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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)40号 判決 1998年12月15日

大阪府八尾市楽音寺1丁目14番地

原告

フェザーコア株式会社

代表者代表取締役

北岡昭忠

北海道旭川市永山町10丁目96番地

原告

旭中芯株式会社

代表者代表取締役

合田衛

原告ら訴訟代理人弁護士

鈴木修

矢部耕三

弁理士 伊藤茂

原告フェザーコア株式会社訴訟代理人弁護士

阪口春男

今川忠

岩井泉

原戸稲男

佐藤義幸

森脇和弘

阪口祐康

大槻哲也

弁理士 藤本昇

石田耕治

大内信雄

愛知県春日井市出川町1622番地 レジデンス小林3-A号

被告

永井利和

訴訟代理人弁理士

西山聞一

主文

特許庁が平成8年審判第7359号事件について平成9年2月7日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告ら

主文と同旨の判決

2  被告

「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

被告は、名称を「ペーパーコアによる芯材の製造方法」とする特許第1082328号発明(昭和52年7月9日出願、昭和57年1月29日設定登録。以下「本件発明」という。)の特許権者である。

原告らは、平成8年5月10日、本件発明の特許を無効とすることについて審判を請求をした。

特許庁は、この請求を同年審判第7359号事件として審理した結果、平成9年2月7日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同月17日原告らに送達された。

2  本件特許請求の範囲の記載

(1)クラフト紙等の丈夫な紙を一定寸法の方形状に切断してペーパーコア用シートを多数枚形成せしめる第一工程と、該ペーパーコア用シートに一定間隔の平行なミシン目を刻設せしめる第二工程と、

第1枚目のペーパーコア用シートの多数本のミシン目のうち一本置きのミシン目の一側に糊代部を形成すると共に該糊代部に接着剤を塗布し、第2枚目のペーパーコア用シートの多数本のミシン目のうち一本置きのミシン目を第1枚目のペーパーコア用シートの糊代部側のミシン目に対して糊代部の幅の分だけ一側かつ平行に位置をずらして第2枚目のペーパーコア用シートの裏面を第1枚目のペーパーコア用シートの糊代部に接着し、以下同様に第3枚目以上の各ペーパーコア用シートを下方のペーパーコア用シートの糊代部に接着して多層のペーパーコア用シートを形成せしめる第3工程と、

該ペーパーコア用シートを上方より押圧して接着力の安定を図る第4工程

より成ることを特徴とするペーパコアによる芯材の製造方法。

(2)  特許請求の範囲第1項において、多数枚のペーパーコア用シートを接着させた後、一定の幅によりペーパーコア用シートのミシン目と直角方向に切断せしめる様にしたことを特徴とするペーパーコアによる芯材の製造方法。

3  審決の理由

審決の理由は、別紙1審決書写し(以下「審決書」という。)に記載のとおりであり、本件発明は明細書及び図面が不備であり、本件発明の特許は特許法36条4項及び5項(昭和60年法律第41号による改正後は3項及び4項)に規定する要件を満たしていないから、同法123条1項3号により無効とすべきであるとの請求人ら(本訴原告ら)の主張は、理由がないと判断した。

4  審決の理由に対する認否

(1)  審決の理由1(手続の経緯等)、2(無効審判請求の理由)は認める。

(2)  同3(当審の判断)のうち、本件特許明細書の特許請求の範囲の記載(審決書10頁13行ないし14頁17行)は認める。

無効審判請求の理由についての判断(同14頁19行ないし29頁10行)のうち、14頁19行ないし16頁11頁、17頁4行ないし10行は認め、その余は争う。

(3)  同4(むすび)は争う。

5  審決の取消事由

(1)  取消事由1(第3工程についての特許法36条5項違反)

審決は、第3工程についての本件も特許請求の範囲の記載が特許法36条5項の規定に違反するものではない旨判断するが、誤りである。本件特許請求の範囲には、本件発明の第3工程についての必須の構成要件が記載されておらず、特許法36条5項の規定に違反するものである。

<1> 被告が特定した本件発明の方法(後記第3、2(1)<1>、別紙3)においては、第2枚目のシートと第3枚目のシートとの接着方法は、

(a) 第2枚目のシートの糊代部を形成するミシン目は、第1枚目のシートで糊代部を形成しなかったミシン目に対応するミシン目であること、

(b) 第2枚目のシートにおける糊代部の形成位置は、第1枚目のシートで糊代部を形成した側と反対側に形成すること、

(c) 第2枚目のシートに第3枚目のシートを接着する際にシートをずらす方向は、第2枚目のシートにおいて糊代部を形成した側、すなわち、第1枚目のシートに第2枚目のシートを接着する際にシートをずらした方向とは逆側であること、

が発明の構成要素となっている。

<2> したがって、これらの点が本件特許請求の範囲に記載されていなければならない。

しかしながら、本件特許請求の範囲には、第3枚目以降のシートの接着に関し、これらの点の記載がなく、かえって「以下同様に第3枚目以上の各ペーパーコア用シートを下方のペーパーコア用シートの糊代部に接着して多層のペーパーコア用シートを形成せしめる」と誤った記載がされているものである。

よって、本件特許請求の範囲の記載は、本件発明の必須の構成要件の記載を欠いたものといわざるを得ず、特許法36条5項の規定に違反するものである。

<3> 被告は、第3工程について特許法36条5項違反をいう原告の主張は審決取消訴訟における審理範囲を超える旨主張するが、原告らの本訴における主張は、被告が本訴において本件発明の内容を具体的に主張したため、これに対する反論として行ったものにすぎず、何ら審決取消訴訟における審理範囲を超えるものではない。

(2)  取消事由2(第3工程についての特許法36条4項違反)

審決は、第3工程についての本件明細書の記載が特許法36条4項の規定に違反するものではない旨判断するが、誤りである。本件明細書の発明の詳細な説明の項には、本件発明の構成が開示されておらず、特許法36条4項の規定に違反するものである。

<1> 本件発明は、被告が特定した後記第3、2(1)<1>(別紙3)に記載のとおりのものであるから、前記(1)<1>の事項が本件明細書の発明の詳細な項において開示されていなければならない。

<2> しかしながら、本件明細書の発明の詳細な説明の項には、第3枚目以降のシートの接着に関し、これらの点の記載がなく、かえって「以下上記の工程を反復して第3枚目以下のペーパーコア用シート1を順次積重さね接着させる。その要領は第1枚目のペーパーコア用シート1aに接着させた第2枚目のペーパーコア用シート1bの表面における糊代部3に接着剤を塗布し」(甲第2号証2欄35行ないし3欄3行)と誤った記載がされているものである。

よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法36条4項の規定に違反するものである。

<3> 被告は、第2枚目のシートと第3枚目のシートとの接着方法は本件明細書に添付の第4図(別紙2第4図参照)から確実に読み取れる旨主張する。

しかしながら、上記第4図は、飽くまでも発明者の希望的観測に基づく想像図にすぎないのであり、このような想像図を見てもその製造方法が分かるものではない。しかも、本作発明の構成においては、シート同士を接着する際に、どこに糊代部を設けるかという点が極めて重要であるが、この糊代部の位置についての説明図として用いられているのは、第2図(別紙2第2図参照)のみである。また、第4図は、各シートが一本線で記載されているため、それぞれのシートがどのように重なり、どの位置で接着されているか等不明瞭である。したがって、当業者が上記第4図から第2枚目のシートの糊代部の位置を読み取ることは、不可能である。

よって、この点の被告の主張は理由がない。

(3)  取消事由3(第4工程についての特許法36条5項違反)

審決は、「紙材料の接着において、糊代部を押圧して接接着力の安定を図る工程を設けることは当業者が普通に行っている慣用技術であり、かつ明細書に記載されているに等しい技術的事項である」(甲第1号証29頁3行ないし6行)と判断するが、誤りである。

本件特許請求の範囲には、本件発明の第4工程として、「該ペーパーコア用シートを上方より押圧して接着力の安定を図る」ことが記載されている。しかしながら、本件明細書の発明の詳細な説明の項及び添付の図面には、多層状になったシートについて、接着力の安定を図るたために、上方から押圧するという記載はない。また、押圧工程が慣用技術であることを認めるに足りる証拠は何ら示されていない。

よって、本件特許請求の範囲には、発明の詳細な説明の項に記載しない事項が記載されており、特許法36条5項に違反するものである。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  認否

請求の原因1ないし3は認め、同5は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告ら主張の誤りはない。

2  反論

(1)  取消事由1(第3工程についての特許法36条5項違反)について

<1>本件発明の第3工程は、別紙3に記載のとおりである。

<2>原告らは、第3工程についての本件特許請求の範囲の記載は特許法36条5項に違反する旨主張するが、本件特許請求の範囲には「以下同様に第3枚目以上の」と明確に記載している以上、かかる主張は失当である。

<3>原告らは、審判段階においては、本件発明が展開不能であることを前提に主張していたが、本件訴訟段階においては、審判段階では全く主張していなかって必須の構成要件が特許請求の範囲に記載されていないことを主張するものである。審決取消訴訟においては、審判手続において現実に争われ、かつ判断された事項のみが審理の対象とされるべきであるから、必須の構成要件が特許請求の範囲に記載されていないとの上記主張を本訴において行うことはできない。

(2)  取消事由2(第3工程についての特許法36条4項違反)について

本件明細書に添付の第4図(別紙2第4図参照)は、図面の簡単な説明において、「第4図は本発明による芯材を伸張させた状態を示す平面図である。」(甲第2号証4欄27行、28行)と説明されている。しかも、上記第4図の図示方法は、当該技術分野においては極めて一般的に用いられている図示方法である(島村昭治ら「サンドイッチ構造」(乙第1号証)53頁図5・4、図5・5参照)。したがって、本件発明の第3工程の内容が上記(1)<1>に記載のとおりのものであることは、上記第4図から当業者であれば読み取ることができるものである。

(3)  取消事由3(第4工程についての特許法36条5項違反)について

紙材料の接着において、糊代部を押圧して接着力の安定を図る工程を設けることは、当業者が普通に行っている慣用技術であり、かつ明細書に記載されているに等しい事項である。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本件特許請求の範囲の記載)及び同3(審決の理由の記載)については、当事者間に争いがない。

2  そこで、原告主張の取消事由の当否について検討する。

(1)  取消事由2(第3工程についての特許法36条4項違反)について

<1>  甲第2号証によれば、本件明細書及び添付の図面には、本件発明の目的、構成、効果として、次の記載があることが認められる(一部は当事者間に争いがない。)。

[目的]

「本発明はペーパコアによる芯材の製造方法に関する。」(2欄6行、7行)、

「本発明の目的は方形のコアを連続的に成形することにより、伸張させた際応力を与えない限り復元しない芯材を得ることにある。本発明の第2の目的は取扱いが簡単でかつ抗圧性に秀れ、軽量な芯材を得ることにある。」(2欄8行ないし12行)

[構成]

「ペーパーコア用シート1として、クラフト紙等の丈夫な方形の紙を多数枚用意する。・・これらのシート1には一定の間隔により平行な折目2を多数本設ける。この折目2には折目2が確実にかっ成形し易くするためミシン穴を多数設けることがよい。そして多数本の折目2のうち1本置きの折目の一側にその折目2に沿って一定の幅による糊代部3を形成してなるペーパーコア用シート1の多数枚を設ける。」(2欄15行ないし25行)、

「次にこれらのペーパーコア用シート1の多数枚のうち第2図に示すようにその第1枚目のペーパーコア用シート1aの糊代部3に接着剤を塗布し、第2枚目のペーパーコア用シート1bの多数本の折目2のうち1本置きの折目2を第1枚目のペーパーコア用シート1aの糊代部3側の折目2に対して糊代部3の幅の分だけ一側(図面上右側)にかつ平行に位置をずらして第2枚目のペーパーコア用シート1bの裏面を第1枚目のペーパーコア用シート1aの糊代部3に接着する」(2欄25行ないし35行)、

「以下上記の工程を反復して第3枚目以下のペーパーコア用シート1を順次積重さね接着させる。その要領は第1枚目のペーパーコア用シート1aに接着させた第2枚目のペーパーコア用シート1bの表面における糊代部3に接着剤を塗布し、ついで第4枚目のペーパーコア用シート1dを上記の第2枚目のペーパーコア用シート1bを第1枚目のペーパーコア用シート1aに接着させた場台と同様に多数本の折目3のうち一本置きの折目2を第3枚目のペーパーコア用シート1cの糊代部3側の折目2に対して糊代部3の幅の分だけ一側かっ平行に位置をずらして第4枚目のペーパーコア用シート1dの裏面を第3枚目のペーパーコア用シート1cの糊代部3に接着する。」(2欄35行ないし3欄12行)、

「上記の工程においてシート1の折目2と折目2を糊代部3の幅だけずらして接着するには、第1枚目のペーパーコア用シート1aに対して第2枚目のペーパーコア用シート1bを裏返して引揃えた上接着しさえすればよい。」(3欄25行ないし29行)

第4図(別紙2第4図参照)には、「本発明による芯材を伸張させた状態を示す平面図」(4欄27行、28行)が示されている。

[効果]

「従来の六角形のハニカム構造紙は伸縮自在ではあるが、使用時に伸張させたとき両端を支持させ引張っていない限り縮少し六角形のコアは復元し板状になるため例えば建築用パネルの芯材として使用するとき甚だ厄介であって」(3欄29行ないし4欄4行)、

「本発明は上記の通り応力を与えない限り自然的に復元しないため使用上の利点は甚だ大きい。その上製造方法は折目と糊代部を設けたシートに他のシートを接着させるだけでよいから楽に実施でき、また従来品に比較して抗圧力、重量について夫々何らの見劣りもない。」(4欄16行ないし21行)。

<2>  上記に説示の本件明細書中の記載によれば、本件明細書の詳細な説明の項及び添付の図面には、別紙3に記載のとおりの内容の発明が一応開示されているものと認められる。

これに反する原告らの主張は、本件発明による芯材を伸張させた状態(完成状態)を示す平面図が、1本線により図示されたものとはいえ、本件明細書に添付の第4図に示されており、これから糊代部の形成箇所を知ることができると認められるから、採用することができない。

よって、原告ら主張の取消事由2は理由がない。

(2)  取消事由1(第3工程についての特許法36条5項違反)について

<1>  本件特許請求の範囲には、前記説示のとおり、第3工程について、「第1枚目のペーパーコア用シートの多数本のミシン目のうち一本置きのミシン目の一側に糊代部を形成すると共に該糊代部に接着剤を塗布し、第2枚目のペーパーコア用シートの多数本のミシン目のうち一本置きのミシン目を第1枚目のペーパーコア用シートの糊代部側のミシン目に対して糊代部の幅の分だけ一側かつ平行に位置をずらして第2枚目のペーパーコア用シートの裏面を第1枚目のペーパーコア用シートの糊代部に接着し、以下同様に第3枚目以上の各ペーパーコア用シートを下方のペーパーコア用シートの糊代部に接着して多層のペーパーコア用シートを形成せしめる第3工程」と記載されているものである。

この記載によれば、本件特許請求の範囲には、第1枚目のペーパーコア用シートの一本置きのミシン目の一側に糊代部を形成し、第2枚目のペーパーコア用シートのミシン目を第1枚目のペーパーコア用シートの糊代部側のミシン目に対して糊代部の幅の分だけ一側かっ平行に位置をずらして第2枚目のペーパーコア用シートの裏面を第1枚目のペーパーコア用シートの糊代部に接着することまでは明確に規定されているが、第3枚目以降のペーパーコア用シートの接着方法については、「以下同様に第3枚目以上のペーパーコア用シートを下方のペーパーコア用シートの糊代部に接着して」と記載されるのみで、第2枚目のペーパーコア用シートの糊代部をどのミシン目に沿って形成するのか、その糊代部をミシン目のどちら側に形成するのか、及び、第3枚目のペーパーコア用シートを第2枚目のペーパーコア用シートの糊代部に接着するときにどちら側にずらすのかについては記載されていないものである。

そして、上記記載部分を他の第3工程に関する本件特許請求の範囲の記載と併せてみると、次のように理解することができる。すなわち、第2枚目のペーパーコア用シートと第3枚目のペーパーコア用シートとの接着方法は、第1枚目と第2枚目の接着方法と「同様に」するものとされているのであるから、第2枚目のペーパーコア用シートの糊代部は、多数本のミシン目のうち一本置きのミシン目(もっとも、第1枚目で糊代部を形成したミシン目との対応関係は必ずしも明かでない。)の一側に第1枚目のそれと同じ方向に形成して接着剤を塗布し、第3枚目のペーパーコア用シートのミシン目を、第2枚目のペーパーコア用シートの糊代部を形成したミシン目に対して糊代部の幅の分だけ一側(第2枚目の場合と同じ方向)かっ平行に位置をずらして、第3枚目のペーパーコア用シートの裏面を第2枚目のペーパーコア用シートの糊代部に接着するものと解するのが自然である。

しかし、このように第2枚目のペーパーコア用シートの一本置きのミシン目の一側で、前(第1枚目)のペーパーコア用シートと同じ側に糊代部を形成し、第3枚目のペーパーコア用シートのミシン目を同じ一側に糊代部の幅だけ平行にずらして接着するという仕方で、順次ペーパーコア用シートを積層するという方法は、本件明細書の発明の詳細な説明及び図面に何ら記載されておらず、また逆に、上記記載部分から、これと異なる別紙3記載の方法が規定されているとみることも困難である。

<2>  被告は、本件特許請求の範囲中の「以下同様に第3枚目以上の」との上記記載部分が別紙3記載の趣旨を規定している旨主張するが、本件明細書の詳細な説明の記載及び添付の図面を参酌しても、本件特許請求の範囲中の「以下同様に第3枚目以上の」との記載が、第2枚目のペーパーコア用シートの糊代部は、第1枚目で糊代部を形成しなかったミシン目に対応するミシン目の第1枚目で糊代部を形成した反対側に形成することや、第3枚目のペーパーコア用シートを第2枚目のペーパーコア用シートとは逆の方向にずらすこと等を当然に規定していると解することはできず、被告の上記主張は採用することができない。

<3>  さらに、被告は、原告らは審判段階においては本件発明が展開不能であることを前提に主張していたが、本件訴訟段階においては審判段階では全く主張していなかった必須の構成要件が特許請求の範囲に記載されていないことを主張するものであるところ、審決取消訴訟においては審判手続において現実に争われかつ判断された事項のみが審理の対象とされるべきであるから、必須の構成要件が特許請求の範囲に記載されていないとの主張を本訴において行うことはできない旨主張する。

しかしながら、当事者間に争いのない審判段階における原告らの第3工程についての特許法36条5項違反の主張内容(審決書4頁8行ないし5頁9行)によれば、原告らは、審判段階で、本件特許請求の範囲の第3工程についての記載には、発明の構成に欠くことのできない事項を記載していない瑕疵があると主張しているものであり、審判段階における本件発明が展開不能であることを前提とする主張は、第3工程についての特許請求の範囲の記載に発明の構成に欠くことのできない事項が記載されていないことを裏面から説明しているにすぎないものであるから、原告らの本訴における主張が審決取消訴訟における審理範囲を超えるものではなく、被告の上記主張は失当である。

<4>  したがって、第3工程に関する「以下同様に第3枚目以上のペーパーコア用シートを下方のペーパーコア用シートの糊代部に接着して」という本件特許請求の範囲の記載では、第2枚目のペーパーコア用シートの糊代部の形成位置及び第3枚目のペーパーコア用シートを第2枚目のペーパーコア用シートの糊代部に接着するときのシートのずらし方が不明であり、結局、本件特許請求の範囲には、「発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことのできない事項」が記載されているとはいえないから、原告ら主張の取消事由1は理由がある。

(3)  取消事由3(第4工程についての特許法36条5項違反)について

原告は、本件発明の特許請求の範囲に記載の「ペーパーコア用シートを上方より押圧して接着力の安定を図る第4工程」について、本件明細書の発明の詳細な説明の項及び添付の図面には記載がなく、慣用技術であるとの証拠も何ら示されていないから、これを明細書に記載されているに等しい技術的事項であると認定した審決は誤りであると主張している。しかしながら、シートの接着において、糊代部を押圧して接着力の安定を図る工程を設けることは、当業者の技術常識であると認められ、発明の詳細な説明の項において必ず説明しなければならない事項とは認められない。

したがって、審決のこの点についての判断に誤りはなく、原告ら主張の取消事由3は理由がない。

(4)  結論

以上によれば、第3工程についての本件特許請求の範囲の記載が特許法36条5項の規定に違反する旨の原告ら主張の取消事由1は理由があり、この点に関する審決の認定、判断に誤りがあるというべきであるから、審決の取消しを求める原告らの請求には理由がある。

3  よって、原告らの本訴請求を認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する(平成10年12月1日口頭弁論終結)。

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)

平成8年審判第7359号

審決

大阪府八尾市楽音寺1丁目14番地

請求人 フェザーコア 株式会社

北海道旭川市永山町10丁目96番地

請求人 旭中芯 株式会社

東京都千代田区大手町2丁目2番1号 新大手町ビル206区 湯浅・法律特許事務所

代理人弁理士 湯浅恭三

東京都千代田区大手町2丁目2番1号 新大手町ビル206区 湯浅・法律特許事務所

代理人弁理士 社本一夫

東京都千代田区大手町二丁目2番1号 新大手町ビル206区 湯浅・原法律特許事務所

代理人弁理士 今井庄亮

東京都千代田区大手町二丁目2番1号 新大手町ビル206区 湯浅・原法律特許事務所

代理人弁理士 増井忠弐

東京都千代田区大手町2丁目2番1号 新大手町ビル206区 湯浅・原法律特許事務所

代理人弁理士 栗田忠彦

東京都千代田区大手町二丁目2番1号 新大手町ビル206区 湯浅・原法律特許事務所

代理人弁理士 小林泰

東京都千代田区大手町二丁目2番1号 新大手町ビル206区 湯浅・原法律特許事務所

代理人弁理士 伊藤茂

愛知県春日井市出川町1622番地 レジデンス小林3-A号

被請求人 永井利和

愛知県名古屋市千種区春岡1-23-6 メゾン西坂1階 西山国際特許事務所

代理人弁理士 西山聞一

上記当事者間の特許第1082328号発明「ペーパーコアによる芯材の製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する.

結論

本件審判の請求は、成り立たない.

審判費用は、請求人の負担とする.

理由

1、手続の経緯等

本件審判請求に係る特許は、昭和52年7月9日の出願について、昭和56年5月16日に出願公告(特公昭56-20981号)を経て、昭和57年1月29日に設定の登録がなされたものである。

2、無効審判請求の理由

請求人は、本件発明は、明細書及び図面が不備であり、したがって、本件発明の特許は、特許法第36条第4項及び第5項に規定する要件を満たしていないから、同法第123条第1項第3号により無効とすべきであると主張している。

2-1、無効審判請求の理由の要点

2-1-1、特許法第36条第4項に規定する要件について

(1) 第三工程で、第1枚目のペーパーコア用シートの表面に第2枚目のペーパーコア用シートの裏面を接着する際に、第2枚目のペーパーコア用シートの多数本の折目のうち1本置きの折目を第1枚目のペーパーコア用シートの糊代部側の折目に対して糊代部の幅の分だけ一側かつ平行に位置をずらす、とある(実際にずらした状態が第2図に図示されている)。そして、同公報第3欄第27行~第29行には、その具体的なずらし方として「第1枚目のペーパーコア用シートに対して第2枚目のペーパーコア用シートを裏返して引き揃えた上接着すればよい」とある。

確かに、裏返すと、第2枚目のペーパーコア用シートの折目位置は第1枚目のペーパーコア用シートの糊代部側の折目に対して糊代部の幅の分だけ一側かつ平行にずれるが、第1枚目のペーパーコア用シートの表面に接着される第2枚目のペーパーコア用シートの一面は裏面でなく、表面である。

(2) この矛盾はさておき、積み重ねる際に引き揃える、とある。引き揃えるとは、積み重ねたペーパーコア用シートの外縁を整合させることである。ところが、ペーパーコア用シートは第1枚目も第2枚目も糊代部が同じ位置にあるので、整合させて積み重ねると、第2枚目の糊代部は第1枚目の対応する糊代部上に直線的に重なる。第2図に示す通りである。糊代部が一直線上に重なれば、芯材は伸張(展張)しない。

2-1-2、特許法第36条第5項に規定する要件について

(1) 特許請求の範囲の第三工程には「第2枚目のペーパーコア用シートの多数本のミシン目のうち一本置きのミシン目を第1枚目のペーバーコア用シートの糊代部側のミシン目に対して糊代部の幅の分だけ一側かつ平行に位置をずらして第2枚目のペーパーコア用シートの裏面を第1枚目のペーパーコア用シートの糊代部に接着し、以下同様に第3枚目以上の各ペーパーコア用シートを下方のペーパーコア用シートの糊代部に接着して多層のペーパーコア用シートを形成せしめる」とあるが、以下同様にしても、第3枚目のペーパーコア用シートの多数本のミシン目のうち一本置きのミシン目が第2枚目のペーパーコア用シートの糊代部側のミシン目に対して糊代部の幅の分だけ一側かつ平行にずれることはない。既に述べたように、複数枚のペーパーコア用シートは構成が全て同一なので、各ペーパーコア用シートの裏面をその下側のペーパーコア用シートに接着すると、上側のペーパーコア用シートの多数本のミシン目は、ずれないで、整合する。よって、この記載は発明の構成に欠くことができない事項を記載しているとは到底云えない。

(2) 更に、特許請求の範囲の第四工程には、「該ペーパーコア用シートを上方より押圧して接着力の安定を図る」とあるが(同公報第1欄第3行~第4行)、この技術事項は発明の詳細な説明にも図面にも対応する記載がなく、この記載も、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならないとする特許法第36条第5項の要件を満たしていない。

2-2、被請求人の答弁

2-2-1、特許法第36条第4項に規定する要件について

(1) 本件特許発明の芯材における上方から接着するペーパーコア用シートの裏面は、下方のペーパーコア用シートの表面に対し、それと対向する面を裏面と解するを相当とし、請求人のようにペーパーコア用シートを裏返すから「表面である」という短絡的な主張は失当である。

(2) 本件特許発明における「引き揃える」とは、シート1の折目2と折目2を糊代部3の幅の分だけずらして接着するために、裏返して引揃えることを行うのであり、単にペーパーコア用シートの外縁を整合させるためにのみ行うものでなく、ペーパーコア用シートを裏返えせば、糊代部の位置は必然的に裏返えす前と逆側に位置すること明らかであり、「ペーパーコア用シートは第1枚目も、第2枚目も糊代部が同じ位置にある」とする請求人の主張は失当である。

2-2-2、特許法第36条第5項に規定する要件について

(1) 発明の詳細な説明には、「次にこれらのペーパーコア用シート1の多数枚のうち第2図に示すようにその第1枚目のペーパーコア用シート1aの糊代部3に接着剤を塗布し、第2枚目のペーパーコア用シート1bの多数本の折目2のうち1本置きの折目2を第1枚目のペーパーコア用シート1aの糊代部3側の折目2に対して糊代部3の幅の分だけ一側(図面上右側)にかつ平行に位置をずらして第2枚目のペーパーコア用シート1bの裏面を第1枚目のペーパーコア用シート1aの糊代部3に接着する。以下上記の工程を反復して第3枚目以下のペーパーコア用シートを順次積重ね接着させる。その要領は第1枚目のペーパーコア用シート1aに接着させた第2枚目のペーパーコア用シート1bの表面における糊代部3に接着剤を塗布し、ついで第4枚目のペーバーコア用シート1dを上記の第2枚目のペーパーコア用シート1bを第1枚目のペーパーコア用シート1aに接着させた場合と同様に多数本の折目2のうち1本置きの折目2を第3枚目のペーパーコア用シート1cの糊代部3側の折目2に対して糊代部3の幅の分だけ一側かつ平行に位置をずらして第4枚目のペーパーコア用シート1dの裏面を第3枚目のペーパーコア用シート1cの糊代部3に接着する。」と記載され(公報第1頁第2欄第25行~第2頁第3欄第12行)、

また「なお上記の工程においてシート1の折目2と折目2を糊代部3の幅だけずらして接着するには、第1枚目のペーパーコア用シート1aに対して第2枚目のペーパーコア用シート1bを裏返して引揃えた上接着しさえすればよい。」と記載しており(第2頁第3欄第25~29行)、

この記載内容は、第1枚目のペーパーコア用シート1aに対する第2枚目のペーパーコア用シート1bの接着の仕方を説明し、これを繰り返して第3枚目のペーパーコア用シート1cと第4枚目のペーパーコア用シート1dを順次接着して多数枚のペーパーコア用シート1の積層体である芯材を作ること、さらに、第1枚目のペーパーコア用シート1aと第2枚目のペーパーコア用シート1bを接着した積層体と、第3枚目のペーパーコア用シート1cと第4枚目のペーパーコア用シート1dを接着した積層体から、多数枚のペーバーコア用シート1の積層体である芯材の作り方の説明であるものと解することができる。

そして、参考第2図(乙第2号証)に示すように、前記2体の積層体における配列された方形のコアを、明細書の第4図に示す如く、配列させるように2体の積層体を重ね合わせて接着させると、2体の積層体における第2枚目のペーパーコア用シート1bと、第3枚目のペーパーコア用シート1cとのオーバーラップ個所A(糊代部3に相当)が接着個所となり、かつ伸張可能である多数のペーパーコア用シート1から構成される芯材が形成されるのである。

上述の通り、本件特許発明のペーパーコアによる芯材の製造方法は、伸張可能な芯材が製造できることは明白であり、かかる発明の詳細な説明に記載した発明の構成に関する事項によって、本件特許発明の構成要件は技術的に支持されており、これを妨げる理由はない。

(2) 本件特許発明の明細書には、「以下上記の工程を反復して第3枚目以下のペーパーコア用シートを順次積重ね接着させる。」と記載され(公報第1頁第2欄第36行~第38行)、このことは、多数枚に積み重ねられた下方側のペーパーコア用シートには、上方側のペーパーコア用シートの自重によって上方より押圧力が加わっていると解するのが自然の理であり、当業者であればこの内容を理解することは容易にでき、よって本件特許発明の上記構成要件は、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に関する事項によって、技術的に支持されているのである。

3、 当審の判断

なお、本件特許は平成3年10月28日に訂正審判請求がなされ、平成6年8月18日に訂正請求成立せずの審決がなされた。この審決の要点は次のとおりである。

『(1)訂正明細書は、奇数枚目のペーパーコア用シートの折目と糊代部の位置関係を訂正第2図に示す位置関係、すなわち、奇数枚目のペーパーコア用シートの折目に対して偶数枚目のペーパーコア用シートの折目を糊代部の幅だけ一側(右側)にずらし、かつ、奇数枚目のペーパーコア用シートの折目に対して偶数枚目のペーパーコア用シートの糊代部を設ける折目を折目一つ分だけ一側にずらし、さらに偶数枚目のペーパーコア用シートの糊代部をその折目に対して反対側(図面上左側)にずらすという位置関係を前提として、第1枚目~第4枚目のペーパーコア用シートを糊代部の幅の分だけ順次一側にずらして積層すると説明しているものと解されるが、この訂正明細書の説明では、奇数枚目のペーパーコア用シートの折目に対して偶数枚目のペーパーコア用シートの糊代部を設ける折目を折目一つ分だけ一側にずらし、さらに偶数枚目のペーパーコア用シートの糊代部をその折目に対して反対側(図面上左側)にずらすことにはならないのであるから、訂正明細書の当該説明が訂正第2図と整合しないことは上述のとおりである。

(2) さらに、訂正第2図を知った上でこれとの一致点を見出すべく現第2図を注視すれば、奇数枚目のペーパーコア用シートの折目に対して偶数枚目のペーパーコア用シートの折目を糊代部の幅の分だけ一側(右側)にずらし、さらに偶数枚目のペーパーコア用シートの糊代部をその折目に対して反対側にずらすことを現第2図、第3図から窺い知ることはできるとしても、このことは現明細書には全く説明されていない事項であり、むしろ、上記の現明細書の説明と一致しない事項である。

(3) さらに、奇数枚目のペーパーコア用シートの折目に対して偶数枚目のペーパーコア用シートの糊代部を設けた折目を折目一つ分だけ一側にずらすことについては、現明綱書および現第2図、第3図のいずれにも全く記載されていない事項でちり、またこれらから窺い知ることもできない事項である。

(4) 訂正第2図および訂正明細書によって新たに明らかにされた上記事項が現明細書および現図面の記載から窺うこともできない事項である以上、これらの訂正は現明細書に説明された技術内容、第2図に示し、かつこれを参酌しつつ現明細書に記載した技術内容を全く変更するものであって、明細書または図面の明瞭でない記載の釈明の範囲を著しく越えた補正であるという外はない。

ゆえに、本訂正は、特許法第126条第1項第3号の「明瞭でない記載の釈明」には当たらず、同項第1号の「特許請求の範囲の減縮」、同項第2号の「誤記の訂正」にも当たらない。』

以上が本件特許の訂正審決の要点である。

また、本件特許明細書の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。

『(1)クラフト紙等の丈夫な紙を一定寸法の方形状に切断してペーパーコア用シートを多数枚形成せしめる第一工程と、

該ペーパーコア用シートに一定間隔の平行なミシン目を刻設せしめる第二工程と、

第1枚目のペーパーコア用シートの多数本のミシン目のうち一本置きのミシン目の一側に糊代部を形成すると共に該糊代部に接着剤を塗布し、第2枚目のペーパーコア用シートの多数本のミシン目のうち一本置きのミシン目を第1枚目のペーパーコア用シートの糊代部側のミシン目に対して糊代部の幅の分だけ一側かつ平行に位置をずらして第2枚目のペーパーコア用シートの裏面を第1枚目のペーパーコア用シートの糊代部に接着し、以下同様に第3枚目以上の各ペーパーコア用シートを下方のペーパーコア用シートの糊代部に接着して多層のペーパーコア用シートを形成せしめる第3工程と、

該ペーパーコア用シートを上方より押圧して接着力の安定を図る第4工程より成ることを特徴とするペーパーコアによる芯材の製造方法。

(2) 特許請求の範囲第1項において、多数枚のペーパーコア用シートを接着させた後、一定の幅によりペーパーコア用シートのミシン目と直角方向に切断せしめる様にしたことを特徴とするペーパーコアによる芯材の製造方法。』

次いで、無効審判諸求の理由について考察する。3-1、上記2-1-1、(1)について

本件発明の詳細な説明には、折目2と糊代部3に関して、「そして多数本の折目2のうち1本置きの折目2の一側にその折目2に沿って一定の幅による糊代部3を形成してなるペーパーコア用シート1の多数枚を設ける。」と記載している(公報第1頁第2欄第22~25行)。

そして、第三工程の説明として、「次にこれらのペーパーコア用シート1の多数枚のうち第2図に示すようにその第1枚目のペーパーコア用シート1aの糊代部3に接着剤を塗布し、第2枚目のペーパーコア用シート1bの多数本の折目2のうち1本置きの折目2を第1枚目のペーパーコア用シート1aの糊代部3側の折目2に対して糊代部3の幅の分だけ一側(図面上右側)にかつ平行に位置をずらして第2枚目のペーパーコア用シート1bの裏面を第1枚目のペーパーコア用シート1aの糊代部3に接着する。」と記載している(公報第1頁第2欄第25~35行)。

この記載に従うと、ペーパーコア用シート1a、1bは折目の一側にそれぞれ糊代部が設けられているので、第2枚目のペーパーコア用シート1b全体を糊代部3の幅の分だけ一側(図面上右側)にかつ平行にずらして、第2枚目のペーパーコア用シート1bの裏面を第1枚目のペーパーコア用シート1aの糊代部3に接着すると、第1枚目のペーパーコア用シート1aに対して第2枚目のペーパーコア用シート1bの折目2および糊代部3は糊代部3の幅の分だけ一側(図面上右側)にかつ平行にずれることになる。このことは、第1枚目のペーパーコア用シート1aの糊代部と第2枚目のペーパーコア用シート1bの糊代部とは重ならないことになり、第2図の図示と相違することになる。

また、ペーパーコア用シート1a、1bの糊代部3が設けちれている側を表面とし、第2枚目のペーパーコア用シート1b全体をずらさないとすると、第1枚目のペーパーコア用シート1aの表面の糊代部3に接着剤を塗布し、表面を向けている第2枚目のペーパーコア用シート1bに多数本の折目2のうち1本置きに糊代部3の幅の分だけ一側(図面上右側)にかつ平行に位置をずらして新たに折目2を形成して、第2枚目のペーパーコア用シート1bの裏面を第1枚目のペーパーコア用シート1aの糊代部3に接着することになり、第2図の図示と同じことになる。

しかし、その具体的なずらし方として、「なお上記の工程においてシート1の折目2と折目2を糊代部3の幅だけずらして接着するには、第1枚目のペーパーコア用シート1aに対して第2枚目のペーパーコア用シート1bを裏返して引揃えた上接着しさえすればよい。」と記載している(第2頁第3欄第25~29行)。

この記載に基づけば、第1枚目のペーパーコア用シート1aの表面の糊代部3に接着剤を塗布し、表面を向けている第2枚目のペーバーコア用シート1bを裏返して上記第1枚目のペーパーコア用シート1aの表面に接着することになる。これにより、第1枚目のペーパーコア用シート1aと第2枚目のペーパーコア用シート1bとは折目を糊代部3の幅の分だけ一側(図面上右側)にかつ平行に位置をずらして表面同士が糊代部3で接着され、糊代部3を挟んで折目2が左右に位置することになる。すなわち、第2枚目のペーパーコア用シート1bを裏返せば、糊代部に対する折目2の位置は必然的に裏返す前と逆側に位置することは明らかであり、第2図に図示されるように第1枚目のペーパーコア用シート1aの折目2は糊代部3の左側に、第2枚目のペーパーコア用シート1bの折目2は糊代部3の右側に位置し、第1枚目のペーパーコア用シート1aの糊代部3で接着されることになる。

そうすると、上記「第2枚目のペーパーコア用シート1bの裏面を第1枚目のペーパーコア用シート1aの糊代部3に接着する」とは、糊代部が設けられている側の第2枚目のペーパーコア用シート1bを裏返して糊代部が設けられている側同士を接着すると云うことになる。

請求人は糊代部が設けられている側を「表面」とし、「表面」を向けている第2枚目のペーパーコア用シート1bを裏返して第1枚目のペーパーコア用シート1aの「表面」の糊代部3に接着するするのであるから、第1枚目のペーパーコア用シートの「表面」に接着される第2枚目のペーパーコア用シートの一面は「裏面」でなく、「表面」であると主張している。

しかし、発明の詳細な説明には糊代部が設けられている側を「表面」としなければならない記載はなく、「表面」又は「裏面」の表現は相対的に決定されるものであり、糊代部が設けられている側の第2枚目のペーパーコア用シート1bにおいて第1枚目のペーパーコア用シート1aの糊代部3に接着される側を「裏面」と定義しても、その接着内容自体が変更されるものでなく、また発明の詳細な説明の記載が不明瞭になるとも認められない。

3-2、上記2-1-1、(2)について

第2枚目のペーパーコア用シート1bは第1枚目のペーパーコア用シート1aに接着される側を「裏面」と表現しており、第1枚目のペーパーコア用シート1aに接着されない側は反対の「表面」となる。第1枚目のペーパーコア用シート1aの糊代部3に接着される側を「裏面」とすると、第1枚目のペーパーコア用シート1aの表面の糊代部3に接着剤を塗布し、第2枚目のペーパーコア用シート1bを裏返して折目を糊代部3の幅の分だけ一側(図面上右側)にかつ平行に位置をずらして、上記第1枚目のペーパーコア用シート1aに第2枚目のペーパーコア用シート1bの「裏面」を接着することになる。この際に、引揃え接着操作として、第1枚目のペーパーコア用シート1aと裏返した第2枚目のペーパーコア用シート1bの外縁を整合させることによって、第2枚目のペーパーコア用シート1bのすべての折目を糊代部3の幅の分だけ一側(図面上右側)にかつ平行に位置をずらすことができるものである。

これにより、第1枚目のペーパーコア用シート1aと第2枚目のペーパーコア用シート1bとは第1枚目のペーパーコア用シート1aの糊代部3で接着され、糊代部3を挟んで折目2が左右に位置することになる。すなわち、第2枚目のペーパーコア用シート1bを裏返せば、糊代部に対する折目2の位置は必然的に裏返す前と逆側に位置することは明らかであり、第2図に図示されるように第1枚目のペーパーコア用シート1aの折目2は糊代部3の左側に、第2枚目のペーパーコア用シート1bの折目2は糊代部3の右側に位置し、第1枚目のペーパーコア用シート1aの糊代部3で接着されることになる。

以下、上記の工程を反復して第3枚目以下のペーパーコア用シート1を順次積み重ね接着させると、第3枚目のペーパーコア用シート1cの表面の糊代部3に接着剤を塗布し、第4枚目のペーパーコア用シート1dを裏返して引揃えた上で上記第3枚目のペーパーコア用シート1cの糊代部に接着することになる。このことは発明の詳細な説明で「ついで第4枚目のペーパーコア用シート1dを上記の第2枚目のペーパーコア用シート1bを第1枚目のペーパーコア用シート1aに接着させた場合と同様に多数本の折目2のうち1本置きの折目2を第3枚目のペーパーコア用シート1cの糊代部3側の折目2に対して糊代部3の幅の分だけ一側かつ平行に位置をずらして第4枚目のペーパーコア用シート1dの裏面を第3枚目のペーパーコア用シート1cの糊代部3に接着する。」と記載していることより明らかである(公報第2頁第3欄第3~12行)。

このようにして、第1枚目と第2枚目、第3枚目と第4枚目を接着させたペーパーコア用シートの積層体が得られるが、第2枚目と第3枚目のペーパーコア用シート1の接着に関しては、発明の詳細な説明では、「その要領は第1枚目のペーパーコア用シート1aに接着させた第2枚目のペーパーコア用シート1bの表面における糊代部3に接着剤を塗布し、」と記載しており(公報第1頁第2欄末行~第2頁第3欄第3行)、この記載より、第2枚目のペーパーコア用シート1bの「表面」、すなわち第1枚目のペーパーコア用シート1aに接着される側は「裏面」であるから、その反対側の「表面」の糊代部3に接着剤を塗布することは明らかである。しかし、第2枚目のペーパーコア用シート1bの「表面」に糊代部3を設けること、すなわち第2枚目のペーパーコア用シート1bの表面および裏面に糊代部3を設けることはこの記載以外に発明の詳細な説明には記載されておらず、不明瞭とも云えるものである。けれども、第2枚目のペーパーコア用シート1bの「表面」を第3枚目のペーパーコア用シート1cの裏面に接着できるように、第2枚目のペーパーコア用シート1bの「表面」には、糊代部3が設けなければならないことは発明の目的の記載からして明らかなことである。そして、第2枚目のペーパーコア用シート1bの「表面」の糊代部を裏返しの裏面と同じ折目の位置に設けるとすれば、糊代部の位置は表裏で一致することになり、積重ねた第1枚目のペーパーコア用シート1aの糊代部と裏返した第2枚目のペーパーコア用シート1bの糊代部とが直線的に重なり、積層した芯材は伸張しないことは自明のことである。しかし、この「表面」の糊代部の位置は発明の詳細な説明には明確に記載されていないが第4図から当業者であれば確実に読み取ることができるものである。

すなわち、第4図に図示されている右上がりの糊代部3と左上がりの糊代部3との関係を参照すると、第1枚目のペーパーコア用シート1aの糊代部3(左上がりの糊代部3)の隣に、第2枚目のペーパーコア用シート1bの糊代部3(右上がりの糊代部3)を設けることが明らかである。特に、第4図の右側の番号3で示されている2つの糊代部3が隣同士の関係になっていることが解る。このことは第1枚目のペーパーコア用シート1aの糊代部3と裏返した第2枚目のペーパーコア用シート1bの糊代部3とは折目一つ分だけ一側にずれた折目2に位置し、かつ第1枚目のペーパーコア用シート1aの折目2と裏返した第2枚目のペーパーコア用シート1bの折目2とは糊代部の幅の分だけ一側にずれて位置することも読みとれる。したがって、第1枚目、裏返した第2枚目、第3枚目、裏返した第4枚目の各ペーパーコア用シート1の糊代部3は直線的に整合しないことも明らかである。

そして、第2枚目のペーパーコア用シート1bの「表面」に第3枚目のペーパーコア用シート1cの裏面を接着すると、第2枚目のペーパーコア用シート1bと第3枚目のペーパーコア用シート1cとは第2枚目のペーパーコア用シート1bの糊代部3で接着され、糊代部3を挟んで折目2が左右に位置する。すなわち、第2枚目のペーパーコア用シート1bを裏返せば、糊代部に対する折目2の位置は必然的に裏返す前と逆側に位置し、第2枚目のペーパーコア用シート1bの折目2は糊代部3の右側に、第3枚目のペーパーコア用シート1cの折目2は糊代部3の左側に位置し、第2枚目のペーパーコア用シート1bの糊代部3で接着されることになる。

上記の操作を順次繰り返すことによって、第1枚目、裏返した第2枚目、第3枚目、裏返した第4枚目の各ペーパーコア用シート1の糊代部3が接着されることになり、奇数枚目のペーパーコア用シートの糊代部と裏返した偶数枚目のペーパーコア用シートの糊代部とは折目一つ分だけ一側にずれているので、伸張させたときに菱形状のコアが形成される芯材ができることは明らかである。

3-3、上記2-1-2、(1)について

特許請求の範囲の第三工程の前半部分で第1枚目のペーパーコア用シートと第2枚目のペーバーコア用シートとの接着について述べており、第三工程の後半部分には「以下同様に第3枚目以下の各ペーパーコア用シートを下方のペーパーコア用シートの糊代部に接着して多層のペーパーコア用シートを形成せしめる」と記載して(公報第1頁第1欄第30~32行)、第3枚目以下のペーパーコア用シートの接着について述べている。

この記載によると、第3枚目のペーパーコア用シートは下方のペーパーコア用シート、すなわち第2枚目のペーパーコア用シートの糊代部に接着することは明らかであり、以下同様に第4枚目のペーパーコア用シートは第3枚目のペーパーコア用シートの糊代部に接着されることも明らかである。そして、糊代部の位置の関係については、上記3-2、で説明したように裏返した第2枚目のペーパーコア用シートは、第1枚目のペーパーコア用シートの糊代部を設けるミシン目一つ分だけ一側にずらしたミシン目の「表面」に糊代部を設けることが第4図より明らかであり、かつ第3枚目のペーパーコア用シートの糊代部ともミシン目一つ分だけ一側にずれていることも明らかである。

なお、このことは上記3-2、のところですでに折目2と糊代部3の関係として説明していることであり、発明の詳細な説明の「この折目2には折目2が確実にかつ成形し易くするためミシン穴を多数設けることがよい。」の記載より(公報第1頁第2欄第20~22行)、折目とミシン目とは同一のものであることは明らかである。

そして、特許請求の範囲の第三工程の後半部分の「以下同様に第3枚目以下の各ペーパーコア用シートを下方のペーパーコア用シートの糊代部に接着して多層のペーパーコア用シートを形成せしめる」の記載だけでは不明瞭とも云えなくはないが、発明の詳細な説明の記載を参酌することにより、第3枚目のペーパーコア用シートを下方のペーパーコア用シート、すなわち裏返した第2枚目のペーパーコア用シート、の「表面」の糊代部に接着すると、糊代部がミシン目一つ分だけ一側にずれて接着され、以下同様に順次第4枚目、第5枚目・・・と接着して行くと、偶数枚目のペーパーコア用シートが裏返しにされ、奇数枚目のペーパーコア用シートの糊代部と偶数枚目のペーパーコア用シートの糊代部とは第4図に図示されたようにミシン目一つ分だけ一側にずれて接着されることになるので、伸張させたときに菱形状のコアが形成される芯材ができることが明ちかであるから、上記特許請求の範囲の構成は明細書および図面の記載を参酌することにより充分把握できるものである。

3-4、上記2-1-2、(2)について

特許請求の範囲の第四工程には、「該ペーパーコア用シートを上方より押圧して接着力の安定を図る」とあるが、この技術事項は発明の詳細な説明にも図面にも対応する記載がないことは明らかである。

そして、多数枚に積み重ねられた下方側のペーパーコア用シートには、上方側のペーパーコア用シートの自重によって上方より押圧力が加わっていると解することもできるが、これによって接着力の安定を図ることができるものとは認められない。

しかし、紙材料の接着において、糊代部を押圧して接着力の安定を図る工程を設けることは当業者が普通に行っている慣用技術であり、かつ明細書に記載されているに等しい技術的事項である。

また、発明の詳細な説明にも図面にも対応する記載がない慣用技術を特許請求の範囲に記載して、発明の構成に欠くことのできない事項としても、特段の不都合を生じるものとは認められない。

4、むすび

以上のとおりであるから、本件特許明細書の記載が、特許法第36条第4項の規定、同条第5項の規定に著しく違背するものとは云えない。

よって、結論のとおり審決する。

平成9年2月7日

審判長 特許庁審判官

特許庁審判官

特許庁審判官

別紙2

<省略>

別紙3

1 1枚目のシートについては、1本置きのミシン目(別紙では、1-a、1-c、1-e)の一側(例えば、別紙では右側。1枚目のシートでミシン目の左側に糊代部を形成した場合には、以後、左右が逆になるだけである。)に糊代部を形成するとともに該糊代部に接着剤を塗布する。2枚目のシートを糊代部の幅(別紙ではAの幅)だけ1枚目のシートで糊代部を形成した方向(別紙では右側)に平行にずらして、1枚目のシートに重ねて貼る。

2 2枚目のシートの糊代部は、1枚目で糊代部を形成しなかったミシン目に対応するミシン目(別紙では2-b、2-d)の1枚目のシートで糊代部を形成した側と反対側(別紙では、左側)に形成するとともに該糊代部に接着剤を塗布する。3枚目のシートを、糊代部の幅(別紙ではAの幅)だけ2枚目のシートで糊代部を形成した方向(別紙では左側)に平行にずらして、2枚目のシートに重ねて貼る。

3 3枚目のシートの糊代部は、2枚目で糊代部を形成しなかったミシン目に対応するミシン目(別紙では3-a、3-c、3-e)の2枚目のシートで糊代部を形成した側と反対側(別紙では、右側)に形成する(3枚目のシートの糊代部形成位置は、1枚目のシートの糊代部形成位置と同じとなる。)とともに該糊代部に接着剤を塗布する。4枚目のシートを、糊代部の幅(別紙ではAの幅)だけ3枚目のシートで糊代部を形成した方向(別紙では右側)に平行にずらして、3枚目のシートに重ねて貼る。

4 4枚目のシートの糊代部は、3枚目で糊代部を形成しなかったミシン目に対応するミシン目(別紙では、4-b、4-d)の3枚目のシートで糊代部を形成した側と反対側(別紙では、左側)に形成する(4枚目のシートの糊代部形成位置は、2枚目のシートの糊代部形成位置と同じとなる。)。

以下、上記と同様に、5枚目以下のシートを重ねて貼っていく。

以上

<省略>

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