガー装置を設け、前記伸縮ブームの揺動中心点の近傍に前記アースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するために前記ブームを牽引し前記ホイールクレーン車の重量を用いて前記アースオーガー装置を強制的に押圧するための油圧シリンダ装置である牽引装置の一端を枢着して設け、前記牽引装置の他端を前記クレーン本体に枢着して設けたことを特徴とするホイールクレーン杭打機。」、にあるものと認める。

2.(当審における拒絶の理由)

当審における平成9年2月12日付けの拒絶理由通知の概略は、以下のとおりである。

引用例1:特開昭55-142826号公報、

引用例2:実公昭45-18857号公報、

引用例3:特公昭45-33034号公報、

を引用例とし、

引用例1(特開昭55-142826号公報)には、

車台と、前記車台の下部に自走用の車輪を設け、前記車台の上にはクレーン本体を水平面内で回転自在に設け、前記クレーン本体を回転駆動する垂直軸駆動装置を設けたトラッククレーンにおいて、前記クレーン本体には伸縮する伸縮ブームの一端を揺動自在に設け、前記伸縮ブームの他端には回転駆動機構を内蔵したアースオーガを回転自在に設け、前記伸縮ブームに前記アースオーガに垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するために前記ブームを牽引し前記アースオーガを強制的に押圧するための装置を前記伸縮ブームとクレーン本体との間に設けことを特徴とするトラッククレーン杭打機、が記載されており、

また、引用例2、3(実公昭45-18857号公報、特公昭45-33034号公報)には、ブーム起伏機構に油圧シリンダー等の伸縮機を使用してブームに強力な上下腕力を付与するようにしたブーム垂直移動装置、が記載されている。

そして、本願発明は、その出願前に日本国内において頒布されたことが明らかな刊行物である引用例1に記載された発明と、建設用作業装置における従来周知の技術手段(引用例2、3に記載の)および慣用手段に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである、というものである。

3.(請求人の主張)

これに対して、審判請求人は、平成9年4月15日差出しの手続補正により「特許請求の範囲の項」の記載を一部補正するとともに同日付けで意見書を提出し、同書において、審判請求人は、

「(2) 本願発明の牽引装置の油圧回路

前記した油圧シリンダ装置である牽引装置は、従来のホイールクレーン車の起伏シリンダの油圧回路とは同一ではありません。改造された油圧回路を備えたものです。」(上記意見書の第3頁第2~5行目の記載参照)、

「本願発明は、こうした従来のホイールクレーン車の油圧回路を改造したものです。

……略……

本願発明の発明者は、従来の工法(第1引用例に類似した工法)により杭打作業中に、操作ミスでブームを下方に必要以上に下げたところバランスを逸してホイールクレーン車が転倒しそうになったことに端を発して、本願発明に密接に関連する杭打工法を思いついたものです。

しかしながら、前記しました理由で先端で意図的、かつ積極的にアースオーガーの先端を押圧することはできません。自己が所有するホイールクレーン車のメーカーであるタダノに依頼して起伏用の油圧回路を改造したものです。当時としてはこの油圧回路は同社の標準品にはないので、同社の指定サービス工場で改造したものです。

……略……

以上詳記しましたように、本願発明の起伏用シリンダーの油圧回路は出願当初から改造された油圧回路を使用していたものです。この意味で起伏用シリンダーを本願発明では牽引装置と称したものです。

なお、平成8年5月20日付の意見書でも述べましたように、本願発明の出願当初の明細書には、前記した改造した油圧回路は記載されてしません。しかしながら、甲第3号証に記載された油圧回路の高圧設定スイッチ11等の改造部分の全てが周知とは申しませんが、本願発明の目的が油圧シリンダーである牽引装置でブームを強力に引っ張り、その先端でアースオーガーに加圧するという点が明確であることから、甲第2号証に記載されたような起伏のため油圧回路は自明なものです。

特に、リリーフ弁7の設定圧力を変えるだけで、本願発明のような動作をさせることは原理的には可能なものです。したがって、甲第5号証に示しますように、改造された起伏用の油圧回路に使用されているリリーフ弁等自体は、出願当初の明細書の目的、油圧シリンダー等の記載から油圧技術者にとって自明であり、開示する必要のないものと考えます。」(上記意見書の第4頁第11行~第5頁第23行目の記載参照)、

旨主張するとともに、下記の甲第2~6号証を提出している。

甲第2号証:TADANO LTD.編「HYDRAULIC CRANE REPAIR MANUAL MODE TR-500M修理要領書 01」油圧回路1990年発行

甲第3号証:労働省労働基準局安全衛生部安全課編「改正2版-クレーン等各機構規格の解説」、社団法人日本クレーン協会発行、昭和51年9月20日初版発行、昭和58年5月20日改訂版発行、平成7年6月25日改正2版第3刷発行、第81~82頁、

甲第4号証:TR-500Mの改造した油圧回路、

甲第5号証:油圧技術便覧編集委員会編「油圧技術便覧」日刊工業新聞社発行、昭和51年1月30日発行、第388頁~第392頁、第398頁~第399頁、

甲第6号証:労働基準監督署長へ提出する(移動式クレーン)変更検査申請書及び(移動式クレーン)変更届、

4.(本願発明と引用例との対比)

4.-1.(引用例)

(1)引用例1:(特開昭55-142826号公報)には、「1. クレーン本体に対して俯仰する主ブーム及びこれに対して伸縮若しくは俯仰回動する副ブームを備えたクレーン機の前記副ブームの先端に、回転駆動機構にて回転されるオーガースクリューを備えたアースオーガーの頭部を枢結すると共に、前記アースオーガーには被圧入物を並置して保持させ、前記アースオーガーの掘削と前記クレーン機の各ブームの動作に依り該アースオーガーと被圧入物とを略垂直に土中へ推進し、所定深さに達すると被圧入物のみを土中に残存させてアースオーガーを引抜く様にしたことを特徴とする圧入工法」(特許請求の範囲の項 第1項の記載参照)、

「クレーン機4は種々の構造のものがあるが、定置型より稼動型のものが望ましく、とりわけ第1図乃至第3図に示したトラッククレーン機が最も好ましい。これは周知の如くトラック22の荷台部分に旋回機構23を介してクレーン本体24が設置され、該本体24には俯仰回動する主ブーム25が枢設されている。而して主ブーム25にはこれに伸縮自在に設けられた少なくとも一つの副ブーム26があり、図面では二つの副ブームがある場合を例示している。これら副ブーム26は例えば流体圧シリンダや、ローブと滑車を組合わせた機構に依り作動される。」(公開公報第3頁左下欄下から第1行~右下欄第12行の記載参照)、「そして前記最先の副ブーム26の先端にはアースオーガー2の頭部を直接連結する。」(公開公報第3頁右下欄下から第1行~第4頁左上欄第1行の記載参照)、

「次に本発明の圧入装置1の作用及びこれを用いた圧入方法に就いて詳説する。

先ず、圧入すべき場所にクレーン機4を配置し、各ブーム25、26を伸長状態にしてアースオーガー2を垂直に樹立させる。

そしてクレーン機4が装備しているウインチ27を使って被圧入物3を吊上げ、その下端の掛片21を掛金具20に掛合させ、上端は挟持機構12にて掴持して第1図並びに第2図に示す如くアースオーガー2の側部にセットする。

次に、既に埋設された被圧入物3がある場合には第1図並びに第5図に示す如くこれに所定状態にて連続すべく旋回機構8を作動させて押入位置を決定し、回転駆動機構5に依りオーガースクリュー6を推進方向へ回転させる。同時に主ブーム25に対して副ブーム26を短縮させると共に主ブーム25をクレーン本体24に対して下回動させてアースオーガー2に下向きの力を付与する。第3図はアースオーガー2と共に被圧入物3を所定深さまで没入させた状態を示す。

この様な状態に達すると挟持機構12を解放すると共にオーガースクリュー6を逆に作動させて被圧入物3のみを土中に残存させる。」(公開公報第4頁右上欄第3行~同頁左下欄第7行の記載参照)、

第1図と第2図、および第1図と第2図に基づく説明内容の記載から、車台と、前記車台の下部に自走用の車輪を設け、前記車台の上にはクレーン本体を水平面内で回転自在に設け、前記クレーン本体を回転駆動する垂直軸駆動装置を設けたトラッククレーンにおいて、前記クレーン本体には伸縮する伸縮ブームの一端を揺動自在に設け、前記伸縮ブームの他端にはオーガースクリューを備え、前記オーガースクリユーを回転駆動するための回転駆動機構を内蔵したアースオーガを設け、前記伸縮ブームに前記アースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するために前記ブームを牽引し前記アースオーガを押圧するための装置を前記伸縮ブームとクレーン本体との間に設けたことを特徴とするトラッククレーン杭打機、

が夫々紀載されている。

したがって、これらの記載から引用例1には、車台と、前記車台の下部に自走用の車輪を設け、前記車台の上にはクレーン本体を水平面内で回転自在に設け、前記クレーン本体を回転駆動する垂直軸駆動装置を設けたトラッククレーンにおいて、前記クレーン本体には伸縮する伸縮ブームの一端を揺動自在に設け、前記伸縮ブームの他端にはオーガースクリューを備え、前記オーガースクリユーを回転駆動するための回転駆動機構を内蔵したアースオーガを設け、前記伸縮ブームに前記アースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するために前記ブームを牽引し前記アースオーガを押圧するための装置を前記伸縮ブームとクレーン本体との間に設けたことを特徴とするトラッククレーン杭打機、が記載されているものと認める。

(2)引用例2(実公昭45-18857号公報)および引用例3(特公昭45-33034号公報)には、ブーム起伏機構に油圧シリンダー等の伸縮機を使用してブームに強力な上下腕力を付与するようにしたブーム垂直移動装置、

が記載されている。

4.-2.(対比)

ここで、本件特許発明と引用例1とを対比する。

本件特許発明の「スバイラルスクリュー」は、引用例1の「オーガースクリュー」に相当するものと認められることから、したがって、両者は、車台と、前記車台の下部に自走用の車輪を設け、前記車台の上にはクレーン本体を水平面内で回転自在に設け、前記クレーン本体を回転駆動する垂直軸駆動装置を設けたクレーン車において、前記クレーン本体には伸縮する伸縮ブームの一端を揺動自在に設け、前記伸縮ブームの他端にはオーガースクリューを備え、前記オーガースクリューを回転駆動するための回転駆動機構を内蔵したアースオーガを設け、前記伸縮ブームに前記アースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入することを特徴とするクレーン杭打機、の点で構成を同じくしており、両者は、下記の点で、構成を異にしているものと認められる。

<相違点1>

クレーン杭打機が、本件発明では、ホイールクレーン車であるのに対して、引用例1では、トラッククレーン車である点。

<相違点2>

本件発明では、伸縮ブームの揺動中点の近傍にアースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するためにブームを牽引しアースオーガー装置を強制的に押圧するための油圧シリンダ装置である牽引装置の一端を枢着して設け、牽引装置の他端をクレーン本体に枢着して設けているのに対して、引用例1では、伸縮ブームにアースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するためにブームを牽引しアースオーガを押圧するための装置を有してはいるものの、ブームを牽引しアースオーガを押圧するための装置が、一端は伸縮ブームの揺動中心点の近傍に、他端はクレーン本体に枢着して設けているのかどうかが不明である点。

<相違点3>

本件発明では、ブームとクレーン本体との間に設けた油圧シリンダ装置である牽引装置により、ブームを牽引しホイールクレーン車の重量を用いてアースオーガー装置に垂直方向の押圧力を付与し被圧入物を地盤に圧入するものであるのに対して、引用例1では、ブームをクレーン本体に対して下回動させ、ブームの先端を介して、前記アースオーガーに下向きの力を付与するものの、クレーン車の重量を用いてアースオーガーに垂直方向の押圧力を与えるものであるか否かが不明である点。

(2)(相違点の検討)

そこで、前記相違点について検討する。

<相違点1>について、

ホイールクレーンもトラッククレーンも共に車輪で走行する走行式の移動クレーンとして引用例を上げるまでもなく従来局知のものであり、トラッククレーンに代えてホイールクレーンを採用することは、当業者が適宜なし得る程度のことと認める。

<相違点2>について、

引用例1には、ブームをクレーン本体に対して下回動させること、および、ブームの先端を介して、アースオーガーに下向きの力を付与するとの記載があることからして、直接的な記載はないものの、主ブームをクレーン本体に対して下回動させ、かっ、アースオーガーに下向きの力を付与するための何ちかの手段を有するものである。

この点について、ブームを有する建設作業装置において、車合上の台枠とブーム本体との間にブーム俯仰手段としての油圧シリンダー装置を設け、この油圧シリンダー装置を操作してブームを上・下回動させることは、引用例2、3に記載されているように従来周知の技術手段であることからして、直接的な記載はないものの引用例1におけるトラッククレーンも、ブームをクレーン本体に対して下回動させ、かつ、アースオーガーに下向きの力を付与するための手段として、上記従来周知のブームを有する建設用作業装置と同様にブーム俯仰手段としての油圧シリンダー装置すなわち牽引装置を有するものである。

<相違点3>について、

本願発明が、牽引装置により、ブーム本体を牽引しクレーン車の重量を用いてアースオーガーを強制的に押圧するようにした点については、建設機械であるショベル系の油圧式掘削機の車体に起伏自在に枢支したブームを、車体とブームとの間に設けた油圧シリンダー装置により牽引してブームを下回動させ、ブームの先端に設けた掘削用アタッチメントを地面に押しつけると共に、更にブームを下回動させることにより車体の前方を浮き上がらせ、ブームの先端に設けた掘削用アタッチメントに車体本体の重量を付加させ地面への押込力すなわち掘削力を増大させることは、従来よりショベル系の油圧式掘削機においてよく用いられている慣用手段である。

そうすると、相違点3は、引用例1に上記慣用手段を適用して本願発明のように構成することは、当業者が容易になし得る程度のものと認める。

よって、本願発明は、引用例1に記載された発明に、引用例2、3に記載された従来周知の技術手段及び慣用の技術手段を組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものと認める。

なお、<相違点2、3>に対して、審判請求人は、「3.(請求人の主張)」において上記したように、”本願発明の牽引装置の油圧回路

前記した油圧シリンダ装置である牽引装置は、従来のホイールクレーン車の起伏シリンダの油圧回路とは同一ではありません。改造された油圧回路を備えたものです”、“本願発明は、こうした従来のホィールクレーン車の油圧回路を改造したものです”、“本願発明の起伏用シリンダーの油圧回路は出願当初から改造された油圧回路を使用していたものです。この意味で起伏用シリンダーを本願発明では牽引装置と称したものです”と述べているが、本願の出願当初の明細書を検討すると、同明細書には、「本発明は之等の問題解決の手段として自走式のあるホイールクレーンを使用し、クレーンのブームを起伏させる起伏シリンダーを利用し、在来の導柱たるリーダーを廃し、上から下へ掘進方向に強圧を加える事としたものである。」(同明細書第2頁第3~7行の記載参照)と記載されているのみであり、審判請求人の主張するように、油圧シリンダ装置である牽引装置は、従来のホイールクレーン車の起伏シリンダの油圧回路とは同一ではなく改造された油圧回路を備えたものであるとか、従来のホイールクレーン車の油圧回路を改造したものであることを窺わせる記載は何ら見受けられない。

したがって、上記審判請求人の主張を採用することはできない。

5.(結び)

以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1に記載された発明に、引用例2、3に記載された従来周知の技術手段および慣用技術手段に基づいて当業者が容易になし得たものと認められ、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成9年9月12日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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