東京高等裁判所 平成9年(行ケ)290号 判決 1998年11月24日
北九州市小倉北区中島2丁目1番1号
原告
東陶機器株式会社
代表者代表取締役
江副茂
訴訟代理人弁護士
増岡章三
同
増岡研介
同
片山哲章
同弁理士
松尾憲一郎
佐賀市巨勢町大字牛島73番地16
(審決書上の住所
福岡市西区生の松原1丁目20番26-204号)
被告
井筒屋精一
訴訟代理人弁護士
武末昌秀
主文
特許庁が平成8年審判第18192号事件について平成9年10月7日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
主文と同旨の判決
2 被告
「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
被告は、名称を「洗面化粧台」とする登録第1830308号実用新案(昭和58年12月8日出願、昭和63年8月29日出願公告、平成2年9月6日設定登録。以下「本件考案」という。)の実用新案登録権者である。
原告は、平成8年10月21日、本件考案の登録を無効とすることについて審判を請求をした。
特許庁は、この請求を同年審判第18192号事件として審理した結果、平成9年10月7日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年10月30日原告に送達された。
2 本件考案の要旨
陶磁器製台1の上面に洗面用凹部2を形成し、同凹部2に排水孔3、その栓4を有し、かつ同台1に水道栓5および蛇口6を設け、同台1の下部に水道栓5に接続する水道管7を設けてなる洗面台8において、上記凹部2の外側に小透孔9を穿設し、同透孔9を貫通する小径管10の下端部を上記水道管7に直接連通させ、上端部に接続した小径チューブ11の先端に圧力水噴出細径ノズル12を設け、かつ同台1上の小径管10にコック13を設けてなる洗面化粧台。(別紙2参照)
3 審決の理由
審決の理由は、別紙1審決書写し(以下「審決書」という。)に記載のとおりであり、本件考案は、甲第1号証(特開昭55-35610号公報。本訴における甲第6号証。以下「第1引用例」という。)、甲第2号証(米国特許第4、319、595号明細書。本訴における甲第7号証。以下「第2引用例」という。)、甲第3号証(米国特許第2、855、930号明細書。本訴における甲第8号証。以下「第3引用例」という。)、甲第4号証(米国特許第3、965、937号明細書。本訴における甲第9号証)及び甲第5号証(米国特許第3、690、314号明細書。本訴における甲第10号証。以下、本訴における書証番号で表示する。)に記載された発明に基づいて当業者が極めて容易に考案することができたものと認めることはできないから、本件考案を無効とすることはできない旨判断した。
4 審決の理由に対する認否
審決の理由Ⅰ(本件考案の要旨等。審決書2頁2行ないし18行)は、認める。
同Ⅱのうち、請求人の主張内容(同3頁1行ないし7行)は認める。
引用例の記載事項の認定(同3頁8行ないし9頁18行)のうち、第1引用例に、「上記水道管と異なる」(5頁12行)水道管に連通させることが記載されていることは争い、その余は認める(ただし、6頁16行の「一端を」は、「同弁は、必要であれば、ボールバルブでもよい。フレキシブルホース36は、一端を」の誤記であることは、当事者間に争いがない。)。
同Ⅲのうち、一致点、相違点の認定(同9頁末行ないし10頁11行)のうち、一致点の認定は認め、相違点の認定のうち、本件考案は小径管の上端部に小径チューブが接続されているのに対して、第1引用例発明ではそのような構成になっていない点で相違することは認め、その余は争う。
相違点についての判断(同10頁13行ないし11頁10行)のうち、第2引用例には、水道栓に接続する給水配管L(本件考案の「水道管7」に相当)に連通したT型継手24にフレキシブルホース26を連通したことが記載されていること、及び水道管→フレキシブルホース26→ホース36→フレキシブルホース92→圧力水噴出細径ノズルの水流経路が記載されていること、第4及び第5引用例にも、この相違点について記載ないし示唆する記載は認められないことは認め、その余は争う。
効果についての判断(同11頁11行ないし17行)のうち、本件考案は、「圧力水発生ポンプや電動機を用いる必要がな(い)」ことは認め、その余は争う。
請求人(原告)の主張に対する判断(同11頁18行ないし12頁16行)は争う。
同Ⅳ(まとめ。同12頁17行ないし19行)は争う。
5 審決を取り消すべき事由
審決は、本件考案と第1引用例発明との相違点の認定を誤り(取消事由1)、また、相違点についての判断を誤った(取消事由2)ものであるから、違法なものとして取り消されるべきである。
(1) 取消事由1(相違点の認定の誤り)
審決は、本件考案と第1引用例発明との相違点について、「本件考案は、小径管の下端部を水道栓に接続する水道管に直接連通させ、上端部に接続した小径チューブの先端に圧力水噴出細径ノズルを設け、かつ陶磁器製台上の小径管にコックを設けてなるのに対して、甲第1号証記載の考案(第1引用例発明)は、そのような構成を備えていない点で相違する。」(審決書10頁6行ないし11行)と認定するが、誤りである。本件考案と第1引用例発明との相違点は、本件考案は、小径管の上端部に小径チューブが接続されているのに対して、第1引用例発明ではそのような構成になっていない点に限られる。
<1> 小径管の下端部を水道栓に接続する水道管に直接連通させる点
(a) 第1引用例(甲第6号証)の第2図(別紙3第2図参照)の符号11は「水道管」と明記(1頁右下欄10行)されており、それが「水道栓に接続する水道管」ないし少なくともその支管であることは、第1引用例に接する当業者にとって自明である。したがって、第1引用例には、小径管の下端部を水道栓に接続する水道管に直接連通させる構成が開示又は示唆されているから、この点で本件考案と一致するものである。
(b) 仮に第1引用例にこの点の示唆がないとしても、水道栓に接続する水道管に直接連通させることは、第2引用例(甲第7号証)に記載されており、当業者が極めて容易に想到することができることである。
<2> 小径チューブの先端に圧力水噴出細径ノズルを設ける点
第1引用例発明は、極めて小径であることが図面上明白な「ホース18」の先端に把持部17を設けた「ノズル2」を設けているから(別紙3第2図参照)、小径チューブの先端に圧力水噴出細径ノズルを設ける点においても、本件考案と一致するものである。
<3> 陶磁器製台上の小径管にコックを設ける点
第1引用例発明は、天板9上の給水パイプ12に止水栓14を設けており、また、陶磁器製の洗面台は周知技術であるから、陶磁器製台上の小径管にコックを設ける構成を備えており、この点でも本件考案と一致するものである。
(2) 取消事由2(相違点についての判断の誤り)
<1> 小径管の下端部を水道栓に接続する水道管に直接連通させる点
仮にこの点が第1引用例に示唆されていないとしても、第2引用例には、審決認定のとおり、水道栓に接続する給水配管L(本件考案の「水道管7」に相当)に連通したT型継手24にフレキシブルホース26を連通したことが記載されているから、小径管の下端部を水道栓に接続する水道管に直接連通させる構成が開示されている。
仮に、第2引用例にこの点の開示がないとしても、小径管の下端部を水道栓に接続する水道管に直接連通させることは、当業者が適宜行う設計事項である。
<2> 小径管の上端部に小径チューブを接続する点
(a) 第2引用例(甲第7号証)には「把持具98は、装置10”内で直接に連通した配管90”、36”を介して水源に直接連通されている。」(7欄40行ないし42行。訳文10頁8行、9行)と記載されており、少なくともフレキシブルホース26からフレキシブルホース92に水が途切れることなく流れる水流経路の記載がある(別紙4第1図及び第2図参照)。そして、本件考案の「小径管」は硬質のものに限られるものではないから、第2引用例のフレキシブルホース26は、本件考案の「小径管」に相当する。そうすると、第2引用例には、小径管の上端部に小径チューブを接続させることが示唆されている。
(b) さらに、第3引用例(甲第8号証)の第5図及び第6図にも、小径管の上端部に小径チューブを接続する構成が開示又は示唆されている。
(c) また、仮に「上端部に」接続することが第2及び第3引用例に示唆もされていないとしても、小径管の上端部に小径チューブを接続する程度のことは、当業者が適宜行う設計事項である。
第3 請求の原因に対する認否及び反論
1 認否
請求の原因1ないし3は認め、同5は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。
2 反論
(1) 取消事由1(相違点の認定の誤り)について
<1> 小径管の下端部を水道栓に接続する水道管に直接連通させる点
本件考案における小径管の下端部を水道栓に接続する水道管に直接連通させる構成は、洗面化粧台において簡便な構成によって、不必要に水圧を減ずることなく歯や口腔洗浄を行い得るという目的を達成しているものである。
第1引用例には、このような技術思想は開示されていない。
<2> 小径チューブの先端に圧力水噴出細径ノズルを設ける点
第1引用例発明においては、口腔洗浄器3が介在する構成となっており、本件考案における小径チューブが「小径管の上端部に接続された構成」とは異なるものである。
<3> 陶磁器製台上の小径管にコックを設ける点
本件考案のコック13は、水道管から引水され圧力水噴出ノズルから噴出される水の開閉装置であり、これを簡潔、簡便な場所に設置したものであるのに対し、第1引用例の止水栓14は、水道管から引水されボックスに給水される水の開閉装置であり、構成を異にするものである。
(2) 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について
<1> 小径管の下端部を水道栓に接続する水道管に直接連通させる点
第2引用例のフレキシブルホース26は、洗面用凹部の外側の小透孔を貫通する構成を有しておらず、本件考案における小径管に相当しないから、第2引用例には、小径管の下端部を水道栓に接続する水道管に直接連通させる点が開示も示唆もされていない。
<2> 小径管の上端部に小径チューブを接続する点
(a) 第2引用例には、上記<1>に記載のとおり、本件考案における小径管の構成が開示されていない。
また、第2引用例は、複雑な構造を持つ装置を介在させる構成を採用しており、水道管から小径チューブに至るまでの配管接続の構造に水圧を減ずることなく、かつ装置を簡便に使用できる点についての開示はない。
(b) 第3引用例においては、小径チューブへの給水は、水道栓へ接続した水道管から直接引水する構造とはなっておらず、簡単な構成とはなっていないものである。
理由
1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本件考案の要旨)及び同3(審決の理由の記載)については、当事者間に争いがない。
そして、審決の理由中、第1引用例に「上記水道管と異なる」(審決書5頁12行)水道管に連通させることが記載されていることを除く各引用例の記載事項の認定、及び一致点の認定は当事者間に争いがなく、また、相違点の認定のうち、本件考案は小径管の上端部に小径チューブが接続されているのに対して、第1引用例発明ではそのような構成になっていない点で相違することは、当事者間に争いがない。
2 そこで、原告主張の取消事由の当否について検討する。
(1) 取消事由1(相違点の認定の誤り)について
<1> 小径管について
本件考案の小径管10は、本件考案の要旨のとおり、その上端部に接続した小径チューブ11に水を供給するものではあるが、凹部2の外側に設けられた小透孔9を貫通するものである。第1引用例の給水パイプ12は、前記説示の第1引用例の記載事項のとおり、水タンク3aに水を供給するものではあるが、洗面台の天板9を上下に貫通する管である。したがって、本件考案の小径管と第1引用例の給水パイプ12とは、水道管から圧力水噴出細径ノズルに至る水流経路において、天板後部の小透孔を貫通する管である点で一致するから、本件考案の小径管10は、第1引用例の給水パイプ12に相当するものと認められる(第1引用例の給水パイプ12が水タンク3aに水を供給するものである等の点に基づく相違は、本件考案は小径管の上端部に小径チューブが接続されているのに対して、第1引用例ではそのような構成になっていないとの相違点で既に取り上げられており、本件考案の小径管10が第1引用例の給水パイプ12に相当するか否かの判断の中で再度取り上げる必要はないものである。)。
<2> 小径管の下端部を水道栓に接続する水道管に直接連通させる点
原告は、第1引用例には小径管の下端部を水道栓に接続する水道管に直接連通させる構成が開示又は示唆されている旨主張する。
しかしながら、第1引用例(甲第6号証)の発明の詳細な説明の項には、水道管11と水洗金具10の関係について説明する記載はなく、また、添付の第2図(別紙第3第2図参照)にもこれらの関係を示す記載はない。さらに、水道栓に接続する水道管に小径管の下端部を直接連通することが、本件考案の出願前において周知の技術であったと認めるに足りる証拠もないから、小径管の下端部を水道栓に接続する水道管に直接連通させるとの構成が第1引用例に接する当業者にとって自明のことであると認めることもできない。
したがって、原告の上記主張は採用することができない。
<3> 小径チューブの先端に圧力水噴出細径ノズルを設ける点
本件考案の小径チューブ11は、本件考案の要旨のとおり、その先端に圧力水噴出細径ノズル12が設けられている。第1引用例のホース18は、前記説示の第1引用例の記載事項のとおり、ホース18の先端部に加圧水を噴出するノズル2が設けられている。そうすると、本件考案の小径チューブ11も、第1引用例のホース18も、それらの先端に設けられた圧力水噴出細径ノズル(ノズル2)に水を供給するために設けられている点で同じであるから、本件考案と第1引用例とは、小径チューブの先端に圧力水噴出細径ノズルを設ける点において一致するものと認められる。
この認定に反する被告の主張は、第1引用例発明では小径管の上端部に小径チューブが接続されるような構成になっていないとの相違点を再度取り上げようとするものであり、採用することができない。
したがって、審決のこの点に関する相違点の認定は誤りであり、原告の上記主張は理由がある。
<4> 陶磁器製台上の小径管にコックを設ける点
本件考案の小径管10は、本件考案の要旨のとおり、陶磁器製台1の上面に形成されるものである。第1引用例の給水パイプ12は、前記説示の第1引用例の記載事項のとおり、天板9の上面に形成されるものであるが、陶磁器製の洗面台は周知技術であると認められる。
また、本件考案の小径管に設けられたコック13は、本件考案の要旨から明らかなように、小径管10の水流の開閉作用を行わせるために設けられているものである。第1引用例の給水パイプ12に設けられた止水栓14は、前記説示の第1引用例の記載事項のとおり、給水パイプ12の水流の開閉作用を行わせるために設けられているものである。
そうすると、本件考案と第1引用例発明とは、陶磁器製台上の小径管にコックを設ける点でも一致するものと認められる。
したがって、審決のこの点に関する相違点の認定は誤りであり、原告の上記主張は理由がある。
<5> 相違点のまとめ
以上によれば、本件考案と第1引用例発明とは、小径チューブの先端に圧力水噴出細径ノズルを設ける点、及び陶磁器製台上の小径管にコックを設ける点においても一致するものであるから、審決には、上記の点につき相違点の認定の誤りがあり、原告主張の取消事由1は、この限度で理由がある。
そうすると、審決認定の相違点のうち、残された相違点は、本件考案が、ⅰ)小径管の下端部を水道栓に接続する水道管に直接連通させ、ⅱ)小径管の上端部に小径チューブを接続したのに対して、第1引用例発明は、そのような構成を備えていない点となる。
(2) 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について
<1> 小径管の上端部に小径チューブを接続する点
(a) 第2引用例に、水道管→フレキシブルホース26→ホース36→フレキシブルホース92→圧力水噴出細径ノズル、の水流経路が記載されていること(審決書10頁19行ないし11頁1行)は、当事者間に争いがなく、甲第7号証によれば、第2引用例には、第10図及び第11図(別紙4第10図及び第11図参照)に示された実施例につき、「把持具98は、装置10”内で直接に連通した配管90”、36”を介して水源に直接連通されている。」(7欄40行ないし42行。訳文10頁8行、9行)と記載されていることが認められる。これらの記載によれば、第2引用例には、口腔洗浄を衛生的に行うために水道管の水を直接圧力水噴出細径ノズルに供給する技術的事項が記載されていると認められる。
被告は、第2引用例は複雑な構造を持つ装置を介在させる構成を採用しており、水圧を減ずることなく、かつ装置を簡便に使用できる点の開示はない旨主張するが、上記認定のとおり、第2引用例に開示された実施例のうち、第10図及び第11図のものは、第2図に示されたものとは異なり、先端部のノズル等と水源とが配管を介して直接連通されたものであるから、被告の上記主張は採用することができない。
(b) そして、第2引用例の上記技術的事項を第1引用例に適用することを妨げる事情は認められないから、第1引用例において給水パイプ12の先端にホース18を直接連通させることは、当業者が極めて容易に想到することができるものと認められる。
<2> 小径管の下端部を水道栓に接続する水道管に直接連通させる点
第2引用例のフレキシブルホース26は、前記説示の第2引用例の記載事項のとおり、水道栓に給水する給水配管Lに連通するものであるから、第1引用例の給水パイプ12を水道栓に給水する給水配管に直接連通するように構成することも、当業者が極めて容易に想到することができたものと認められる(第2引用例のフレキシブルホース26が軟質ホースとして図示されている点も、この点の判断を左右するものとは認められない。)。
<3> 作用効果
そして、「圧力水の強く細い噴出によって歯間夾雑物の分離や歯肉部の刺激および口腔内の強力な洗浄を洗面所においてきわめて簡便に行い得るし圧力水発生ポンプや電動機を用いる必要がなく簡潔に構成し得るものである」(甲第3号証3欄13行ないし4欄5行)との効果は、本件考案のように構成することによって当然奏すると予測できる範囲内のものである。
<4> 被告の主張に対する判断
被告は、第2引用例のフレキシブルホース26は、洗面用凹部の外側の小透孔を貫通する構成を有しておらず、本件考案における小径管10に相当しないから、第2引用例には、小径管の下端部を水道栓に接続する水道管に直接連通させる点も、小径管の上端部に小径チューブを接続する点も開示も示唆もされていない旨主張する。
しかしながら、第2引用例は、水道管の水を直接圧力水噴出細径ノズルに供給するという構成を示すために引用されたものであり、洗面用凹部の外側の小透孔を貫通する小径管の構成の点は、第1引用例に示されているものであるから、被告の上記主張は採用することができない。
<5> まとめ
したがって、本件考案と第1引用例発明との前記相違点について本件考案のように構成することは、第2引用例を第1引用例に適用することにより当業者が極めて容易に想到することができたものであり、原告主張の取消事由2は理由がある。
以上によれば、原告の請求は理由がある。
3 よって、原告の請求を認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する(平成10年11月10日口頭弁論終結)。
(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)
平成8年審判第18192号
審決
福岡県北九州市小倉北区中島2丁目1番1号
請求人 東陶機器株式会社
福岡県福岡市中央区今泉2丁目4番26号 今泉コーポラス1F 松尾特許事務所
代理人弁理士 松尾憲一郎
福岡県福岡市西区生の松原1丁目20番26-204号
被請求人 井筒屋精一
福岡県福岡市中央区大名2丁目4番22号 新日本ビル
代理人弁理士 藤井信行
上記当事者間の登録第1830308号実用新案「洗面化粧台」の登録無効審判事件について、次のとおり審決する.
結論
本件審判の請求は、成り立たない.
審判費用は、請求人の負担とする.
理由
Ⅰ. 本件登録第1830308号実用新案(昭和58年12月8日実用新案登録出願。平成2年9月6日設定登録。以下、「本件考案」という。)の考案の要旨は、明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりの
「陶磁器製台1の上面に洗面用凹部2を形成し、同凹部2に排水孔3、その栓4を有し、かつ同台1に水道栓5および蛇口6を設け、同台1の下部に水道栓5に接続する水道管7を設けてなる洗面台8において、上記凹部2の外側に小透孔9を穿設し、同透孔9を貫通する小径管10の下端部を上記水道管7に直接連通させ、上端部に接続した小径チューブ11の先端に圧力水噴出細径ノズル12を設け、かつ同台1上の小径管10にコック13を設けてなる洗面化粧台。」
にあるものと認める。
Ⅱ. これに対し、請求人は、
本件考案は、その出願前に頒布された刊行物である甲第1号証ないし甲第5号証に記載された考案に基づいて当業者が極めて容易に考案することができたものであるから、本件考案の登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものであると主張している。
請求人が提示した、本件考案の実用新案登録出願前に頒布された各刊行物には、それぞれ以下に示す事項が記載されているものと認められる。
1. 特開昭55-35610号公報(以下、「甲第1号証」という)
「洗面ユニット本体(1)は後部上面に化粧品台(4)や鏡(5)及び証明器具L等を有するミラーキャビネット(7)を立設してあって、またボール(8)を一体化した天板(9)の中央後部上面には水洗金具(10)を設けている。口腔洗浄器(3)は天板(9)の後側部上面に載置取付けてあって、第2図に示すように洗面ユニット本体(1)の背面の壁部より洗面ユニット本体(1)内に導入した水道管(11)の前端より立上らせて天板(9)の後部上面に突出させた逆L字状の給水パイプ(12)の吐水口(12a)を、口腔洗浄器(3)の上部に設けた水タンク(3a)に臨ましてある。口腔洗浄器(3)は前記給水パイプ(12)を介して給水された水が水タンク(3a)内に所定量だけ貯水されると、この所定量を水タンク(3a)底部に設けた重量感知センサー(13)で検知して、使用者に例えば発光素子、ブザー等で知らせ、止水栓(14)によって給水を止めることを指示するようになっている。(中略)一方、水タンク(3a)の下部のケース(3b)内にはモータ(15)にて駆動されるポンプ(16)が設けられてあって、ポンプ(16)の動作によって水タンク(3a)内の水を加圧してホース(18)を介して把持部(17)に設けたノズル(2)に給水し、ノズル(2)に給水し、ノズル(2)からジェット水流として噴出するようになっており、モータ(15)の始動、停止は把持部(17)のスイッチ(19)で行ない、ジェット水流の圧力の調整はケース(3b)前面に設けた摘み(20)によって行なえるようになっている。」(公報第2欄第3行ないし第3欄第11行)が記載されている。また、洗面台が陶磁器製であることは周知技術であるから、甲第1号証には、「陶磁器製台の上面にボール(8)を形成し、同ボール(8)に排水孔、その栓を有し、かつ同台に水道栓および蛇口を設け、同台の下部に水道栓に接続する水道管を設けてなる洗面台において、上記ボール(8)の外側に小透孔を穿設し、同透孔を貫通する逆L字状の給水パイプ(12)の下端部を上記水道管と異なる水道管(11)に直接連通させ、該給水パイプ(12)の端部を吐水口(12a)とし、その吐水口(12a)の下部に水タンク(3a)を臨ましてあり、該水タンク(3a)の下部のケース(3b)の前面部よりホース(18)が導出されており、その先端部に加圧水を噴出するノズル(2)を設け、かつ同台上の給水パイプ(12)に止水栓(14)を設けてなる洗面化粧台」を構成とする考案が記載されているものと認められる。
2. 米国特許第4、319、595号明細書(1982年3月16日頒布、以下、「甲第2号証」という)
「歯の手入れ装置10は、洗面器Sに隣接して洗面化粧台上に位置する。同歯の手入れ装置10は、着脱自在な天板14とその一側面18に点検窓16を備えたハウジング12を有する。水供給システム20は、装置10を洗面所の給水配管Lに連通させている。吸水配管Lは、好ましくは、冷水供給配管である。(中略)水供給システム20は、給水配管Lに連通したT型継手24と、一端をT型継手24に連通したフレキシブルホース26を含む。(中略)制御弁30は、壁W上に使用者に便利な場所に取り付けられており、フレキシブルホース26の他端と連通している。弁30は、好ましくは、開閉弁が良く、調整つまみ32と壁塞ぎ板34を有する。一端を弁30と連通し、且つ他端を歯の手入れ装置10に連通している。便宜上、装置10への液の流れ方向を第1図において、矢印FFで示す。このように、ホース36は弁30の入口端部と連結し、且つ、ホース36は同弁の出口端部と連結している。」(明細書第3欄第3行ないし38行)、「第2、3図に示すように、歯科用器具ホルダ90は、中央供給空間82と連通して、そこから液を受け入れるためのフレキシブルホース92を有する。給水配管36は空間82の一端と連結しており、且つ、ホース92は同空間82の他端と連通している。器具ホルダは、液を流すためのホース92の一端に取り付けた長手状の把持具98を有する。把持具98は、その他端に連結突起100を備え、且つ把持具中に貫通して形成した流路102を有し、連結突起100をホース92に連通させているので、空間82から液は連結突起100に取り付けた歯科用器具へ流入していく。連結突起100は真鍮又は他の同様な材質であればよい。連結部104によってホース92を保持具に連通させている。」(明細書第3欄第61行ないし第4欄8行)、
「洗浄中に、必要であれば、使用者の口腔に更に水を注入するためにも使用することが可能である。」(明細書第6欄第48行ないし第49行)、そして「第12図に示すウォータージェット400」(明細書第7欄第22行)が記載されている。また、洗面台が陶磁器製であることは周知技術であるから、甲第2号証には、「陶磁器製台の上面に洗面器Sを形成し、洗面器Sに排水孔、その栓を有し、かつ同台に水道栓および蛇口を設け、同台の下部に水道栓に接続する給水配管Lを設けてなる洗面台において、同給水配管Lに連通したT型継手24に連通したフレキシブルホース26の他端を壁W上に設けた制御弁30に連通し、同制御弁30は調整つまみ32と壁塞ぎ板34で構成され、同制御弁30にフレキシブルホース36が連通され、他端を歯の手入れ装置10の中央供給空間82の側面部に連通し、その他端部にフレキシブルホース92連通し、そのホース92の他端にウォータージェット400を設けてなる洗面化粧台。」を構成とする考案が記載されているものと認められる。
3. 米国特許第2、855、930号明細書(1958年10月14日頒布、以下、「甲第3号証」という)
洗面台の配設された温水管及び冷水管の連通した蛇口の出口連結部にチューブを連結し、その先端にノズルを延設し、口腔洗浄が行える加圧水流による口腔洗浄装置が記載されているものと認められる。
4. 米国特許第3、965、937号明細書(1976年6月29日頒布、以下、「甲第4号証」という)
洗面台に配設したグースネック型水栓3への冷水路及び温水路の中途に分岐流路18を介設し、分岐流路18には補助水栓23を設けて、この補助水栓23に口腔スプレー等の補助装置に供給するためのフレキシブルチューブ24を取り付けた口腔洗浄装置が記載されているものと認められる。
5. 米国特許第3、690、314号明細書(1972年9月12日頒布、以下、「甲第5号証」という)
水栓にホース35を接続しホース35の先端に圧力水噴出細径ノズルに該当するノズル38を接続して水栓からホース35を経由して圧力水を噴出できるようにした口腔洗浄装置が記載されているものと認められる。
Ⅲ. 本件考案と甲第1号証記載の考案とを対比すると、
甲第1号証の「ボール(8)」は本件考案の「洗面用凹部2」に相当するから、両者は次の点で相違し、その余の点においては一致するものと認められる。
本件考案は、小径管の下端部を水道栓に接続する水道管に直接連通させ、上端部に接続した小径チューブの先端に圧力水噴出細径ノズルを設け、かつ陶磁器製台上の小径管にコックを設けてなるのに対して、甲第1号証記載の考案は、そのような構成を備えていない点で相違する。
そこで、上記相違点について考察する。
上記相違点に関連する事項として甲第2号証には、水道栓に接続する給水配管L(本件考案の「水道管7」に相当)に連通したT型継手24にフレキシブルホース26を連通したことが記載されてはいるが、小径管を水道栓に接続する給水配管Lに直接連通させる記載ないし示唆する記載は認められない。また、水道管→フレキシブルホース26→ホース36→フレキシブルホース92→圧力水噴出細径ノズル、の水流経路が記載されてはいるが、小径管の上端部にフレキシブルホース92を接続させる記載ないし示唆する記載も認められない。
以上のことから、甲第2号証も上記相違点の構成をそなえていないので、甲第1、2号証記載の考案から上記相違点の構成に想到することができたものということはできない。
同じく、甲第3号証ないし甲第5号証にも、この相違点について記載ないし示唆する記載は認められない。
本件考察は、この相違点の構成によって、「圧力水の強く細い噴出によって歯間挾雑物の分離や歯肉部の刺激および口腔内の強力な洗浄を洗面所においてきわめて簡便に行い得るし圧力水発生ポンプや電動機を用いる必要がなく簡潔に構成し得るものである。」という効果を奏するものと認められる。
なお、請求人は、本件考案の「透孔9を貫通する小径管10の下端部を上記水道管7に直接連通させ」る点は、引用例1に記載されている旨主張しているが、甲第1号証の第2図の記載からみて、天板(9)の後部中央にある水道栓に接続する水道管に、口腔洗浄器用の給水パイプ(12)が直接連通されていとは認められない。そして、本件考案の上記構成は、洗面化粧台の技術分野において、自明の技術的事項であるとも、また、従来周知の技術的事項であるとも認められないことから、請求人の主張は採用できない。
また、請求人は、甲第2号証には、「小径管10の上端部に小径チューブ11との接続構造」が開示されている旨の主張をしているが、水道栓に接続する給水配管Lに連通したT型継手24にフレキシブルホース26を連通した構造にとどまるものであり、この構造は、小径管10の上端部に小径チューブ11との接続構造とは相違するものであるから、請求人のこの主張も採用できない。
Ⅳ. したがって、請求人が主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件考案を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
平成9年10月7日
審判長 特許庁審判官
特許庁審判官
特許庁審判官
別紙2
<省略>
別紙3
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<省略>
別紙4
<省略>
<省略>