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東京高等裁判所 平成9年(行コ)128号 判決 1998年9月30日

東京都千代田区鍛冶町二丁目五番九号

控訴人

アーム薬品株式会社

右代表者代表取締役

金子勝男

右訴訟代理人弁護士

土屋東一

岩﨑淳司

佐藤貴夫

五十嵐チカ

東京都千代田区神田錦町三丁目三番地

被控訴人

神田税務署長 吉野芳長

右指定代理人

清野正彦

堀久司

佐久間康良

浅川賢治

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対して平成五年一月二六日付けでした次の各課税処分をいずれも取り消す。

(一) 控訴人の平成二年八月一日から平成三年七月三一日までの課税期間の消費税についての更正のうち納付すべき税額九四万八〇〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定

(二) 控訴人の平成三年八月一日から平成四年七月三一日までの課税期間の消費税についての更正のうち納付すべき税額三六二万四〇〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定

3  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二事案の概要、争点及び当事者の主張

本件の事案の概要、争点及び当事者の主張は、次のとおり訂正し、又は付加するほかは、原判決の「第二 事案の概要」及び「第三 争点及び当事者の主張」に記戟のとおりであるから、これをここに引用する。

一  原判決五頁二行目の「五条」を「五条一項」と、同三行目の「資産の譲渡」を「資産の譲渡等」とそれぞれ改める。

二  原判決一三頁八行目の「品数」を「品名」と改める。

三  原判決一七頁七行目から同八行目にかけての「一〇憶〇八七二万九〇〇〇円」を「一〇億〇八七二万九〇〇〇円」と改める。

四  原判決一九頁六行目の「二四六一万円九六〇〇円」を「二四六一万九六〇〇円」と改める。

五  原判決二〇頁三行目から同四行目にかけての「一一億九七七三万九〇〇〇円」を「一一億九七七三万九〇〇〇円」と改める。

六  原判決二三頁九行目の「(以下「甲第一六号証の一ないし六六」を「。以下「甲第一六号証の一ないし六六」」と改める。

七  原判決二九頁九行目末尾の次に「仮に同項の規定が一般的記帳義務における課税仕入れに関する記載事項を定めたものでないとすると、規則二七条の規定には右記載事項が法定されていないことから、簡易課税制度を選択した事業者については、課税仕入れに関する帳簿の記帳義務及び記載事項が法定されていないことになること。さらには、右事業の仕入税額控除について法三〇条から三六条までの規定の適用がなく、帳簿の記戟内容いかんにかかわらず仕入税額控除が認められるという見解に立つと、右事業者の一般的記帳義務における課税仕入れに関する記載事項を法定する条文が存在しないことになるが、そうすると、規則二七条四項の右事業者については課税仕入れに係る対価の返還等の事項の記載を省略することができる旨の規定を適用する余地がなくなり、消費税法の解釈として不当であること。」を加える。

八  原判決三三頁五行目の「平成三年五月」を「消費税の弾力的運用期間のころ、一〇〇人にも及ぶ被控訴人の係官が被控訴人管内の控訴人の同業者の消費税調査を実施し、その際、仕入先を確認することのできない仲間取引以外の取引があることを熟知したにもかかわらず、これについてだれ一人として何らの指摘もせず、これを容認していた。また、番場調査官は、この取引については、内税処理をするよう指導していたのである。さらに、平成三年五月」と、同七行目の「その際」を「その際にも」と、同八行目の「行われず」から同一〇行目の「なかった。」までを「行われなかった。」とそれぞれ改める。

九  原判決三四頁一行日の「右事実」から同二行目の「被告は」までを「被控訴人係官らのかかる対応は」と、同四行目の「の適用」から同行目末尾までを「が認められるという公的見解の表明と同視することができる。」とそれぞれ改める。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本件請求はいずれも理由がなく、これを薬却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり訂正し、又は付加するほかは、原判決理由説示のとおりであるから、これをここに引用する。

1  原判決三七頁五行目の「同条七項」を「法三〇条七項」と改める。

2  原判決四一頁五行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「控訴人は、法三〇条七項及び八項の規定が一般的記帳義務の記載事項を定めるのにとどまらず、その記載がされていない場合に仕入税額控除を否定する機能を有するとすると、租税法律主義の要請する手続的要件としての要件事実を定めるものとしての明確性を欠くことになること、また、規則二七条二項が小売業など法三〇条九項一号に規定された事業を営む者は資産の譲渡等及び資産の譲渡等の返還に係る事項について氏名又は名称の記録を省略することができる旨を定めていて、この規定が令四九条一項の再生資源卸売業の課税仕入れについての氏名等の記載省略の規定と全く同様の内容であることから、同項、ひいては法三〇条七項及び八項の規定は、仕入税額控除の手続的要件規定と解するよりも、むしろ帳簿の一般的記帳義務についての規定と解するほうが整合性のある素直な解釈であるとも主張するが、右に説示したとおり、文言に同様のものがあるとしても、右に指摘された各規定の消費税法全体の中における位置付けが異なることは、各規定の文言自体及び法全体の構成上明らかであり、また、最終的な税額決定に影響を与える手続的要件につき、どのような規定の仕方をするかは、法律によって異なって何ら差し支えなく、法三〇条七項及び八項の規定が手続的要件としての明確性に欠けるということはない。」

3  原判決四二頁一〇行目末尾の次に「なお、控訴人は、法三〇条八項の規定が一般的記帳義務における課税仕入れに関する記載事項を定めたものではないとすると、簡易課税制度を選択した事業者については右記載事項が法定されていないことになり、ひいては規則二七条四項の規定を適用する余地がなくなると主張するが、法三〇条八項の規定が一般的記帳義務を定めたものではなく、仕入税額控除の要件を定めたものと解すべきことは既に説示したとおりであり、また、規則二七条四項の規定は、簡易課税制度を選択した事業者については、法三〇条八項の規定の適用が除外されるところから、一般的記帳義務としての記載事項の記帳義務を免除したにすぎないのであつて、法三〇条八項の規定を一般的記帳義務を定めたものではなく仕入繰税控除の要件を定めたものと解するについて、何ら矛盾ないし不整合な点はない。」を加える。

4  原判決四六頁四行目の次に行を改めて

「また、控訴人は、売上げ等から課税仕入れの事実は確認できるのであり、それゆえ、控訴人の第一九期事業年度及び第二〇期事業年度の法人税の算定においては、課税仕入れが全額売上原価として損金の額に算入されているのであるから、その課税仕入れの支払代価に含まれている消費税額を税額控除することは、納税者の当然の権利であると主張し、消費税は、被控訴人が主張するような消費者からの預り金的性格を有するものではなく、企業に対する課税であるから、消費税法が真に存在することを確認する対象は、消費税の存在ではなく、課税仕入れの事実であり、その事実確認のために帳簿の保存と記載事項が法定されているものと解すべきであり、したがって、法三〇条七項及び八項の規定も、仕入税額控除の要件規定と解すべきではないとも主張するが、法人税と消費税とは別個の制度であり、その課税要件や税額控除の要件が異なるのは明らかであつて、前記のとおり、このことから法三〇条七項及び八項の規定が仕入税額控除の要件規定でないと解することはできない。

さらに、控訴人は、納税者の権利を害する税法の規定(例えば、貸倒れに係る消費税の税額控除や使途秘匿金制度の規定)は、その要件の明確性が要請され、実際に右に例示した要件の規定は明確であるが、仕入税額控除は、消費税制度の基本構造であり、生命であって、この仕入税額控除を否定する規定が貸倒れの税額控除を否定する規定(法三九条二項)より曖昧であるはずがないのであるから、文章構成において、右貸倒れの税額控除を否定する根拠規定より曖昧な法三〇条七項及び八項の規定を権利障碍規定と解することはできないとも主張するが、同項の規定が権利障碍規定の規定の仕方として法三九条二項の規定より曖昧であるとはいえないし、前記のとおり、立法趣旨が異なる以上、控訴人がいうところの規定ぶりが異なることはあり得ることであり、法三〇条七項及び八項の規定が仕入税額控除の要件規定として明確でないともいえないから、右主張は、採用することができない。」

を、同七行目の「はずである」の次に「、すなわち、法三〇条八項及び九項の規定が住所の記載を要件としておらず、また、帳簿又は請求書のいずれか一方を保存すれば足りるとされている以上、課税庁は、税務調査において、その記載された氏名等の真実性を確認する術がないし、また、納税者においても、氏名等が真実であるか否かについての確認方法が法に定められていないから(氏名等が真実でない場合に仕入税額控除が否認されるのであれば、真実性の証明の手段―例えば、本人確認のために住民票や運転免許証等の書類の提示―を手続として法定するのが租税法律主義の当然の要請である。)、その確認をする術がなく、したがつて、単に記載事項を法定しているだけで何ら本人確認手続について法定していない法三〇条八項の規定が、相手方の告知した不真実の氏名等の記職によって、納税者が支払った課税仕入れに係る消費税の仕入税額控除の権利を剥奪するような罰則的なペナルティーの効力を有する規定と解釈することは到底できないのであり、法三〇条七項から九項までは、そのような規定として解すべきではなく、単に課税仕入れの事実を確認するための規定と解するのが妥当である」をそれぞれ加える。

5  原判決五二頁九行目の「原告は」の次に「、薬事法の氏名等の記載が義務付けられている医薬品は、全医薬品の三分の一程度であり、残り三分の二の医薬品については、義務付け規定の適用がないから、これにより仕入先がすべて確認することができるということにはならないし」を加える。

6  原判決五八頁六行目の「原告」の次に「の第一九期事業年度及び第二〇期事業年度の消費税」を加える。

7  原判決六〇頁一一行目から同六一頁一行目にかけての「そして」の次に「、控訴人が主張するように、消費税のいわゆる弾力的運用期間のころ、一〇〇人にも及ぶ被控訴人の係官が被控訴人管内の控訴人の同業者の消費税調査を実施し、その際、仲間取引以外の取引に係る課税仕入れにつき、仕入先を確認することのできない取引があることを熟知したにもかかわらず、これについてだれ一人として何らの指摘もしなかった事実があったとしても、また」を加える。

二  よって、当裁判所の右判断と同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六七条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結の日 平成一〇年四月一三日)

(裁判長裁判官 石井健吾 裁判官 加藤謙一 裁判官 杉原則彦)

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