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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)65号 判決 1998年10月13日

愛知県名古屋市港区小碓2丁目148番地

原告

株式会社効率技術研究所

代表者代表取締役

池上巖

東京都豊島区東池袋3丁目21番18号

第一笠原ビル3階5号

原告

協進工業株式会社

代表者代表取締役

島地祐三

原告両名訴訟代理人弁理士

豊田武久

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 伊佐山建志

指定代理人

後藤正彦

田中弘満

小池隆

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告ら

「特許庁が平成8年審判第7502号事件について平成9年2月19日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告らは、平成4年12月10日、名称を「搬送設備における物品滞留装置および物品滞留方法」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(平成4年特許願第352668号)をしたが、平成8年4月3日拒絶査定を受けたので、同年5月16日拒絶査定不服の審判を請求した。特許庁は、この請求を平成8年審判第7502号事件として審理した結果、平成9年2月19日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年3月10日原告らに送達された。

2  本願特許請求の範囲請求項1に記載された発明(以下「本願請求項1の発明」という。)の要旨

装置外部から複数の物品を順次搬入可能でかつ装置外部へ複数の物品を順次搬出可能となるように複数のローラを水平方向に配列してなるローラコンベヤユニットと、物品を水平に載置し得る載置部を有しかつ水平面内で矩形状に連続する部分を備えた複数のラックユニットと、その複数のラックユニットを水平状態に保ったまま上下に所定間隔を置いて吊上げるため、各ラックユニットにおける水水平面内で矩形状に連続する部分の4隅付近に取付けられた全体として可撓性を有する少なくとも4本のチェーンもしくは条体からなる吊上げ部材と、その吊上げ部材を昇降させるための昇降駆動装置とを有し、前記複数のラックユニットが、吊上げ部材における上下に所定間隔を置いた位置に取付けられており、しかも前記ローラコンベヤユニットおよびラックユニットは、ラックユニットを、その載置部がローラコンベヤユニットのローラに干渉することなくローラ間をくぐり抜けてローラコンベヤユニットのローラ面より下方の位置と上方の位置との間で昇降させ得るように構成されていることを特徴とする、搬送設備における物品滞留装置。(別紙2参照)

3  審決の理由

審決の理由は、別紙1審決書写し(以下「審決書」という。)に記載のとおりであり(ただし、審決書6頁6行の「実開平4-34206号公報」は誤記であり、削除すべきものである。)、本願請求項1の発明は、引用例1(実願昭49-23387号(実開昭50-117582号)のマイクロフィルム)及び引用例2(実願昭61-63115号(実開昭62-176107号)のマイクロフィルム)記載の技術思想に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができず、本願は、本願請求項2の発明について検討するまでもなく、拒絶すべきであると判断した。

4  審決の認否

審決の理由Ⅰ(手続の経緯・本願発明の認定)は認める。

同Ⅱ(引用例)は認める。

同Ⅲ(対比)のうち、審決書9頁3行「物品を」から14行「取付けられており、」まで(一致点の認定の一部)、及び10頁5行「下記」から11頁12行まで(相違点の認定)は認め、その余は争う。

同Ⅳ(当審の判断)中、相違点(1)についての判断のうち、審決書11頁15行ないし12頁3行は認め、その余は争う。相違点(2)についての判断のうち、13頁6行ないし14頁1行及び14頁4行「引用例2」から7行までは認め、その余は争う。

同Ⅴ(むすび)は争う。

5  審決の取消事由

審決は、引用例1記載のものと本願請求項1の発明との一致点の認定を誤り、また、相違点についての判断を誤ったため、本願請求項1の発明についての進歩性の判断を誤ったものであるから、違法なものとして取り消されるべきである。

(1)  取消事由1(一致点の認定の誤り)

<1> 審決は、「引用例1記載の「物品格納装置」も物品を滞留させる機能を有するから、引用例1記載の「物品格納装置」は本願請求項1の発明における「物品滞留装置」に相当する。」(審決書8頁6行ないし9行)と認定するが、誤りである。

(a) 本願請求項1の発明は、各種物品の連続製造設備などの搬送設備において、その搬送設備を構成するコンベヤにより送られて来る物品を搬送中途で一時的に滞留、保留させる物品滞留装置についてのものであり、ローラコンベヤユニットは、それ自体で該搬送設備のコンベヤの一部を構成しており、該コンベヤの上方空間をそのまま利用して物品を滞留させるものである。

(b) これに対し、引用例1記載の格納装置は、コンベヤからその側方へ物品を水平に押し出すことによって側方のスキッドヘ一旦物品を移し替え、そのスキッドの上方の位置で物品を格納するものであり、搬送装置のコンベヤから外れた位置で物品を保持するものである。そして、引用例1記載の格納装置の使用目的、用途は、長期的に物品を保管するという一般的な倉庫として使用することにある。

(c) 以上のように、本願請求項1の発明における物品滞留装置は、搬送設備の一部をそのまま利用するもので搬送設備と一体不可分の関係にあるのに対し、引用例1記載の物品格納装置は、搬送設備の構造とは無関係に構成され得るものであり、両者は技術分野が異なり、引用例1記載の物品格納装置は、本願請求項1の発明の進歩性を否定する引用例とはなり得ないものである。

(d) 被告は、本願請求項1の発明のローラコンベヤユニットがそれ自身で搬送設備のコンベヤの一部を構成している点や、本願請求項1の発明の物品滞留装置が搬送設備の一部をそのまま利用し物品を滞留させる点は、本願請求項1の発明の構成要件ではない旨主張する。

しかしながら、本願請求項1の発明の要旨には、「搬送設備における物品滞留装置」(甲第15号証2頁23行)と記載されているところ、「~における」とは、「~内にある」ことを意味するものであるから、本願請求項1の発明の物品滞留装置も、「搬送設備内にある」ものである。

そして、本願明細書添付の図1(別紙2参照)に示された実施例においては、「主搬送ラインのローラコンベヤ1a」、「ボールコンベヤ1b、1c」、「中継用コンベヤ3A、3B」及び「ローラコンベヤユニット6」の全体が組み合わされて搬送設備のコンベヤを構成しているものであり、ローラコンベヤユニットは、物品滞留装置を構成していると同時に、搬送設備のコンベヤをも構成しているものであるから、本願明細書添付の図1に示された実施例は、本願請求項1の発明が搬送設備のコンベヤの上方空間をそのまま利用して物品を滞留させるものであることと何ら矛盾するものではない。

<2> さらに、審決は、引用例1記載のもの(別紙3参照)におけるスキッド3、入庫プッシャ4及び出庫プッシャ6を「搬入搬出手段」と言い換え、「本願請求項1の発明の「ローラ」と引用例1記載の「スキッド」とは、搬入搬出する物品を載置する手段である点で共通しており、本願請求項1の発明の「ローラコンベヤユニット」と引用例1記載の「搬入搬出手段」とは、物品を搬入搬出する手段である点で共通している。」(審決書8頁10行ないし15行)と認定するが、誤りである。

(a) 引用例1記載の「スキッド」は、搬入した物品を載置するための機能を有するにすぎず、搬入搬出の機能は入庫プッシャ、出庫プッシャが担っているのであり、引用例1記載の格納装置においては、搬入搬出手段と載置手段とが別々の分離された要素によって構成されている。

(b) これに対し本願請求項1の発明では、ローラは物品を載置する機能のみならず、それ自体で物品を搬入搬出する機能も併せ持っており、物品の搬入搬出と物品の載置とを同一の要素であるローラによって行うこととしている。

(c) このように本願請求項1の発明のローラと引用例1記載のスキッドとは、総合的に見て機能上大幅な差がある。

なお、この点の差異は、前記<1>の本願請求項1の発明の「物品滞留装置」と引用例1記載の「物品格納装置」との機能の差、技術分野の相違に関連しているものである。

(d) 仮に、本願請求項1の発明におけるローラコンベヤユニットのローラが、駆動ローラでなく、すべてフリーローラであるものを含むとしても、ローラは、それ自体も回転するため、物品をスムーズに移動させることができ、搬入搬出を阻害しないものである。これに対し、引用例1記載のスキッドは、物品を移動させようとすると、物品に対して直接に摩擦抵抗を与えてしまうから、物品の搬入搬出方向への動きを阻害するものであり、本願請求項1の発明のローラと引用例1記載のスキッドとは、機能上及び作用効果の点において大幅な差が存在する。

(2)  取消事由2(相違点についての判断の誤り)

審決は、「引用例1の「装置外部から複数の物品を順次搬入可能でかっ装置外部へ複数の物品を順次搬出可能となるように複数のスキッドを水平方向に配列してなる搬入搬出手段」を、本願請求項1の発明のように「装置外部から複数の物品を順次搬入可能でかつ装置外部へ複数の物品を順次搬出可能となるように複数のローラを水平方向に配列してなるローラコンベヤユニット」にすること」(相違点(1)について)、並びに「引用例1の「搬入搬出手段及びラックユニットは、ラックユニットを、その載置部が搬入搬出手段のスキッドに干渉することなくスキッド間をくぐり抜けて搬入搬出手段のスキッド面より下方の位置と上方の位置との間で昇降させ得るように構成されている」点を、本願請求項1の発明のように「ローラコンベヤユニット及びラックユニットは、ラックユニットを、その載置部がローラコンベヤユニットのローラに干渉することなくローラ間をくぐり抜けてローラコンベヤユニットのローラ面より下方の位置と上方の位置との間で昇降させ得るように構成されている」点にすること」(相違点(2)について)は、いずれも「引用例1記載のものに引用例2記載の技術思想を施すことにより当業者が容易になしえたことと認める」(審決書12頁10行ないし13頁4行及び14頁8行ないし15頁6行)と判断するが、誤りである。

<1> 引用例1記載の「物品格納装置」は、前記(1)<1>のとおり、搬送設備のコンベヤから水平方向の側方へ物品を移し替え、搬送コンベヤから外れた位置において物品を格納するものであるから、搬送設備におけるコンベヤの上下の空間を利用するという発想は全く存在しないのであり、したがって、このような引用例1記載のものを、搬送ラインの上下空間を利用しようという発想から成り立っている引用例2記載のものと直ちに結び付けることはできない。

<2> また、「発明をなすに至る起因ないし契機(動機付け)」(審査基準)の面からみても、引用例1記載のものは、コンベヤによって直列状に1列に送られて来る物品をコンベヤの側方においてその1列のまま格納したのでは物品の収納効率が悪いとの認識を前提に、水平面内で多列に並べ変えることを基本的な考え方としているから(甲第2号証1頁16行ないし2耳2行)、コンベヤ上の物品を一旦コンベヤから側方へ外すことが絶対不可欠な条件とならざるを得ないのであり、ローラコンベヤ上の物品をその搬送中途でローラコンベヤの上方へそのまま直ちにすくい上げてしまおうという引用例2記載のものと結び付けようとする動機は生じ難く、かえって、引用例1記載のものを引用例2記載のものと組み合わせようとすることに対して阻害となる要因を含んでいるものである。

<3> そして、本願請求項1の発明は、スキッドをローラに置き換えたことにより、複数の物品を積み上げた状態でプッシャ等で移送しようとするような場合でも円滑に移送することができる等の顕著な効果を奏するものである。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  認否

請求の原因1ないし3は認め(審決書の誤記についても認める。)、同5は争う。審決の認定、判断は正当であり、原告ら主張の誤りはない。

2  反論

(1)  取消事由1(一致点の認定の誤り)について

<1>(a) 本願請求項1の発明のローラコンベヤユニットは、「装置外部から複数の物品を順次搬入可能でかつ装置外部へ複数の物品を順次搬出可能となるように複数のローラを水平方向に配列してなるローラコンベヤユニット」(甲第15号証2頁10行ないし12行)であり、本願請求項1の発明のローラコンベヤユニットはそれ自身で搬送設備のコンベヤの一部を構成しているとか、本願請求項1の発明の物品滞留装置は搬送設備の一部をそのまま利用し物品を滞留させるといったようなことは、本願請求項1の発明の構成要件として記載されていない。

また、本願明細書の[0012]ないし[0019]の記載及び図1(別紙2参照)、図2の記載をみると、本願請求項1の発明の図1に示された実施例においても、主搬送ラインの側方に物品滞留装置を設け、物品を主搬送ラインのローラコンベヤと直角方向の水平方向へ移動させることにより物品滞留装置への物品の搬入、搬出を行っている。

したがって、本願請求項1の発明の物品滞留装置は、搬送設備のコンベヤの一部の上方空間をそのまま利用して物品を一時的、短期的に滞留させるものではなく、物品滞留装置の構成部品であるローラコンベヤユニット上の空間を利用して物品を滞留させているにすぎない。

(b) 他方、引用例1記載のものにおいては、搬送設備であるローラコンベヤの側方に物品格納装置を設け、物品をローラコンベヤと直角方向の水平方向へ移動させることにより物品格納装置への物品の搬入、搬出を行っている。

(c) したがって、本願請求項1の発明の「物品滞留装置」と引用例1記載の「物品格納装置」との間に、本質的な差異はない。

(d) そして、「物品格納装置」と「物品滞留装置」とは、「格納」と「滞留」との言葉の違いはあるものの、物品をどれほどの時間格納あるいは滞留させるかということは、装置の使用者が決めることであるから、両者に本質的な差異はなく、両者が異なる技術分野に属するということはできない。

<2>(a) 本願請求項1の発明のローラが駆動ローラであることは、本願請求項1の発明の構成要件となっていないから、本願請求項1の発明は、すべてフリーローラでできており、物品滞留装置の外部からプッシャ等により物品をローラコンベヤユニットのローラ上に搬入するものも含むものである。

そして、本願明細書の[0022]の記載及び図1をみると、本願請求項1の発明の実施例においても、図示しないプッシャ等が主搬送ライン上の物品を中継用コンベヤを経て滞留装置内に送り込んでローラコンベヤユニットのローラ上に載置している。

(b) 他方、引用例1記載のものも、スキッド上の物品はプッシャ等で押されることによりスキッド上を滑り移動するから、本願請求項1の発明のローラ(フリーローラ)が搬入搬出機能を有しているというのであれば、引用例1記載のスキッドも物品を載置する機能のみならずプッシャとの関連で物品を搬入搬出させる機能も持っていることになる。

(c) したがって、本願請求項1の発明におけるローラと引用例1記載のスキッドは、総合的に見て機能上大幅な差があるものではない。

(2)  取消事由2(相違点についての判断の誤り)について

<1> 前記(1)<1>のとおり、本願請求項1の発明の「物品滞留装置」は、搬送設備のコンベヤの一部の上方空間をそのまま利用して、物品を一時的、短期的に滞留させるものではなく、物品滞留装置の構成部品であるローラコンベヤユニット上へ搬入された物品を、該ローラコンベヤユニットの上方空間を利用して物品を滞留させているにすぎないところ、引用例1記載の物品格納装置も、物品格納装置の構成部品であるスキッド上へ搬入された物品を、該スキッドの上方空間を利用して物品を格納しているから、本願請求項1の発明の物品滞留装置と引用例1記載の物品格納装置は、似た技術である。

また、引用例2記載のものにおいては、ローラコンベヤ上へ搬入された物品を、該ローラコンベヤの上方空間を利用して格納しているから、引用例2記載のものは、本願請求項1の発明や引用例1記載のものと似た技術である。

したがって、引用例1記載のものに引用例2記載のものを結びつけることに困難性はない。

<2> 原告は、引用例1記載のものは、コンベヤ上の物品を一旦コンベヤから側方へ外すことを不可欠な条件としているから、このような引用例1記載のものは、引用例2記載のものと組み合わせようとすることに対して阻害となる要因を含んでいる旨主張するが、前記のとおり、搬送ラインから物品をどのようにして物品滞留装置に搬入し、物品滞留装置から物品をどのようにして搬送ラインへ搬出するかという構成は、本願請求項1の発明の要旨において何ら限定されていないから、原告らの上記主張は失当である。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願請求項1の発明の要旨)及び同3(審決の理由の記載)については、当事者間に争いがない。

そして、審決の理由同Ⅱ(引用例)、並びに同Ⅲ(対比)のうち、審決書9頁3行「物品を」から14行「取付けられており、」まで(一致点の認定の一部)、及び10頁5行「下記」から11頁12行まで(相違点の認定)は、当事者間に争いがない。

2  そこで、原告ら主張の取消事由の当否について検討する。

(1)  本願請求項1の発明の概要

甲第4、第5、第8、第11及び第15号証によれば、本願明細書には、次のように記載されていることが認められる。

[産業上の利用分野]

「この発明は各種物品の連続製造設備や倉庫などの搬送ラインにおいて、その搬送途中で物品を一時的に滞留(保留)させるための滞留装置およびその滞留装置を用いた滞留方法に関するものである。」(甲第4号証2頁6行ないし8行)

[従来の技術]

「各種物品の連続製造設備においては、ローラコンベヤなどの搬送ラインによって素材や中間製品を各製造工程に順次搬送し、さらに最終製品を包装工程や出荷位置に搬送することが行なわれている。このような搬送ラインにおいては、素材や中間製品あるいは最終製品を、その搬送ラインの中途で一時的に短時間だけ滞留させておく必要が生じることがある。例えば・・短時間室温でそのまま保持(エージング)したい場合があり、また・・室温でそのまま放冷したい場合がある。これらの場合に、搬送ラインにより対象物品を移動させつつ前述のようなエージングや放冷を行なおうとすれば、搬送ラインを著しく長くせざるを得なくなる。一方エージングや放冷のために物品を搬送ラインから一旦ライン外へ取り出してしまうことは、工程の連続性を損ない、作業性を悪くさせる。そこでこのような場合には、搬送ラインの中途において物品を一時的に滞留させて、エージングや放冷等を行なうことが望まれる。また例えば、前工程と後工程との間での処理速度に差がある場合・・、倉庫内からの製品の送り出しが連続的に行なわれる一方、出荷は間欠的に行なわれる場合などにおいても、搬送ラインの中途で一時的に物品を滞留させたいこともある。」(甲第4号証2頁11行ないし29行)

「実施例]

「図1(別紙2参照)にこの発明の実施例の滞留装置を適用した搬送設備の一例の全体を示し、・・対象物品4を搬送させるための主搬送ライン1は、主として通常のローラコンベヤ1aによって構成されており、この主搬送ライン1の所定箇所の側方には、この発明で特徴とする2基の滞留装置2A、2Bが互いに並列状となるようかつ主搬送ライン1に対して直角となるように配設されている。主搬送ライン1と各滞留装置2A、2Bとの間には、同じくローラコンベヤからなる中継用コンベヤ3A、3Bが配設されている。なお主搬送ライン1における各中継用コンベヤ3A、3Bに対応する部分には、主搬送ライン1上の対象物品4を主搬送ライン1による主搬送方向およびそれに直角な方向の両方向に移送可能となるよう、ボールコンベヤ1b、1cが配設されている、」(甲第4号証5頁24行ないし6頁7行)

[発明の効果]

「外部からローラコンベヤユニット上に搬入されて来た物品を、そのままラックユニットによってすくい上げるようにしてラックユニット上に移載し、ラックユニットをローラ面の上方位置で吊上げた状態のまま保持しておくだけで物品の滞留を行なうことができ、・・装置構成が簡単かつ安価となるとともに、駆動装置の数も少なくて済み、メンテナンスも極めて容易となり、しかも装置全体がコンパクト化されるとともに、ローラコンベヤユニットのローラ面の高さを既設のローラコンベヤラインの高さに合わせることによって、既設のローラコンベヤラインに容易に適用することができる。」(甲第15号証3頁23行ないし4頁6行)

(2)  取消事由1(一致点の認定の誤り)について

<1>  原告らは、本願請求項1の発明の物品滞留装置は、搬送設備の一部であるコンベヤ上の空間をそのまま利用して、コンベヤの上方で物品を滞留させて、搬送設備のコンベヤによる搬送途中で一時的、短期的に物品を保持させるものであるのに対し、引用例1記載の物品格納装置は、コンベヤからその側方へ物品を水平に押し出すことによって側方のスキッドへ一旦物品を移し替え、そのスキッドの上方の位置で物品を格納するものであり、長期的に物品を保管するものであるから、両者は技術分野が異なり、引用例1記載の「物品格納装置」は、そもそも本願請求項1の発明の進歩性を否定する引用例とはなり得ない旨主張する。

(a) 本願請求項1の発明は、前記(1)に説示のとおり、連続製造設備や倉庫などの搬送ラインにおいて、搬送途中で物品を一時的に滞留させるための滞留装置であるところ、本願請求項1の発明の要旨には、「装置外部から複数の物品を順次搬入可能でかつ装置外部へ複数の物品を順次搬出可能となるように複数のローラを水平方向に配列してなるローラコンベヤユニットと、・・搬送設備における物品滞留装置」と記載されているたすぎず、仮に物品滞留装置が搬送設備に組み込まれたものであるとしても、搬送設備のうち他の搬送ライン(主搬送ラインを含む。)の構成を限定する記載はないから、搬送設備のうち他の搬送ラインがコンベヤやローラコンベヤであると限定して解釈することはできない。

さらに、前記(1)に説示のとおり、本願請求項1の発明の実施例として、滞留装置を主搬送ラインの側方に設置し、その間に中継用コンベヤを配設する例が開示されており(なお、本願請求項1の発明の要旨がこの実施例をも含むように解釈されるべきことは当然である。)、この事実によれば、本願請求項1の発明は、滞留装置の外部にある搬送ライン(主搬送ライン)との関係においては、滞留装置を搬送ラインの系列に直接設けたものだけでなく、搬送ラインの側方に設置するものも含むものと認められる。

(b) そして、引用例1(別紙3参照)に、「装置外部から複数の物品を順次搬入可能でかつ装置外部へ複数の物品を順次搬出可能となるように複数のスキッドを水平方向に配列してなる搬入搬出手段(引用例1にあっては、スキッド3、入庫プッシャ4及び出庫プッシャ6がこれに相当する。)と、物品を水平に載置し得る載置部を有しかつ水平面内で矩形状に連続する部分を備えた複数のラックユニット(引用例1にあっては、すのこ状トレー5がこれに相当する。)と、・・・吊上げ部材(引用例1にあっては、巻上索12がこれに相当する。)と、・・・とを有し、前記複数のラックユニットが、吊上げ部材における上下に所定間隔を置いた位置に取付けられており、しかも前記搬入搬出手段及びラックユニットは、ラックユニットを、その載置部が搬入搬出手段のスキッドに干渉することなくスキッド間をくぐり抜けて搬入搬出手段のスキッド面より下方の位置と上方の位置との間で昇降させ得るように構成されていることを特徴とする、搬送設備における物品滞留装置」(審決書4頁8行ないし6頁2行)が記載されていることは、前記のとおり当事者間に争いがない。

(c) そうすると、本願請求項1の発明のうち滞留装置を搬送ラインの側方に設置するものと、引用例1記載のものとは、搬送装置のコンベヤから外れた位置に滞留装置を設け、その上方空間を利用して物品を保持し、滞留させる点で何ら変わりはないと認められる。

(d) そして、甲第2号証によれば、引用例1には、引用例1記載の格納装置の使用目的、用途について、「格納作業を合理化するとともに各操作を自動無人化し」(1頁19行、20行)と記載されていることが認められ、また、同じ格納装置であっても、使用者がその必要に応じて格納の目的や時間につきさまざまに使用することができるものであるから、引用例1記載のものは、搬送設備を利用する技術分野において適宜に応用されるものと認められ、原告ら主張のように、引用例1記載の格納装置が長期的に物品を保管する一般的な倉庫として使用することのみに限定されると解することはできない。

(e) そうすると、本願請求項1の発明の物品滞留装置と引用例1記載の物品格納装置とは、物品滞留装置の上方空間を利用して物品を滞留させ、搬送途中で一時的、短期的に物品を保持させるものであることに差異がないから、原告らが主張するように、両者の技術分野が違い、引用例1記載のものが本願請求項1の発明の進歩性を否定する引用例になり得ないと解することはできず、引用例1記載の「物品格納装置」は本願請求項1の発明における「物品滞留装置」に相当するとの審決の認定にも誤りはない。

(f) 原告らは、本願請求項1の発明の要旨には、「搬送設備における物品滞留装置」と記載されているところ、「~における」とは、「~内にある」ことを意味するものであり、しかも、本願明細書添付の図1に示された実施例においては、「主搬送ラインのローラコンベヤ1a」、「ボールコンベヤ1b、1c」、「中継用コンベヤ3A、3B」及び「ローラコンベヤユニット6」の全体が組み合わされて搬送設備のコンベヤを構成しているものであり、ローラコンベヤユニットは、物品滞留装置を構成していると同時に、搬送設備のコンベヤをも構成しているものであるから、本願明細書添付の図1に示された実施例は、本願請求項1の発明が搬送設備のコンベヤの上方空間をそのまま利用して物品を滞留させるものであることと何ら矛盾しない旨主張する。

しかしながら、本願発明における「ローラコンベヤユニット」は、物品滞留装置の構成要素としてのみ規定されており、これが、搬送設備に組み込まれたものであっても、搬送設備の他の搬送ラインの構成を限定するものではないことは、前記のとおりである。そして、甲第16号証(広辞苑)によれば、「おいて」は、「<1>場所を示す。・・・のところにあって。・・・のなかで。」の意味を有することが認められるが、このような辞書の記載を根拠として、本願請求項1の発明にいう物品滞留装置は主搬送ラインの側方に設置するものを当然に排除すると認めることはできない。のみならず、本願明細書添付の図1(別紙2参照)に示された実施例は、主搬送ラインを左方向から流れてきた物品が、ボールコンベヤ1bの位置から直角に水平移動し、中継用コンベヤ3Aを経由して一旦主搬送ラインを離れ、主搬送ラインの側方に設けられた滞留装置2Aに入って滞留し、滞留が不要となった場合は、滞留装置2Aから同じ中継用コンベヤ3A、を経由して主搬送ラインのボールコンベヤ1bの位置に戻り、主搬送ラインを右方向に流れるというものであるから、全体として見れば、物品滞留装置は主搬送ラインから外れた位置にあるといわざるを得ないのであり、これを原告ら主張のように、主搬送ラインとローラコンベヤユニット等を含めて一つの搬送ラインとみなすことは到底できない。したがって、原告らの上記主張は採用することができない。

<2>  原告らは、本願請求項1の発明におけるローラコンベヤユニットのローラはそれ自体で物品を搬入搬出する機能も持っているのに対し、引用例1記載の物品格納装置におけるスキッドには搬入搬出の機能はなく、その機能は入庫プッシャ、出庫プッシャが担っているから、本願請求項1の発明の「ローラコンベヤユニット」と引用例1記載の「搬入搬出手段」とは物品を搬入搬出する手段である点で共通しているとの審決の認定は誤りである旨主張する。

(a) しかしながら、本願請求項1の発明の要旨には、「装置外部から複数の物品を順次搬入可能でかつ装置外部へ複数の物品を順次搬出可能となるように複数のローラを水平方向に配列してなるローラコンベヤユニット」と記載されており、それ以上の限定はないし、また、甲第5号証によれば、本願明細書には、実施例の説明として、「主搬送ライン1によって、ボールコンベヤ1bの位置まで送られて来た物品4は、図示しないプッシャ等によって送り方向が直角に転換されて、中継用コンベヤ3Aを経て滞留装置2A内に送り込まれ、ローラコンベヤユニット6のローラ11、12上(ローラ面SR上)に載置される。」と記載されている(3頁5行ないし8行)から、本願請求項1の発明は、ローラコンベヤユニットのローラがすべてフリーローラでできており、物品滞留装置の外部との間でプッシャ等により物品をローラコンベヤユニットのローラ上に搬入搬出するものも含むと解せられる。

そうすると、本願請求項1の発明のローラコンベヤユニットのローラが駆動ローラであるため搬入搬出する機能を有している点をもって、引用例1記載のスキッドと本願請求項1の発明のローラに機能上の差異があると解することはできない。

(b) さらに、原告らは、本願請求項1の発明のローラがすべてフリーローラであるとしても、ローラは、それ自体も回転するため物品をスムーズに移動させることができ、搬入搬出を阻害しないのに対し、引用例1記載のスキッドは、物品を移動させようとすると、物品に対して直接に摩擦抵抗を与えて物品の搬入搬出方向への動きを阻害し、本願請求項1の発明のローラと引用例1記載のスキッドとは、機能上及び作用効果の点において大幅な差が存在する旨主張する。

しかしながら、本願請求項1の発明が複数のローラを水平方向に配列してなるローラコンベヤユニットを使用するものであるのに対し、引用例1に記載されたものが複数のスキッドを水平方向に配列してなるものである点は、審決が相違点(1)として認定している点であるから、本願請求項1の発明のローラと引用例1記載のスキッドと搬入搬出の動きに対する阻害の違いをいう原告らの上記主張は、何ら一致点の認定の誤りに結びつかないものであり、理由がない。

<3>  よって、原告ら主張の取消事由1は理由がない。

(3)  取消事由2(相違点についての判断の誤り)について

<1>  前記のとおり、引用例1記載の物品格納装置は、装置外部から、搬入搬出手段の構成部材であるスキッド上へ移送載置された物品を、該スキッドの上方空間を利用して物品を格納するものである。

他方、引用例2に、「装置外部から複数の物品を順次搬入可能でかっ装置外部へ複数の物品を順次搬出可能となるように複数のローラを水平方向に配列してなるローラコンベヤユニット(引用例2にあっては、物品搬送用コンベヤ40がこれに相当する。)と、物品を水平に載置し得る載置部を有しかつ水平面内で連続する部分を備えた複数のラックユニット(引用例2にあっては、物品格納台13、16、19がこれに相当する。)と、その複数のラックユニットを水平状態に保ったまま上下に所定間隔を置いて吊上げるため、各ラックユニットにおける水平面内で連続する部分に取付けられた吊上げ部材(引用例2にあっては、昇降用チェーン36及び下位の物品格納台に下端部が固定され上位の物品格納台の上面に係合される縦フレーム21、22、23がこれに相当する。)と、その吊上げ部材を昇降させるための昇降駆動装置(引用例2にあっては、昇降用駆動装置3、スプロケット29、31、35、伝動用チェーン30がこれに相当する。)とを有し、前記複数のラックユニットが、吊上げ部材に取付けられており、しかも前記ローラコンベヤユニット及びラックユニットは、ラックユニットを、その載置部がローラコンベヤユニットのローラに干渉することなくローラ間をくぐり抜けてローラコンベヤユニットのローラ面より下方の位置と上方の位置との間で昇降させ得るように構成されていることを特徴とする、搬送設備における物品格納装置。」(審決書6頁7行ないし8頁3行)が記載されていることは、前記のとおり当事者間に争いがなく、引用例2には、搬入搬出手段であるローラコンベヤの構成要素であるローラ上に載置された複数の物品を上方へそのまますくい上げて、ローラコンベヤの上方空間に一時保管する物品吊上格納装置が示されているから、引用例2には、本願請求項1の発明の物品滞留装置の構成と同様のものが示されていると認められる。

そうすると、引用例1記載のものに引用例2記載のものを組み合わせて本願請求項1の発明のように構成することは、当業者が容易になし得たことと認められる。

<2>  原告らは、引用例1記載の「物品格納装置」には、搬送設備におけるコンベヤの上下の空間を利用するという発想は全く存在しないのであり、このような引用例1記載のものを、搬送ラインの上下空間を利用しようという発想から成り立っている引用例2記載のものと直ちに結び付けることはできないし、また、「発明をなすに至る起因ないし契機(動機付け)」(審査基準)の面からみても、コンベヤ上の物品を一旦コンベヤから側方へ外すことが絶対不可欠な条件としている引用例1記載のものを、ローラコンベヤ上の物品をその搬送中途でローラコンベヤの上方へそのまま直ちにすくい上げてしまおうという引用例2記載のものと結び付けようとする動機は生じ難く、かえって、そのような組み合わせに対して阻害となる要因を含んでいる旨主張する。

しかしながら、原告ら主張の上記の点は、引用例1記載のものに引用例2記載のものを組み合わせることを困難とする事情とに認め難く、単にそれらを組み合わせれば、搬送ラインの上方空間を利用するものとはならないことを意味するだけであると認められるから、原告らの上記主張は採用することができない。

<3>  そして、本願請求項1の発明の奏する効果も、引用例1記載のものに引用例2記載のものを組み合わせることにより奏すると予想される程度のものである。

<4>  よって、審決の相違点(1)、(2)についての判断に誤りはなく、原告ら主張の取消事由2は理由がない。

3  よって、原告らの本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、65条1項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)

平成8年審判第7502号

審決

愛知県名古屋市港区小碓2丁目148番地

請求人 株式会社 効率技術研究所

東京都豊島区東池袋3丁目21番18号 第一笠原ビル3階5号

請求人 協進工業 株式会社

東京都港区芝浦4丁目4番27号 三田ナショナルコート1129号豊田特許事務所

代理人弁理士 豊田武久

平成4年特許願第352668号「搬送設備における物品滞留装置および物品滞留方法」拒絶査定に対する審判事件(平成6年6月21日出願公開、特開平6-171715)について、次のとおり審決する.

結論

本件審判の請求は、成り立たない.

理由

Ⅰ.手続の経緯・本願発明の認定

本願は、平成4年12月10日の出願であって、その発明は、平成5年3月1日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面、平成7年6月5日付けの手続補正書及び平成8年1月16日付けの手続補正書及び平成8年6月17日付けの手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載されたものであるが、その請求項1に記載された発明(以下、本願請求項1の発明という。)は次のとおりのものと認める。

「装置外部から複数の物品を順次搬入可能でかつ装置外部へ複数の物品を順次搬出可能となるように複数のローラを水平方向に配列してなるローラコンベヤユニットと、物品を水平に載置し得る載置部を有しかつ水平面内で矩形状に連続する部分を備えた複数のラックユニットと、その複数のラックユニットを水平状態に保ったまま上下に所定間隔を置いて吊上げるため、各ラックユニットにおける水平面内で矩形状に連続する部分の4隅付近に取付けられた全体として可撓性を有する少なくとも4本のチェーンもしくは条体からなる吊上げ部材と、その品上げ部材を昇降させるための昇降駆動装置とを有し、前記複数のラックユニットが、吊上げ部材における上下に所定間隔を置いた位置に取付けられており、しかも前記ローラコンベァユニット及びラックユニットは、ラックユニットを、その載置部がローラコンベヤユニットのローラに干渉することなくローラ間をくぐり抜けてローラコンベヤユニットのローラ面より下方の位置と上方の位置との間で昇降させ得るように構成されていることを特徴とする、搬送設備における物品滞留装置。」

Ⅱ.引用例

これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に国内で頒布された実願昭49-23387号(実開昭50-117582号)のマイクロフィルム(以下、引用例1という)には、「装置外部から複数の物品を順次搬入可能でかっ装置外部へ複数の物品を順次搬出可能となるように複数のスキッドを水平方向に配列してなる搬入搬出手段(引用例1にあっては、スキッド3、入庫ブッシャ4及び出庫ブッシャ6がこれに相当する。)と、物品を水平に載置し得る載置部を有しかつ水平面内で矩形状に連続する部分を備えた複数のラックユニット(引用例1にあっては、すのこ状トレー5がこれに相当する。)と、その複数のラックユニットを水平状態に保ったまま上下に所定間隔を置いて吊上げるため、各ラックユニットにおける水平面内で矩形状に連続する部分の4隅付近に取付けられた全体として可撓性を有する少なくとも4本のチェーンもしくは条体からなる吊上げ部材(引用例1にあっては、巻上索12がこれに相当する。)と、その吊上げ部材を昇降させるための昇降駆動装置(引用例1にあっては、巻上機11がこれに相当する。)とを有し、前記複数のラックユニットが、吊上げ部材における上下に所定間隔を置いた位置に取付けられており、しかも前記搬入搬出手段及びラックユニットは、ラックユニットを、その載置部が搬入搬出手段のスキッドに干渉することなくスキッド間をくぐり抜けて搬入搬出手段のスキッド面より下方の位置と上方の位置との間で昇降させ得るように構成されていることを特徴とする、搬送設備における物品格納装置。」が記載されている。

また、同じく、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に国内で頒布された実願昭61-63115号(実開昭62-176107号)のマイクロフィルム実開平4-34206号公報(以下、引用例2という)には、「装置外部から複数の物品を順次搬入可能でかつ装置外部へ複数の物品を順次搬出可能となるように複数のローラを水平方向に配列してなるローラコンベヤユニット(引用例2にあっては、物品搬送用コンベヤ40がこれに相当する。)と、物品を水平に載置し得る載置部を有しかつ水平面内で連続する部分を備えた複数のラックユニット(引用例2にあっては、物品格納台13、16、19がこれに相当する。)と、その複数のラックユニットを水平状態に保ったまま上下に所定間隔を置いて吊上げるため、各ラックユニットにおける水平面内で連続する部分に取付けられた吊上げ部材(引用例2にあっては、昇降用チェーン36及び下位の物品格納台に下端部が固定され上位の物品格納台の上面に係合される縦フレーム21、22、23がこれに相当する。)と、その吊上げ部材を昇降させるための昇降駆動装置(引用例2にあっては、昇降用駆動装置3、スプロケット29、31、35、伝動チェーン30がこれに相当する。)とを有し、前記複数のラックユニットが、吊上げ部材に取付けられており、しかも前記ローラコンベアユニット及びラックユニットは、ラックユニットを、その載置部がローラコンベヤユニットのローラに干渉することなくローラ間をくぐり抜けてローラコンベヤユニットのローラ面より下方の位置と上方の位置との間で昇降させ得るように構成されていることを特徴とする、搬送設備における物品格納装置。」が記載されている。

Ⅲ.対比

本願請求項1の発明と引用例1に記載されたものを対比すると、引用例1記載の「物品格納装置」も物品を滞留させる機能を有するから、引用例1記載の「物品格納装置」は本願請求項1の発明における「物品滞留装置」に相当する。

又、本願請求項1の発明の「ローラ」と引用例1記載の「スキッド」とは、搬入搬出する物品を載置する手段である点で共通しており、本願請求項1の発明の「ローラコンベヤユニット」と引用例1記載の「搬入搬出手段」とは、物品を搬入搬出する手段である点で共通している。

したがって、両者は「装置外部から複数の物品を順次搬入可能でかつ装置外部へ複数の物品を順次搬出可能となるように複数の載置手段を水平方向に配列してなる搬入搬出手段と、物品を水平に載置し得る載置部を有しかつ水平面内で矩形状に連続する部分を備えた複数のラックユニットと、その複数のラックユニットを水平状態に保ったまま上下に所定間隔を置いて吊上げるため、各ラックユニットにおける水平面内で矩形状に連続する部分の4隅付近に取付けられた全体として可撓性を有する少なくとも4本のチェーンもしくは条体からなる吊上げ部材と、その吊上げ部材を昇降させるための昇降駆動装置とを有し、前記複数のラックユニットが、吊上げ部材における上下に所定間隔を置いた位置に取付けられており、しかも前記搬入搬出手段及びラツクユニットは、ラックユニットを、その載置部が搬入搬出手段の載置手段に干渉することなく該載置手段の間をくぐり抜けて搬入搬出手段の載置手段の面より下方の位置と上方の位置との間で昇降させ得るように構成されていることを特徴とする、搬送設備における物品滞留装置。」の点で一致し、下記(1)~(2)の点で相違する。

(1).本願請求項1の発明は、装置外部から複数の物品を順次搬入可能でかつ装置外部へ複数の物品を順次搬出可能となるように複数のローラを水平方向に配列してなるローラコンベヤユニットであるのに対して、引用例1に記載されたものは、装置外部から複数の物品を順次搬入可能でかつ装置外部へ複数の物品を順次搬出可能となるように複数のスキッドを水平方向に配列してなる搬入搬出手段である点。

(2).本願請求項1の発明は、ローラコンベアユニット及びラックユニットは、ラックユニットを、その載置部がローラコンベヤユニットのローラに干渉することなくローラ間をくぐり抜けてローラコンベヤユニットのローラ面より下方の位置と上方の位置との間で昇降させ得るように構成されているのに対して、引用例1に記載されたものは、搬入搬出手段及びラックユニットは、ラックユニットを、その載置部が搬入搬出手段のスキッドに干渉することなくスキッド間をくぐり抜けて搬入搬出手段のスキッド面より下方の位置と上方の位置との間で昇降させ得るように構成されている点。

Ⅳ.当審の判断

まず、上記相違点(1)について検討する。

前述のように、装置外部から複数の物品を順次搬入可能でかつ装置外部へ複数の物品を順次搬出可能となるように複数のローラを水平方向に配列してなるローラコンベヤユニットは引用例2に記載されている。

そして、引用例2記載の「ローラ」と引用例1記載の「スキッド」とは、搬入搬出する物品を載置する手段である点で共通しており、引用例2記載の「ローラコンベヤユニット」と引用例1記載の「搬入搬出手段」とは、物品を搬入搬出する手段である点で共通している。

したがって、引用例1の「装置外部から複数の物品を順次搬入可能でかつ装置外部へ複数の物品を順次搬出可能となるように複数のスキッドを水平方向に配列してなる搬入搬出手段」を、本願請求項1の発明のように「装置外部から複数の物品を順次搬入可能でかつ装置外部へ複数の物品を順次搬出可能となるように複数のローラを水平方向に配列してなるローラコンベヤユニット」にすることは、引用例1記載のものに引用例2記載の技術思想を施すことにより当業者が容易になしえたごとと認める。

次に、上記相違点(2)について検討する。

引用例2記載の「物品格納装置」も物品を滞留させる機能を有するから、引用例2記載の「物品格納装置」は本願請求項1の発明における「物品滞留装置」に相当する。

したがって、引用例2には、搬送設備における物品滞留装置において、ローラコンベアユニット及びラックユニットは、ラックユニットを、その載置部がローラコンベヤユニットのローラに干渉することなくローラ間をくぐり抜けてローラコンベヤユニットのローラ面より下方の位置と上方の位置との間で昇降させ得るように構成したものが記載されている。

そして、引用例2記載の「ローラ」と引用例1記載の「スキッド」とは、搬入搬出する物品を載置する手段である点で共通しており、引用例2記載の「ローラコンベヤユニット」と引用例1記載の「搬入搬出手段」とは、物品を搬入搬出する手段である点で共通している。

したがって、引用例1の「搬入搬出手段及びラックユニットは、ラックユニットを、その載置部が搬入搬出手段のスキッドに干渉することなくスキッド間をくぐり抜けて搬入搬出手段のスキッド面より下方の位置と上方の位置との間で昇降させ得るように構成されている」点を、木願請求項1の発明のように「ローラコンベアユニット及びラックユニットは、ラックユニットを、その載置部がローラコンベヤユニットのローラに干渉することなくローラ間をくぐり抜けてローラコンベヤユニットのローラ面より下方の位置と上方の位置との間で昇降させ得るように構成されている」点にすることは、引用例1記載のものに引用例2記載の技術思想を施すことにより当業者が容易になしえたことと認める。

Ⅴ.むすび

したがって、本願請求項1の発明は、引用例1及び引用例2記載の技術思想に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

それゆえ、本願は、本願請求項2の発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

平成9年2月19日

審判長 特許庁審判官

特許庁審判官

特許庁審判官

別紙2

<省略>

別紙3

<省略>

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