大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成9年(行ケ)5号 判決 1999年6月08日

神奈川県川崎市多摩区東生田1丁目13番3号

原告

株式会社ゼウス

代表者代表取締役

町山友義

東京都千代田区大手町1丁目2番1号

原告

株式会社ゼウス

代表者代表取締役

吉田八郎

原告ら訴訟代理人弁理士

瀬戸昭夫

成合清

アメリカ合衆国55113 ミネソタ州 ローズビル ウォルナット ストリート 2359 ビルディング 2 エントランス 8

被告

マイクロン エレクトロニクス インコーポレーテッド

代表者

スチーブン アール アプルトン

主文

1  特許庁が平成5年審判第3414号事件について平成8年11月11日にした審決を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。

事実及び理由

1  原告らは、主文1、2の項と同旨の判決を求め、請求の原因として次のとおり述べた。

(1)  特許庁における手続の経緯

原告らは、別紙の構成よりなり、商品区分(平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令の区分による。)第11類の「電気機械器具、電気通信機械器具、電子応用機械器具、電気材料」を指定商品とする商標登録第1423589号商標(昭和52年5月4日に商標登録出願、昭和55年6月27日に商標権設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者である。被告は、原告らを被請求人として、平成5年2月17日に本件商標の指定商品中「電子応用機械器具」についての商標登録の取消しの審判を請求したところ、特許庁は、同請求を平成5年審判第3414号事件として審理した結果、平成8年11月11日に「登録第1423589号商標の指定商品中「電子応用機械器具」についてはその登録は、取り消す。」旨の審決をし、その謄本を同年12月11日に原告らに送達した。

(2)  審決の理由

別紙審決書の理由の写のとおりである。

(3)  審決の取消事由

イ  審判の請求の登録の日である平成5年4月6日の前3年以内に、日本国内において、本件商標の通常使用権者である株式会社三菱総合研究所が、「電子応用機械器具」に含まれる商品「電子計算機用のプログラムを記憶させた磁気テープ」について、本件商標と社会通念上同一と認められる「ZEUS-Ⅱ」の商標を使用していた。

ロ  審判の請求の登録の日である平成5年4月6日の前3年以内に、日本国内において、本件商標の商標権者である神奈川県川崎市所在の原告株式会社ゼウスが、「電子応用機械器具」に含まれる「半導体素子」の一種である「光半導体素子」に含まれている「発光ダイオード」の集合体である商品「LED表示板」について、本件商標と社会通念上同一と認められる「ZEUS」の商標を使用していた。

ハ  よって、商標権者、通常使用権者が、審判の請求の登録前3年以内に、日本国内において本件商標を請求に係る指定商品「電子応用機械器具」に使用していなかったとして、これについての本件商標の登録を取り消した審決の認定判断は、違法であるから、取り消されるべきである。

2  被告は、適式の呼出しを受けながら、本件口頭弁論期日に出頭しないし、答弁書その他の準備書面も提出しないから、請求原因事実を自白したものとみなされる。

3  以上の事実によれば、審決には原告ら主張の違法があると認められるところ、この違法は審決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。よって、原告らの本訴請求は、理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担並びに上告及び上告受理の申立てのための付加期間の付与について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日・平成11年5月11日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)

別紙

商標出願公告 昭54-39358

公告 昭54.11.5

商願 昭52-30006

出願 昭52.5.4

出願人 株式会社ゼウス

川崎市多摩区生田4468番地

代理人 弁理士 鈴江武彦 外2名

指定商品 11 電気機械器具、電気通信機械器具、電子応用機械器具、電気材料

<省略>

理由

1.本件登録第1423589号商標(以下「本件商標」という。)は、「ZEUS」の文字を横書きしてなり、昭和52年5月4日に登録出願、第11類「電気機械器具、電気通信機械器具、電子応用機械器具、電気材料」を指定商品として、昭和55年6月27日に設定登録、その後、平成2年6月27日に商標権の存続期間の更新登録がなされたものである。

2.請求人は、結論同旨の審決を求め、その理由及び答弁に対する弁駁を次のように述べ、証拠方法として甲第1号証乃至同第4号証を提出している。

(1)本件商標は、その指定商品中「電子応用機械器具」について継続して3年以上日本国内において、登録権利者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが使用していないから、上記商品について商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきである。

(2)請求人は、「ZEOS」の文字を横書きしてなる商標の商標登録出願を行ったが、この出願に対して本件商標を引用する拒絶理由通知が発送された。したがって、請求人は、本件商標が取り消されなければ上記出願が拒絶されるので、本件審判の請求について利益を有している。

(3)被請求人の答弁に対し以下弁駁する。

被請求人の提出した証拠は、極めて不自然であり、証拠として不十分である。

<1> 甲第1号証をもって、被請求人は株式会社三菱総合研究所(以下「通常使用権者」という。)がパンフレットに使用していたとの主張及び証拠を提出しているが、パンフレットの作成年月日、配布年月日、何時・誰に配布したか不明であるから、証拠能力を有しない。

また、使用していると主張する商標の態様が本件商標の態様と著しく異なっており、仮に証拠能力を有しても本件商標を使用しているとはいえない。

<2> 甲第2号証の「緑化計画作成支援システムの開発・報告書」は、広告、宣伝、商品そのものではないから、この中に記載されていても、それは商標の使用に該当しない。

<3> さらに被請求人は、電子計算機用プログラムを記憶させた磁気テープに「ZEUS-Ⅱ」を付した現物の写真を提出しているが、商品の状態、中身を認識することができない。このため、この写真では証拠能力がない。また、本件商標を付した該磁気テープを通常使用権者が販売したことで使用を主張しているが、この商品が販売された事実が証明されていない。

(4)以上のとおりであるから、本件商標は、指定商品中「電子応用機械器具」について商標法第50条第1項の規定により取り消されるべきである。

3.被請求人は、本件審判の請求は、成り立たない、との審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べ、証拠方法として乙第1号証乃至同第4号証を提出している。被請求人は、甲号証として証拠を提出しているが、乙号証の誤記と認められるので、以下乙号証として処理する。

(1)通常使用権者が、本件商標と相互に連合商標となっている登録第2159644号商標(商標「ZEUS」、指定商品、第11類「電気機械器具、電気通信機械器具、電子応用機械器具、電気材料」、以下「本件連合商標」という。)を、本件審判請求の登録前3年以内に、請求に係る指定商品中の「電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路、磁気ディスク、磁気テープ」について使用していたものである。

(2)乙第1号証は、通常使用権者と情報処理振興事業協会が頒布した電子計算機用プログラム「エキスパート・システム構築用ツール」に関するパンフレットであるが、その表紙及び裏表紙に本件連合商標が表示され、また、説明文中にも本件連合商標が表示されている。

乙第2号証は、平成3年に株式会社関西総合環境センターより出された「緑化計画作成支援システムの開発研究・報告書(平成2年度下期)」であるが、同報告書は、昭和63年10月から平成3年3月にかけて開発研究された緑化計画作成支援システムの報告であり、同報告書中「要約」の「3.調査研究」の項には「平成2年度上期において各システムの改良および土壌改良サブシステム、概算見積サブシステムの検討を行い、下期はそれぞれのシステムを作成した」旨記載され、「(4)景観シミュレーションサブシステム」の項中には「これに従って「ZEUS-Ⅱ」上で持たせていた属性データベースを・・・」のごとく記載され、また、19頁の「3.2ソフトウェア構成」の項には「AI構築用ツールとして「ZEUS-Ⅱ」を使用する。」とあり、「3.2.1」の項の見出しは本件商標である「ZEUS-Ⅱ」であって、そこには、「通常使用権者で開発されたAI用ツール・・・」とあり通常使用権者が開発した電子計算機用プログラムが使用されていることが明記されており、さらに「3.2.3インターフェース」の項には、「ZEUS-ⅡとTEO/3Dとの間で・・・」と記載されていることからして、少なくとも平成2年度(平成2年4月より同3年3月)中には本件連合商標を付した「軍子計算機用プログラムを記憶させた電子回路、磁気ディスク、磁気テープ」が株式会社関西総合環境センターに販売され使用されていたことは明らかである。

甲第3号証は、昭和61年4月に、本件商標に関し被請求人と通常使用権者の間で交わされた通常使用権許諾契約書であるが、これによれば、該商標の指定商品中の「電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路、磁気ディスク、磁気テープ」について使用許諾がなされていることが明らかである。

さらに、甲第4号証(通常使用権者が販売している電子計算機用プログラムを記憶させた磁気テープ「ZEUS-Ⅱ」の実物写真)により、本件商標が該磁気テープについて使用されていたことを立証する。

したがって、被請求人の提出した、甲第1号証乃至同第4号証によって、本件連合商標が通常使用権者により日本国内において本件審判の請求の登録の日前3年以内に、請求に係る指定商品「電子応用機械器具」中の「電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路、磁気ディスク、磁気テープ」について使用されていたものである。

4.よって判断するに、被請求人の提出に係る乙各号証のうち、まず乙第1号証は、被請求人が「電子計算機用プログラム「ZEUS-Ⅱ」パンフレット」と述べるものであり、その表紙に「時間をとらえた神話」「ハイブリット型エキスパート・システム構築用ツール」と共に「ZEUS-Ⅱ」の記載が認められる。しかしながら、該パンフレットは、作成年月日、作成部数等が不明なものであって、請求人が、パンフレットの作成年月日、配布年月日等が不明であり証拠能力を有しない旨述べたにもかかわらず、被請求人はこれらを明らかにせず、また、これらについて何らの資料も提出しない。

次に乙第2号証をみるに、これは「緑化計画作成支援システムの開発研究・報告書」であり、これには、被請求人が述べる如く「・・・これに従って「ZEUS-Ⅱ」上で持たせていた属性データベースを・・・」「AI構築用ツールとして「ZEUS-Ⅱ」を使用する。」「ZEUS-Ⅱ通常使用権者で開発されたAI用ツール・・・」「ZEUS-ⅡとTEO/3Dとの間で・・・」等「ZEUS-Ⅱ」に関する記述があるが、同報告書は単なる私文書であって、これらの記述を裏付ける何らの資料もないものであるから、これをもって、本件商標を付した「電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路、磁気ディスク、磁気テープ」が販売され使用されていたことを証明し得るものということはできない。

また、乙第4号証については、被請求人は、電子計算機用プログラムを記憶させた磁気テープ「ZEUS-Ⅱ」の実物写真であると述べる。しかしながら、同写真の被写体の商品には、「ZEUS-Ⅱ」「平成3年3月」「株式会社三菱総合研究所」等のラベルが貼付されているとみられるものの、「電子計算機用プログラムを記憶させた磁気テープ」と認定し得る表示は何ら見出せず、しかも写真は一葉のみであり、その商品の形象から見ても該磁気テープとは断定し難いものである。それに加え、商品の状態、中身を認識することができず、この写真では証拠力がない旨請求人が述べたにもかかわらず、被請求人はこれについて何らの資料も提出していない。

そうとすれば、乙第3号証により「株式会社三菱総合研究所」が通常使用権者であると認められるものの、上記乙各号証を総合勘案しても、本件審判請求の登録前3年以内に、「電子計算機用プログラムを記憶させた電子回路、磁気ディスク、磁気テープ」について本件連合商標が使用されていたものと認めるに足るものとは判断し難いから、結局、商標権者、専用使用権者及び通常使用権者のいずれもが、本件審判請求の登録前3年以内に、本件商標及び本件連合商標のいずれについても、請求に係る指定商品「電子応用機械器具」に使用していなかったものといわざるをいない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例