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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)315号 判決 1998年12月24日

東京都千代田区大手町2丁目6番3号

原告

新日本製鐵株式会社

代表者代表取締役

浅村峻

訴訟代理人弁理士

田中久喬

大韓民国京畿道龍仁郡蒲谷面三渓里309-3

被告

東一セラミックス工業社こと

鄭武秀

訴訟代理人弁理士

笹島富二雄

西山春之

津国肇

伊藤温

主文

特許庁が平成8年審判第13789号事件について平成9年9月18日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

主文と同旨

2  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、発明の名称を「溶接用裏当材」とする特許第1537219号の発明の特許権者である(昭和58年1月27日出願、昭和63年2月9日出願公告、平成1年12月21日設定登録。以下「本件特許」といい、その発明を「本件発明」という。)。原告は、平成8年8月15日、被告から、本件特許の無効の審判を請求され、平成8年審判第13789号事件として審理された結果、平成9年9月18日、「特許第1537219号発明の特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」との審決を受け、平成9年11月6日にその謄本の送達を受けた。

2  審決の理由

別添審決書「理由」の写しのとおり

3  本件発明の特許請求の範囲

(1)  訂正前の特許請求の範囲

固形フラックス組成がSiO2:45~70重量%、Al2O3:15~40重量%、MgO:5~30重量%の範囲でかつSiO2、Al2O3及びMgOの合計が少なくとも90重量%であり、見掛気孔率が5~40%であることを特徴とする溶接用裏当材。

(2)  訂正後の特許請求の範囲

固形フラックス組成がSiO2:45~70重量%、Al2O3:15~40重量%、MgO:5~30重量%の範囲でかつSiO2、Al2O3及びMgOの合計が少なくとも90重量%であり、見掛気孔率が5~40%であり、かつ、固形フラックスは被溶接母材に接すべき面にスラグポケットが設けられていることを特徴とするフラックス入りワイヤを用いる片面アーク溶接用裏当材。

4  審決を取り消すべき事由

本件発明の後記訂正前の特許請求の範囲は、前記2(1)のとおりである。

しかしながら、原告は、本訴の係属中である平成10年4月27日に明細書の訂正(以下「本件訂正」という。)をすることについて審判を請求し、平成10年審判第39032号事件として審理された結果、平成10年8月10日に「特許第1537219号発明の明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。」との審決を受けた。

本件訂正後の特許請求の範囲は、前記3(2)のとおりであって、特許請求の範囲を減縮するものである。そして、本件訂正に係る審決は、本件訂正後の特許請求の範囲記載の発明が本出願の際独立して特許を受けることができる旨を認定して、本件訂正を認めたものであるから、本件発明の技術内容は、本件訂正後の特許請求の範囲に基づいて認定されなければならない。

しかるに、審決は、本件発明の技術内容を本件訂正前の特許請求の範囲に基づいて認定したものであるから誤っており、この誤りが本件発明の進歩性を否定した審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。

第3  請求の原因に対する認否

請求の原因1ないし3、同4のうち本件訂正の経過は認める。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

1  請求の原因1ないし3、同4のうち本件訂正の経過に関する事実は、当事者間に争いがない。

2  審決を取り消すべき事由について判断する。

上記当事者間に争いがない請求の原因4のうちの本件訂正の経過に関する事実によれば、本件発明の技術内容は、本件訂正後の特許請求の範囲に基づいて認定されるべきところ、審決は、本件訂正前の特許請求の範囲に基づいて本件発明の技術内容を認定したものであるから違法といわざるをえず、この違法が本件発明の進歩性を否定した審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。

3  よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は、理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成10年12月15日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 春日民雄 裁判官 宍戸充)

理由

(1)本件特許第1537219号発明(以下、「本件発明」という)は、昭和58年1月27日に出願され、昭和63年2月9日に出願公告を経て、平成1年12月21日にその特許権の設定の登録がなされたものであって、本件発明の要旨は、出願公告された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものであると認める。

「固形フラツクス組成物がSiO2:45~70重量%、Al2O3:15~40重量%、MgO:5~30重量%の範囲でかつSiO2、Al2O3及びMgOの合計が少なくとも90重量%であり、見掛気孔率が5~40%であることを特徴とする溶接用裏当材」

(2)これに対して、請求人は、本件発明は、その出願前に頒布された甲第1-1号証(米国特許第4205219号明細書)及び甲第1-2号証(特開昭55-8398号公報)に記載された発明と同一若しくは上記甲各号証、同じく頒布された甲第2号証(田中稔著「粘土瓦ハンドブック」(昭和55年11月25日)技報堂出版 p.245~249)、甲第3号証(E.Z.Basta M.K.A.Said著、「Transac tionsn and Journal of the British Ceramic Society」72巻2号、(1973年3月)British Ceramic Society p.69~75)及び甲第4号証(素木洋一著「ファインセラミックス」(昭和51年1月25日)技報堂出版p.294~296)に記載されたものに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号若しくは同法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、したがって、本件特許は同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである、と主張している。

一方、被請求人は、請求人の主張には理由がない、と主張している。

(3)甲第1-1号証には、「本発明の溶接の裏あては任意の耐熱材料から作られる。種々の結合材中の織られたガラス繊維または粒状(例えば砂)材料のような耐熱材料を用いて本発明の裏あてを作ってもよい。

本発明の実施例において好適な材料はフオルステライト、コーディエライト、又はステアタイトのような硬いマグネシュームーアルミニウムーシリカセラミック(特にセラミックタイル)を含む。」(4欄17~24行)

「第3図の裏当て30は幅33mm、厚さ7.9mmの正方形のコーディエライトセラミックタイルから作られた。二つの平行のグループ34は、深さ2.4mm、頂部において幅が5.6mm、底部で幅4.0mmに切断された。(中略)。潜弧溶接法により1.9mm厚さの軟鋼のプレートを溶接する裏あてとして使用する場合、殆ど完全な溶接がなされ、溶接部はわづかのアンダカツトを有し、また理想的であるとされる厚さが1.6mmから3.2mmの裏側の補強盛りを有する。」(実施例)、及び「第3図は本発明の溶接裏あての断面図;および第4図は第3図の溶接裏あてを使用した完成した片面溶接のシングルパスの断面図である。」(図面の簡単な説明)など記載されている。

(4)そこで、本件発明を甲第1-1号証に記載のものと対比すると、本件発明は、対象が「溶接用裏当材」であるところ、甲第1-1号証に記載のものは、対象が「溶接の裏あて」すなわち「溶接用裏当材」であるから、両者は、この点で一致している。

そして、本件発明では、「固形フラックス組成がSiO2:45~70重量%、Al2O3:15~40重量%、MgO:5~30重量%の範囲でかつSiO2、Al2O3及びMgOの合計が少なくとも90重量%であり、見掛気孔率が5~40%である」というのに対して、甲第1-1号証には、かかる明示の記載がないので、両者はこの点で一応相違している。

そこで、上記相違点について検討する。

甲第1-1号証には、「第3図の裏あて30は幅33mm、厚さ7.9mmの正方形のコーディエライトセラミツクタイルから作られた」こと、上記「裏あて」を「潜弧溶接法により1.9mm厚さの軟鋼のプレートを溶接する裏あてとして使用する場合、殆ど完全な溶接がなされ、溶接部はわづかのアンダカツトを有し、また理想的であるとされる厚さが1.6mmから3.2mmの裏側の補強盛りを有する。」ことなど記載されているほか、甲第3号証には、「純コーディエライトの化学式が2MgO・2Al2O3.5SiO2」であること、気孔率は焼成温度によって異なるが、焼成温度1060℃で36.0%、1240℃で32.3%、1310℃で35.5%、1410℃で9.2%であることなど記載されており、そして上記「2MgO・2Al2O3.5SiO2」を重量比に換算するとMgOが13.8重量%、Al2O3が34.9重量%、SiO2が51.3重量%であるから、これら事実によれば、本件発明における上記点は当業者であれば適宜設定し得ることにすぎない。

そして、本件発明により奏される効果も格別顕著なものとも云えない。

(5)以上のとおりであるから、本件発明は甲第1-1及び3号証に記載のものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものという外はなく、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたもであって、同法第123条第1項第2号の規定により無効とにすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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