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東京高等裁判所 平成9年(行コ)112号 判決 1999年2月24日

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は、補助参加によって生じたものを含め、控訴人の負担とする。

理由

一  前記争いのない事実及び確実な証拠により明らかに認められる事実、後掲各証拠並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

1  国鉄改革(分割民営化)に至る経緯

(一)  国鉄は、昭和三九年以降欠損を出して赤字経営に陥り、その累積債務額は増加を続け、昭和五七年度には約一八兆円、さらに、昭和五九年度には約二二兆円に達した。この間、昭和五五年ころから、右のような国鉄の膨大な赤字が大きな政治問題となり、昭和五六年一〇月及び一一月には、衆議院及び参議院の各行財政改革に関する特別委員会において、国鉄のヤミ慣行、ヤミ協定、ヤミ休暇、ポカ休等が取り上げられ、職場規律の乱れが問題として指摘された。また、このころから、新聞雑誌等でも、国鉄の職場規律の乱れについて厳しい批判的報道が相次いでされるようになった。<証拠略>

(二)  このような中で、昭和五六年三月一六日に発足した第二次臨時行政調査会は、国鉄改革等について検討を進め、昭和五七年七月三〇日、国鉄の分割民営化、国鉄再建のための推進機関の設置、職場規律の確立等を内容とする第三次答申(基本答申)を行った。右答申においては、国鉄の経営の悪化をもたらした原因の一つとして、「労使関係が不安定で、ヤミ協定、悪慣行の蔓延など職場規律の乱れがあり、合理化が進まず、生産性の低下をもたらしたこと」が指摘され、国鉄に最も必要なことの一つとして、「職場規律を確立し、個々の職員が経営の現状を認識し、最大限の生産性を上げること」が挙げられ、国鉄の分割民営化が必要であるという結論が示された。そして、「新形態移行までの間緊急にとるべき措置」として指摘された一一項目(いわゆる緊急一一項目)の中には、「職場規律の確立を図るため、職場におけるヤミ協定及び悪慣行(ヤミ休暇、休憩時間の増付与、労働実態の伴わない手当、ヤミ専従、管理職の下位職代務等)は全面的に是正し、現場協議制度は本来の趣旨にのっとった制度に改める。また、違法行為に対しての厳正な処分、昇給昇格管理の厳正な運用、職務専念義務の徹底等人事管理の強化を図る。」とする項目が含まれていた。<証拠略>

(三)  これを受けて、内閣は、昭和五七年九月二四日、国鉄の事業の再建を図るために当面緊急に講ずべき対策について閣議決定を行うとともに、国鉄の事業の再建についての政府声明を発表した。右閣議決定においては、職場規律の確立等について、「(1)職場におけるヤミ協定及び悪慣行については、総点検等によりその実体を把握し、直ちに是正措置を講ずる。(2)現場協議制度については、業務の正常かつ円滑な運営に支障が生じないよう改めることとし、所要の措置を講ずる。(3)職員の信賞必罰体制を確立し、人事管理の一層の強化を図る。」とされた。<証拠略>

(四)  その後、昭和五八年六月一〇日に日本国有鉄道再建監理委員会が設置され、同委員会は、同年八月二日、「日本国有鉄道の経営する事業の運営の改善のために緊急に講ずべき措置の基本的実施方針について」と題する報告書を政府に提出し、その中で、経営管理の適正化の一つとして職場規律の確立について、「現在行われている措置を着実に推進するとともに、幹部職員が積極的に現場と接触するほか定期的な総点検を行うこと等により早急に組織全体への浸透を図るべきである。」と提言した。さらに、同委員会は、昭和六〇年七月二六日、「国鉄改革に関する意見--鉄道の未来を拓くために--」と題する報告書を政府に提出した。右報告書は、国鉄の旅客鉄道部門を全国六地域に分割し、民営化すること、その実施の時期を昭和六二年四月一日とすること、国鉄が新事業体に移行することにより約九万三〇〇〇人の余剰人員が生じるため、その対策を講じるべきことなどを内容とし、国鉄再建の具体的方法を述べたものであった。<証拠略>

(五)  これを受けて、政府は、昭和六〇年一〇月一一日に国鉄改革のための基本的方針について閣議決定するとともに、昭和六一年に入って、国鉄改革関連九法案を国会に提出し、このうち改革法等の八法案は同年一一月二八日に成立し、同年一二月四日に公布された。これにより、国鉄の鉄道事業の大部分は、昭和六二年四月一日をもって控訴人を含む新事業体に引き継がれた。<証拠略>

2  分割民営化に至る国鉄労使の状況等

(一)  前記1(一)のとおり国会等で国鉄の職場規律の乱れが問題となったことから、国鉄職員局長は、昭和五六年一一月九日、各総局長、各鉄道管理局長等に対し、「一部の職場においては依然として規律の乱れが改善されず、国民・世論から厳しい批判を受けているのはまことに遺憾なことである。」として、職場規律の確立のために具体的措置を講じるよう指示し、同月一六日、本社内各局が一体となって職員管理に関する基本事項について総合的に調査・審議し、その推進を図るため、本社内に職員管理委員会が設置された。また、昭和五七年一月二八日、国鉄副総裁は、各機関の長に対し、各現場の業務管理について誤った運用のないよう厳正に対処されたいとして、その適正化を指示する通達を発した。<証拠略>

(二)  また、運輸大臣は、昭和五七年三月四日、国鉄に対し、いわゆるヤミ手当や突発休、ヤミ休暇、現場協議の乱れ等の悪慣行などについては、誠に遺憾なことであり、これら全般について実態調査を行う等総点検を実施し、調査結果に基づき厳正な措置を講じることが必要である旨の指示をし、これを受けて、国鉄総裁は、同月五日、各機関の長に対し、職場規律の総点検及び是正を指示する通達を発した。この総点検は、国鉄の全現業機関四八三一箇所を対象として行われたが、その結果、職場規律の乱れが広くかつ深いものであることが判明したとして、国鉄は、いわゆる悪慣行、ヤミ協定の即時解消、現場協議の乱れの抜本的是正、現場管理者のバックアップ体制の確立、職場管理体制の充実等について緊急に全力を挙げて取り組むこととした。その後、国鉄は、昭和六〇年九月までに八次にわたる職場規律の総点検を行い、その結果に基づき、問題点の是正・改善等に取り組んだ(なお、いずれの総点検においても、組合バッジの着用状況についての調査項目はなかった。)。<証拠略>

(三)  このような使用者側の動きに対して、国労、動労、全施労及び全国鉄動力車労働組合連合会(以下「全動労」という。)の四組合は、昭和五七年三月九日、国鉄再建問題四組合共闘会議を発足させ、国鉄の分割民営化、二〇万人体制等に反対し、真の国鉄再建を目指し四組合の統一要求実現のため諸行動を強化する等の闘争方針を確認し、前記(二)の同月五日付け総裁通達に対して抗議を行った。

また、国労は、分割民営化反対等を主張し、昭和五九年八月一〇日に二時間のストライキを実施したほか、昭和六〇年に入ってワッペン着用闘争を行った。これに対して、国鉄は、同年九月一三日、右闘争に参加した約五万九二〇〇人の国労所属組合員に対して戒告、訓告等の処分をした。さらに、国労は、昭和六一年四月一〇日から一二日まで、国鉄の分割民営化方針等に抗議して、ワッペン着用闘争を行った。これに対して、国鉄は、同年五月三〇日、右闘争に参加した約二万九〇〇〇人の国労組合員に対し、戒告又は訓告の処分をした。

一方、鉄労は、昭和五九年六月二七日の中央委員会で、地域本社制の導入を提案し、昭和六〇年八月の定期大会において、国鉄の分割民営化を支持する方針を決定した。<証拠略>

(四)  国鉄は、昭和五九年七月一九日、国労、鉄労、動労、全施労及び全動労に対し、組合分会と現場責任者との間で職場単位で行われてきた現場協議制度が悪しき労使関係を生み出してきたとして、同年一一月三〇日に有効期間が満了する「現場協議に関する協約」の改訂案を提示し、同日までに交渉がまとまらなければ右協約を再締結しない旨を通告した。この結果、鉄労、動労及び全施労は、右改訂案どおりの協約を締結したが、国労及び全動労と国鉄との交渉は決裂し、国労及び全動労について右協約は失効した。

また、国鉄は、昭和六〇年一〇月二四日、国労に対し、国労が派遣や休職などのいわゆる余剰人員対策に対して非協力の態度をとっていることを理由に、同年一一月三〇日で期限切れとなる「雇用の安定等に関する協約」について再締結しない旨通告し、両者間では、同年一二月一日以降無協約の状態となった。一方、国鉄は、動労、鉄労及び全施労との間で、同年一一月三〇日、期限を昭和六二年三月三一日として右協約を再締結した。

さらに、国鉄は、昭和六一年一月一三日、「労使共同宣言(第一次)」の締結を各組合に提案した。同宣言の案は、「雇用安定の基盤を守るという立場から、国鉄改革が成し遂げられるまでの間、労使は、信頼関係を基礎として、以下の項目について一致協力して取り組むことを宣言する。」とし、諸法規を遵守すること、リボン・ワッペンの不着用、氏名札の着用等定められた服装を整えること、点呼妨害等企業人としてのモラルにもとる行為の根絶に努めること、必要な合理化は、労使が一致協力して積極的に推進すること、余剰人員対策については、派遣制度・退職勧奨を積極的に推進することなどが掲げられていた。この提案に対し、鉄労、動労及び全施労は受諾したが、国労は、拒否した。<証拠略>

(五)  国鉄総裁は、昭和六一年三月五日、各機関の長に対し、八次にわたる職場規律の総点検の集大成として、職員個々の実態把握を統一的に行うため職員管理調書を作成するよう通達を発した。この職員管理調書は、同年四月二日時点の職員(管理職を除く。)について、昭和五八年四月一日から昭和六一年三月三一日までを調査対象期間として作成されたが、一般処分、労働処分等を含む七項目の特記事項のほか、評定事項として業務能力、知識等に関すること及び勤務態度に関することについて記入することとされていた(労働処分については、昭和五八年七月二日に処分通知を行った「五八・三闘争」から記入することとされたが、動労は昭和五七年一二月以降争議行為を行わなくなり、動労組合員に対する最後の処分通告は昭和五八年三月二六日であるため、動労組合員の労働処分歴は右調書には記載されないことになった。)。右の評定事項の勤務態度に関することの中の「服装の乱れ」の項目は、「リボン・ワッペン、氏名札、安全帽、安全靴、あご紐、ネクタイ等について、指導された通りの服装をしているか。」というものであり、組合バッジについては言及されていなかった(なお、「勤務時間中の組合活動」の項には、ワッペン着用、氏名札未着用については「服装の乱れ」の項で回答することとの注意書がある。)。<証拠略>

(六)  鉄労、動労、全施労及び真国鉄労働組合(昭和六一年四月一三日、東京地本から脱退した者を中心に組合員約一二〇〇名で結成された。)は、同年七月一八日、国鉄改革労働組合協議会(以下「改革労協」という。)を結成し、同年八月二七日、国鉄と「今後の鉄道事業のあり方についての合意事項(第二次労使共同宣言)」を締結した。この宣言は、改革労協は、国鉄経営の現状にかんがみ、鉄道事業再生のための現実的な処方箋は「民営・分割」による国鉄改革を基本とするほかはないという認識を持つに至ったとして、<1>労使は、これまでに築いてきた信頼関係を基礎に、国鉄改革の実施に向かって一致協力して尽力すること、<2>労使は、「国鉄改革労使協議会」が今後の鉄道事業における労使関係の機軸として発展的に位置づけられるよう、緊密な連携、協議を行い、改革労協は、今後争議権が付与された場合においても、鉄道事業の健全な経営が定着するまでは、争議権の行使を自粛すること等を内容としていた。<証拠略>

(七)  国鉄総裁は、昭和六一年八月二八日、昭和五〇年一一月から一二月にかけて行われたいわゆる「スト権スト」に関し、国鉄が昭和五一年二月に国労及び動労に対して提起した約二〇二億円の損害賠償請求訴訟について、動労に関する限り違法ストが再び行われるおそれは除去されたものということができる等として、動労に対する訴えを取り下げ、これまで動労がとってきた労使協調路線を将来にわたって定着させる礎としたい旨の談話を発表し、同年九月三日、動労に対する右訴えを取り下げた。他方、右談話において、国労については、今日まで訴訟を取り下げるべき事情が生じていないので従来どおり訴訟を維持する旨言及された。<証拠略>

(八)  一方、国労は、昭和六一年一〇月九日、一〇日の両日、伊豆修善寺で臨時全国大会を開催したが、雇用と組織を守るために分割民営化反対をやめて労使共同宣言を締結するという国鉄当局との「大胆な妥協」を目指す執行部案は否決され、引き続き国鉄の分割民営化に反対していく方針が確認された。

他方、鉄労、動労、日本鉄道労働組合(同年一二月一九日に真国鉄労働組合と全施労が統合され、組合員約一万名で結成された。)及び鉄道社員労働組合(昭和六二年一月二三日に組合員約三万名で結成された。)は、同年二月二日、新会社における一企業一組合の実現を目指し、鉄道労連を結成した。

また、国労を脱退した旧主流派によって各地域ごとに結成された鉄道産業労働組合(鉄産労)は、同月二八日、その連合組織として鉄産総連を結成した。

以上のような状況の下で、昭和六一年五月には組合員約一六万三〇〇〇名(組織率六八・三パーセント)を有する国鉄内最大の労働組合であった国労は、その組合員を昭和六二年二月には約六万四七〇〇名(同二九・二パーセント)、さらに、同年四月には約四万四〇〇〇名と急激に減少させた。なお、昭和六一年五月当時の他組合の組合員数は、動労が約三万一三五〇名(組織率一三・一パーセント)、鉄労が約二万八八七〇名(同一二・一パーセント)、全施労が約一五九〇名(同〇・七パーセント)であったが、昭和六二年二月には、鉄道労連が約一二万六〇〇〇名(同五五パーセント)、鉄産総連が約二万一〇〇〇名(同九パーセント)という状況となっていた。<証拠略>

3  就業規則の制定等

(一)  控訴人の就業規則(以下「本件就業規則」という。)は、国鉄本社内に設置された東日本旅客鉄道株式会社設立準備室がその原案を作成し、昭和六二年三月二三日に控訴人の創立総会を経て制定された。本件就業規則のうち、組合バッジ等の着用に関連する規定は、「事実」の第二で引用した原判決の第二の一の2の(一)(原判決一三頁一行目から同一五頁八行目まで)に記載のとおりであった。本件就業規則は、同月三一日までに国鉄の関係箇所に備え付けられ、控訴人が発足した同年四月一日には、いずれの現業機関においても各詰所にこれが備え付けられて社員が自由に閲覧し得る状態におかれ、さらに、その旨が点呼、掲示等によって社員に周知され、その遵守が求められた。その後、控訴人は、各労働組合の意見聴取を経て、同年五月中旬ころまでに右就業規則を所轄労働基準監督署に届け出た。<証拠・人証略>

(二)  控訴人の賃金規程(昭和六三年八月人達第一二号による改正前のもの。以下同じ。)のうち、期末手当の額の減額に関連する規定は、「事実」の第二で引用した原判決の第二の一の2の(二)(原判決一五頁九行目から同一七頁三行目まで)に記載のとおりであり、減額に係る成績率については、一〇〇分の五減の事由として減給、戒告、訓告及び勤務成績が良好でない者と定められている(同規程一四五条三項イ参照)が、これに関して作成される期末手当減額調書には、業績(問題意識、成果)、態度(執務態度、協調性等)、処分の有無、服装(組合バッジ着用等の注意回数等)について記入することとされている。<証拠略>

4  組合バッジの着用状況等

(一)  本件組合バッジは、縦一・一センチメートル、横一・三センチメートルの四角形で、黒地に金色のレールの断面と「NRU」の文字をデザインしたものであり、「NRU」は「国鉄労働組合」を英訳した「National Railway Union」の頭文字をとったものである。国労の組合バッジは、国労結成後間もない昭和二三年に制定され、昭和四一年に組合結成二〇周年を記念して、現在のデザインに変更された。本件組合バッジは、国労に加入した際、国労手帳とともに組合員に無償で支給され、国鉄時代には、国労組合員は、国労からの指令等がなくても、自発的にこれを制服や作業服の胸や襟等に付けて着用していた。

国鉄における職員の服装の整正については、就業規則六条に「職員は、服装を端正にし、常に職員としての規律と品位を保つように努めなければならない。」及び「職員は、総裁(又はその委任を受けた者)の定めるところに従って、制服等を着用し業務に従事しなければならない。」と定められ、また、「服制及び被服類取扱基準規程」の一六条に「被服類には、腕章、キ章、服飾等であって、この規程に定めるもの及び別に定めてあるもの以外のものを着用してはならない。」と定められていたので、国鉄が着用を認めたもの以外のキ章に当たるとして本件組合バッジの着用を禁止することも可能であったが、国労以外の労働組合の組合員もそれぞれ組合バッジを着用しており、国鉄当局がその取り外しを指導したり、着用を理由に処分したことはなかった(なお、国労のワッペン式大型バッジは、通称「くまんばち」と呼ばれ、デザインは本件組合バッジとほぼ同様であるが、縦二・六センチメートル、横二・八センチメートルと大きく、これは主に何らかの闘争時などを中心に着用された。この大型バッジについては、国鉄当局は、本件組合バッジと区別し、ワッペンの一種であるとして、国鉄末期に規制を行った。)。<証拠・人証略>

(二)  国鉄分割民営化の過程で前記2の(八)のとおり国労から多くの組合員が脱退していく中で、本件組合バッジを組合団結のシンボルとする国労組合員は、国労の組織防衛上の見地からその着用を続けていた。東京地本は、昭和六一年一〇月三一日、闘争指令を発し、その中で、当面の闘いとして、「国労バッチの完全着用をはかること。」などの指令を出し、さらに、昭和六二年三月三一日、各支部執行委員長に対し、「国労バッチは全員が完全に着用するよう再度徹底を期すこととする。」などの指示を出すに至り、本件組合員らは、就業時間中に本件組合バッジを継続的に着用した。なお、同年一〇月一九日から開催された東京地本定期大会の昭和六二年度運動方針(案)にも、青年部活動の強化として、「国労バッチの全員着用にむけ職場での学習・討論を深めます。」との運動方針が掲げられている。<証拠・人証略>

(三)  国鉄時代には、動労、鉄労など国労以外の他の労働組合も、組合バッジを作成し、組合員に配付しており、各労働組合の組合員は、組合バッジを着用していたが、控訴人が発足した昭和六二年四月には、国労以外の他の労働組合の組合員のほとんどは組合バッジを外しており(鉄道労連は、同月一日付け機関誌に「着けよう鉄道労連バッジ」との呼び掛けを掲載したが、鉄道労連の下部組織の東鉄労組合員はこれを着用しなかったし、東鉄労としては、会社発足の困難な途上において労使がいらざる紛争の種を作るべきではないとして、所属組合員が就業時間中に組合バッジを着用することがあれば、強力に指導して外させる方針であった。)、同月下旬ころには、控訴人の社員で組合バッジを着用していたのは、ほぼ国労組合員のみというに等しい状況であった。<証拠・人証略>

5  組合バッジ着用規制と本件処分に至る経緯

(一)  国鉄の東日本旅客鉄道株式会社設立準備室の小柴次長は、昭和六二年三月二三日、東日本地区各機関総務(担当)部長(次長)に対し、「社員への「社員証」「社章」「氏名札」の交付等について」と題する事務連絡を行ったが、その中で、控訴人発足に当たって全社員に交付すべき社員証、社章及び氏名札は、勤務箇所長から直接社員一人一人に手渡しで交付すること、組合バッジを着用している場合には、組合バッジを外させるとともに、社章を着用させることを指示した。右指示に従い、勤務箇所長は、社員に対し、同年四月一日又はその前後にされた社章等の交付の際、組合バッジを取り外すよう指導した。<証拠略>

(二)  控訴人の人事部勤労課嶋副長は、昭和六二年四月七日、関係各機関の勤労(担当)課長に対し、「社章及び氏名札等の着用状況調査について」と題する事務連絡を行い、各現業機関の社員を調査対象として同月一日から同月七日までの間の社章、氏名札及び組合バッジの常態的な着用状況の報告を求め、特に、組合バッジ着用者数については、系統別に組合別人員数を計上することを求めた。さらに、同副長は、同月二三日、調査期間を同年五月七日から同月一三日までとして同様の調査及び報告を求める「社章、氏名札等の着用状況調査について(第2次)」と題する事務連絡を行った。右二回の調査の結果報告によると、組合バッジ着用者は、第一次調査で五六四五名(全体の八・八パーセント)、第二次調査で二七九八名(同四・四パーセント)であり、そのほとんどが国労組合員であった。<証拠略>

(三)  控訴人の人事部勤労課長は、昭和六二年四月二〇日、関係各機関の勤労(担当)課長に対し、「社章、氏名札着用等の指導方について」と題する事務連絡を行ったが、その中で、「組合バッヂ着用者に対しては、服装違反である旨注意を喚起して、取り外すよう注意・指導すること。その際の注意等に対する言動を含めた状況を克明に記録しておくこと。繰り返し注意・指導を行ったにもかかわらず、これに従わない社員に対しては、「就業規則」、「社員証、社章及び氏名札規程」に違反するとして厳しく対処することとし、人事考課等に厳正に反映させることとされたい。」と指示した。これを受けて、東京圏運行本部の総務部人事課長及び勤労課長は、関係現業機関の長に対し、翌二一日、同旨の事務連絡を行い、さらに、同月二八日、「服装等の整正状況のは握について」と題する事務連絡を行って、決められた服装をしない社員の整正状況について個人別把握を行うよう指示した。さらに、控訴人の人事部勤労課長は、同年五月二一日、関係各機関の勤労(担当)課長に対し、「服装違反者に対する注意・指導の徹底について」と題する事務連絡を行い、「依然として管理者の注意・指導に従わず、服装違反を繰り返している社員が見受けられることは甚だ遺憾である。」として、更に強力に注意・指導の徹底を行い、直ちに改善されるよう取り組むべきことを指示した。<証拠略>

(四)  控訴人の人事部長は、昭和六二年五月二八日、関係各機関の総務部長等に対し、「服装違反者に対する方針について」と題する事務連絡を行い、「未だ多数の者がこれら管理者の注意・指導に従わず、社章、氏名札を着用せず、組合バッヂ等を着用して勤務に就いていることは誠に遺憾であるといわざるをえない。」として、「これら服装違反者に対して、従前の注意・指導を踏まえて一層の改善をはかるべく、さらに強力に取り組まれたい。」と指示した。その中で、同人事部長は、「社章、氏名札の未着用及び組合バッヂ等を着用して勤務した者に対しては、厳正に対処せざるを得ないことをここに警告する。」旨の警告文の案文を示して、これを参考に「各現場での点呼、掲示等により社員に対して周知徹底を図り、改善の実をあげるとともに、貴職におかれては現場の実態について完全に把握し、厳正な対処の準備を図られたい。」と指示した。これを受けて、東京圏運行本部総務部長は、同日、各現業機関の長に対し、「服装違反者に対する方針について」と題する事務連絡を行い、その中で、右案文と同内容の東京圏運行本部長名による警告文案を示し、これを参考として会社の右方針の周知徹底を図るべきこと等を指示し、翌二九日、各現業機関において、右文案どおりの警告文が掲示された。<証拠略>

(五)  以上のような経緯を経て、控訴人は、昭和六二年六月一二日、本件組合バッジを着用していた本件組合員らのうち原判決別紙組合員目録1記載の者に対し、本件処分を行い、さらに、同年の夏季手当について、本件組合員らに対し、賃金規程一四五条三項に定める成績率(減額)の対象者に該当するとして、本件減額措置を行った。

二  本件就業規則違反の成否について

1  控訴人の行う鉄道事業は、国民の社会経済生活に密接した必要不可欠のものであって公共性の高い事業であるとともに、不特定多数の利用客の生命、身体及び財産の安全に深く関わるものであるから、これを脅かすような事態の発生を防止することが重要である。そして、前記一認定の事実によれば、国鉄においては、職場規律の乱れや巨額の赤字が問題となったところから、職場規律の乱れを是正するための措置が講じられるとともに、分割民営化による改革が進められることになったのであるから、その事業の一部を引き継いだ控訴人が、全社員を対象として、職場規律を確立して企業秩序を維持するために、国鉄時代とは異なる施策を採り、本件就業規則を制定して、職務専念義務、服装の整正、勤務時間中の組合活動の禁止等を定め、かつ、社員にその遵守を求めたことには、十分な合理性があったというべきである。

なお、国鉄においては、国労のほか、動労、鉄労などの各労働組合の組合員も組合バッジを着用していたが、特に問題とされることはなく、職員管理調書に記載すべき勤務態度に関する事項の中の服装の乱れの項目においても、組合バッジについては言及されていなかったことは前記認定のとおりであるが、国鉄時代の職場規律の乱れを反省し、新会社である控訴人において企業秩序の維持・確立を図るための一環として、就業時間中の組合バッジ着用を禁止することには、合理的な理由があるというべきであるから、控訴人において、国鉄における従来の運用を改めて、就業時間中の組合バッジ着用の禁止を徹底したとしても、何ら非難されるべきことではないというべきである。

そして、前記認定の事実によれば、本件組合員らの本件組合バッジの着用行為は、社員の服装の整正について定める本件就業規則二〇条三項、勤務時間中の組合活動を禁止する同二三条及び職務専念義務について定める同三条一項にそれぞれ違反するものであると認められる。

2  参加人らは、就業規則の秩序維持条項による組合活動規制に関しては、就業規則の文言の形式的該当性とは別に、企業秩序を現実に阻害するなど、当該規則の達成すべき目的に実質的に違反するような行為かどうかという基準によって合理的判断を行うべきであるとし、本件就業規則二〇条三項は、同条一項の規定とあいまって、労務提供のために必要かつ合理的な服装整正を目的とする条項であるから、着用した際に目立たず、所属組合を抽象的な線路のマークと組合名の頭文字の組合せで示すのみの本件組合バッジは、右規則の趣旨に実質的に反するものではなく、また、本件組合バッジの着用は、伝統的な言葉の意味からすれば、組合活動とはいえず、仮にこれを組合活動と呼んだとしても、業務に支障を生じさせたり、職場の秩序を乱すものではないので、本件就業規則二三条に実質的に違反するものではなく、さらに、本件組合バッジは着用者にとって組合に所属する自己の同一性を表すものにすぎず、その着用は職務への専念を妨げるものではないので、本件就業規則三条一項に違反するものでもないと主張するので、以下これらの点について検討する。

(一)  本件就業規則二〇条は、社員の服装の整正について定め、同条三項は、「社員は、勤務時間中に又は会社施設内で会社の認める以外の胸章、腕章等を着用してはならない。」と規定しているところ、本件組合バッジが右の「会社の認める以外の胸章、腕章等」に該当することは明らかである。

もっとも、右規定は、服装の整正によって職場内の秩序風紀の維持を目的としたものであるから、形式的にこれに違反するようにみえる場合でも、職場内の秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右規定の違反になるとはいえないと解するのが相当である。そして、前記認定のとおり、本件組合バッジは、縦一・一センチメートル、横一・三センチメートルの四角形で、この中にレールの断面と国労の頭文字である「NRU」の文字が表示されているというものであり、具体的な主義主張が直接表示されているわけではない。しかし、前記認定の事実によれば、国鉄の分割民営化の過程で、国労は、一貫してこれに反対する方針を採り、控訴人及び分割民営化に賛成する他の組合と対立する状況にあり、本件組合員らによる本件組合バッジの着用は、国労から多くの組合員が脱退し、国労が弱体化、孤立化していく中で、東京地本から繰り返し出される着用の指示の下でされたものであるから、本件組合バッジ自体に具体的な主義主張の記載ないし表示がされていなくても、本件組合員らは、これを着用することによって、その着用者が国労の組合員であることを顕示して同僚の国労組合員との結束を高めるとともに、国労組合員であっても自らの意思で本件組合バッジを着用していない他の社員に心理的影響を与え、さらに、国労組合員以外の者に対して国労の団結を示そうとして、本件組合バッジを着用したものと認められるのであって、このような事情を考慮すると、本件組合バッジの着用につき職場内の秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められるとは到底いえない。

(二)  本件就業規則二三条は、「社員は、会社が許可した場合のほか、勤務時間中に又は会社施設内で、組合活動を行ってはならない。」と規定しているところ、前記認定の事実によれば、本件組合員らの本件組合バッジの着用は、国鉄の分割民営化の過程で国労から多くの組合員が脱退していく中で、国労がその組織と団結の維持のために組合員に着用を指示するという状況の下で行われたものであって、国労の組合員であることを積極的に誇示することで、国労の組合員間の連帯感の昂揚、団結強化への士気の鼓舞という意味と作用を有するものと考えられるのであるから、組合活動というべきであり、右規定に違反するというべきである。

また、前記(一)で述べたところと同様に、職場内の秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められるとはいえない。

(三)  本件就業規則三条は、服務の根本基準について定め、同条一項は、「社員は、会社事業の社会的意義を自覚し、会社の発展に寄与するために、自己の本分を守り、会社の命に服し、法令、規程等を遵守し、全力をあげてその職務の遂行に専念しなければならない。」と規定している。これは、社員がその就業時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い、職務にのみ従事しなければならないこと、すなわち職務以外のことを就業時間中に行ってはならないことを意味するものである。ところで、前記認定の事実によれば、本件組合員らの本件組合バッジの着用は、国鉄の分割民営化の過程で国労から多くの組合員が脱退していく中で、国労がその組織と団結の維持のために組合員に着用を指示するという状況の下で行われたものであって、国労の組合員であることを積極的に誇示することで、国労の組合員間の連帯感の昂揚、団結強化への士気の鼓舞という意味と作用を有するものと考えられるのであるから、それ自体職務の遂行に直接関係のない行動を就業時間中に行ったもので、たとえ職務の遂行に特段の支障を生じなかったとしても、労務の提供の態様においては、職務上の注意力のすべてを職務遂行のために用い職務にのみ従事しなければならないという控訴人の社員としての職務専念義務に違反し、企業秩序を乱すものであるといわざるを得ない。

なお、参加人らは、本件組合バッジの着用によって現実の職務遂行に支障を生じないので、本件組合バッジの着用は右規定に違反するものではないと主張するが、右規定の違反が成立するためには現実に職務の遂行が阻害されるなど具体的な実害の発生を必ずしも要件とするものではないと解すべきであり、参加人らの右主張は、採用することができない。

以上のとおりであるから、参加人らの主張は採用することができず、本件組合員らの本件組合バッジの着用行為は、本件就業規則二〇条三項、二三条及び三条一項にそれぞれ違反するものであるというべきである。

三  不当労働行為の成否について

1  右に検討したところによれば、本件組合員らによる本件組合バッジの着用は、本件就業規則三条一項、二〇条三項及び二三条に違反するものであった。したがって、控訴人が本件組合員らによるこれら本件就業規則違反をとがめて本件就業規則等にのっとり懲戒その他の不利益処分を行う権限を有することは、明らかである。

しかしながら、使用者の行為が従業員の就業規則違反を理由としてされたもので、一見合理的かつ正当といい得るような面があるとしても、それが労働組合に対する団結権の否認ないし労働組合に対する嫌悪の意図を決定的な動機として行われたものと認められるときには、その使用者の行為は、これを全体的にみて、当該労働組合に対する支配介入に当たるものというべきである。

2  そこで、このような観点から更に検討するに、次の事実を認めることができる。

(一)  国労を嫌悪する国鉄ないし控訴人幹部の言動等

この点については、原判決一〇八頁九行目の「(8) 同年」を「(1) 昭和六一年」と改めて同行目から同一〇九頁一〇行目までを、同一一三頁五行目の「(12) これに先立ち、」を「(2) 」と改めて同行目から同一一四頁二行目までを、同一一六頁五行目の「(15)」を「(3)」と改めて同行目から同一一七頁六行目までを、同一二一頁三行目の「右結成大会において鉄道労連は」を「(4) 昭和六二年二月二日、鉄道労連の結成大会において」と、同一二二頁二行目の「を採択した」から同四行目の「また」までを「が採択された(乙第三七号証)が」とそれぞれ改めて同一二一頁三行目から同一二三頁二行目までを、同一四七頁三行目の「(一)」を「(5)」と、同一四八頁四行目の「(二)」を「(6)」と、同一四九頁三行目の「(三)」を「(7)」と、同一五〇頁六行目の「(四)」を「(8)」とそれぞれ改めて同一四七頁三行目から同一五一頁八行目までを右の順序でそれぞれ引用する。

(二)  国労ないし国労組合員の取扱い等

この点については、原判決一〇九頁一一行目の「(9) 国鉄は、同年」を「(1) 国鉄は、昭和六一年」と改めて同行目から同一一〇頁九行目までを、同一一四頁三行目の「(13) 国鉄は、同年」を「(2) 国鉄は、昭和六一年」と改めて同行目から同一一五頁四行目までを、同一一七頁七行目の「更に、同年」を「(3) 昭和六一年」と改めて同行目から同一一八頁三行目までを、同一二四頁四行目の「(21)」を「(4)」と改めて同行目から同一二五頁六行目までを、同一四五頁一行目の「(二)」を「(5)」と改めて同行目から同五行目までを右の順序でそれぞれ引用する。

(三)  現場における本件組合バッジ取り外し指導の状況

この点については、原判決一五一頁一〇行目の「(一)」を「(1)」と、同一一行目の「(1)」を「ア」と、同一五二頁一〇行目の「(2)」を「イ」とそれぞれ改め、同一五三頁四行目及び同一五四頁二行目の各「第三一九号証」の次にいずれも「、丙第二九三号証」をそれぞれ加え、同七行目の「かってに」を「勝手に」と、同行目の「はずせ」を「外せ」と、同一五七頁三行目の「(3)」を「ウ」と、同六行目の「(二)」を「(2)」と、同七行目の「(1)」を「ア」と、同一五九頁二行目の「(2)」を「イ」とそれぞれ改め、同三行目の「従事していたが」の次に「、函館電気区人材活用センター及び東京要員機動センターを経て」を加え、同九行目の「田中助役ら」を「駅長及び田中助役ら」と改め、同一六三頁二行目の「書き写すこと」の次に「及び就業規則を勉強した感想文を作成すること」を加え、同一六五頁一行目の「(三)」を「(3)」と、同三行目から同四行目にかけて、同行目、同五行目から同六行目にかけて、同八行目及び同一一行目の各「組合バッジ」をいずれも「本件組合バッジ」とそれぞれ改め、同四行目の「指示したり」の次に「、本件組合バッジの着用者を数人の管理者で取り囲んで、外せ外せと連呼したり、外せないと答えると、点呼を受けさせないとか、乗務しなくてよいとするなどし、また」を、同六行目の「(」の次に「丙第二八四号証、」をそれぞれ加え、同七行目の「(四)」を「(4)」と改め、同一六七頁三行目の「などと」の次に「、また、遠藤駅長からは「バッジを付けている割合が一番高いのは当駅です。自分自身を組合は助けてくれないでしょう。」などとそれぞれ」を加え、同九行目の「(五)」を「(5)」と、同一六八頁四行目の「分割民営」を「分割民営化」と、同行目の「組合バッジ」を「本件組合バッジ」とそれぞれ改め、同一六九頁二行目の「丙第一四八号証」の次に「、第二八七号証」を加え、同三行目の「(六)」を「(6)」と、同一七〇頁四行目及び同八行目の各「組合バッジ」をいずれも「本件組合バッジ」と、同六行目の「あった」を「あったが、小田原要員機動センターでは、本件組合バッジの着用者に対しては、病人ベッドのある診療室を休憩や食事の場所とし、草刈り作業に従事させることもあった」とそれぞれ改め、同七行目の「四二七」の次に「、丙第二九二号証」を、同一七一頁三行目の「宮ケ中組合員は」の次に「、同年四月一〇日」を、同六行目の「河津組合員は」の次に「、同月四日」を、同七行目の「命じられ」の次に「、これを拒否したところ」をそれぞれ加え、同八行目の「同年四月」を「同月」と、同一一行目の「組合バッジ」を「本件組合バッジ」とそれぞれ改め、同一七二頁二行目の「国労組合員は」の次に「、同年九月二八日、」を、同五行目末尾の次に「小田原要員機動センターから茅ヶ崎駅に助勤に行った国労組合員は、本件組合バッジを付けて改札業務をしていると、駅長と助役が改札ラッチに来て、「これから東京圏運行本部長が改札を通るので国労バッジを外せ。」といったので、これを拒否したところ、右本部長が改札を通過する前後十数分間は業務命令で休憩扱いにされた(丙第二九二号証)。」をそれぞれ加え、同六行目の「(七)」を「(7)」と、同七行目の「(1)」を「ア」と、同九行目から同一〇行目にかけての「組合バッジ」を「本件組合バッジ」とそれぞれ改め、同一一行目の「四三二」の次に「、丙第二八六号証」を加え、同一七三頁一行目の「(2)」を「イ」と改め、同四行目から同五行目にかけての「二三〇」の次に「、丙第二九〇号証の二」を加え、同六行目の「(3)」を「ウ」と、同一七四頁一行目の「(4)」を「エ」と、同二行目及び同六行目の各「組合バッジ」をいずれも「本件組合バッジ」とそれぞれ改め、同七行目の「二七」の次に「、丙第二八九号証」を、同九行目末尾の次に「関内駅でも、昭和六二年六月に、本件組合バッジを着用している組合員を一人一人駅長室に呼び出して、一人平均三〇分程度、長い者は約一時間にわたって、駅長や助役らが頭ごなしに叱って本件組合バッジの取り外しを求めた(丙第二八六号証)。」をそれぞれ加え、同一〇行目の「(5)」を「オ」と改め、同一七五頁四行目の「いけない」の次に「。国労マークのついている物をつけていると勤務時間内の組合活動になる。」を加えて同一五一頁一〇行目から同一七六頁三行目までを引用する。

(四)  国労からの脱退勧奨等

昭和六二年六月ころから昭和六三年四月ころまでの間に、控訴人の多数の現場で、管理職が国労組合員に対して国労からの脱退を勧奨する動きがあり、中でも、控訴人の新宿車掌区、大船保線区、東京自動車営業所、上野保線区、新橋保線区、国府津給電区、中原電車区等において、区長、支区長、総務課長、助役らが、国労組合員に対し、国労からの脱退勧奨等の不当労働行為をしたとして救済命令の申立てがされ、その後、これらについて、東京都地方労働委員会、神奈川県地方労働委員会等から救済命令及びこれに対する再審査申立てを棄却する中央労働委員会の命令がそれぞれ発せられ、さらには、救済命令の取消しを求める請求を棄却する判決が言い渡されるなどしており、控訴人の各現場において、国労組合員に対する国労からの脱退の勧奨が組織的に行われたことが窺われる。<証拠略>

3  右2認定の事実及び前記一の事実によれば、(一) 分割民営化による国鉄改革の実施について、他の労働組合の多くがこれに協力する姿勢を示していく中で、国労は、その組合員数を急激に減少させながらも、一貫してこれに反対する態度をとっていたこと、(二) さらに、他の労働組合の多くが労働協約の改訂や再締結、更には労使共同宣言の締結を行って労使協調関係を強めていく中で、国労は、これらを拒否し、国鉄当局との対立関係を強めていたこと、(三) このような姿勢をとる国労に対し、国鉄ないし控訴人の幹部は、敵意と嫌悪感を露骨に示す言動を繰り返し、特に、控訴人の松田常務取締役においては、会社に対する反対派(国労)を断固として排除する旨発言し、また、控訴人の住田社長においては、東鉄労との一企業一組合が望ましいとして、国労を攻撃し、このような迷える子羊を救って東鉄労の仲間に迎え入れていただきたいとして、東鉄労の組合員らに対し、国労組合員の国労からの脱退、東鉄労への加入を促す働き掛けを期待する発言もしていたこと、(四) また、国鉄は、職員管理調書の作成に当たり、動労組合員の労働処分歴は記載されないような取扱いをし、人材活用センターへ主に国労組合員を配置し、国労及び動労に対して提起されていた前記二〇二億円の損害賠償請求訴訟について動労に対する訴えのみを取り下げるなど、国労を孤立化させることになる施策を進め、分割民営化に当たっての国鉄の承継法人への採用に当たっても、不採用者の多くが国労組合員であったこと、(五) このような状況の下において、本件組合バッジ取り外しの指示・指導等は、組織的に行われ、その具体的な方法・態様も、国労ないし国労組合員の対応に触発されたところがないではないにしても、前記2(三)認定のとおり、執拗かつ熾烈なもので、平和的な説得の域を大きく逸脱するものであり、特に、本件組合バッジの取り外しを拒否した国労組合員に対して命じた本件就業規則の書き写しの作業などは、嫌がらせ以外の何物でもないといわざるを得ないものであり、また、指示・指導の対象は、本件組合バッジの取り外しにとどまらず、国労マーク入りのネクタイ、ネクタイピン、ボールペン等の排除にまで及んでいること、(六) しかも、本件処分に続いてこれに近接した時期に、控訴人の各現場において、国労組合員に対し、上司等から、組織的と思われる態様で、国労からの脱退の勧奨がされたこと、以上の諸点を指摘することができる。

そして、これらの事実を合わせ考えるならば、控訴人が本件組合員らに対して本件組合バッジの取り外しを指示・指導等した行為及び本件組合バッジを着用していたことを理由に本件組合員らに対してした本件措置は、控訴人が、国鉄の分割民営化という国の方針に一貫して反対するとともに、国の右方針に従って国鉄の事業を分割承継した控訴人に対しても厳しい対決姿勢で臨んでいた国労を嫌悪し、国労から組合員を脱退させて、国労を弱体化し、ひいてはこれを控訴人内から排除しようとの意図の下に、これを決定的な動機として行われたものと認めざるを得ず、したがって、控訴人の右一連の行為は、国労(参加人ら)に対する労働組合法七条三号にいう不当労働行為(支配介入)に該当するものといわなければならない。

4  控訴人は、本件措置等は本件就業規則において全社員に対して一律に組合バッジの着用を禁止したにもかかわらず、本件組合員らがこれに違反したために行ったものにすぎないと主張する。確かに、本件就業規則における組合バッジ着用の禁止措置に合理性のあることは前示のとおりであり、また、控訴人が組合バッジ着用の禁止措置を打ち出したのが控訴人内の他組合が既に事実上組合バッジを着用しなくなり、組合バッジを着用しているのが国労組合員のみという状態の下においてであるとしても、それだけでは、控訴人に不当労働行為意思があるということができないことはいうまでもない。しかしながら、本件における控訴人による本件組合バッジ取り外しの指示・指導等の行為は、前記のような状況下で前記のような方法・態様でされたもので、これから判断すれば、既に説示したように、控訴人による本件組合バッジ取り外しの指示・指導等の行為及び本件措置は、本件就業規則違反を理由としてはいるが、国労を嫌悪し、国労を弱体化し、ひいてはこれを控訴人内から排除しようとの意図が決定的な動機となって、これに基づいて行われたものと認めざるを得ないのである。

5  以上のとおりであるから、控訴人のした本件組合バッジ取り外し指示・指導等の行為及び本件措置(本件処分及び本件減額措置)は参加人らに対する労働組合法七条三号所定の不当労働行為(支配介入)に該当するとして被控訴人がした本件命令は、正当であり、これに控訴人主張の違法があるということはできない(ただし、本件命令の主文三項については、次の点を付言する必要がある。すなわち、右主文三項は、控訴人が参加人らの組合員に対して同項の1ないし3に掲げる行為をするなどして参加人らの組合運営に支配介入することを禁じている。しかしながら、既に述べたとおり、控訴人は、本件就業規則にのっとり社員に対して組合バッジの着用を禁止し、これを着用する者に対してはその取り外しを命じ、これに従わない者に対しては本件就業規則等に基づいて懲戒その他の不利益処分を行う権限を有するものである。したがって、控訴人が本件就業規則に違反して本件組合バッジを着用している参加人らの組合員に対してその取り外しを命じ、これに従わない者に対して懲戒その他の不利益処分を行うことが当然に参加人らに対する支配介入に当たるものでないことは、いうまでもない。本件命令の主文三項が禁じているのは、控訴人がそのような本件就業規則違反を理由として行う本件組合バッジの取り外しの命令や懲戒その他の不利益処分等が本件の場合のように本件就業規則違反を口実とする参加人らに対する支配介入として行われることを禁じたものというべきである。本件命令の記載からはこの点が必ずしも明確ではないので、念のためこれを付言するとともに、右主文三項を右の趣旨のものと理解して、これを正当とするものである。)。

四  よって、当裁判所の右判断と同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法六七条一項、六一条、六六条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日 平成一〇年一一月一一日)

(裁判長裁判官 石井健吾 裁判官 加藤謙一 裁判官 杉原則彦)

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