東京高等裁判所 平成9年(行ケ)297号 判決 1999年3月30日
東京都中央区京橋2丁目3番19号
原告
三菱レイヨン株式会社
代表者代表取締役
田口栄一
訴訟代理人弁理士
高橋詔男
同
志賀正武
同
松冨豊
同
大場充
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官
伊佐山建志
指定代理人
吉田秀雄
同
藤井俊二
同
廣田米男
同
井上雅夫
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
特許庁が平成9年審判第5625号事件について平成9年9月19日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告は、平成2年2月19日、発明の名称を「浄水システム」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願(平成2年特許願第38129号)をした。これに対して、特許庁は、平成6年4月25日に特許出願公告の決定をし、同年9月14日に特許出願公告(平成6年特許出願公告第71587号)をしたところ、特許異議の申立てがあり、平成8年11月7日に上記特許異議の申立ては理由があるとの特許異議決定をするとともに、同日付で拒絶査定をした。そこで、原告は、平成9年4月10日、拒絶査定の不服の審判を請求し、平成9年審判第5625号事件として審理された結果、同年9月19日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決を受け、同年11月5日にその謄本の送達を受けた。
2 本願発明の特許請求の範囲(別紙図面(1)参照)
「流し台の下方に、活性炭と多孔質中空糸膜とを容器本体内に収納した浄水器1を配置し、
この浄水器1の上部に、浄水器1の入口部10と出口部11とを設け、前記入口部10にはワンタッチジョイントからなる継手12を介して浄水器1の入口側配管8を、また、前記出口部11にはワンタッチジョイントからなる継手13を介して浄水器1の出口側配管9を、それぞれ着脱可能に接続し、
前記浄水器1の入口側配管8と出口側配管9の上方に、給水栓3を配置し、この給水栓3の入口15には途中に逆止弁2を有する水道水の導管7を、また、給水栓3の出口16には浄水器1の入口側配管8を、それぞれ接続し、さらに、給水栓3の入口15と出口16間には切換弁6を設け、
しかも、前記出口側配管9には給水栓3の本体と一体化してなる浄水用ノズル4を接続したことを特徴とする
浄水システム。」
3 審決の理由の要点
(1) 本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。
(2) 本願発明と審決の甲第4号証(本訴の甲第3号証。実願昭59-61395号(実開昭60-176216号)の出願当初の明細書及び図面を撮影したマイクロフィルム(以下「引用例3」という。別紙図面(2)参照)記載の技術とを対比すると、本願発明と引用例3記載の技術とは、流し台の下方に浄水器を配置し、この浄水器の上部に浄水器の入口部と出口部とを設け、前記入口部には継手を介して浄水器の入口側配管を、また、前記出口部には継手を介して浄水器の出口側配管をそれぞれ着脱可能に接続し、前記浄水器の入口側配管と出口側配管の上方に給水栓を配置し、この給水栓の入口には水道水の導管を、また、給水栓の出口には浄水器の入口側配管をそれぞれ接続し、更に、給水栓の入口と出口間には切換弁を設け、しかも、前記出口側配管には浄水用ノズルを接続したことを特徴とする浄水システムである点で一致し、一方、本願発明は、浄水器の容器本体内に、「活性炭と多孔質中空糸膜」とを収納しているのに対して、引用例3記載の技術は、「浄水用カートリッジ」を収納している点(相違点1)、本願発明は、「浄水器の入口部にはワンタッチジョイントからなる継手を介して浄水器の入口側配管を、また、前記出口部にはワンタッチジョイントからなる継手を介して出口側配管を、それぞれ接続している」のに対して、引用例3記載の技術は、「浄水器の入口部には袋ナットからなる継手を介して浄水器の入口側配管を、また、前記出口部には袋ナットからなる継手を介して出口側配管を、それぞれ接続している」点(相違点2)、本願発明は、「給水栓の入口には途中に逆止弁を有する水道水の導管を接続」しているのに対して、引用例3記載の技術は、「逆止弁」については記載されていない点(相違点3)、本願発明は、「浄水用ノズルは給水栓本体と一体化」してあるのに対して、引用例3記載の技術は、浄水用ノズルと給水栓の本体とは別体である点
(相違点4)でそれぞれ相違する。
(3) 判断
(イ) 相違点1について
従来、水道水等を浄化するために、水道水等の浄水器の容器本体内に活性炭等の吸着剤と多孔質中空糸膜を組み込むことは、審決の甲第6号証(本訴の甲第6号証。特開昭60-220107号公報。以下「引用例4」という。)にも記載されているとおり本願発明の特許出願前に周知の技術であり、この周知の技術が引用例3記載の技術と同様に水道水の浄水器に関するものであることを勘案すると、引用例3に記載されているような水道水の浄水システムにおける浄水器本体内の浄水用カートリッジに代えて上記周知の技術を採用し、相違点1における本願発明のように構成することに格別の困難性は認められない。
(ロ) 相違点2について
審決の甲第3号証(本訴の甲第4号証。社団法人日本水道協会昭和58年10月1日発行の「型式承認申請書の書き方及び審査基準の解説(昭和58年7月改正)」432頁ないし436頁。以下「引用例2」という。)における「浄水器は給水せんより容易に(注1)着脱可能な構造であること。(注1)容易とはねじ回し、ペンチ等の工具を使用することなく操作できることをいう。」という記載は、浄水器の給水栓への着脱が、ねじ回し、ペンチ等を使用しないで操作できることを意味するものであり、換言すると、浄水器と給水栓とをワンタッチジョイントからなる継手を介して接続する技術が開示されているものということができるところ、引用例3に記載されている浄水器の入口部及び出口部と入口側配管及び出口側配管との接続用継手である袋ナットに代えて、上記公知の技術を採用し、相違点2における本願発明のように構成することは、当業者が容易に想到できる程度のことである。
(ハ) 相違点3について
前記引用例2には、「(3)逆流防止装置 水道用に使用する浄水器は、配水管の水圧低下、または真空作用による逆流を防止するために、逆流防止装置を設けること。その機能は確実で、長時間使用に耐えるものとする。」と記載されており、水道用浄水器に逆流防止装置を設けることは、本願出願前に公知の技術である。そして、この逆流防止装置を、水道水の導管から浄水器に至る配管中のどの部分に設けるかは当業者が必要に応じて適宜選択しうる設計的事項に過ぎないものであり、また、この逆流防止装置は、本願発明における「逆止弁」に相当するものであるから、本願発明のように、給水栓の入口に途中に逆止弁を有する水道水の導管を接続するようにした点にも格別困難性は認められない。
(ニ) 相違点4について
審決の甲第1号証(本訴の甲第5号証。実願昭63-77433号(実開平1-180563号)の出願当初の明細書及び図面を撮影したマイクロフィルム。以下「引用例1」という。)における「スワン自在水栓」、「スワン吐出管」は、それぞれ本願発明における「給水栓」、「浄水ノズル」に相当するものと認められるので、引用例1には、「給水栓の本体と浄水用ノズルとを一体化してなる流し台の絵水栓」が開示されているものと認められる。そして、引用例1記載の技術も引用例3記載の技術も水道水の浄水システムに関するものであることを勘案すると、引用例3記載の技術における「給水栓及び浄化ノズル」に代えて、引用例1に記載されているような「給水栓本体と浄化ノズルとを一体化した給水栓」を用い、相違点4における本願発明のように構成した点にも格別の困難性は認められない。
(ホ) そして、本願発明の作用効果は、引用例1ないし4記載の技術から当業者が当然予測できる範囲のものであって、格別なものとはいえない。
(4) むすび
したがって、本願発明は、引用例1ないし4記載の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
4 審決を取り消すべき事由
審決の理由の要点のうち(1)は認める。(2)については、本願発明と引用例3記載の技術とが「流し台の下方に」浄水器を配置するとの点で一致するとの部分は争い、その余は認める。引用例3には、「流し台13の下方に」浄水器を配置するとの技術事項は開示されていない。(3)及び(4)は争う。
審決は、次のとおり、引用例3記載の技術の認定、本願発明と引用例3記載の発明との一致点の認定を誤り、相違点1及び2の判断を誤り、本願発明の奏する顕著な作用効果を看過し、その結果、本願発明の進歩性を否定したものであって、違法であるから、取り消されるべきである。
(1) 引用例3記載の技術及び本願発明と引用例3記載の発明との一致点の認定の誤り
審決は、引用例3に「流し台の下方に」浄水器を配置するとの技術事項が開示されており、本願発明と引用例3記載の技術とは「流し台の下方に」浄水器を配置するとの点で一致する旨認定しているが、この認定は、誤っている。
すなわち、引用例3には、審決が引用するとおり、浄水器7の配設位置として、「この考案の浄水装置は、例えば第2図に示すように、台所の流し台13の後方側の上面に取付板4を利用して流量調節弁5と浄水蛇口8とを取り付け、浄水器7をその下方の任意の位置に配設するようにして配管される。」(甲第3号証5頁下から1行ないし6頁5行)との記載があるところ、上記記載中の「その下方」の語句における「その」は、「取付板4」を指すものであって、流し台13の下方を指すものではない。このことは、第1図及び第2図にも明確に示されている。
そして、本願発明と引用例3記載の技術とを対比すると、本願発明は、「流し台の下方に」浄水器を配置した浄化システムであるのに対して、引用例3記載の技術は、「流し台」でなく、「取付板4」の下方の任意の位置に浄水器を配置した浄化システムである点で相違する。
したがって、審決の引用例3記載の技術及び本願発明と引用例3記載の発明との一致点についての認定は、誤っている。
(2) 相違点1の判断の誤り
引用例3には、浄水器本体内に活性炭と多孔質中空糸膜を組み込むことが開示されておちず、本願発明において、初めて、それを可能にしたのであって、審決の、引用例3に記載されているような水道水の浄水システムにおける浄水器本体内の浄水用カートリッジに代えて上記周知の技術を採用し、相違点1における本願発明のように構成することに格別の困難性は認められないとする認定判断は、誤っている。
(3) 相違点2の判断の誤り
審決は、引用例2には、浄水器と給水栓とをワンタッチジョイントからなる継手を介して接続する技術が開示されているとしているが、同引用例に記載された浄水器の給水栓への着脱において、ねじ回し、ペンチなどを使用しないで操作できる着脱手段としては、ワンタッチジョイントのほかにも種々の手段があるのであって、ワンタッチジョイントに限るべき理由はない。
また、ねじ回し、ペンチなどを使用することなく容易に着脱可能な構造であるということは、手動で回転可能なねじ式の着脱手段を意味するのであって、ワンタッチジョイントを含むものとはいえない。
更に、引用例2には、「浄水器は給水栓より容易に着脱可能であること」との記載があるが、この記載は、浄水器に取り付けたホースを給水装置から容易に着脱することを意味しているものであって、浄水器とホースとの着脱にワンタッチジョイントを用いるというものではないから、結局、引用例2には、本願発明の「浄水器の入口部にはワンタッチジョイントからなる継手を介して」出入口側配管と接続している構成は、開示されていないものである。
更にまた、浄水器と出入口側両配管とをワンタッチジョイントで接続したものは、本件特許が出願されるまで実施もされておらず、これを記載した文献も存在しなかったのであって、この事実は、引用例2が知られていたとしても、この技術に基づいて本願発明に想到することが、当業者といえども困難であったことを裏付けるものである。
したがって、審決の相違点2についての認定判断は、誤っている。
(4) 格別の作用効果の看過
本願発明においては、多量の中空糸膜を内蔵して大型化した浄水器を流し台の下方に設置したから、流し台周辺の見映えが良い上に、流し台の手前側から浄水器の交換をしようとするとき引用例3記載の技術の場合より手が届きやすいのに加え、継手がワンタッチジョイントであるから着脱がきわめて容易であり、しかも、継手部分がいずれも浄水器の上方にあるため操作しやすく、また、作業性が悪い環境下においても、主婦でも容易に浄水器を交換できるのであり、各引用例に記載された技術を組み合せたものとは、浄水器の交換時の容易さが全く異なるのである。
また、本願発明は、浄水器のいずれも上方に設けられている入口部及び出口部のそれぞれに接続する入口側配管及び出口側配管をいずれもワンタッチジョイントからなる継手を介して接続している点を重要な特徴とし、この入口側配管と出口側配管の各継手を、いずれも浄水器の上部に設けることと、出入口側両配管と浄水器との各継手がワンタッチジョイントであることを組み合わせることで、初めて、流し台の下方に浄水器を配置した際の交換を容易にすることができるものである。
更に、本願発明は、流し台の下に浄水器を配設することで浄水器を大型化することができ、より多くの中空糸を浄水器に内蔵させることができ、これにより、<1>浄水器内の圧力損失が小さくなり、通水量が増大する、<2>カートリッジの寿命が延びる、<3>多量の中空糸を内蔵することにより大型化した浄水器であっても、これを流し台の下方に配設したので、流し台での作業の邪魔にならない、などの格別の効果が得られるものである。
本願発明は、これを構成する各要素が組み合わされることによって、初めて、本願明細書に記載された格別の作用効果が得られるところ、審決は、特許請求の範囲に記載された事項を分割し、それらを分離独立して比較するのみでそれらを総合的に評価していないのであって、このような相違点の比較検討は、本願発明の本質を理解していない結果生じる誤りであって認められない。
第3 請求の原因に対する被告の認否及び反論
1 請求の原因1ないし3は認め、4は争う。審決の認定判断は、いずれも正当であって、取り消すべき理由はない。
2 被告の主張
(1) 引用例3記載の技術の認定の誤り及び本願発明と引用例3記載の発明との一致点の認定の誤りについて
引用例3記載の「その下方」の語句の「その」は、漠然としたものであって、「流し板13」を指すとも、「流し台13の後方側上面」を指すとも、「取付板4」を指すとも、あるいは、「流量調節弁5と浄水蛇口8」を指すとも解することができ、具体的に何を指すのか明瞭ではないから、原告主張のように一義的に「取付板4」を指すものということはできない。
また、流し台が、通常、キャビネット、キャビネット上の天板、天板に設けられたシンク、天板のシンク近傍に設けられる水栓等で構成され、流し台のキャビネット内に浄水器等を配設するということは、周知の事実(乙第1号証(実願昭53-55566号(実開平1-160062号)のマイクロフィルム及び乙第2号証(実公昭60-14828号公報)参照)であるところ、この周知の事実を勘案して、引用例3の記載及びその第2図をみると、「その下方」の「その」は、原告主張のように限定された「取付板4」を指すものではなく、「流し台13」を指すものである。
(2) 相違点1の判断の誤りについて
水道水等を浄化する浄水器において、浄水器の容器本体内に活性炭等の吸着剤と多孔質中空糸膜を組み込むことは、引用例4にあるとおり、本願発明の特許出願前に周知の技術である。本願発明における浄水器の容器本体内に活性炭と多孔質中空糸膜を収納したことの効果は、水中の濁度成分と残留塩素等の除去を行うことができるというものであるが、これは、上記周知の技術が有する効果と同様のものであって、当業者が当然に予測できる範囲のものである。
(3) 相違点2の判断の誤りについて
一般に、「ワンタッチジョイント」とは、「ホースの接続用継手で、急速に着脱が可能なもの」を意味するものであり(乙第3号証(日刊工業新聞社1989年4月20日発行の「英和和英機械用語辞典」第2版)及び乙第4号証(実公昭47-43050号)参照)、これが、水道栓等にホースを簡単に着脱するための継手であって、ねじ回しやペンチを使用しないで操作できるものであることは、周知の事実である。ところで、引用例2には、浄水器の水道用給水栓への接続は、ねじ回し、ペンチ等を使用することなく容易に着脱可能な構造であることが開示されているところ、ねじ回し、ペンチ等を使用することなく容易に着脱可能な構造であるとは、周知の事実であるワンタッチジョイントからなる継手を用いて着脱可能な構造とすることをも当然含んでいるものである。そして、ワンタッチジョイントは、特別の操作や大きな力を要することがなく誰でも容易に着脱操作ができるという特徴を持つ継手であることは、自明のことである。
したがって、引用例3記載の技術において、浄水器の継手部の着脱操作を容易にするために、浄水器の入口部及び出口部と入口側配管及び出口側配管との接続用継手として、袋ナットに代えて、引用例2に開示されているワンタッチジョイントを採用し、本願発明の相違点2のように構成することは、当業者が容易に想到できる程度のことである。
その他、浄水器と配管との継手としてどのような継手を採用するか、すなわち、ワンタッチジョイントを採用するか、袋ナット等を採用するかは当業者が必要に応じて適宜選択できる設計的事項に過ぎないものである。
(4) 格別の作用効果の看過について
原告は、「多量の中空糸膜を内蔵して大型化した浄水器を流し台の下方に設置した」ことによる効果を本願発明の格別の効果であるとしているが、「多量の中空糸膜を内蔵して大型化した浄水器」は、本願発明の構成要件ではなく、本願明細書及び図面にも記載されていないのであって、これを前提とする原告の主張は、理由がない。
また、原告主張の流し台周辺の見映えが良いという効果は、本願明細書の記載によれば、アンダーシンク型であって、しかも、浄水用ノズル4が給水栓3と一体化されていることによるものであって、多量の中空糸膜を内蔵して大型化した浄水器を流し台の下方に設置したからではない。また、流し台の手前側から浄水器の交換をしようとするとき引用例3記載の技術の場合より手が届きやすいという効果も、多量の中空糸膜を内蔵して大型化した浄水器を流し台の下方に設置したからではなく、単に、浄水器を流し台の下方に設置したことによるものである。更に、継手がワンタッチジョイントであるから着脱が容易であるという効果は、前記のとおり周知の技術であるワンタッチジョイントから、当業者が当然に予測できるものである。
更にまた、原告は、本願発明は、流し台の下に浄水器を配設することで浄水器を大型化することができ、より多くの中空糸を浄水器に内蔵させることができ、これにより、<1>ないし<3>に掲記する格別の効果が得られる旨主張するが、浄水器を大型化することができ、より多くの中空糸を浄水器に内蔵させることができ、これにより、<1>ないし<3>に掲記する格別の効果があるとの点は、本件明細書に記載されていない効果を主張するものであって失当である。そして、流し台の下に浄水器を配設することは、引用例3に開示されており、浄水器の容器本体内に活性炭と多孔質中空糸膜を収納することは、前記のとおり周知の技術であるから、前記原告の主張する効果は当業者なら当然予測できる範囲内のものである。
なお、原告は、審決は、特許請求の範囲に記載された事項を分割し、それらを分離独立して比較するのみでそれらを総合的に評価していない旨主張するが、審決は、本願発明の作用効果は、引用例1ないし4記載の技術に基づき当業者であれば当然予測できる範囲のものであって、格別なものとはいえないと判断しているのであるから、上記主張は、理由がない。
第4 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
第1 請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。
第2 甲第2号証の1(特許出願明細書)、2(平成5年6月30日付手続補正書)、3(平成6年3月18日付手続補正書)、4(平成7年8月25日付手続補正書)、5(平成9年5月9日付手続補正書)及び6(特公平6-71587号公報)によれば、本願明細書には、本願発明について、次のとおりの記載があることが認められる。
1 産業上の利用分野
「本発明は水道水の浄化に利用する浄水システムである。」(甲第2号証の4、2頁下から4行)
2 発明が解決しようとする課題
「従来のアンダーシンク型浄水器においては、給水栓と浄水用ノズルとの位置が離れているために、流し台周辺の見映えが良くなく、しかも給水と止水の操作が不便である。
又、浄水器の交換時における配管に対しての浄水器の着脱が容易でなく、かつこの浄水器の着脱時に配管からの水もれの危険がある。
したがって本発明の目的は、アンダーシンク型であって、流し台周辺の見栄えがよく、かつ給水及び止水の操作を容易に行うことができ、又、浄水器における容器として耐圧性の小さいものも利用することができ、しかも浄水の交換によって、該容器内に収納してある活性炭及び多孔質中空糸膜の支を容易に行い得る浄化システムを提供することにある。」(甲第2号証の4、3頁6行ないし15行)
3 構成
上記の目的を達成するために、本願発明は、特許請求の範囲に記載の構成を採用しているものである。(甲第2号証の4、3頁17行ないし4頁1行、甲第2号証の5「別紙」)
4 作用効果
「上記構成による本発明の浄水システムにおいては、活性炭と多孔質中空糸膜とを内蔵した浄水用カートリッジを客器本体内に収納した浄水器1にすることにより、容器本体内の浄水用カートリッジを交換するだけで、活性炭及び多孔質中空糸膜の交換を行なえるようになり、活性炭及び多孔質中空糸膜の交換がより容易になる。」(甲第2号証の4、4頁2行ないし6行)
「以上に説明した構成による本発明の浄水システムによれば、次の通りの効果が得られる。
(a) アンダーシンク型であって、しかも浄水用ノズル4が給水栓3と一体化されているため、流し台周辺の見栄えをよくすることができる。
(b) 給水栓3に浄水用ノズル4を一体化しているため、給水栓3を通って浄水が流出するように見えるので、給水と止水の操作を容易に行うことができる。
(c) 浄水器1の上流側に給水栓3を配置した元止め方式にしているので、浄水器1の容器本体の耐久性が小さいものにも適用することができるため、浄水器1のコストダウンを図ることが可能である。
(d) 活性炭と多孔質中空糸膜とを容器本体内に収納して浄水器1を構成していることにより、水中の濁度成分と残留塩素等の除去を行なうことができ、しかも、この浄水器1の上部に、浄水器1の入口部10と出口部11とを設けていること、及び前記入口部10と出口部11にワンタッチジョイントからなる継手12、13を介して、浄水器1の入口側配管8と出口側配管9とを、それぞれ着脱可能に接続していることにより、水中の濁度成分と残留塩素等を除去する浄水能力が低下したときの浄水器1の交換が容易であり、これによって、流し台の下という限られたスペース内で、活性炭及び多孔質中空糸膜の交換を容易に行うことができる。」(甲第2号証の4、5頁10行ないし末行)
第3 審決を取り消すべき事由について判断する。
1 引用例3記載の技術の認定の誤り及び本願発明と引用例3記載の技術との一致点の認定の誤りについて
(1) 審決は、引用例3に「流し台の下方に」浄水器を配置するとの技術事項が開示されているとの認定を前提として、本願発明と引用例3記載の技術とは「流し台の下方に」浄水器を配置するとの点で一致する旨認定しているので、その当否について検討する。
(2) 乙第1号証、第2号証及び弁論の全趣旨によれば、流し台は、通常、キャビネット、キャビネット上のカウンタープレート、そのカウンタープレートに設けられたシンク、シンク近傍に設けられる水栓等で構成されているものであるところ、本願発明に係る流し台についても、特段の記載がないことからすると、上記と同様の構成を有するものであると認められる。
(3) 本願発明における「流し台の下方に」との語句の技術的意義を考察するに、特許請求の範囲には、「流し台の下方に、活性炭と多孔質中空糸膜とを容器本体内に収納した浄水器1を配置し、」との記載があり、同記載によれば、浄水器が、流し台より低い位置にあることは明らかであるが、それ以上に、浄水器の位置を特定するような記載はない。
そこで、発明の詳細な説明の記載について検討するに、前記第2、4認定の事実によれば、本願明細書には、本願発明に関する作用効果について、「これによって、流し台の下という限られたスペース内で、活性炭及び多孔質中空糸膜の交換を容易に行うことができる。」との記載があって、同記載によれば、浄水器は、流し台の上面に存するカウンタープレートと床との間に形成される空間内に所在するものであることが認められ、「流し台の下方に」とは、カウンタープレートの下の方向で、床に至るまでの間の適宜の位置を意味するものと認められる。
(4) 次に、甲第3号証によれば、引用例3には、「上記のように構成されるこの考案の浄水装置は、例えば第2図に示すように、台所の流し台13の後方側の上面に取付板4を利用して流量調節弁5と浄水蛇口8とを取り付け、浄水器7をその下方の任意の位置に配設するようにして配管される。」との記載があることが認められる。そして、引用例3の第1図及び第2図によれば、流し台13の後方の平坦な部分に取付板4が存し、この取付板4に流量調節弁5と浄水蛇口8とが設置され、その下方に、浄水器7が設置されていることが認められる。
上記事実によれば、引用例3において、浄水器7は、流し台13の下方に設置され、カウンタープレートと床との間に形成される空間に存在しているのであって、引用例3にも、本願発明にいう「流し台の下方に」浄水器が設置されるとの技術事項が開示されているものと認められる。
そうすると、本願発明と引用例3記載の技術とは、「流し台の下方に」浄水器を設置するとの点で一致するものと認められ、したがって、審決の前記認定は相当であるということができる。
2 審決の相違点1についての認定判断の当否について検討する。
甲第6号証によれば、引用例4には、「水道栓やポンプの吐出口に接続可能な入口部を有し、入口部から内部に入った水を処理するために内部に活性炭などの吸着剤、殺菌剤炭酸カルシウムを主成分とする充填材層と、超精密濾過膜又は限外濾過膜を組み込んだことを特徴とする浄水器。」(1頁左下欄5行ないし10行)、「外筒1と内筒5の間に形成された環状の空間の下半部には・・・カルシウム材と、・・・殺菌剤の混合物からなる下段充填材層6を設け、その上には環状の通水板7を載せてヤシ殻活性炭などの吸着剤と、同様な殺菌剤の混合物からなる上段充填材層8を設け、・・・。又、内筒5の上端部には樹脂製の栓10で水密に塞いである。この栓10は中空紙状で、下端及び管壁が超精密濾過膜又は限外濾過膜により構成された多数の腺チューブ11・・・の開放した上端部を貫通状に保持し、膜チューブを内筒中に吊下げている。」(2頁右上欄15行ないし10行)との記載があることが認められ、上記記載によれば、水道水等を浄化する浄水器において、浄水器の容器本体内に活性炭等の吸着剤と多孔質中空糸膜を組み込むことは、本願発明の特許出願前に公知の技術であるというべきである。
そして、引用例3及び4記載の技術は、いずれも水道水に利用する浄水器に関するものであって、本願発明と同じ技術分野に属するものであることを考慮すると、当業者において、引用例3記載の浄水用カートリッジに代えて、引用例4記載の浄水器の容器本体内に活性炭等の吸着剤と多孔質中空糸膜を組み込む技術を用いるという発想は、容易に想到しえたものというべきである。
3 審決の相違点2についての判断の当否について検討する。
(1) 甲第4号証によれば、引用例2には、浄水器に関して、「2.浄水器は給水装置用器具より容易に着脱可能な構造であること。」(434頁左欄2行及び3行)、「(2) 水道用給水せんへの接続装置 <1> 浄水器は給水せんより容易に(注1)着脱可能な構造であること。(注1)容易とはねじ回し、ペンチ等の工具を使用することなく操作できることをいう。」(436頁右欄1行ないし6行)との記載があることが認められる。
上記認定の事実によれば、引用例2には、ねじ回し、ペンチ等の工具を使用することなく給水栓から着脱することができる構造の浄水器が示されているものと認められる。
ところで、乙第3号証及び乙第4号証によれば、ワンタッチジョイントは、ねじ回し、ペンチ等の工具を使用することなくホースを着脱する手段として、本願発明の特許出願前に周知の技術であったものと認められる。
そうすると、引用例2記載の技術において、ねじ回し、ペンチ等の工具を使用することなく給水栓から着脱する手段としてワンタッチジョイントを選択することは、単なる設計事項に過ぎないというべきであって、当業者が、引用例3記載の技術について、引用例4記載の技術及び上記周知の技術を用いることにより、本願発明の「浄水器の入口部にはワンタッチジョイントからなる継手を介して浄水器の入口側配管を、また、前記出口部にはワンタッチジョイントからなる継手を介して出口側配管を、それぞれ着脱可能に接続し」という構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。
(2) 原告は、審決の、引用例2には、浄水器と給水栓とをワンタッチジョイントからなる継手を介して接続する技術が開示されているとの判断を争い、同引用例に記載された浄水器の給水栓への着脱において、ねじ回し、ペンチなどを使用しないで操作できる着脱手段としては、ワンタッチジョイントのほかに種々の手段があるのであって、ワンタッチジョイントに限るべき理由はなく、また、ねじ回し、ペンチなどを使用することなく容易に着脱可能な構造であるということは、手動で回転可能なねじ式の着脱手段を意味するのであって、ワンタッチジョイントを含むものとはいえないなどと主張しているが、上記認定に照らせば、浄水器の給水栓への着脱において、ねじ回し、ペンチなどを使用しないで操作できる着脱手段としてワンタッチジョイントのほかに種々の手段があったとしても、当業者が周知の技術であるワンタッチジョイントを選択するのに何の困難もないのであって、原告の上記主張は、採用することができない。
(3) また、原告は、浄水器と出入口側両配管とをワンタッチジョイントで接続したものは、本件特許が出願されるまで実施もされておらず、これを記載した文献も存在しなかったのであって、この事実は、引用例2記載の技術が知られていたとしても、この技術に基づいて本願発明に想到することが、当業者といえども困難であったことを裏付けるものである旨主張するが、本願発明のような浄水器の出入口側両配管について周知の技術であるワンタッチジョイントを使用することは、前記認定判断のとおり、当業者が容易に想到し得たもめであり、しかも、それによって奏する作用効果も、格別のものではなく、当業者が容易に推測しうるものであると認められるから、原告の上記主張は、採用することができない。
4 顕著な作用効果の看過について
(1) 本願発明と引用例3記載の技術との相違点1については、前記2の認定判断のとおり、引用例3及び4記載の技術に基づき容易に想到しえたものであり、また、相違点2については、前記3の認定判断のとおり、引用例2記載の技術において、周知の技術であるワンタッチジョイントを選択することは、単なる設計事項に過ぎないものである。
次に、相違点3について検討するに、甲第4号証によれば、引用例2には、「4.浄水器には逆流防止装置を付けること。」(434頁左欄8行)、「(3) 逆流防止装置水道用に使用する浄水器は、配水管の水圧低下、または真空作用による逆流を防止するために、逆流防止装置を設けること。その機能は確実で、長時間使用に耐えるものとする。」(436頁右欄12行ないし16行)との記載があることが認められる。そして、同号証が社団法人日本水道協会の発行に係るもので、当業者に広く購読されていることは、当裁判所に顕著な事実であるから、水道用浄水器に逆流防止装置を設けることは、本願発明の特許出願前に周知の技術であったと認められる。
また、相違点4について検討するに、甲第5号証によれば、引用例1には、「水道水(原水)1は原水導入管2を通り、水栓本体20の原水通路3(第3図参照)を上昇して給水室4にまで導入されている。この給水室4と水栓本体20の出口通路9とは、上下動可能のパイプ弁8によりその連通が開閉されるようになっている。この出口通路9は原水給水管10に連通し、この原水給水管10は浄水器(図示せず)入口11に接続されている。次に、浄水器の浄水出口12は、水栓本体20に接合された浄水戻り管13に接続され、この浄水戻り管13は、浄水通路13’を介して、水栓本体20の浄水室14と連通している。この浄水室14には出口通路管15の一端が臨んでおり、またこの出口通路管15の他端はスワン吐出管17の基部と連通している。したがって、パイプ弁8をハンドルレバー5により上昇させると、パイプ弁8の挿入空間7が通路となって給水室4と出口通路9とが連通し、原水は浄水器へ導入される。次に、浄水器を出た浄水は浄水戻り管13、浄水通路13’、浄水室14および出口通路15を通りスワン吐出管17より放水される。」(4頁10行ないし5頁11行)との記載があり、上記記載によれば、引用例1には、「スワン自在水栓の原水通路3には原水導水管2を、また、その出口通路9には浄水器の原水給水管10を、それぞれ接続し、さらに、スワン自在水栓の原水通路3と出口通路9間にはパイプ弁8を設け、しかも、浄水器の浄水戻り管13はスワン自在水栓の本体と一体化してなるスワン吐出管17に連通させたことを特徴とする浄化システム」が開示されているものと認められ、そうすると、浄水用ノズルを給水栓本体と一体化するという相違点4に係る技術は、本願発明の特許出願前に公知の技術であったものである。
(2) ところで、前記第2の3及び4認定の事実によれば、本願発明は、特許請求の範囲に記載の構成を採用することにより、第2の4に認定したとおりの作用効果を奏するものとされていることは明らかであるところ、上記(1)認定の事実を勘案しつつ、本願明細書に記載された作用効果が格別のものであるかどうかについて検討する。
(イ) 「上記構成による本発明の浄水システムにおいては、活性炭と多孔質中空糸膜とを内蔵した浄水用カートリッジを容器本体内に収納した浄水器1にすることにより、容器本体内の浄水用カートリッジを交換するだけで、活性炭及び多孔質中空糸膜の交換を行なえるようになり、活性炭及び多孔質中空糸膜の交換がより容易になる。」との作用効果は、相違点2、すなわち、「浄水器の入口部にはワンタッチジョイントからなる継手を介して浄水器の入口側配管を、また、前記出口部にはワンタッチジョイントからなる継手を介して出口側配管を、それぞれ接続している」ことに基づくものと認められるところ、前記(1)の認定判断のとおり、引用例2の技術において、周知の技術であるワンタッチジョイントを選択することは、単なる設計事項に過ぎないものであって、当業者は、引用例2記載の技術及び周知の技術から、容易に上記効果を予測することができるものと認められる。
(ロ) 「(a) アンダーシンク型であって、しかも浄水用ノズル4が給水栓3と一体化されているため、流し台周辺の見栄えをよくすることができる。」との効果について検討するに、本願明細書中の「従来のアンダーシンク型浄水器においては、給水栓と浄水用ノズルとの位置が離れているために、流し台周辺の見映えが良くなく、」との記載をも併せ考えると、本願発明における流し台周辺の見映えが良いという効果は、浄水用ノズル4が給水栓3と一体化されていることによる効果であると認められる。
ところで、浄水用ノズル4が給水栓3と一体化されているという技術は、前記(1)認定のとおり、引用例1に開示されているのであって、当業者は、同技術から容易に流し台周辺の見栄えをよくするという効果を予測することができるものと認められる。
なお、原告は、多量の中空糸膜を内蔵して大型化した浄水器を流し台の下方に設置したことにより、流し台周辺の見映えがよいという効果を奏するとの趣旨の主張をしているが、上記認定に照らせば、流し台周辺の見映えがよいという効果は、多量の中空糸膜を内蔵して大型化した浄水器を流し台の下方に設置したことによる効果であるとはいえないから、原告め上記主張は、採用の限りでない。
(ハ) 「(b) 給水栓3に浄水用ノズル4を一体化しているため、給水栓3を通って浄水が流出するように見えるので、給水と止水の操作を容易に行うことができる。」との効果について検討するに、給水と止水の操作を容易に行うことができるという上記効果は、給水栓3に浄水用ノズル4を一体化していることによる効果であるところ、前記(1)認定のとおり、引用例1において、給水栓3に浄水用ノズル4を一体化する技術が開示されているのであるから、当業者は、引用例1記載の技術から容易に上記効果を予測することができるものと認められる。
(ニ) 「(c) 浄水器1の上流側に給水栓3を配置した元止め方式にしているので、浄水器1の容器本体の耐久性が小さいものにも適用することができるため、浄水器1のコストダウンを図ることが可能である。」との効果について検討するに、上記記載によれば、浄水器1のコストダウンを図ることが可能であるという効果は、浄水器1の上流側に給水栓3を配置した元止め方式にしていることによるものであるところ、本願発明と引用例3記載の技術とは、浄水器の上流側に給水栓を配置した構成を採用している点で一致しているから、当業者は、容易に上記効果を予測することができるものと認められる。
(ホ) 「(d) 活性炭と多孔質中空糸膜とを容器本体内に収納して浄水器1を構成していることにより、水中の濁度成分と残留塩素等の除去を行なうことができ、しかも、この浄水器1の上部に、浄水器1の入口部10と出口部11とを設けていること、及び前記入口部10と出口部11にワンタッチジョイントからなる継手12、13を介して、浄水器1の入口側配管8と出口側配管9とを、それぞれ着脱可能に接続していることにより、水中の濁度成分と残留塩素等を除去する浄水能力が低下したときの浄水器1の交換が容易であり、これによって、流し台の下という限られたスペース内で、活性炭及び多孔質中空糸膜の交換を容易に行うことができる。」との効果について検討するに、上記記載によれば、水中の濁度成分と残留塩素等の除去を行うことができるという効果は、活性炭と多孔質中空糸膜とを容器本体内に収納して浄水器を構成していることによるものであり、また、水中の濁度成分と残留塩素等を除去する浄水能力が低下したときの浄水器の交換が容易である、流し台の下という限られたスペース内で、活性炭及び多孔質中空糸膜の交換を容易に行うことができるとの効果は、浄水器の上部に、浄水器の入口部と出口部とを設け、前記入口部と出口部とをワンタッチジョイントからなる継手で着脱可能に接続していることによるものである。
ところで、活性炭と多孔質中空糸膜とを容器本体内に収納して浄水器を構成するという技術は、引用例4に開示されており、浄水器の上部に、浄水器の入口部と出口部とを設けるという技術は、引用例3に開示されており、浄水器の入口部と出口部とをワンタッチジョイントからなる継手で着脱可能に接続するという技術は、引用例2記載の技術において、これを選択するという単なる設計事項に過ぎないものであるから、当業者は、上記のとおり開示された技術から容易に上記効果を予測することができるものと認められる。
(ヘ) そして、本願明細書を精査しても、本願発明において、引用例1ないし4記載の技術を組み合わせたことによって予期し得ない格別の効果が生じることを窺わせるような記載を見出すことはできないのであって、結局、上記のような公知あるいは周知の技術を組み合せて得られる効果は、これらの技術について当然に予期しうる効果の単なる集合の域を出ないものといわざるをえない。
(3) 原告は、本願発明においては、多量の中空糸膜を内蔵して大型化した浄水器を流し台の下方に設置したから、流し台周辺の見映えが良い上に、流し台の手前側から浄水器の交換をしようとするとき引用例記載の技術の場合より手が届きやすいのに加え、継手がワンタッチジョイントであるから着脱がきわめて容易であり、しかも、継手部分がいずれも浄水器の上方にあるため操作しやすく、また、作業性が悪い環境下においても、主婦でも容易に浄水器を交換できるのであり、各引用例に記載された技術を組み合せたものとは、浄水器の交換時の容易さが全く異なる旨主張する。
しかしながら、本願発明は、大型化した浄水器を設置することをその構成要件とするものではなく、また、本願発明における流し台周辺の見映えが良いという効果は、前記(2)(ロ)認定のとおり、浄水用ノズル4が給水栓3と一体化されていることによるものである。更に、流し台の手前側から浄水器の交換をしようとするとき引用例3記載のものより手が届きやすいとか、継手がワンタッチジョイントであるから着脱が容易であるなどといった効果についても、浄水器を流し台の下方に設置するとの技術、ワンタッチジョイントを継手とする周知の技術から、当業者が当然に予測できるものである。したがって、原告の上記主張は、採用することができない。
また、原告は、本願発明は、浄水器のいずれも上方に設けられている入口部及び出口部のそれぞれに接続する入口側配管及び出口側配管をいずれもワンタッチジョイントからなる継手を介して接続している点を重要な特徴とし、この入口側配管と出口側配管の各継手を、いずれも浄水器の上部に設けることと、出入口側両配管と浄水器との各継手がワンタッチジョイントであることを組み合わせることで、はじめて、流し台の下方に浄水器を配置した際の交換を容易にすることができるものである旨主張するが、前記認定判断に照らし、採用の限りでない。
更に、原告は、本願発明は、流し台の下に浄水器を配設することで浄水器を大型化することができ、より多くの中空糸を浄水器に内蔵させることができ、これにより、<1>浄水器内の圧力損失が小さくなり、通水量が増大する、<2>カートリッジの寿命が延びる、<3>多量の中空糸を内蔵することにより大型化した浄水器であっても、これを流し台の下方に配設したので、流し台での作業の邪魔にならない、などの格別の効果が得られるものである旨主張するが、本願発明が大型化した浄水器を設置することをその構成要件とするものではないことは前記認定のとおりであって、<1>ないし<3>の効果は、その前提を欠くものであるから、原告の上記主張は、失当というほかはない。
更にまた、原告は、本願発明は、これを構成する各要素が組み合わされることによって、初めて、本願明細書に記載された格別の作用効果が得られる旨主張するが、前記認定判断に照らせば、本願発明の作用効果は、引用例1ないし4記載の技術を用いることによってごく容易に予測しうる範囲内のものであるから、原告の上記主張も、採用の限りでない。
なお、原告は、審決は、特許請求の範囲に記載された事項を分割し、それらを分離独立して比較するのみでそれらを総合的に評価していない旨主張するが、審決は、「本願発明の作用効果は、引用例1~4記載のものから当業者なら当然予測できる範囲のものであって、格別なものとはいえない。」との判断をしているのであって、本願発明の作用効果を総合的に評価しているものと認められるから、上記主張は、失当である。
5 以上によれば、原告の主張する審決を取り消すべき事由は、いずれも理由がなく、本願発明について特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした審決の認定判断は、正当であって、これを取り消すべき理由はない。
第4 よって、原告の本訴請求は、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成11年2月23日)
(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)
別紙図面(1)
<省略>
別紙図面(2)
<省略>