東京高等裁判所 平成9年(行ケ)93号 判決 1998年10月28日
徳島県板野郡北島町太郎八須字西の川10番地の1
原告
四国化工機株式会社
代表者代表取締役
植田滋
訴訟代理人弁理士
廣田雅紀
スウェーデン国 ルンド エスー221 26 ルーベンラウジングス ガタ
被告
エービー テトラ パック
代表者
ラース オッケ フォースバーグ
訴訟代理人弁理士
三好秀和
同
岩崎幸邦
同
中村友之
同
鹿又弘子
同
田中義敏
同
清水正三
訴訟復代理人弁護士
日野修男
主文
特許庁が、平成8年審判第8907号事件について、平成9年3月27日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決に対する上告のための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
1 原告
主文と同旨
2 被告
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
被告は、名称を「包装機における包装材料ウエブの長手方向縁器の溶着予熱装置」とする実用新案登録第2102350号考案(昭和62年6月12日出願、平成4年12月2日出願公告、平成8年2月9日設定登録。以下「本件登録考案」という。)の実用新案権者である。
原告は、平成8年6月17日、本件登録考案につき、その実用新案登録を無効とする旨の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成8年審判第8907号事件として審理したうえ、平成9年3月27日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年4月7日、原告に送達された。
2 本件登録考案の実用新案登録請求の範囲第1項に記載された考案(「本件考案」という。)の要旨
プラスチックコートされたロール状の包装材料ウエブから、充填され且つ密封された包装物を製造するための包装機において、下部方向へ進行する予め一対の長手方向縁部(3a)、(3b)が間隙をおいて相互に重なるごとく筒状に形成された包装材料ウエブ(3)の未溶着状態の長手方向縁部(3a)、(3b)を溶着するための予熱装置(A)であって、前記筒状の包装材料ウエブ(3)の進行路に臨んで、該包装材料ウエブ(3)の長手方向に所定距離の間設けられた加熱空気ノズル(5)と、筒状に形成された該材料ウエブ(3)の外側の長手方向縁部(3a)を位置規制して該長手方向縁部(3a)の内面を前記加熱空気ノズル(5)の空気吹出面(5a)に対面せしめるように軸線を該吹出面(5a)に平行に上下方向に配置された複数個のガイドローラ(6a)、(6b)、・・・と、前記筒状に形成された材料ウエブ(3)の内側の長手方向縁部(3b)を前記加熱空気ノズル(5)を挟んで前記ガイドローラ(6a)、(6b)、・・・の反対側で支持するための複数個の小径ガイドローラ(7a)、(7b)、・・・とを備えたことを特徴とする包装機における包装材料ウエブの長手方向縁部の溶着予熱装置。
3 審決の理由
審決は、別添審決書写し記載のとおり、
(1) 本件考案は、長崎県経済農業組合連合会(以下「訴外連合会」という。)が昭和54年7月に同県大村果汁工場に導入した「テトラプリックAB3」の包装機(以下「本件包装機」という。)と、実願昭52-109130号(実開昭54-36671号)のマイクロフィルム(審決甲第9号証、本訴甲第10号証、以下「引用例1」という。)及び特開昭60-228133号公報(審決甲第11号証、本訴甲第12号証)に記載された事項に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたから、実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができないとする請求人(本訴原告)主張の無効理由(以下「無効理由1」という。)について、本件包装機が本件考案の前提技術に当たるとは断じられず、仮にそうでないとしても、本件包装機から本件考案を極めて容易に考案をすることはできないとし
(2) 本件考案は、雪印乳業株式会社が昭和62年2月21日に神戸工場に導入し、公然と使用した「AB9型」の包装機と同一であるから、実用新案法3条1項2号の規定により実用新案登録を受けることができないとする請求人主張の無効理由(以下「無効理由2」という。)について、同包装機が本件考案の機構構造を備えたものとは認められないとし、結局、本件実用新案登録を無効にすることはできないとしたものである。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中、本件考案の要旨の認定、請求人(本訴原告)の無効理由1及び2の要旨の認定(ただし、無効理由1に関して、請求人が提出したとされる前記特開昭60-228133号公報は誤りであり、請求人は、特開昭52-119685号公報(審決甲第10号証、本訴甲第11号証、以下「引用例2」という。)及び「AB3型機等のマニュアル(テクニカルディスクリプション及びメンテナンス システム)の抜粋」(審決甲第4号証、本訴甲第9号証、以下「本件マニュアル」という。)を提出したものである。)、本件包装機についての「長崎県経済農業協同組合連合会大村果汁工場工場長より大阪弁護士会会長宛の弁護士法第23条の2第2項に基づく照会に対する回答書」(本訴甲第7号証、審決甲第2号証、以下「本件回答書」という。)及びこれに添付された「賃貸借契約書」(本訴甲第8号証、審決甲第3号証、以下「本件契約書」という。)に関する認定(審決書8頁18行~10頁11行)、本件考案と本件包装機との相違点の認定(同12頁3~10行)、無効理由1についての判断の一部(同12頁11行~13頁13行、ただし、支持板が熱風によって軟化したとの点を除く。)、無効理由2についての判断のすべては、いずれも認める。
審決は、本件考案が前提とする従来技術である本件包装機について、開示する構成の認定を誤る(取消事由1)とともに、本件考案と本件包装機との相違点についての判断を誤り(取消事由2)、その結果、本件考案が進歩性を有して実用新案登録を受けることができるとしたものであるから、違法として取り消されなければならない。
1 本件包装機に関する認定誤り(取消事由1)
審決は、本件包装機が、訴外テトラパック株式会社(以下「訴外テトラ」という。)と訴外連合会との賃貸借契約に基づいて、本件出願前に訴外連合会の大村果汁工場において公然と使用されていたことを認めながら、本件マニュアルについて、「甲第4号証(注、本訴甲第9号証)のマニュアルと搬入当初のAB3型機との関連を証明する記載は甲第4号証にはなく、またこのことを証明する証拠も外にはない。したがって、甲第4号証から、長崎県経済農業組合連合会 大村果汁工場の上記契約に基づいて搬入した包装機の機構、構造を説明したものとは断じられない。したがって、上記契約に基づいて大村果汁工場において使用された包装機が甲第4号証の115-32頁に示された機構、構造を有するものであったと認めることはできない。」(審決書10頁16行~11頁7行)と認定しているが、誤りである。
すなわち、本件回答書では、訴外連合会が昭和54年(1979年)にテトラブリック充填機AB3(本件包装機)を1台、大村果汁工場に導入使用した旨回答しており同回答書には、当該AB3の導入時の賃貸契約書のコピーである本件契約書と、AB3の充填機のマニュアル原本の抜粋である本件マニュアルが添付されており、このことによれば、本件マニュアルが本件包装機の操作等のためのマニュアルであることは明らかである。
そして、本件マニュアルには、プラスチックコートされたロール状の包装材料ウエブから、充填され且つ密封された包装物を製造するための包装機において、筒状材料ウエブの進行路に臨んで、該包装材料ウエブの長手方向に所定距離の間設けられたブローノズルと、筒状に形成された該材料ウエブの外側の長手方向縁部を位置規制して該長手方向縁部の内面を前記ブローノズルの空気吹出面に対面せしめるように軸線を該吹出面に平行に上下方向に配置された複数個のローラと、前記筒状に形成された材料ウエブの内側の長手方向縁部を前記ブローノズルを挟んで前記ローラの反対側で支持するサポートプレート(支持板)を備えた構造のものが開示されており、これは、本件考案に係る実公平4-51138号公報(甲第2、第3号証、以下「本件公報」という。)の第5図に従来技術として記載された構成に相当するものと認められる。
したがって、本件公報に従来技術として記載されている溶着予熱装置の構成を開示した本件マニュアルは、本件の出願前に公然と使用されていた本件包装機の操作等のためのものであるから、本件包装機が上記の構成を有することは明らかである。
被告は、本件契約書の賃貸借普通約款(以下「本件約款」という。)の13条a項、同条b項及び14条の各規定を根拠に、賃借人である訴外連合会が本件包装機の技術内容について秘密保持義務を課されていたものであり、本件マニュアルが、本件考案の出願前公知であったということはできず、したがって、本件包装機も公然と使用されていたものではないと主張する。
しかし、本件約款13条a項は、賃借人の模倣を禁止するものであり、同条b項は、機械の使用目的の規定であるまた、同14条は、無形資産の所有権の帰属を明確にする規定であって、機密工程、使用知識についても、機密保持義務のない特許権や商標等と横並びに記載されており、この特許権や商標権が秘密でないことは明らかであるから、機密保持に関する規定とはいえない。したがって、これらの規定は、いずれも機密保持義務に関する規定ではない。しかも、審決は、前記のとおり、本件包装機が本件出願前に訴外連合会の大村果汁工場において公然と使用されていたことを認めている。
2 相違点の判断誤り(取消事由2)
審決は、本件考案と本件包装機との相違点の判断において、まず、本件考案が支持板を小径ガイドローラに変更したのは、支持板が熱風によって軟化した長手方向縁部(3b)の溶着面と擦りあうことによって溶着面を汚損する等の問題を解決するためであると認定している(審決書12頁16~20行)。
しかし、本件公報の記載(甲第2号証3欄14~27行参照)及び加熱空気ノズル部の横断面図である第5図が示すように、加熱空気ノズル部からの熱風によって軟化するのは、長手方向縁部(3a)であり、長手方向縁部(3b)は、加熱空気ノズル5の吹出面(5a)の反対側に設けられており、熱風によって軟化するものではないのであるから、上記の認定を相違点の判断の前提・根拠することは誤りである。
また、審決は、本件考案の小径ガイドローラが、支持板のスペーサ機能を有するものであるから、従来周知の包装材料ウエブの長手方向縁部を支持案内するための単なるガイドローラとは、その機能が相違すると認定している(審決書13頁14~17行)。
しかし、本件マニュアルの記載及び図面(甲第9号証の138-11)によれば、従来公知の溶着予熱装置における支持板のすぐ下に、スペーサ機能を有するガイドローラすなわち包装材料ウエブの内側の長手方向端部3bを支持・ガイドする「サポートローラ」が開示されており、この「サポートローラ」は、本件考案の出願前から公知であって、審決はこの点を考慮していないのであるから、審決の上記認定も誤りである。
さらに、審決が、長手方向縁部3bを長手方向縁部3aから離間させながらやがて長手方向縁部3aに溶着させるように案内するために必要な事項として例示する、「小径ガイドローラ7a、7b、7cがガイドローラ6a、6b6cに順次近付くように傾斜している」(審決書14頁1~4行)構成は、本件登録考案の実用新案登録請求の範囲第3項に記載されている構成であって、本件考案である実用新案登録請求の範囲第1項に記載された考案の構成要件ではないのであるから、本件考案がこの構成要件を有することを前提に相違点の判断をしたことも誤りである。
したがって、本件考案は、本件包装機及び周知技術に基づいて、当業者が極めて容易に想到し得たものであり、この点に反する審決の認定判断(審決書14頁13~18行)は、誤りである。
第4 被告の反論の要点
審決の認定判断は、正当であって、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1について
本件包装機が訴外連合会大村果汁工場に昭和54年7月に導入され使用されたこと、その導入時に当該包装機の操作等のためのマニュアル(抜粋された本件マニュアルの原本)が交付されたこと、本件マニュナルに、本件公報の第5図に従来技術として記載される、包装材料の内側の縁部を支持案内する支持板が平板状であり、その他の点で本件考案と一致する包装材料ウエブの長手方向縁部の溶着予熱装置の構成が開示されていることは、いずれも認める。
しかし、本件マニュアルは、実用新案法3条1項各号で規定する公知のものとはいえず、その結果、本件包装機も公然と使用されていたものいうことはできない。
すなわち、本件包装機が訴外連合会に賃貸された際の本件約款には、「(一般義務)13.賃借人は(a)直接並びに間接たるとを問わず、機械、その部品、機械によって充填する容器並びに輸送容器を模倣し、模造し又は模造品や偽造品を使用しない。」との条項があるが、この条項は、賃借人自らが模倣を行うことを禁止するとともに、第三者が模倣の対象となる機械あるいは技術情報へのアクセスを禁じる内容をも含むものである。また、同条の「(b)機械を契約書第1条所定の製品の充填その他テトラの承認した目的にのみ使用する。」との項は、本件包装機の目的外使用を明白に禁止した規定であり、本件包装機の技術情報を第三者に開示することは、これに反するからこの条項も、技術情報を第三者に開示することを禁止する趣旨を含むものである。
さらに、同約款には、「(商標、発明、その他)14.賃借人は、その地域内に於て、その容器、穴開装置、機械による成型、充填、封緘方法並びにテトラによって納入されるテトラパツク用紙又は輸送用容器につき版権、特許権意匠、秘密工程、使用知識、商標その他類似の資産等テトラが無形資産を所有することを認める。」との条項がある。このように賃借人たる訴外連合会が、機械による成型、充填、封織方法に関する秘密工程、使用知識等に関する無形資産が、訴外テトラの所有であることを認めたこと、及び本件包装機が最新の高度技術を駆使した機械であることはとりも直さず訴外連合会が、テトラの許可なくして本件マニュアルを第三者に交付したり、その内容を開示したりすることができないことを意味する。
したがって、賃借人である訴外連合会は、上記の本件約款に基づいて、本件包装機の技術内容について秘密保持義務を課されていたものであるから、本件マニュアルが、本件考案の出願前公知であったということはできず、本件マニュアルが本件包装機の操作等のためのものであるとしても、本件包装機が公然と使用されていたということもできない。
2 取消事由2について
原告が、本件考案の推考容易性の引用例としてあげる文献は、本件マニュアル(甲第9号証)、引用例1(甲第10号証)及び引用例2(甲第11号証)であるが、本件マニュアルは、前記のとおり本件考案出願前公知であったとはいえないから、本件考案の推考容易性の引用例としての適格性がない。
また、引用例1は、包装フィルムをローラーにより転がり接触で円滑に移送することを開示するにすぎず、本件考案とは技術分野が異なるだけでなく、課題の解決の観点からも技術の転用が示唆されるものではない。引用例2も、包装材料ウエブを支持・ガイドして筒状に成型(シール)する場合に、移送される包装材料ウエブの内側と外側に支持ローラーを用いることを開示するにすぎないものであるから、本件考案を示唆するものでない。 仮に、本件マニュアルが、本件考案の出願前公知のものであるとしても、本件考案の複数個の小径ガイドローラが有する、(イ)長手方向縁部3bを支持案内する、(ロ)長手方向縁部3bが直接加熱空気ノズル5に接触して過熱しないように支持する、という機能を示唆するものではない。
原告は、本件マニュアルにおける「サポートローラ」が(甲第9号証の138-11)がスペーサ機能を有するガイドローラであると主張するが、このサポートローラは、LSエレメントが出る反動で包装材料ウエブ内側端部が外側に膨らむのを阻止する機能、つまり「もどり止め」機能を有するにすぎない。
さらに、審決が、本件考案の長手方向縁部と小径ガイドローラの構成について判断した記載(審決書13頁18行~14頁12行)は、本件公報における考案の詳細な説明を参酌して導き出されたものと推認され、正当なものといえる。
したがって、従来技術における支持板を小径ガイドローラに変更することは、当業者が極めて容易に想到し得たものといえないとした審決の認定判断(審決書14頁13~18行)に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(本件包装機に関する認定誤り)について
審決の理由中、本件考案の要旨の認定、本件包装機が、訴外テトラと訴外連合会との賃貸借契約に基づいて、本件出願前に訴外連合会の大村果汁工場において使用されていたこと(審決書8頁18行~9頁15行)、本件回答書に「上記導入時の賃貸契約書のコピーを交付し、かつ上記導入時のAB3の充填機のマニュアル原本を貸与することによって回答に代えます。」(同10頁8~11行)との記載があることは、当事者間に争いがない。
また、上記「AB3の充填機のマニュアル原本」が、本件包装機の導入時に、訴外連合会の大村果汁工場に交付されたものであり、本件マニュアル(甲第9号証)がその抜粋であることも、当事者間に争いがない。
そうすると、本件マニュアルは、本件包装機の操作及び保全等のためのものであることが明らかであり、審決が、本件マニュアルについて、「甲第4号証(注、本訴甲第9号証)のマニュアルと搬入当初のAB3型機との関連を証明する記載は甲第4号証にはなく、またこのことを証明する証拠も外にはない。したがって、甲第4号証から、長崎県経済農業組合連合会 大村果汁工場の上記契約に基づいて搬入した包装機の機構、構造を説明したものとは断じられない。したがって、上記契約に基づいて大村果汁工場において使用された包装機が甲第4号証の115-32頁に示された機構、構造を有するものであったと認めることはできない。」(審決書10頁16行~11頁7行)と認定したことは、誤りというほかない。
被告は、本件約款の13条a項、同条b項及び14条の各規定を根拠に、賃借人である訴外連合会が本件包装機の技術内容について秘密保持義務を課されていたものであり、本件マニュアルが、本件考案の出願前公知であったということはできないと主張する。しかし、審決は、上記のとおり、本件包装機が公然と使用されていたことを認定したうえで、本件包装機と本件マニュアルとの関連性を否定するだけであり、本件マニュアルの公知性等は全く問題とされていないから、被告の主張はそれ自体失当といわなければならないが、念のためこの点も検討しておく。
本件契約書(甲第9号証)の本件約款には、「(一般義務)13.賃借人は (a)直接並びに間接たるとを問わず、機械、その部品、機械によって充填する容器並びに輸送容器を模倣し、模造し又は模造品や偽造品を使用しない。」との条項があるが、この規定は、賃借人自ら又は第三者が賃借の対象となる機械や技術情報等の模倣や偽造等を行うことを禁止するだけであり、これらの機械や技術情報等を第三者に開示することを禁止する趣旨を含むものとは解釈できない。同条の「(b)機械を契約書第1条所定の製品の充填その他テトラの承認した目的にのみ使用する。」との規定も、本件包装機の使用の目的を限定しただけであり、技術情報を第三者に開示することを禁止する趣旨とは認められない。
また、「(商標、発明、その他)14.賃借人は、その地域内に於て、その容器、穴開装置、機械による成型、充填、封緘方法並びにテトラによって納入されるテトラパック用紙又は輸送用容器につき版権、特許権、意匠、秘密工程、使用知識、商標その他類似の資産等テトラが無形資産を所有することを認める。」との規定は、訴外テトラに上記各無形資産が帰属する旨を定めたものであって、その資産の中に公開が前提とされている特許権、意匠、商標等が含まれていることからも明らかなように、これらの無形資産の秘密保持を定めたものではなく、賃借人に賃借物に関するマニュアル等を非公開とすることを義務付けたものとは到底認められない。いずれにしても、被告の主張は、採用の余地がない。
2 取消事由2(相違点の判断誤り)について
(1) 本件マニュアル(甲第9号証)に、本件公報の第5図に従来技術として記載される、包装材料の内側の縁部を支持案内する支持板が平板状であり、その他の点で本件考案と一致する包装材料ウエブの長手方向縁部の溶着予熱装置の構成が開示されていることは、当事者間に争いがなく、この構成を採用したと認められる本件包装機について、審決が、「仮に大村果汁工場に搬入され、公然と使用されたAB3型の包装機が本件公報添付の第5図に示す機構構造を備えた包装機、すなわち、包装材料ウエブの長手方向縁部(3b)を支持板11で案内するものであるとすれば、このものに対して本件登録実用新案は、包装材料ウエブの長手方向縁部(3b)に支持手段を小径ガイドローラにした点が相違する」(審決書12頁3~10行)と相違点を認定したことも、当事者間に争いがない。
この相違点について、審決は、まず、「上記支持板は包装材料ウエブの長手方向縁部(3b)を所定の経路に沿って走行させるというだけではなく、長手方向縁部(3b)を加熱空気ノズル5の上面に対して所定の間隔を保持させるための一種のスペーサの機能をも奏するものであり、また本件登録実用新案が上記支持板を小径ガイドローラに変更したのは、支持板が熱風によって軟化した長手方向縁部(3b)の溶着面と擦りあうことによってこの溶着面を荒らし、溶着面を汚損する等の問題を解決するためである。」(審決書12頁11~20行)と認定したうえ、「包装材料ウエブを所定の経路に沿って走行させて、その左右の長手方向縁部を接近させ、重ねあわせるためのガイドローラによって長手方向縁部を案内することと、これによって長手方向縁部が円滑に案内されることは従来周知のことである。」(同13頁1~6行)として、支持板に代わるガイドローラが周知技術であることを認めながら、これを本件包装機の支持板に採用するのが困難であると判断しているので、以下この点を検討する。
(2) 本件考案につき、本件公報(甲第2、第3号証)には「従来では、進行する筒状の未溶着のウエブに対する加熱空気ノズル部の横断面図(第5図)が示すように、溶着部の外側となる長手方向縁部3aを、加熱空気ノズル5と該長手方向縁部3aの位置規制用のガイドローラ6との間で、ガイドローラ6に押しつけるように位置せしめて長手方向縁部3aの内面を加熱せしめる一方、溶着部の内側となる他の長手方向縁部3bは加熱空気ノズル5の吹出面5aの反対側に接近して該縁部3bを支持案内するために設けられた支持板11で該縁部が直接加熱空気ノズル5に接触して過熱しないように支持しガイドに行つて来た。・・・このような従来の予熱装置に於ては、下方向へ進行する予め筒状に形成された両方の長手方向縁部3a、3bが未溶着状態の包装材料ウエブ3の内側の縁部3bを支持案内するための支持板11は、平板状でテフロン加工を施したものであるが、加熱空気ノズル1に対して固定されているため、該包装材料ウエブ3が下部方向に進行する場合、こすれにより往々にしてテフロンが剥がれ、摺接して移動する材料ウエブ3との摩擦が増大して該ウエブ3の表面を荒したり、支持板11表面には材料ウエブ3に被覆してあるポリエチレンの津が付着して堆積し、これが剥がれてウエブに付着してウエブ表面を汚したり、溶着部にそれらの粉が噛み込んだりする問題があつた。また、筒状に形成された未溶着の材料ウエブ3の内側の長手方向縁部3bに貼着されたストリツプテープ9が、該ウエブ3の外側の長手方向縁部3bに対し不充分に溶着されることがあつた。本考案は上記の点に鑑みてなされたものであつて・・・」(甲第2号証3欄15行~4欄4行)、「支持案内用に従来の予熱装置において固定支持板を用いたときのように摺動移動により材料にウエブにコートされたプラスチツク部分が摩擦の影響を受けることがないため、材料ウエブの溶接部及びその近傍の表面の荒れを防止することができる。また、ポリエチレンの滓などが固定支持板のときのようにローラ面にたまることがないため、その滓がウエブ表面に付着してウエブ表面を汚したり、また、溶着部へのポリエチレンの粉等が噛み込んだりすることを防止して良質の溶着を行うことができる。」(同8欄26~37行、甲第3号証平成5年12月6日付け手続補正書4頁4~6行)と記載されている。
これらの記載によれば、本件考案は、従来の溶着予熱装置の支持板が、ウエブの溶着部の内側となる長手方向縁部を支持案内するとともに、直接加熱空気ノズルに接触して過熱しないように支持していたことを前提技術として、このような支持板によって生じる、テフロンの剥がれ、材料ウエブとの摩擦の増大によるウエブ表面の荒れ、ポリエチレンの滓の付着、堆積によるウエブ表面の汚れ等を防止することを技術的課題とし、本件考案の要旨、とりわけ小径ガイドローラによる構成を採用したことにより、固定支持板の場合のように材料ウエブにコートされたプラスチック部分が摩擦の影響を受けることを解消し、上記の技術課題を解決するという作用効果を奏するものと認められる。
ところで、支持板における剥がれや、ウエブ表面の荒れ及び汚れ等の前記技術課題が、支持板と材料ウエブとのすべり摩擦による摩擦抵抗に起因すると理解することは、当業者にとって、技術常識というべきものであり、その解決のため支持板と材料ウエブとの摩擦抵抗を小さくすればよいことも、容易に認識できることといえる。
しかも、このような摺動の際の接触面における摩擦の影響を少なくするという技術課題について、摺動面に複数のローラーを設けて、転がり接触で円滑に移動するという技術手段を採用することは、引用例1(甲第10号証)に、「この案内筒の外側にただフイルム移送手段としてベルトコンベヤーやゴム回転体を設けることも考えられるが、筒状包装フイルムと案内筒との摩擦抵抗があるので円滑にフイルムを進行させることが困難であるためこの考案装置では、前述したように更にベルトコンベヤー、ゴム回転体などの移送手段を包装フイルムを通して案内筒に接する個所に自動回転するローラーの円周方向を筒状包装フイルムの進行方向にそつて間隔をもつて並設して移送すべき筒状包装フイルムの摩擦抵抗を少なくして円滑に進行させるものである。」(同号証明細書2頁12行~3頁3行)、「かくてこの適度の間隔をもつたローラー3aを案内筒1の外側適所に取付けることにより包装フイルム2の進行は案内筒1の外側との摩擦抵抗が少くなり円滑に移送することが可能になる。」(同3頁16~19行)、「その移動にしたがい各ローラー3aが回転するので包装フイルム2と案内筒1との接触抵抗は非常に少くなり、僅かな回転力で楽に矢印方向の下方に移送することが出来る。」(同4頁3~7行)と記載されるとおり、当業者にとって、公知の技術事項であったものと認められる。
このように、摺動の際の接触面における摩擦の影響を少なくするという技術課題が、技術常識であるとともに公知の事項である以上、その解決のために、本件包装機の支持板に代えて、審決が周知技術としたガイドローラを採用することは、当業者にとって、きわめて容易なことといわなければならない。
(3) 審決は、周知技術であるガイドローラを採用することが困難な理由として、「これは長手方向縁部が円滑に所定経路に沿って円滑に案内する手段としてのことである。また、長手方向縁部の溶着面、すなわち加熱空気ノズル5から吹き出す熱風によって軟化された溶着面を案内するについて、上記の従来技術が特にテフロンによって被覆した案内板を用いたことは加熱軟化された長手方向縁1部3bの溶着面を案内することと関連するものと言える。また、本件登録実用新案における上記小径ガイドローラは支持板の上記機能を奏するものであるから、単に包装材料ウエブの長手方向縁部を案内するためのガイドローラとはその機能において相違する。」(審決書13頁6~17行)と述べている。
上記審決の趣旨は、必ずしも明確ではないが、周知技術としてのガイドローラが、包装材料ウエブの長手方向縁部を円滑に案内するだけの機能を有するのに対し、本件考案では、小径ガイドローラが、当該案内機能だけでなく、従来の支持板が有していた、加熱空気ノズルの上面に対して所定の間隔を保持させるための一種のスペーサの機能も奏するものであることを理由とするものと解される。
この従来の支持板が有するスペーサ機能とは、支持板の幅(厚さ)に対応して、長手方向縁部3bと加熱空気ノズル5との間に一定の必要とされる間隔を保つ機能と認められるところ、ガイドローラも一定の長さの径を有するのであるから、当業者が、ガイドローラにおいても径の長さに対応して上記と同様のスペーサ機能を発揮するものと、極めて容易に認識できることは明らかであるしたがって、周知技術としてのガイドローラがスペーサ機能を有するものでないことを理由に、その採用を否定する審決の上記判断は、誤りといわなければならない。
被告は、本件マニュアルが、本件考案の複数個の小径ガイドローラが有する、(イ)長手方向縁部3bを支持案内する、(ロ)長手方向縁部3bが直接加熱空気ノズル5に接触して過熱しないように支持する、という機能を示唆するものではないと主張する。
しかし、本件マニュアルに構成が開示される本件包装機において、その支持板が、長手方向縁部3bを支持案内するとともに、長手方向縁部3bが直接加熱空気ノズル5に接触しないように間隔を保持するスペーサ機能を備えていることは、前記のとおり審決が認定する(審決書12頁11~16行)ところであるし、これに代わる周知技術としてのガイドローラが、長手方向縁部を円滑に案内するだけでなく、加熱空気ノズルの上面に対して所定の間隔を保持させるためのスペーサの機能も有するものであることは、前示のとおり、当業者が容易に認識できることであるから、被告の主張には理由がない。
なお、被告は、引用例1が、包装フィルムをローラーにより転がり接触で円滑に移送することを開示するにすぎず、引用例2も、包装材料ウエブを支持・ガイドして筒状に成型(シール)する場合に、移送される包装材料ウエブの内側と外側に支持ローラーを用いることを開示するにすぎないから、本件考案を示唆するものでないと主張するが、審決は、引用例1及び2に基づいて本件考案が容易に推考されるとするものではないから、被告の主張は、それ自体失当といわなければならない。
また、審決は、「実用新案登録請求の範囲の欄の第1項には、長手方向縁部3bを、長手方向縁部3aから離間させながらやがて長手方向縁部3aに溶着させるように案内するために必要な事項(例えば小径ガイドローラ7a、7b、7cがガイドローラ6a、6b、6cに順次近付くように傾斜していること等)は明記されていないが、本件実用新案はこれらの事項を当然にその要件とするものと解するのが相当である。なぜなら、仮にこれらの事項が本件登録実用新案の要旨外のことであるとすれば、小径ガイドローラがそもそも従来技術における支持板の機能を代行し得ず、したがって、実用新案登録請求の範囲の記載は実用新案法第5条第4項の規定に違反するものとなるからである。」(審決書13頁18行~14頁12行)と述べており、本件考案が上記に例示されたような構成を有することが、周知技術としてのガイドローラを容易に採用できない理由の1つとするものと解される。
しかし、「長手方向縁部3bを長手方向縁部3aから離間させながらやがて長手方向縁部3aに溶着させるように案内する」構成は、本件考案である実用新案登録請求の範囲第1項に全く記載のないものであって、本件考案をそのように付加・限定することは許されず、しかも上記に例示された「小径ガイドローラ7a、7b、7cがガイドローラ6a、6b、6cに順次近付くように傾斜している」構成が、本件登録考案の実用新案登録請求の範囲第3項に記載されている構成であることは、本件公報の記載に照らして明らかであるから、そのような構成を必須の前提として考案の容易推考性を判断することは、到底認められるものではなく、審決の上記判断は、明白な誤りといわなければならない。
被告は、審決の上記記載が本件公報における考案の詳細な説明を参酌して導き出されたものであり、正当であると主張するが、本件考案の要旨は、前示のとおり一義的に明白であり、仮に本件公報における考案の詳細な説明を参酌するとしても、上記のような解釈が許されるものでないことは明らかであるから、上記主張は採用できかい。
以上のとおり、審決は、本件包装機が開示する構成の認定を誤り、本件考案の進歩性の判断をも誤ったものであるところ、これらの誤りは、審決の結論に影響を及ぼす重大な瑕疵であるから、審決は、取消しを免れない。
3 よって、原告の本訴請求は理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担及び上告のための付加期間の指定につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、96条2項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)
平成8年審判第8907号
審決
徳島県板野郡北島町太郎八須字西の川10番地の1
請求人 四国化工機 株式会社
東京都中央区八丁堀4-13-5 幸ビル7階 廣田特許事務所
代理人弁理士 廣田雅紀
東京都中央区八丁堀4丁目13番5号 幸ビル7階 創明国際特許事務所
代理人弁理士 土井育郎
スウェーデン国 ルンド エス22186 ルーベン・ラウジングスガタ(番地表示なし)
被請求人 エービー テトラ パック
東京都港区虎ノ門1丁目2番3号 虎ノ門第一ビル9階 三好内外国特許事務所
復代理人弁理士 三好秀和
東京都港区虎ノ門1丁目2番3号 虎ノ門第一ビル9階 三好内外国特許事務所
復代理人弁理士 岩崎幸邦
東京都港区虎ノ門1-2-3 虎ノ門第一ビル9階 三好内外国特許事務所
復代理人弁理士 中村友之
東京都大田区東糀谷4-6-20 日本テトラパック株式会社研究開発本部知的財産権部
代理人弁理士 田中義敏
東京都大田区東糀谷4-6-20 日本テトラパック株式会社研究開発本部知的財産権部
代理人弁理士 清水正三
上記当事者間の登録第2102350号実用新案「包装機における包装材料ウエブの長手方向縁部の溶着予熱装置」の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
木審判請求に係る実用新案登録は昭和62年6月12日の実用新案登録出願について平成4年12月2日の出願公告を経て、平成8年2月9日に設定登録されたものである。
本件登録実用新案の要旨は、平成5年12月6日付けで補正した明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲の欄の第1項に記載された次のとおりと認められる。
「プラスチックコートされたロール状の包装材料ウエブから、充填され且つ密封された包装物を製造するための包装機において、下部方向へ進行する予め一対の長手方向縁部(3a)、(3b)が間隙をおいて相互に重なるごとく筒状に形成された包装材料ウエブ(3)の未溶着状態の長手方向縁部(3a)、(3b)を溶着するための予熱装置(A)であって、前記筒状の包装材料ウエブ(3)の進行路に臨んで、該包装材料ウエブ(3)の長手方向に所定距離の間設けられた加熱空気ノズル(5)と、筒状に形成された該材料ウエブ(3)の外側の長手方向縁部(3a)を位置規制して該長手方向縁部(3a)の内面を前記加熱空気ノズル(5)の空気吹出面(5a)に対面せしめるように軸線を該吹出面(5a)に平行に上下方向に配置された複数個のガイドローラ(6a)、(6b)、・・・と、前記筒状に形成された材料ウエブ(3)の内側の長手方向縁部(3b)を前記加熱空気ノズル(5)を挟んで前記ガイドローラ(6a)、(6b)、・・・の反対側で支持するための複数個の小径ガイドローラ(7a)、(7b)、・・・とを備えたことを特徴とする包装機における包装材料ウエブの長手方向縁部の溶着予熱装置。」
ところで、本件明細書の考案の詳細な説明の記載によると、本件登録実用新案は、プラスチックコートされたロール状の包装材料ウエブを連続的に筒状に丸め、包装材料ウエブが下部方向へ進行する過程で一対の長手方向縁部(3a)、(3b)を、複数のガイドローラ6と支持板11とによってガイドして間隙をおいて相互に重ねつつ長手方向縁部(3a)、(3b)を熱風による溶着予熱装置によって加熱し、長手方向縁部(3a)、(3b)を溶着して筒状に形成し、さらにこれに包装物を充填しつつ上下端を密封して包装物を製造するための包装機であって、上記の溶着予熱装置が第5図に示す機構を備えたものであることを前提とし、これについて、溶着予熱装置の支持板11が長手方向縁部(3b)の加熱軟化された溶着面に摺接するための問題(支持板11のテフロン被覆層の損傷剥離、包装材料ウエブの縁部(3b)の溶着面の支持板11との摺動による損傷の問題等)を解消することを目的(あるいは課題)とするものであり、上記実用新案登録請求の範囲の第1項の記載の特徴事項に相当する手段によって上記の課題を解決したものと認められる。
1.本審判請求人は、次の理山1、または理由2により本件実用新案登録は無効とすべきものである旨主張する。
請求理由1
長崎県経済農業組合連合会が昭和54年7月に大村果汁工場に導入した「テトラブリックAB3」の包装機(本件登録実川新案の上記前提技術に相当すると主張する)と、実開昭54-36671号マイクロフィルム(甲第9号証)、特開昭60-228133号公報(甲第11号証)等に記載された包装材料ウエブのガイドローラによる案内機構とに基づいて当業者が容易に考案する事ができたものである。
この請求理由1の詳細は、公知の「テトラブリックAB3」の包装機の溶着予熱装置の包装材料ウエブの長手方向縁部(3b)に対する案内支持手段が「支持板11」であることは、甲第4号証の「AB3」についての説明書から推測されることであるとした上で、このものに対して本件登録実用新案は小径ガイドローラである点が相違するが、その余の点においては一致し、上記相違点は包装材料ウエブを案内支持する手段としたガイドローラを使用することは甲第9号証、甲第11号証等に記載されているように従来周知の事項であり、上記相違点による本件登録実用新案の効果は上記周知の事項の効果、ないしはこれかち当業者が常識的に予想し得た範囲内のことであるから、結局上記相違点は上記の長手方向縁部(3b)に対する案内支持手段として上記周知の事項を適用することによって当業者が極あて容易に考案することができたことである、ということである。
請求理由2
雪印乳業株式会社が昭和62年2月21日に神戸工場に導入した「AB9型」の包装機の溶着予熱装置は甲第16号証の説明書に記載されたとおりものものであり、本件登録実用新案の構成要件を全て備えているものであるから、本件登録実用新案は出願前に公知、公用の考案と同一である。
2.被請求人の答弁
平成8年12月20日の答弁書において被請求人の答弁の趣旨は概ね次のようである。
請求理由1について
長崎県経済農業組合連合会が昭和54年7月に大村果汁工場に導入した「テトラブリックAB3」型の包装機が本件出願前に公知となったものかどうか、またこれが本件登録実用新案の前提技術(その溶着予熱装置が本件図面の第5図に示すもの)に相当するかどうかは証拠をもってしては定かでなく、仮に請求人主張のとおりであるとしてもに、請求人主張の上記相違点の技術的意義は、単に包装材料ウエブを案内支持するための手段としてガイドローラを採用したというに止まるものではなく、前提技術に存在する特定の課題(上記のとおりの本件登録実用新案の課題)を解決するための手段であるから、甲策9号証、甲第11号証等に記載された、ガイドローラによって包装材料ウエブを案内支持するという技術的事項とは全く別異のことである。
したがって、上記相違点は、甲第9号証、甲第11号証等に記載された事項に基づいて当業者が容易に想到し得たことであという請求人の主張は理由がなく失当である。
請求理由2について
雪印乳業株式会社が昭和62年2月21日に大神戸工場に導入した「AB9型」の包装機の溶着予熱装置は甲第16号証の説明書に記載されたとおりものものであるというが、そのことを証明する証拠はなく、逆にこのものの溶着予熱装置は上記前提技術における溶着予熱装置であった。
したがって、請求人の理由2は根拠が無いばかりでなく、むしろこれは事実に明らかに反し、理由がない。
3.判断
請求人の主張、被請求人の答弁を勘案しつつ請求理由1、請求理由2の理由の有無について考察する。
理由1について
長崎県経済農業組合連合会とテトラパック株式会社との間に、型式AB3-200の包装機の賃貸借契約が昭和54年3月31日になされた事実が請求人が提出した甲第2号証(特に甲第2号証に添付された上記賃貸契約の契約書)から認められる。
また、この契約が何時から実行されたものかの証拠はないが、契約成立後遠くない日に実行されたものと一般的に推測されないではないこと、昭和54年7月にAB3型の包装機が長崎県経済農業組合連合会の大村果汁工場に搬入されたことを甲第3号証において上記大村果汁工場、工場長 吉川平太が回答していること、さらに、この契約が実行前に解約されたものと言うべき証拠もないこと等から、昭和54年3月31日の賃貸契約成立後、遠くない日にAB3型の包装機が長崎県経済農業組合連合会の大村果汁工場に搬入されたものと認められる。
また、長崎県経済農業組合連合会の大村果汁工場における各種包装機会の使用は、一般的には公開された状態である事が推測され、このAB3型の包装機についての同工場における使用が特に非公開であったこと言うべき証拠もない。
したがって、少なくとも本件実用新案登録の出願の出願日(昭和62年6月12日)の前に大村果汁工場に搬入されたAB3型の包装機は公然と使用されたものと推認する事ができる。
ところで、甲第2、第3号証(大阪弁護士会会長に対する上記の大村果汁工場、工場長 吉田平太の回答書、および添付された上記契約書等)において、当該回答書に「上記導入時の賃貸契約書のコピーを交付し、かつ上記導入時のAB3の充填機のマニュアル原本を貸与することによって回答に代えます。」の記載があることが認められる。
他方、請求人は「AB3型機等の“テクニカルディスクリプション及びメンテナンス システム”」と題するマニュアル、第4号証が、テトラパック株式会社から長崎県経済農業組合連合会に交付されたマニュアルであるとしているが、甲第4号証のマニュアルと搬入当初のAB3型機との関連を証明する記載は甲第4号証にはなく、またこのことを証明する証拠も外にはない。
したがって、甲第4号証から、長崎県経済農業組合連合会、大村果汁工場の上記契約に基づいて搬入した包装機の機構、構造を説明したものとは断じられない。
したがって、上記契約に基づいて大村果汁工場において使用された包装機が甲第4号証の115-32頁に示された機構、構造を有するものであったと認めることはできない。
請求人は本件登録実用新案はその第5図に示す機構構造を備えた包装機を前提技術とするものであるが、この従来技術はAB3型の包装機が備えるものであったとの主張を前提として、本件登録実用新案の進歩性は否定されるべきものであると立論している。
しかし、上記のとおり、請求人が提出した証拠の限りではAB3型の包装機が本件登録実用新案の前提技術に当たるとは断じられないのであるから、請求理由1はその前提において失当であり、したがって理由1は成り立たない。
仮に上記大村果汁工場に搬入され、公然と使用されたAB3型の包装機が本件明細書添付の第5図に示す機構構造を備えた包装機であったとしても、請求理由1は理由がない。
すなわち、仮に大村果汁工場に搬入され、公然と使用されたAB3型の包装機が本件明細書添付の第5図に示す機構構造を備えた包装機、すなわち、包装材料ウエブの長手方向縁部(3b)を支持板11で案内するものであるとすれば、このものに対して本件登録実用新案は、包装材料ウエブの長手方向縁部(3b)に支持手段を小径ガイドローラにしだ点が相違する。
ところで、上記支持板は包装材料ウエブの長手方向縁部(3b)を所定の経路に沿って走行させるというだけではなく、長手方向縁部(3b)を加熱空気ノズル5の上面に対して所定の間隔を保持させるための一種のスペーサの機能をも奏するものであり、また本件登録実用新案が上記支持板を小径ガイドローラに変更したのは、支持板が熱風によって軟化した長手方向縁部(3b)の溶着面と擦りあうことによってこの溶着面を荒らし、溶着面を汚損する等の問題を解決するためである。
確かに、包装材料ウエブを所定の経路に沿って走行させて、その左右の長手方向縁部を接近させ、重ねあわせるためのガイドローラによって長手方向縁部を案内することと、これによって長手方向縁部が円滑に案内されることは従来周知のことである。しかし、これは長手方向縁部が円滑に所定経路に沿って円滑に案内する手段としてのことである。また、長手方向縁部の溶着面、すなわち加熱空気ノズル5から吹き出す熱風によって軟化された溶着面を案内するについて、上記の従来技術が特にテフロンによって被覆した案内板を用いたことは加熱軟化された長手方向縁部3bの溶着面を案内することと関連するものと言える。また、本件登録実用新案における上記小径ガイドローラは支持板の上記機能を奏するものであるから、単に包装材料ウエブの長手方向縁部を案内するためのガイドローラとはその機能において相違する。
また、実用新案登録請求の範囲の欄の第1項には、長手方向緑部3bを、長手方向縁部3aから離間させながらやがて長手方向縁部3aに密着させるように案内するために必要な事項(例えば小径ガイドローラ7a、7b、7cがガイドローラ6a、6b、6cに順次近付くように傾斜していること等)は明記されてはいないが、本件登録実用新案はこれらの事項を当然にその要件とするものと解するのが相当である。なぜなら、仮にこれらの事項が本件登録実用新案の要旨外のことであるとすれば、小径ガイドローラがそもそも従来技術における支持板の機能を代行し得ず、したがって、実用新案登録請求の範囲の記載は実用新案法第5条第4項の規定に違反するものとなるからである。
したがって、従来技術における支持板を小径ガイドローラに変更することは、包装材料ウエブの長手方向縁部をガイドローラによって所定の経路に沿って案内することが一般的に周知の事項であることを理由に、当業者が極めて容易に想到し得たものであると言うことはできない。
請求理由2について
請求理由2は、本件登録実用新案は昭和62年2月21日に雪印乳業株式会社 神戸工場に導入し、公然と使用したAB9型包装機と同一であるから、本件実用新案登録は実用新案法第3条第1項2号の規定に違反するものであるということである。
請求人は、大阪弁護士会に対する雪印乳業株式会社生産技術部 若井由太郎の回答書(甲第13号証)及び同回答書に添付した雪印乳業株式会社と日本テトラパック株式会社との賃貸契約書(甲第14号証)、機械搬置確認書(甲第15号証)、マニュアル「SPC6481-52 SUPERSTRUCTURE](甲第16号証)を提出して、上記事実はこれらの証拠方法から明らかであると主張している。
しかし、AB9型包装機が昭和62年2月21日に雪印乳業株式会社 神戸工場に導入され、公然と使用された事実は甲第13号証、甲第14号証、甲第15号証から推認されるとしても、同神戸工場に導入された上記のAB9型包装機と甲第16号証との関連を証明する証拠はないから、当該AB9型包装機が甲第16号証に記載された機構構造を備えたものであるとは認めることはできない。
なお、被請求人は平成9年2月12日付けの答弁理由補充によって、雪印乳業株式会社 神戸工場に導入された包装機においては長手方向縁部3bは支持板によってガイドされていたものであると主張し、このことを証明する証拠方法として、平成7年(ワ)第26074号 権利侵害差止請求事件および平成8年(ワ)第12274号 損害賠償請求事件において原告 エービー テトラパック、日本テトラパック株式会社が提出した準備書面(乙第1号証)、及び同事件において原告が提出した、日本テトラパック株式会社に勤務する鶴岡 太の陳述書(乙第2号証)を提出している。
被請求人の上記主張は事実に反するものであるというべき理由はないが、仮に乙第1号証、乙第2号証のみでは被請求人のこの主張が事実であるとは断定できないとしても、上記のとおり請求人の主張を立証する証拠もないことも上述のとおりである。
したがって、請求理由2は理由はない。
以上のとおりであるから、請求理由1、請求理由2のいずれも理由がなく採用することはできない。
よって結論のとおり審決する。
平成9年3月27日
審判長特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)