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東京高等裁判所 平成9年(行コ)125号 判決 1998年3月12日

控訴人

千葉県教育委員会(Y)

右代表者委員長

篠﨑輝夫

右訴訟代理人弁護士

石津廣司

右指定代理人

野村正彦

新保浩一郎

田中隆一

被控訴人

兵頭雅子(X)

右訴訟代理人弁護士

吉永満夫

環直彌

高橋修一

芳賀淳

武内更一

長谷川直彦

坂本博之

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

〔中略〕

第三 争点に対する判断

一  争点1について

1  個人に関する情報について

(一)  条例は、実施機関の職員が職務上作成し、又は収受した文書等であって、決裁、供覧等の手続が終了し、実施機関が管理しているものを公開請求の対象となる公文書と定義し(二条一項、二項)、県民からのそうした公文書の公開請求に対しては公開に応じることを原則とするが(一条、三条、六条、一一条、一二条)、一一条二号において、原則公開の例外の一つとして、実施機関は、「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって特定個人が識別され、又は識別され得るもの」が記録されている公文書については、公開しないことができると規定した。

したがって、実施機関である控訴人は、公開請求を受けた公文書に記録された情報が、<1>個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)、<2>特定個人が識別され、又は識別され得る情報である場合に限り、一一条二号に基づいて右公文書を公開しないことができる。

(二)  右個人に関する情報の取扱いについて、〔証拠略〕(千葉県発行の「公文書公開の手引(改訂版)」中の「千葉県公文書公開条例解釈運用基準」(以下「解釈運用基準」という。)には次の趣旨が記載されている。

(1) 条例一一条の各号に掲げる情報に該当するかどうかの判断は原則公開の基本理念に基いて適正に行わなければならず、同条二号について、基本的人権を尊重し、個人の尊厳を守る立場から、個人のプライバシーを最大限に保護するため定めたものである。プライバシーに関する情報の範囲は明確になっていない状況であるため、本号では、広く個人に関する情報について、特定個人が識別され、又は識別され得る情報を公開しないことができることとした。

(2) ここにいう、個人に関する情報とは、<1>思想、信条、信仰、意識、趣味等個人の内心の秘密に関する情報、<2>職業、資格、学歴、犯罪歴、所属団体等個人の経歴、社会的活動に関する情報、<3>収入、資産等個人の財産状況に関する情報、<4>健康状態、病歴等個人の心身の状況に関する情報、<5>家族関係、生活記録等個人の家庭、生活関係に関する情報など、個人に関するすべての情報をいう。

(3) 個人に関する情報であっても、「事業を営む個人の当該事業に関する情報」は法人その他の団体の事業活動に関する情報と同様の性格を有するから、本条三号(事業活動情報)で判断する。事業を営む個人の情報であっても、当該事業と直接関係のない情報は二号で判断する。

(4) 「特定個人が識別され、又は識別され得る」とは、住所、氏名等当該情報のみによって特定個人を識別できる場合のみならず、他の情報と結び付けることにより特定個人を識別し得る場合も含む。

(5) 住所、氏名を削除することにより、特定の個人が識別され得なくなり、かつ、当該公文書の公開を受けようとする趣旨も損なわれないときは、条例一二条の規定により、当該氏名、住所を削除したものを公開することとする。なお、住所、氏名を削除したとしても、それ以外の部分から特定の個人が推測できるものは、特定個人が識別され得る情報である。

(6) 条例一一条二号ただし書イについて

「法令等の定めるところにより、何人でも閲覧することができる情報」には、個人情報の閲覧を利害関係人に限って認めているものを含まない。

なお、法令等で「何人でも」と規定されていても、請求目的が法令等で制限されている場合「例えば、戸籍法一〇条一項に対する同条三項、住民基本台帳法一一条一項に対する同条四項)は、実質的には何人にも認められるという趣旨ではないと解されるので、この規定には該当しない。

(7) 同ただし書ロについて

実施機関が作成し、又は収受した情報であっても、<1>実施機関が公表を目的として作成し、又は収受した情報であって、個人が公表されることを了承し、又は公表されることを前提として提供した情報、<2>個人が自主的に公表した資料等から何人でも知り得る情報、<3>公にすることが慣行となっており、公表しても社会通念上個人のプライバシーを侵害するおそれがないことが確実である情報などは公開することができる。

なお、本項目にいう「公表」とは、県が広報紙誌等を通じて広く県民一般に、積極的に周知する場合だけでなく、県の事務事業の執行上、県民が知り得ることが予定されているものも含まれる。

(8) 同ただし書ハについて

個人にかかわる許可、免許、届出等の中には、その性質上、一般の県民生活に少なからぬ影響を及ぼすものがある。したがって、これらの行為に際して県が作成し、又は収受した情報であって、県民の生命、身体、健康、生活等を保護し、公共の安全を確保するために公開することが必要と認められるものについては公開することができるとしたものである。

なお、「許可、免許、届出等」とは、許可、免許、届出のほか、承認、決定等これらに相当する行為をいい、右に準ずるものとして指導要綱等に基づく届出等を含むものとする。本号に該当するかどうかは客観的に判断するものであり、特に、本号ただし書に該当するかどうかの判断が難しいものについては、条例九条一項の定めるところにより、公開した場合における支障等について当該個人から意見を聴取し、適正に判断するものとする。住所、氏名が記録されている公文書は本号に該当すると考えられる。ただし、住所、氏名を削除することにより、特定の個人が識別されなくなり、かかる当該公文書の公開を受けようとする趣旨も損なわれないときは、条例一二条の規定により、当該氏名、住所を削除したものを公開することとする。

(9) 解釈運用基準があげる個人情報の例示

Ⅰ (個人情報)本文に該当すると考えられる情報の具体例

個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定個人が識別され、識別され得るもの

<1> 思想、信条、信仰、意識、趣味等個人の内心の秘密に関するもの

例示として、宗教法人規則認証申請書添付の信者名簿、図書等閲覧申込カード

<2> 職業、資格、学歴、犯罪歴、所属団体等の個人の経歴、社会的活動に関するもの

例示として、刑罰等調書、税理士登録申請書調査票、各種資格試験成績、履歴書(職員、各種審議会の委員等)、入学試験受験願書、県立学校の生徒指導要録、職員採用試験成績表、卒業証明書、学業成績表

<3> 収入、資産等個人の財産状況に関するもの

例示として、預金残高証明書、所得証明書、納税証明書、固定資産評価書、財産調書、預金口座名、県税滞納整理票、土地売買契約書、住宅の間取り図、不動産鑑定書

<4> 健康状態、病歴等個人の心身の状況に関するもの

例示として、健康診断書、公務災害、通勤災害発生報告書、病気休職発令上申書、各種施設入所相談面接記録、身体障害者手帳交付文書、難病相談指導記録、児童体力テスト記録個票、診療報酬請求書、県立病院の診療録

<5> 家族関係、生活記録等個人の家庭、生活関係に関するもの

例示として、扶養親族カード、戸籍謄本、外国人登録原票写し、生活相談記録、生活保護決定調書

Ⅱ 個人情報に該当するが、条例一一条二号ただし書により公開できると考えられる情報の具体例

イ 法令等の定めるところにより、何人でも閲覧することができる情報

例示として、不動産登記簿(不動産登記法二一条)、法人役員名(商業登記法一〇条)、著作権登録原簿(著作権法七八条)、登録事項等証明書(道路運送車両法二二条)

ロ 実施機関が作成し、又は収受した情報で、公表を目的としているもの

例示として、被表彰者名簿、審議会委員名簿、ボランティア名簿で本人が公表を希望しているもの

ハ 法令等に基づく許可、免許、届出等の際に実施機関が作成し、又は収受した情報で、公開することが公益上必要であると認められるもの

例示として、行政財産使用許可申請書、道路占用許可申請書、河川占用許可申請書、火薬類取扱者免状交付台帳のうち「ただし書ハ」の要件に該当するもの

(三)  条例の定める公文書開示請求権は、同条例によって政策的に認めた権利であるから、その制定者の意思及び文理を重視して解すべきであるところ、右解釈運用基準は、条例制定の際の制定者意思を示すものと解すべきであるから、個人に関する情報についても、これを参考にして、条例一一条二号を文理に沿って次のとおり解釈するのが相当である。

(1) 実施機関である控訴人は、公文書に記録されている個人に関する情報について、特定個人が識別され、又はされ得るものであれば、それが事業を営む個人の当該事業に関する情報及び条例一一条二号ただし書所定の情報、すなわち、イ 法令等の定めるところにより、何人でも閲覧することができる情報、ロ 公表目的で作成、収受した情報でいずれもプライバシー保護の必要性が少ないもの、ハ 個人に関する情報であっても公開することが公益上必要なもの以外は公開しないことができる。

(2) そして、ここにいう個人に関する情報とは、前示解釈運用基準が個人に関する情報として掲げる、<1>思想、信条、信仰、意識、趣味等個人の内心の秘密に関する情報、<2>職業、資格、学歴、犯罪歴、所属団体等個人の経歴、社会的活動に関する情報、<3>収入、資産等個人の財産状況に関する情報、<4>健康状態、病歴等個人の心身の状況に関する情報、<5>家族関係、生活記録等個人の家庭、生活関係に関する情報などである。個人に関する私的情報は、公務員であっても当然有する私的情報であるといわなければならない。

(3) 他方、公務員は、個人としての側面を有すると同時に、その従事する職務を全体の奉仕者として行うものであるから、公人としての側面を有し、公務員としての地位、資格に基づき行う公務活動(多くは組織としての指揮命令に基づき行われ、その効果も組織に帰属する。)にかかわる情報は、個人の社会的活動の一つに関する情報でもあり、個人に関する情報というべき側面をもつが、当該公務にかかわる情報の性質、内容と対比して、個人の私的情報としての私的性、要保護性が相当程度低いものと認められるときは、公務活動に関する情報が他の非公開事由に該当しない限り、条例一一条二号ただし書ハの事由に準じて公開しなければならないものと解すべきである。

2  本件公文書について

(一)  これを本件公文書についてみると、花井校長の出張は職員の旅費に関する条例四条に基づき行われ、本件公文書は右条例によって定められた旅行命令票であって、その作成の根拠、経過等は原判決第二の一4(争いがない。)に記載したとおりであり、その記載項目等は、別紙公文書目録の二に記載したとおりであり、その様式は別紙旅行命令票のとおりである(〔証拠略〕)。

そうすると、花井校長の出張自体は、公務員の公務活動そのものというべきであるから、右旅行の命令文書である本件公文書は、他の非公開事由に該当しない限り、条例一一条二号ただし書ハの事由に準じて公開しなければならないものというべきである。

しかし、本件公文書の記載中、<2>給料表の種類及び<4>級・号給欄の記載は、個人の収入にかかわる情報であるから、公務員の個人に関する私的情報というべきであり、解釈運用基準が、<3>の収入、資産等個人の財産状況に関する情報は私的情報としていることに鑑みても、右情報部分については、公務員の公務活動にかかわって作成された情報ではあるが、条例一一条二号本文に基づき、非公開とすることができるものというべきである。

(二)  なお、控訴人は、本件公文書に花井校長の氏名が明示してあり、本件公文書を公開することは特定個人を識別する情報が記録された公文書を公開することになる、本件公文書に記載された、花井校長の出張理由、用務、出張先は個人に関する情報であり、旅費支給額は同校長個人の収入に関する情報であり、また、本件で公開請求の対象となっているのは、花井校長という特定個人の約二年間にわたる校外出張にかかる記録であり、単なる公務に関する情報の域を越えて同校長の勤務態度という個人に固有な情報であるから、条例一一条二号本文にいう個人に関する情報に該当すると主張する。

しかし、出張理由、用務、出張先は、公務員の公務活動そのものを内容とする情報であり、旅費支給額も花井校長個人の収入に関する私的情報というより、職員の旅費に関する条例及び同規則に基づいて機械的、事務的に算出されるものであって、花井校長個人の固有の事情とはほとんど関係のない情報であり、公務員の公務活動に関する情報と併せて記載されている個人に関する情報であって、私的情報としての私的性、要保護性が相当程度低いものと認められ、また、公務活動における花井校長の勤務態度に対する人事的評価等が含まれているものでない上、他の情報と併せても直ちに人事的評価等に結びつくものでないから、個人情報としての私的性等が高いものとはいえない。したがって、控訴人の右主張は採用できない。

二  争点2について

別紙旅行命令票記載のとおり、本件公文書には、公務員個人に関する情報として公開してはならない花井校長の給料表の種類欄及び級・号給についての情報とそれ以外の情報とが一体の文書に記載されていることが認められる。しかし、右各情報の記載部分は容易に、かつ、本件公文書の公開を受けようとする趣旨を損なわない程度に分離できることがその体裁等から明らかである。

第四 結論

以上のとおりであるから、本件公文書全部について公開しないこととした本件非公開決定処分は、給料表の種類欄及び級・号給欄を公開しないこととした部分を除いて違法というべきである。

よって、原判決は相当であるから本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鬼頭季郎 裁判官 佐藤久夫 池田亮一)

公文書目録

一 公文書の件名

(平成五年度)

旅行命令票(赴任旅費)、同四月分ないし六月分、同(第一学年宿泊研修分)、同六月分追加分、同七月分ないし平成六年三月分

(平成六年度)

旅行命令票四月分ないし九月分、同(修学旅行引率分)、同一〇月分

二 右旅行命令票の記載項目(別紙のとおり)

<1>旅行者の勤務部課(所)・在勤公署・住所欄、<2>給料表の種類欄、<3>職名欄、<4>級・号給欄、<5>氏名欄、<6>用務欄、<7>旅行命令権者(依頼者)決裁欄、<8>所属係長欄、<9>命令(依頼)受領印欄、<10>発令年月日欄、<11>旅行年月日欄、<12>旅行先(旅行状況、特殊経路)欄、<13>鉄道賃欄(キロ数、運賃、急行料金、特別車両料金)、<14>船賃欄、<15>車賃欄、<16>日当欄、<17>宿泊料欄、<18>食卓料欄、<19>計欄、<20>精(概)算額欄、<21>概算支給済額欄、<22>請求額(返納額)欄、<23>合計欄、<24>説明欄、<25>調査欄、<26>計算欄、<27>備考欄、<28>(精算)請求年月日、請求者(精算者)氏名欄

<省略>

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