大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成9年(行コ)135号 判決 2002年1月31日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴人らの当審で拡張した請求を棄却する。

3  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人ら

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人P1は,三鷹市に対し,56億1345万3021円及び

① うち81万5760円に対する平成4年7月16日から,

② うち1億2022万4699円に対する平成5年3月15日から,

③ うち777万0115円に対する平成5年3月31日から,

④ うち8364万3084円に対する平成5年9月30日から,

⑤ うち42億7028万3111円に対する平成5年11月10日から,

⑥ うち8318万6016円に対する平成6年3月31日から,

⑦ うち5974万5060円に対する平成6年9月30日から,

⑧ うち5941万8579円に対する平成7年3月31日から,

⑨ うち5941万8579円に対する平成7年9月29日から,

⑩ うち4253万5115円に対する平成8年3月29日から,

⑪ うち3674万0171円に対する平成8年9月30日から,

⑫ うち3607万5564円に対する平成9年3月31日から,

⑬ うち1億0359万9618円に対する平成9年9月30日から,

⑭ うち1億0210万9185円に対する平成10年3月31日から,

⑮ うち9503万3226円に対する平成10年9月30日から,

⑯ うち9430万4544円に対する平成11年3月31日から,

⑰ うち9191万2624円に対する平成11年9月30日から,

⑱ うち8945万2954円に対する平成12年3月31日から,

⑲ うち8883万7963円に対する平成12年9月29日から,

⑳ うち8834万7054円に対する平成13年3月30日から,

各支払ずみまで年5分の割合による金員を支払え。(当審における請求の拡張)

(3)  被控訴人三鷹市長は,三鷹市が平成4年7月1日に三鷹市土地開発公社との間で締結した別紙物件目録1記載の土地の売買契約に基づく売買代金等の支払をしてはならない。(当審における請求の減縮)

(4)  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。

2  被控訴人ら

(1)  被控訴人ら

本件控訴を棄却する。

(2)  被控訴人P1

控訴人らの当審で拡張した請求を棄却する。

第2事案の概要

本件は,三鷹市の住民である控訴人らが,三鷹市がコミュニティー・センター等に使用する目的で土地建物を買い入れたことについて,違法な公金の支出がされた又はされるとして,①地方自治法242条の2第1項4号に基づき,三鷹市に代位して,三鷹市長である被控訴人P1に対し,当該売買代金等の既払分相当額の損害賠償を求め,②同項1号に基づき,被控訴人三鷹市長に対し,当該売買代金等の未払分についてその支払の差止めを求めた事件である。

1  争いのない事実

(1)  当事者

ア 控訴人らは,三鷹市の住民である。

イ 被控訴人P1は,三鷹市長である。

(2)  本件建物売買契約の締結

ア 被控訴人P1は,三鷹市長として,平成4年7月1日,白石建設株式会社から,39億1048万7159円(うち消費税1億1389万7684円を含む。)で別紙物件目録2記載の建物(以下「本件建物」という。)を買い入れる契約(以下「本件建物売買原契約」という。)を締結した。

なお,本件建物は,平成5年10月31日に完成予定であり,本件建物売買原契約の締結当時には,建築中であった。

イ 被控訴人P1は,三鷹市長として,平成4年12月24日,白石建設との間で,本件建物の売買代金を42億7028万3111円(うち消費税1億2437万7177円を含む。)に変更する契約(以下「本件建物売買変更契約」という。)を締結した(以下,本件建物売買原契約と併せて「本件建物売買契約」という。)。

(3)  本件土地売買契約の締結

ア 三鷹市土地開発公社(以下「公社」という。)は,平成4年7月1日,白石建設から,34億0467万5835円で別紙物件目録1記載の土地(以下「本件土地」という。)を買い入れる契約を締結した。

イ 被控訴人P1は,三鷹市長として,平成4年7月1日,公社から,35億2571万6294円(うち諸経費相当額1億2104万0459円を含む。)で本件土地を買い入れる契約(以下「本件土地売買契約」という。)を締結した。

(4)  三鷹市の公金の支出

ア 三鷹市は,平成5年11月10日,白石建設に対し,本件建物の売買代金42億7028万3111円を支払った。

イ 三鷹市は,公社に対し,次のとおり,本件土地の売買代金等合計13億4316万9910円を支払った。

(ア) 平成4年7月16日 81万5760円

(イ) 平成5年3月15日 1億2022万4699円

(ウ) 平成5年3月31日 777万0115円

(エ) 平成5年9月30日 8364万3084円

(オ) 平成6年3月31日 8318万6016円

(カ) 平成6年9月30日 5974万5060円

(キ) 平成7年3月31日 5941万8579円

(ク) 平成7年9月29日 5941万8579円

(ケ) 平成8年3月29日 4253万5115円

(コ) 平成8年9月30日 3674万0171円

(サ) 平成9年3月31日 3607万5564円

(シ) 平成9年9月30日 1億0359万9618円

(ス) 平成10年3月31日 1億0210万9185円

(セ) 平成10年9月30日 9503万3226円

(ソ) 平成11年3月31日 9430万4544円

(タ) 平成11年9月30日 9191万2624円

(チ) 平成12年3月31日 8945万2954円

(ツ) 平成12年9月29日 8883万7963円

(テ) 平成13年3月30日 8834万7054円

(5)  監査請求

控訴人らは,平成5年6月7日,地方自治法242条1項に基づき,三鷹市監査委員に対し,本件土地建物売買契約に基づく公金の支出が違法若しくは不当であるとして監査請求をしたところ,同年8月5日,上記請求は棄却された。

2  争点

本件土地建物売買契約に基づく公金の支出は,違法か。

(控訴人らの主張)

本件土地建物売買契約に基づく公金の支出は,違法である。

(1) 本件建物売買契約の違法

ア 本件建物は,本件建物売買契約の締結時には完成していなかったから,本件建物の買入れは,地方自治法234条2項,同法施行令167条の2第1項2号にいう「不動産の買入れ」には当たらない。

また,三鷹市が,白石建設から,一般競争入札の方法によらないで,随意契約の方法により本件建物を買い入れたのは違法である。

イ 本件建物売買契約についてされた三鷹市議会の議決には,重大かつ明白な瑕疵があり,無効である。

すなわち,三鷹市は,白石建設に不当な利益を得させるため,予め本件土地建物の売買代金を合計80億円とする合意をし,後記のとおり①二重見積り,②水平震度強化工事費用の違法な支出ないし負担という価格操作をして本件土地建物売買契約を締結したが,三鷹市の契約担当者は,三鷹市議会に対し,その売買代金が適正であるという虚偽の説明を行った。その結果,三鷹市議会は,いわば欺罔されて本件建物売買契約について議決をした。したがって,上記議決には重大かつ明白な瑕疵があり,無効である。

ウ 普通地方公共団体は,随意契約によって不動産を買い入れる場合は,当該普通地方公共団体に最も有利な価格で買い入れるべき義務を負う(最高裁判所第1小法廷平成6年12月22日判決・民集48巻8号1769頁参照)。

しかるに,三鷹市は,白石建設との間において,予め本件土地建物の売買代金を合計80億円とする合意をし,その合意を現実のものとするために,本件建物売買契約について,次のとおり①二重見積り,②水平震度強化工事費用の違法な支出ないし負担という価格操作をした。

(ア) 二重見積り

本件建物売買契約は,完成していない建物について設計変更をしてこれを買い入れたものであるが,この完成していない建物(白石建設の本社ビル)に存在した設計・仕様と上記設計変更後の設計・仕様とを対比すると,次のような二重見積りがある。

なお,本件建物売買契約において,本件工事の仕様の優先順位は,①現場説明事項及び質疑応答書,②特記仕様書,③設計図書,④共通仕様書の順位によると定められている(甲88及び甲89の各A-2)ことにかんがみると,被控訴人らが本件建物売買原契約に添付された特記仕様書や設計図書について字句の「修正漏れ」等があったにすぎないと主張することは許されない。

a 「舞台装置」の設置

本件建物売買変更契約において,本件建物の地下1階の大会議室に「舞台装置」を新たに設置することとされた。そして,白石建設は,その設置費用として1200万円の見積りをしている(甲35)。

しかし,もともと白石建設は,上記「舞台装置」については昇降舞台床工事を含む設計を予定していたところ,本件建物売買原契約においては,可動式の「壁面収納ステージ」を設置することに変更し(甲88のA-12),本件建物売買変更契約においても,同様に可動式の「壁面収納ステージ」を設置することとされている(甲89のA-20)。そして,本件建物売買原契約の「壁面収納ステージ」には,「舞台装置用盤」等の記載があり(甲88のA-32),「舞台装置」が含まれていた。

そうすると,本件建物売買変更契約における「舞台装置」の1200万円の見積りは,本件建物の売買価格を不当に高額にするためにした二重見積りである。

被控訴人らは,本件建物売買変更契約における「舞台装置」の見積りは,「バトン類」(つり物類一式)を新たに設置したものである旨主張するが,その「バトン類」の価格は250万円程度にすぎない。

b 「外壁」及び「丸柱」の赤御影石貼

本件建物売買変更契約において,「外壁」及び「丸柱」を赤御影石貼にすることとされた。そして,白石建設は,「外壁」の赤御影石貼の費用を60万円,「丸柱」の赤御影石貼の費用を370万円と見積っている(甲35 ちなみに,三鷹市が積算を依頼した株式会社大誠建築設計事務所は外壁1階前面道路部分を吹付材から石貼に変更する工事費用として435万7060円(甲36)と,株式会社市来崎建築事務所はこれを457万2400円(甲37)とそれぞれ積算している。)。

しかし,本件建物売買原契約においても,上記「外壁」及び「丸柱」は赤御影石貼にすることになっていた(甲88のA-34,35)から,本件建物売買変更契約における上記「外壁」及び「丸柱」の見積りは,本件建物の売買価格を不当に高額にするためにした二重見積りである。

被控訴人らは,本件建物原契約においては「外壁」を「複層塗材(アクリルゴム系,ヘッドカット)」としたので,その添付図面の「赤御影石貼」という記載(甲88のA-34,35)を修正すべきところ,その修正漏れがあった旨主張するが,上記主張は事実に反する。

c エレベーター設備の「身障者仕様」

本件建物売買変更契約において,本件建物のエレベーター設備に「身障者仕様」を追加することとされた。そして,白石建設は,その費用として2010万円の見積りをしている(甲35 ちなみに,大誠建築設計事務所はこれを2050万円(甲36)と,市来崎建築事務所はこれを2100万円(甲37)とそれぞれ積算している。)。

しかし,本件建物売買原契約においても,エレベーター設備につき「車椅子専用ホール釦注意銘板」,「視覚障害者用注意銘板」が設置されることとされている(甲88のA-62)から,そのエレベーター設備は「身障者仕様」であった(このことは,上記図面(甲88のA-62)と本件建物売買変更契約の添付図面(甲89のA-65)とが同一であることからも明白である。)。

したがって,本件建物売買変更契約における上記エレベーター設備の「身障者仕様」の見積りは,本件建物の売買価格を不当に高額にするためにした二重見積りである。

d 地下2階の「身障者用トイレ」

本件建物売買変更契約において,本件建物の地下2階の「倉庫(4)」を「身障者用トイレ」に仕様変更することとされた。そして,白石建設は,その費用として54万7475円の見積りをしている(甲35 ちなみに,大誠建築設計事務所はこれを55万3995円(甲36)と,市来崎建築事務所はこれを55万0620円(甲37)とそれぞれ積算している。)。

しかし,本件建物売買原契約においても,本件建物の地下2階には「身障者用トイレ」を設置することとされていた(甲88のA-20)。

したがって,本件建物売買変更契約における地下2階の「身障者用トイレ」の見積りは,本件建物の売買価格を不当に高額にするためにした二重見積りである。

e 「フラッグポール」の設置

本件建物売買変更契約において,本件建物の前面道路側に「フラッグポール」を設置することとされた。そして,白石建設は,その費用として180万円の見積りをしている(甲35 ちなみに,大誠建築設計事務所はこれを150万円(甲36)と,市来崎建築事務所はこれを186万円(甲37)とそれぞれ積算している。)。

しかし,本件建物売買原契約においても,「フラッグポール」を設置することとされていた(甲88のA-3)。

したがって,本件建物売買変更契約における「フラッグポール」の設置の見積りも,本件建物の売買価格を不当に高額にするためにした二重見積りである。

(イ) 水平震度強化工事費用の違法な支出ないし負担

a 水平震度強化工事の不存在

本件建物の売買価格を決定する際,本件建物が公共用建築物へ転用されるので,その水平震度指数を強化する工事の費用として1億1000万円(諸経費1000万円を含む。)が加算されたが,上記強化工事は行われていない(このことは,加算された1億1000万円について「積算内訳書」が作成されていないことからも明らかである。)。

したがって,上記1億1000万円の加算は,本件建物の売買価格を不当に高額にするためにされた違法な価格操作である。

被控訴人らは,従前,本件建物の公共用建築物への転用に伴い,水平震度指数を0・20から0・25に変更する強化工事を行ったと主張し,三鷹市のP2市民部長も,平成4年6月17日,市議会総務委員会において,その旨説明した(甲10の2)。ところが,被控訴人らは,当審の第12回弁論準備期日で陳述した準備書面(四)において,東京都の「構造設計指針」(乙26参照)に基づき,本件建物の用途係数を1・0から1・25に変更する強化工事を行った旨主張を変更するに至った。

しかし,被控訴人らが本件建物の水平震度指数を0・20から0・25に変更することと用途係数を1・0から1・25に変更することとを取り違える筈はなく,上記主張の変更は,被控訴人らが上記強化工事をしなかったことの証左にほかならない。

b 水平震度強化工事費用の支出ないし負担における裁量権の逸脱

仮に,上記強化工事が行われたとしても,その工事費用1億1000万円については「積算内訳書」すら存在しないから,上記1億1000万円は,いわば「丼勘定」で支払われたことになる。

また,三鷹市が株式会社相和技術研究所に依頼して作成したという「構造設計概要書」(甲90)は,本件建物売買原契約の締結時までには作成されていたと考えられるので,上記強化工事の費用は,大誠建築設計事務所及び市来崎建築事務所の各「設計予算書」(甲33,34)の積算に組込まれていたと推認される。したがって,三鷹市は,白石建設に対し,水平震度強化工事の費用1億1000万円を加算して支払う必要はなかった。

しかも,被控訴人らの主張する上記強化工事の内容は,本件建物の柱及び梁の主筋の本数を増やしたり,フープ(帯筋)及びスターラップ(あばら筋)のピッチを細かくしたりするというものであるから,そのために1億1000万円もの費用を必要とする筈がない。

したがって,上記強化工事についての支出ないし負担は,被控訴人P1が三鷹市長としての裁量権を逸脱してした違法なものである。

(2) 本件土地売買契約の違法

ア 本件土地売買契約は,本件建物売買契約と一体として締結されたから,本件建物売買契約が違法である以上,本件土地売買契約も違法である。

イ 仮に,アが認められなくても,三鷹市と白石建設は,予め本件土地建物の売買代金を合計80億円とする合意をし,その合意を現実のものとするために,本件土地の売買代金を適正価格を遥かに超えるものとした。

したがって,本件土地売買契約は,被控訴人P1が三鷹市長としての裁量権の範囲を著しく逸脱して締結した違法なものである。

(被控訴人らの主張)

本件土地建物売買契約は,適法である。

(1) 本件建物売買契約の適法

ア 三鷹市は,駅前周辺住区にコミュニティー・センターを設置する必要に迫られていた上,そもそも本件土地だけを買い入れる方針であったが,白石建設から本件建物と一括でなければ本件土地を売却しないといわれた。そこで,三鷹市は,やむなく,随意契約の方法により,建築中の本件建物を買い入れた。したがって,三鷹市が随意契約の方法により本件建物を買い入れたことをもって,地方自治法234条2項,同法施行令167条の2第1項2号に違反するということはできない。

なお,本件建物売買契約を締結した当時,本件建物は未完成であったが,このことをもって,同法234条2項にいう「不動産の買入れ」に該当しないことにはならない。

イ 三鷹市の担当者が,同市議会に対し,本件建物売買契約について虚偽の説明をしたことはない。したがって,本件建物売買契約にかかる三鷹市議会の議決に重大かつ明白な瑕疵はない。

ウ 三鷹市は,大誠建築設計事務所及び市来崎建築事務所に本件建物の価額を積算させた上(本件建物売買原契約につき甲33,34,同変更契約につき甲36,37),これらを踏まえて,白石建設と交渉して本件建物の買入れ価格を決定した。しかして,上記2建築事務所の積算価格より約2000万円減額されている本件建物の売買代金(本件建物売買変更契約にかかる売買代金)は,適正である。

もとより,三鷹市は,白石建設との間において,予め本件土地建物の売買代金を合計80億円とする合意をしたことはない。

(ア) 二重見積りについて

控訴人らの主張は,いずれも否認する。

a 「舞台装置」の設置

本件建物の設計図としては,当初の白石建設の本社ビルの図面(元設計図 現存しない。),本件建物売買原契約締結時の図面(原設計図 甲88の添付図面)及び本件建物変更契約締結時の図面(変更設計図 甲89の添付図面)があるが,上記の元設計図に加筆,削除等をして,原設計図及び変更設計図が作成された。

そして,元設計図には,地下1階に「油圧式のせり上がり舞台」及び「バトン類」(つり物類一式)が設置されることとなっていたが,高価すぎるので,原設計図では,上記「油圧式のせり上がり舞台」を「壁面収納ステージ」に変更し(甲88のA-68),「バトン類」を削除した(したがって,甲88の添付図面には,甲89のA-78,79に相当する図面は存在しない。)。

しかし,三鷹市は,本件建物売買変更契約を締結する際,「バトン類」(つり物類一式 具体的には,舞台に必要とされるライトバトン(1),美術バトン(1),VPスクリーン,ライトバトン(5),ライトバトン(6)甲89のA-78,79)を復活,設置することとした。

本件建物売買変更契約における「舞台装置」が「バトン類」(つり物類一式)を指すことは,原設計図(甲88のA-1)と変更設計図(甲89のA-1)とを対比すれば明らかである。

したがって,控訴人らが主張する「舞台装置」の二重見積りはない。

b 「外壁」及び「丸柱」の赤御影石貼

確かに,白石建設の本社ビルについては,「外壁」及び「丸柱」が赤御影石貼として予定され,元設計図にその旨記載されていたが,本件建物売買原契約の段階では,いずれもこれを取り止め,「外壁」を複層塗材(アクリルゴム系,ヘッドカット)に変更することととして,原設計図にもその旨が記載された(甲88のA-7,19)。ところが,原設計図の一部(甲88のA-34,35)に,元設計図の「赤御影石貼」の記載が抹消されないまま残ってしまった。したがって,上記「赤御影石貼」の記載は,単なる修正漏れにすぎない。

その後,本件建物売買変更契約の段階で,本件建物の「丸柱」を赤御影石貼に復活し,「外壁」も複層塗材(アクリルゴム系,ヘッドカット)とするほかに,その一部を赤御影石貼にするよう復活させ,変更設計図にもその旨記載された(甲89のA-19)。このように,本件建物の「外壁」の一部及び「丸柱」について上記の設計変更があったことは,原設計図(甲88のA-7)と変更設計図(乙35(甲89のA-7に相当する図面))とを対比すれば明らかである。

したがって,控訴人らが主張する「外壁」及び「丸柱」の赤御影石貼の二重見積りはない。

c エレベーター設備の「身障者仕様」

本件建物のエレベーター設備について,元設計図では「身障者仕様」によることとされていたが,原設計図ではその設置を取り止め(甲88のA-61),変更設計図で復活した(甲89のA-64)。

控訴人らが指摘する原設計図の一部の記載(甲88のA-62)は,単なる修正漏れである。

したがって,控訴人らが主張するエレベーター設備の「身障者仕様」について,二重見積りはない。

d 地下2階の「身障者用トイレ」

元設計図では,本件建物の地下2階に「身障者用トイレ」を設置することとし,「便所(身)」と記載されていたが,原設計図の作成段階では,その部分を「倉庫」にすることとした(甲88のA-29)が,一部の図面(甲88のA-20)について,修正漏れがあり,「便所(身)」という記載が残ってしまった。

その後,本件建物売買変更契約の段階で,本件建物の地下2階の「倉庫(4)」を「身障者用トイレ」に復活させたものであり,変更設計図にもその旨が記載された(乙36(甲89のA-29に相当する図面))。上記設計変更があったことは,原設計図(甲88のA-29)と変更設計図(乙36(甲89のA-29に該当する図面))とを対比すれば明らかである。

したがって,控訴人らが主張する地下2階の「身障者用トイレ」について,二重見積りはない。

e 「フラッグポール」の設置

元設計図では,本件建物に「フラッグポール」を設置することが予定されていたものの,原設計図ではこれを設置しないことにした(甲88のA-67 なお,原設計図の一部(甲88のA-3 特記仕様(2))には不動文字で「旗ざお」等の記載があるが,この段階で「フラッグポール」の設置が決められたわけではない。)。

そして,その後,本件建物売買変更契約の段階で,前面道路側に「フラッグポール」を設置するよう復活させ,変更設計図にもその旨が記載された(乙33,34(甲89のA-81に該当する図面))。このことは,これらの図面を対比すれば明らかである。

なお,本件建物売買原契約の段階での上記2建築設計事務所の「設計予算書」(甲33,34)に「フラッグポール」の設置費用が積算されているが,この積算は,白石建設の本社ビルについて「フラッグポール」の設置が予定されていたことを意味するにすぎない。

したがって,控訴人らが主張する「フラッグポール」の設置について,二重見積りはない。

(イ) 水平震度に関する強化工事について

控訴人らの主張は,否認する。

a 用途係数の変更に伴う耐震強化工事の実施

三鷹市は,白石建設の本社ビルとして設計された本件建物を公共用建築物であるコミュニティー・センターに転用するため,東京都の「構造設計指針」(乙26参照)に基づき,用途係数(必要保有水平耐力で当該建物の保有水平耐力を除した数値であって,地震等に対する耐力を示すもの)を1・0から1・25に変更する必要があった(被控訴人らが従前「水平震度指数」という用語を使っていたのは誤解であり,「用途係数」が正しい。)。

そこで,三鷹市は,白石建設の本社ビル工事の「構造設計概要書」(乙31)を基に,相和技研に依頼して本件建物の構造計算をやり直し,新たな「構造設計概要書」(甲90)を作成した(なお,控訴人らは,上記「構造設計概要書」(乙31)では,本件建物の2階事務室の床荷重が800㎏/m2とされていることをもって,上記書面は,白石建設の本社ビル工事のものではないと主張するが,白石建設は2階事務室に資料を置くため梁を頑強に設計する必要があったこと,同設計書が平成3年10月に作成されている(乙31 8枚目の日付欄参照)ことからも,上記「構造設計概要書」が白石建設の本社ビル工事にかかるものであることが明白である。また,三鷹市が用途係数の変更に基づき,相和技研に依頼し,平成4年6月4日に構造計算のやり直しを終えたことは,白石建設の「定例打合議事録」(乙29の1,2)に照らして明らかである。)。

その結果,用途係数が,前者の場合,X方向で最大1・81,最少1・09,Y方向で最大1・56,最少1・18であり,1・25を超えなかったが,後者の場合,X方向で最大1・61,最少1・32,Y方向で最大1・74,最少1・35となって,1・25を超えることとなった。

そして,三鷹市は,上記用途係数の変更に伴い,本件建物の柱及び梁の主筋を増やしたり,フープ(帯筋)及びスターラップ(あばら筋)のピッチを細かくしたり,鉄筋の量を増やす等の強化工事を実施した。

b 上記強化工事費用の算定

三鷹市は,本件建物の上記用途係数の変更に伴う強化工事のため1億1000万円(諸経費1000万円を含む。)を算定した。

しかして,一般に,民間施設の用途係数1・0を公共用施設の用途係数1・25に変更するには,躯体部分(総工事費の2分の1とされる。)の7パーセント程度の費用を必要とするとされている。そうすると,その費用は,次のとおり,約1億円となるから,控訴人らの主張する裁量権の範囲の逸脱はない。

30億円×1/2×0・07≒1億円

なるほど,三鷹市は,上記強化工事の費用の算定について,建築設計事務所から設計予算書を徴求していないが,P2市民部長が市来崎建築事務所からその費用として約1億円を要することを確認している(甲10の1 三鷹市議会総務委員会議事録)。

(2) 本件土地売買契約の適法

公社は,株式会社日本鑑定(不動産鑑定士P3)の「不動産鑑定評価書」(甲26)及び宮内不動産鑑定事務所(不動産鑑定士P4)の「鑑定評価書」(甲27)に基づき,白石建設と交渉して本件土地の売買代金を決定し,三鷹市は,「三鷹市公共用地価格等審査委員会」の評定結果(34億0467万5835円)を経て,公社との間において,上記売買代金に諸経費を加算した代金で本件土地売買契約を締結したから,適正な価格により契約をしたというべきである。

第3当裁判所の判断

1  本件土地建物売買契約の締結の経緯等について

前記の争いのない事実に加え,証拠(甲1,2,3の1,2,4,6の1,2,7ないし9,10の1,2,11,12の1,2,13の1,2,14ないし20,21の1,2,22の1,2,23ないし27,33ないし39,44の1,2,45の1,2,46の1ないし3,47,58,59,63,86の2,88ないし90,97ないし99,乙1ないし28,29の1,2,30ないし36,原審証人P2,同P5,当審証人P6)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。

(1)  三鷹市は,昭和46年に「三鷹市中期財政計画(第2次)」の中でコミュニティー・プランを発表し,昭和49年に「コミュニティー・センター条例」を制定して,地域社会の再構築を図ることとし,昭和59年までに市内7住区のうち駅前周辺住区を除く6住区に地域住民の交流の場としてのコミュニティー・センターを設置した。

(2)  駅前周辺住区は,住区人口約2万2000人を抱え,コミュニティー・センターを設置する必要性が高かったにもかかわらず,商店や住宅が密集する地域であるために用地を取得することができなかったので,昭和59年に「駅前周辺住区コミュニティー研究会準備会」が結成されるなど,その設置に向けて調査,検討が進められた。

これに加えて,地域住民から,三鷹市議会議長に対し,三鷹駅前に三鷹市立図書館の分館の建設を求める請願書(昭和57年12月 乙12),陳情書(平成2年6月 乙13)などが提出された。

(3)  三鷹市は,平成2年ごろ,白石建設が本社ビルの建設用地としてJR中央線三鷹駅に近い本件土地の買収を進めているという情報を入手し,同社に対し,コミュニティー・センターの建設用地として,本件土地又は移転が予定されていた現在の本社ビルの敷地(本件土地より駅からやや離れた位置にある。)のいずれかを買収したい旨申し入れたが,いずれも断られた。

(4)  三鷹市は,平成3年夏ころ,白石建設に対し,再度,本件土地の買収を申し入れたところ,白石建設から,本件土地のみを売却することはできないが,本社ビルとして計画中の本件建物と一括であれば売却することができるとの回答を得た。

なお,白石建設は,三鷹市に対し,当初,本件土地建物の売却代金として総額100億円以上を提示していたが,平成3年秋ころには,上記売却代金を総額80億円にまで減額する意向を示した。

(5)  三鷹市は,住民の参加の下にコミュニティー・センターを建設することが基本方針であるため,その敷地のみを取得し,地上建物は住民の意見等を反映して独自に建築したいという意向を有していたが,本件土地は,三鷹駅から徒歩10分足らずの距離にあり,駅前周辺住区のコミュニティー・センター設置用地として得がたいものである上,地域住民から要望が強かった駅前図書館や公共駐車場の併設等も可能になることを考慮し,最終的に,本件土地建物を一括して買い受けることもやむを得ないとの結論に達した。

(6)  そこで,三鷹市は,平成3年11月15日,白石建設に対し,「白石建設(株)本社ビルの譲渡について(お願い)」と題する書面(甲3の2)をもって,本件土地建物を駅前住区のコミュニティー・センター等に利用したいとして,その譲渡を求め,白石建設は,平成4年2月3日,三鷹市に対し,総額80億円で本件土地建物を売り渡すことを承諾する「売渡し承諾書」(甲4)を差し入れた。

なお,白石建設は,それまでに,本件建物について,平成3年5月から基本設計,同年8月から実施設計を始めて,同年10月11日に建築確認の申請を行い(同年12月10日 建築確認),同年11月ころから,本件土地の地下を掘削するなど建設工事に着手していた(本件建物の完成予定は,平成5年10月末日であった。)。

(7)  三鷹市は,上記のとおり,本件土地建物を買い入れることができる見通しとなったことから,平成4年度予算の編成に当たり,本件土地の買入れ経費として38億円(公社会計)を計上し,本件建物の買入れ経費として43億円(平成5年度までの債務負担行為)を計上した。

(8)  その後,三鷹市は,公社に対し,本件土地の先行取得を依頼し,公社は,株式会社日本鑑定(不動産鑑定士P3)及び宮内不動産鑑定事務所(不動産鑑定士P4)に平成4年4月1日現在の本件土地992・75平方メートル全体の価格(正常価格)の鑑定評価を依頼したところ,同月15日,前者の「不動産鑑定評価書」(甲26)では34億5477万円であり,後者の「鑑定評価書」(甲27)では34億9448万円であると鑑定評価された。

また,三鷹市は,そのころ,大誠建築設計事務所及び市来崎建築事務所に対し,本件建物4559・202平方メートル全体の設計予算の積算を依頼したところ,前者の「設計予算書」(甲33)では35億4000万円(うち諸経費4億1400万円),後者の「設計予算書」(甲34)では35億2000万円(うち諸経費4億0900万円)であると積算された。

なお,上記2設計事務所は,いずれも,白石建設が所持していた本社ビルの設計図(元設計図)に基づき,上記の各積算をした。

(9)  三鷹市は,上記2社の各積算結果を踏まえ,白石建設との間において,本件建物の買入れ価格の交渉を進めたところ,白石建設から,当初35億円(諸経費込み)の売買代金が提示された。しかし,三鷹市は,白石建設に対し,①本件建物の設備や仕様から公共用施設に不要なもの等を除くこと,②東京都の建築工事積算標準単価表等によれば,その単価が10パーセントないし15パーセント低廉であることにかんがみて,本件建物の価額を30億円とする減額交渉をした。

一方,本件建物を公共用建築物に転用するには,東京都財務局の「構造設計指針」(乙26参照)に基づき,用途係数(地震等に対する耐力の指数)を1・0から1・25に変更する必要があった。そこで,三鷹市は,本件建物を購入する前に,予め,白石建設にその強化工事をさせる一方,その費用は,一般に躯体部分の工事費の約7パーセントであり,躯体部分の工事費は総工事費の50パーセントとされていることを考慮し,1億円(及びその諸経費1000万円)を加算することとした。

その結果,三鷹市は,白石建設との間において,本件建物全体の価格を38億5245万円(建築工事費31億円(本体価格30億円に上記強化工事費1億円を加算したもの)に,設計監理費1億4570万円,工事中の金利1億9375万円,近隣対策費9300万円,地質調査費1000万円,諸経費3億1000万円を加算した金額)とし,これに消費税1億1557万3500円を加えた39億6802万3500円に1万分の9855(本件建物4559・202平方メートル全体のうち三鷹市が買い入れる本件建物の占める割合)を乗じた39億1048万7159円をもって,本件建物の買入れ価格とする合意をした。

そして,三鷹市は,平成4年5月22日,白石建設との間において,三鷹市議会において契約議案が可決された後に本件建物の売買契約を締結する旨の仮契約を締結した(甲58)。

(10)  他方,公社は,白石建設との間において,本件土地の買入れ価格の交渉を進め,上記(8)前段の鑑定結果のうち低額の34億5477万円に1万分の9855(本件土地992・75平方メートル全体のうち三鷹市が買い入れる共有持分割合)を乗じた34億0467万5835円をもって,本件土地の買入れ価格とすることを合意し,平成4年5月22日,本件「土地売買契約に係る合意書」(甲59)を作成した。

(11)  三鷹市において,予定価格2000万円以上の不動産(土地については5000平方メートル以上のものに限る。)を買い入れるには,議会の議決に付さなければならないこととされている(地方自治法96条1項8号,同法施行令121条の2第2項,別表第2,議会の議決に付すべき契約及び財産の取得又は処分に関する条例3条 乙2)。

そこで,被控訴人P1は,三鷹市長として,平成4年6月8日,三鷹市議会に対し,「駅前周辺住区コミュニティー・センター」,「駅前図書館」及び「公共用駐車場」(いずれも仮称)等に使用するために,白石建設から39億1048万7159円(消費税込み)で本件建物を買い入れる議案(乙3)を提出した。

そして,三鷹市議会は,上記議案を総務委員会に付託して審査した上,同月25日,本会議において賛成多数でこれを可決した。

(12)  他方,三鷹市においては,公共用地の取得等について適正な評価を行うため「三鷹市公共用地価格等審査委員会要綱」(乙5)を制定し,公社に取得を求めた用地の価格設定についても同委員会に評定させている(同要綱2条)ところ,三鷹市公共用地価格等審査委員会は,平成4年6月29日,本件土地の買入れ評定額を34億0467万5835円と決定し,三鷹市(総務部長)に対し,その旨通知した(乙6)。

(13)  三鷹市は,上記市議会の議決を受け,平成4年7月1日,白石建設との間において,39億1048万7159円(消費税込み)で本件建物を買い入れる契約(本件建物売買原契約)を締結した(甲15)。

他方,同日,公社は,白石建設から,34億0467万5835円で本件土地を買い入れる契約を締結し(甲16),さらに,三鷹市は,公社から35億2571万6294円(買入額34億0467万5835円に諸経費相当額1億2104万0459円を加算した金額)で本件土地を買い入れる契約(本件土地売買契約)を締結した(甲17)。

(14)  その後,三鷹市は,本件建物を公共用施設としてのコミュニティー・センターに転用するため,駅前周辺住区の住民を参加させる等して,施設内容等について検討を加え,平成4年10月ころ,白石建設に対し,本件建物の設計及び仕様の変更を指示した。

白石建設は,上記指示を受けて,同年11月9日ごろ,三鷹市に対し,上記設計及び仕様の変更に伴う追加代金を諸経費込みで4億2954万9150円(消費税込み)とする「御見積書」(甲35)を提出した。

一方,三鷹市は,そのころ,大誠建築設計事務所及び市来崎建築事務所に本件建物の上記設計及び仕様の変更に伴う工事費用の積算を依頼したところ,前者の「設計予算書」(甲36)では3億6734万4384円(消費税抜き)と,後者の「設計予算書」(甲37)では3億7285万3684円(消費税抜き)とそれぞれ積算した。

(15)  三鷹市は,白石建設との間において,上記2社の積算結果を踏まえ,かつ,公共用建築物であること等を理由に減額交渉をした結果,上記設計及び仕様の変更に伴う追加代金を3億5979万5952円(変更工事費2億8275万6054円に,諸経費2827万5605円,設計図変更料2588万3000円,図書館レイアウト料495万円,工事中の金利745万1800円,消費税1047万9493円を加算した金額)とし,これに本件建物の前記売買代金39億1048万7159円(消費税込み)を加えた42億7028万3111円(消費税込み)をもって,本件建物の最終的な売買代金とすることとした。

(16)  被控訴人P1市長は,平成4年12月2日,三鷹市議会に対し,上記設計及び仕様の変更に伴い白石建設から買い入れる本件建物の価格を上記42億7028万3111円に変更する議案(乙4)を提出したところ,同議会は,総務委員会に付託して審査した上,同月22日,本会議において賛成多数で上記議案を可決した。

(17)  そこで,三鷹市は,平成4年12月24日,白石建設との間において,本件建物の買入れ価格を上記42億7028万3111円(消費税込み)に変更する契約(本件建物売買変更契約)を締結した(乙10)。

(18)  その後,三鷹市は,①平成5年11月10日,白石建設に対し,本件建物の売買代金42億7028万3111円を支払い,②平成4年7月16日から平成13年3月30日までに,公社に対し,前記第2,1,(4),イに記載のとおり,本件土地の売買代金のうち金13億4316万9910円を支払った。

2  争点に対する判断

(1)  控訴人らの主張(1),アについて

ア 地方自治法234条1項は,「売買,賃借,請負その他の契約は,一般競争入札,指名競争入札,随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする。」,同条2項は,「前項の指名競争入札,随意契約又はせり売りは,政令で定める場合に該当するときに限り,これによることができる。」とし,同法施行令167条の2第1項2号は,随意契約によることができる場合として,「不動産の買入れ(中略)その他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」を掲げている。

しかして,同号にいう「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」には,当該契約の性質又は目的に照らして競争入札の方法による契約の締結が不可能又は著しく困難というべき場合のほか,競争入札の方法によること自体が不可能又は著しく困難とはいえないが,不特定多数の者の参加を求め競争原理に基づいて契約の相手方を決定することが必ずしも適当ではなく,当該契約では多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても,普通地方公共団体において当該契約の目的,内容に照らしそれに相応する相手方を選定しその者との間で契約の締結をするという方法をとるのが当該契約の性質に照らし又はその目的を究極的に達成する上でより妥当であり,ひいては当該地方公共団体の利益の増進につながると合理的に判断される場合も含まれる。そして,後者のような場合に該当するか否かは,契約の公正及び価格の有利性を図ることを目的として普通地方公共団体の契約の締結の方法に制限を加えている地方自治法234条1項,2項及び同法施行令167条の2第1項2号の趣旨を勘案し,個々具体的な契約ごとに,当該契約の種類,内容,性質,目的等諸般の事情を考慮して当該普通地方公共団体の契約担当者の合理的な裁量判断により決定されるべきものである(最高裁判所第2小法廷昭和62年3月20日判決・民集41巻2号189頁参照)。

イ これを本件についてみるに,上記認定事実によれば,①確かに,本件建物は,本件建物売買契約の締結当時,未完成であり,平成5年10月末日完成予定のものであったが,本件建物売買契約は,完成後の本件建物を買い受ける契約であるから,地方自治法施行令167条の2第1項2号にいう「不動産の買入れ」に当たるというを妨げない上,②三鷹市にとって,駅前周辺住区にコミュニティー・センターを設置することは長年の課題であり,本件土地はその用地として他に得がたいものであったこと,③三鷹市は,本件土地のみの買入れを希望したが,白石建設から,本件土地建物を一括でなければ売却に応じないとされ,やむなく一括買入れをしたこと,④本件建物は,その設計及び仕様の変更によって,公共用施設としてのコミュニティー・センター等にすることが可能であったことが認められ,これらの事情に照らすと,三鷹市が,随意契約の方法により,白石建設から本件建物を買い入れたのは,コミュニティー・センターの設置をするためにより妥当であり,ひいては三鷹市の利益の増進につながるものと解され,もとよりその契約担当者の合理的な裁量の範囲を逸脱したものということはできない。

ウ よって,控訴人らの主張(1),アは,採用することができない。

(2)  控訴人らの主張(1),イについて

ア 控訴人らは,本件建物売買契約についてされた三鷹市議会の議決に重大かつ明白な瑕疵があり,無効である旨主張するが,後に説示するところからも明らかなように,本件全証拠によるも,これを認めるに足りない。

イ 付言すると,控訴人らは,三鷹市と白石建設との間において,白石建設に不当な利得を得させるため,予め本件土地建物の売買代金を合計80億円とする合意をしていた旨主張するが,本件全証拠によるも,そのような事実を認めるに足りない。

確かに,三鷹市が本件土地建物の譲渡を求めることを決定した平成3年11月14日付け「起案書」(甲3の1)には,「購入経費」として「概算80億円(土地建物とも)」との記載があり,上記認定のとおり,白石建設は平成4年2月3日に三鷹市に対し80億円で本件土地建物を売り渡す旨記載された「売渡し承諾書」(甲4)を差し入れているが,①三鷹市の上記「起案書」の購入経費80億円は,文字どおり「概算」であって,白石建設も,上記「売渡し承諾書」を差し入れた段階ではあくまでも希望価格として80億円を提示したにすぎない(原審証人P5)上,②さきに認定したとおり,三鷹市は,本件建物の買入れにつき,上記2建築設計事務所に,本件建物売買原契約及び本件建物売買変更契約をそれぞれ締結する段階で,2度にわたり,設計予算の積算を依頼し,その結果に基づいて,白石建設と減額交渉をしているし,公社も,本件土地の買入れにつき,上記2不動産鑑定事務所に鑑定評価を依頼し,その結果に基づいて,白石建設と本件土地売買契約を締結していることに照らすと,これらの書面をもって,控訴人らの主張する事実を認めるには足りず,他に控訴人らの主張する事実を認めるに足りる証拠はない。

ウ よって,控訴人らの主張(1),イは,採用することができない。

(3)  控訴人らの主張(1),ウについて

ア 普通地方公共団体が随意契約によって不動産の買入れを行うことができる場合においても,当該普通地方公共団体は,前記随意契約によることができる趣旨を損なわない範囲において,当該普通地方公共団体に最も有利な価格で買い入れるべき義務を負い,そのような価格を買入れ価格としなければならない(最高裁判所第1小法廷平成6年12月22日判決・民集48巻8号1769頁参照)。本件においても,三鷹市は,白石建設から,上記の範囲内において三鷹市に最も有利な価格で本件建物を買い入れる義務があり,三鷹市の担当者は,その限度で合理的な裁量権を有するが,これを超えたときは,その裁量権の範囲を逸脱したものとして,本件建物売買契約は違法となる。

(ア) 二重見積りについて

控訴人らは,本件建物売買契約において,本件工事の仕様の優先順位は,①現場説明事項及び質疑応答書,②特記仕様書,③設計図書,④共通仕様書の順位によると定められている(甲88及び甲89の各A-2)から,被控訴人らが修正漏れ等を主張することは許されない旨主張する。しかし,上記優先順位の定めをもって,修正漏れ等が生じないということはできないから,控訴人らの上記主張は,採用することができない。

a 「舞台装置」の設置

さきに認定した事実に証拠(甲25,33,34,36,37,88,89,原審証人P2,同P5)及び弁論の全趣旨を併せ考えると,次の事実が認められる。

① 三鷹市は,白石建設の本社ビルとして建築されていた本件建物を買い入れ(本件建物売買原契約の締結),これをコミュニティー・センター等に転用するために設計及び仕様の変更をする本件建物の売買契約(本件建物売買変更契約)を締結した。

したがって,本件建物については,まず,白石建設の本社ビルの設計図(元設計図)が作成され(これは,現存しない。),次に,これに加筆,削除等がされて,本件建物売買原契約書に添付された設計図(原設計図甲88)が作成され,さらに,これに加筆,削除等がされて,本件建物売買変更契約書に添付された設計図(変更設計図 甲89)が作成された。

② 白石建設の本社ビルの設計では,本件建物の地下1階大会議室に「油圧式のせり上がり舞台」(昇降舞台)とこれに付随する「バトン類」(つり物一式)が予定されていたが,公共用施設としては豪華すぎるということになり(ちなみに,本件建物売買原契約の締結前に(上記1,(8)参照),上記昇降舞台全体について,大誠建築設計事務所は4810万円(甲33)と,市来崎建築事務所は5250万円(甲34)とそれぞれ積算している。),本件建物売買原契約の段階では,これを可動式の「壁面収納ステージ」に変更し(原設計図 甲88のA-68),かつ,「バトン類」(つり物一式)の設置も取り止めた(甲88(原設計図)には,甲89(変更設計図)のA-78,79に相当する図面はない。)。

③ ところが,三鷹市は,本件建物売買変更契約を締結する段階で,上記「バトン類」,即ちライトバトン(1),美術バトン(1),V・Pスクリーン,ライトバトン(5),ライトバトン(6)の設置を復活することにした(甲25,89のA-78,79)。

そして,本件建物売買変更契約締結の際に復活させた「バトン類」について,それぞれ「舞台装置」として,大誠建築設計事務所は,1000万円(甲36)と,市来崎建築事務所は,950万円(甲37)と積算した。

④ 控訴人らは,本件建物売買原契約において上記「舞台装置」が「舞台装置用盤」等として見積もられていた旨主張するが,原設計図に記載された「舞台装置用盤」(甲88のA-32)と変更設計図に記載された「バトン類」(甲89のA-78)とを対比すると明らかに異なっており,上記主張は採用することができない。

⑤ 控訴人らは,本件建物売買変更契約における「舞台装置」の設置が上記「バトン類」であったとしても,これらの価格は250万円程度にすぎないから,不当な価格操作がされている旨主張する。

しかし,これに沿う控訴人P7の陳述書(スクリーンを含めてせいぜい250万円程度というもの 甲80),「御見積書」(取付工事代を含めて179万5000円を超えないというもの 甲85)等は,前記2社の積算(1000万円ないし950万円というもの 甲36,37)と対比して,にわかに採用することができず,他に控訴人らの上記主張を認めるに足りる証拠はない。

以上によれば,本件建物売買変更契約における「舞台装置」の費用は,「バトン類」についての設置費用であり,「舞台装置」について控訴人らが主張するような二重見積りがあったということはできない。

b 「外壁」及び「丸柱」の赤御影石貼

さきに認定した事実に証拠(甲25,33,34,36,37,88,89,原審証人P2,同P5)及び弁論の全趣旨を併せ考えると,次の事実が認められる。

① 白石建設の本社ビルの設計では,本件建物の「外壁」及び「丸柱」を赤御影石貼とすることが予定されていたが,公共用施設としては豪華すぎることから,いずれもこれを取り止め,本件建物売買原契約の段階では,「外壁」を複層塗材(アクリルゴム系,ヘッドカット)とすることとした(原設計図 甲88のA-7,19)。

② ところが,三鷹市は,本件建物売買変更契約を締結する段階で,「外壁」の一部6平方メートルと「丸柱」3本を赤御影石貼に復活させることとした(甲89のA-19,乙35(甲89のA-7に相当する図面))。そして,その費用として,大誠建築設計事務所は410万円(甲36 外壁60万円,丸柱350万円)と,市来崎建築事務所は450万円(甲37 外壁66万円,丸柱384万円)とそれぞれ積算した(いずれも取付工事費等を除く。)。

③ 控訴人らは,上記「外壁」及び「丸柱」の赤御影石貼について二重見積りがあったとして,原設計図(甲88のA-34,35)の「丸柱」と「外壁」の一部について「赤御影石貼」という記載があることを指摘するが,上記①の経過に証拠(原審における証人P2,同P5)及び弁論の全趣旨を併せ考えると,元設計図を加筆,削除等して原設計図を作成する際に,その「外壁」及び「丸柱」の「赤御影石貼」という記載を抹消すべきであったにもかかわらず,抹消漏れがあり,その部分が控訴人らの指摘する部分であることが認められる。

以上によれば,本件建物売買変更契約において「外壁」及び「丸柱」の赤御影石貼の費用が控訴人らの主張するように二重に見積もられたということはできない。

c エレベーター設備の「身障者仕様」

さきに認定した事実に証拠(甲25,33,34,36,37,88,89,原審証人P2,同P5)及び弁論の全趣旨を併せ考えると,次の事実が認められる。

① 白石建設の本社ビルのエレベーター設備は「身障者仕様」とすることが予定されていたが,本件建物売買原契約の段階では,これを一旦取り止めた(原設計図甲88のA-61のエレベーター仕様の「特記仕様」欄には「身障者仕様」の記載はない。)。

② しかし,三鷹市は,本件建物売買変更契約を締結する段階で,本件建物のエレベーター設備の仕様を「身障者仕様」に復活させた(甲25,89のA-64(エレベーター仕様の「特記仕様」欄には「視覚障害者仕様付」の記載がある。)。この「身障者仕様」の追加及び2号機仕様変更工事(停止階が地下3階から地上2階までであったのを地下3階から地上3階までに変更)について,大誠建築設計事務所は2050万円(甲36)と,市来崎建築事務所は2100万円(甲37)とそれぞれ積算した。

③ 控訴人らは,原設計図(甲88のA-62)に変更設計図(甲89のA-65)と同じ「車椅子専用ホール釦注意銘板」,「視覚障害者用注意銘板」等の記載があることを指摘し,上記エレベーター設備の「身障者仕様」について二重見積りがあったと主張するが,上記①の経過に証拠(原審証人P2,同P5)及び弁論の全趣旨を併せ考えると,控訴人らの指摘する記載は,元設計図を加筆,削除等して原設計図を作成する際に,エレベーター設備の「身障者仕様」という記載を抹消すべきであったのに,これを漏らしたにすぎないことが認められる。

④ なるほど,本件建物売買原契約の段階において,大誠建築設計事務所はエレベーター設備1,2号機を合計5010万円と積算し,その内容として「車イス仕様付」,「視覚障害者仕様付」と記載している(甲33 ちなみに,市来崎建築事務所もエレベーター設備1,2号機を合計5000万円と積算している。 甲34)が,さきに1,(9)において認定したとおり、三鷹市は,上記積算の後に,設備の一部削除をするなどして,白石建設と減額交渉をしているから,上記記載をもって,本件建物売買原契約の段階でエレベーター設備の「身障者仕様」が見積もられていたと断定することもできない。

以上によれば,本件建物売買変更契約においてエレベーター設備の「身障者仕様」が控訴人らの主張するように二重に見積もられたと認めるには足りない。

d 地下2階の「身障者トイレ」

さきに認定した事実に証拠(甲25,33,34,36,37,88,89,乙36,原審証人P2,同P5)及び弁論の全趣旨を併せ考えると,次の事実が認められる。

① 白石建設の本社ビルの設計には,地下2階に「身障者トイレ」を設置することが予定され,元設計図に「便所(身)」と記載されていたが,本件建物売買原契約の段階では,その部分を「倉庫(4)」とすることにした(原設計図 甲88のA-29)。

② しかし,三鷹市は,本件建物売買変更契約を締結する段階で,本件建物の地下2階に「身障者トイレ」を設置することを復活させ(甲25,乙36(甲89のA-29に相当する図面)),その費用として,大誠建築設計事務所が55万3995円(甲36)と,市来崎建築事務所が55万0620円(甲37)とそれぞれ積算した。

③ 控訴人らは,原設計図(甲88のA-20)に「便所(身)」の記載があることを指摘し,上記地下2階の「身障者トイレ」について二重見積りがあると主張するが,証拠(原審証人P2,同P5)及び弁論の全趣旨によれば,この点も,前同様に修正漏れと認められる。

以上によれば,本件建物売買変更契約において地下2階の「身障者トイレ」が控訴人らの主張するように二重に見積もられたと認めるには足りない。

e 「フラッグポール」の設置

さきに認定した事実に証拠(甲25,33,34,36,37,88,89,乙33,34,原審証人P2,同P5)及び弁論の全趣旨を併せ考えると,次の事実が認められる。

① 白石建設の本社ビルの設計では,本件建物の前面道路側に「フラッグポール」を設置することが予定されていたが,本件建物売買原契約の段階では,これを一旦取り止めた(原設計図 甲88のA-67参照)。

② しかし,三鷹市は,本件建物売買変更契約を締結する段階で,上記「フラッグポール」(3本 アルミ製 埋込型 ハンドル式)の設置を復活させることとし(甲25,乙33,34(甲89のA-81に相当する図面)),その費用として,大誠建築設計事務所が150万円(甲36)と,市来崎建築事務所が186万円(甲37)とそれぞれ積算した。

③ 控訴人らは,本件建物売買原契約の添付図(甲88のA-3 特記仕様書(2))に「旗ざお」等の記載があることを指摘し,上記「フラッグポール」について二重見積りがあったと主張する。

確かに,同図面には「19 旗ざお」,「20 旗ざお受金物」という記載があるが,上記認定のとおり,本件建物売買原契約に添付された原設計図(甲88のA-67)には上記「フラッグポール」を設置する記載がないから,上記添付図の記載は,抹消漏れとみる余地があり,これをもって二重見積りがあったということはできない。

④ なお,本件建物売買原契約を締結する段階において,大誠建築設計事務所は,「フラッグポール」設置費として210万円(甲33)と,市来崎建築事務所は,「フラッグポール」及びその基礎(防水押えコンクリート)設置費用として合計162万円(甲34)とそれぞれ積算しているが,さきに1,(9)において認定したとおり、三鷹市は,上記積算の後に,設備の一部削除をするなどして,白石建設と減額交渉をしているから,上記記載をもって,本件建物売買原契約の段階で上記「フラッグポール」が見積もられていたと断定することはできない。

以上によれば,本件建物売買変更契約において「フラッグポール」が控訴人らの主張するように二重に見積もられたということはできない。

(イ) 水平震度に関する強化工事について

a 用途係数の変更に伴う耐震強化工事の実施

さきに認定した事実に証拠(甲90,乙26,29の1,2,31,当審証人P6)及び弁論の全趣旨を併せ考えると,次の事実が認められる。

① 東京都財務局は,都立建築物の用途に応じた安全性・機能性の確保を図るとともに,耐震性向上に十分配慮した構造設計を進めるため,「東京都震災予防条例」(昭和46年条例121号)21条(特殊建築物),22条(指定重要建築物)に準拠して,昭和51年に「構造設計指針」(乙26参照)を制定した(昭和57年4月改正)が,同指針は,用途係数として,①震災時に防災の拠点となる建築物等につき1・5と,②震災時に緊急の救護所等となる建築物等(集会所,会館等)につき1・25と,③その他の建築物につき1・0とそれぞれ定めた。

② 白石建設は,本件建物を本社ビルとして設計し,平成3年夏ころ,相和技研に対し,構造計算を依頼し,同年10月に「構造計算概要書」(乙31 以下「第1次構造計算書」という。)が作成された。そして,白石建設は,平成3年10月に本件建物の建築確認申請をする際に,第1次構造計算書を添付した。

③ 三鷹市は,平成4年2月ころ,白石建設から本件土地建物を一括して売り渡す旨の承諾を得たが,本件建物を公共用施設であるコミュニティー・センター等に転用するには,前記①の東京都の「構造設計指針」に基づき,用途係数の変更をする必要があると考え,同年5月ころ,相和技研に対し,第1次構造計算のやり直しを依頼した。そして,相和技研は,そのころ,上記構造計算をやり直し,「構造計算概要書」(甲90 以下「第2次構造計算書」という。)を作成した。

なお,白石建設は,その本社ビルを建設する際,設計者相和技研,請負業者三井建設株式会社との間で定例打合せをしていたが,その「定例打合わせ議事録」(乙29の1,2)には,平成4年5月22日の欄に,「保有水平耐力の割増しにより躯体の変更がある。」との記載があり,同年6月5日の欄には,「保有水平耐力の割増しによる構造計算は昨日(6/4)終了」との記載がある。

④ 本件建物の用途係数は,第1次構造計算書(乙31)によると,X方向で最大1・81(2階),最少1・09(3階,4階),Y方向で最大1・86(2階),最少1・12(1階)であり,その最少値は1・25を超えていなかったが,第2次構造計算書(甲90)によると,X方向で最大1・61(2階),最少1・32(3階),Y方向で最大1・74(2階),最少1・35(3階)となっており,その最少値は1・25を超えている。

⑤ 三鷹市は,白石建設との間において,上記用途係数の変更により,本件建物の耐震構造の強化工事をするため,本件建物の柱及び梁の主筋の本数を増やし,フープ(帯筋)及びスターラップ(あばら筋)のピッチを増やす必要があることから,前記1,(9)記載のとおり,その追加費用として1億1000万円(諸経費1000万円を含む。)を加算した。

⑥ そして,白石建設は,三井建設株式会社と共同で本件建物の建築工事を行ったが,本件建物について上記用途係数の変更に伴う耐震構造の強化工事をした。

以上の認定事実によれば,本件建物について,これを公共用施設としてのコミュニティー・センター等に転用するため,構造計算をやり直した上,鉄筋量を増やす等の追加工事費用1億1000万円(諸経費1000万円を含む。)を加算し,耐震構造の強化工事がされたことが認められる。

⑦ 控訴人らは,本件建物の耐震構造の強化工事が行われていない旨主張し,第1次構造計算書(乙31)において本件建物の2階事務室の床荷重が,民間企業の事務室としては必要がない800㎏/m2とされていることを指摘するが,さきの認定に反する上,控訴人らの上記指摘をもって直ちに第1次構造計算書(乙31)が白石建設の本社ビル工事のために作成されたものでないと断じるには足りない(被控訴人らは,白石建設が本件建物の2階事務室に資料を置くために梁を頑強に設計していた旨主張するところ,弁論の全趣旨によるも,これを虚偽とまで認めるには足りない。)。

⑧ 確かに,被控訴人らは,原審から,上記「用途係数の変更」について,「水平震度の変更」と主張し(記録上明らかな事実),三鷹市のP2市民部長(当時)も,平成4年6月17日開催の三鷹市議会総務委員会において,公共用建築物については東京都に地震に対する指導指針があり,民間ビルは水平震度0・20を超えればよいが,公共用建築物は水平震度0・25を超える必要があり,そのために,積算会社に確認したところ約1億円の工事費用を要するとされた旨答弁している(甲10の2)。

控訴人らは,この点を捉えて,被控訴人らが,当審において,「用途係数の変更」と主張を変更したことは不自然であり,耐震構造に対する強化工事は存在しなかった旨主張するが,「用途係数」とは,前記のとおり,地震等に対する耐力の指数であって,これを「水平震度」と表現したことをもって,上記「用途係数の変更」に伴う耐震強化工事が行われなかったと断じることはできないし,もとよりP2市民部長の上記答弁をもって,虚偽とまで断じることはできない。

⑨ そして,他に,「用途係数の変更」に伴う本件建物の耐震強化工事が行われたとの認定を覆すに足りる証拠はない。

b 上記強化工事費用の算定

上記認定のとおり,三鷹市は,白石建設との間において,本件建物の公共用施設への転用に伴う「用途係数の変更」に伴い,耐震強化工事をするため,本件建物の柱及び梁の主筋の本数を増やし,フープ(帯筋)及びスターラップ(あばら筋)のピッチを増やす必要があることから,その追加費用として1億1000万円(諸経費1000万円を含む。)を加算したことが認められる。

しかして,上記強化工事の費用については,その内容や金額からしても,三鷹市にとって不利な価格で契約が締結されないようにその「積算内訳書」を作成するのが相当であるところ,三鷹市は,上記のとおり,P2市民部長(当時)が積算会社に確認しただけで,その「積算内訳書」を作成していない(弁論の全趣旨)。

そうすると,三鷹市が本件建物の上記「用途係数の変更」に伴う耐震強化工事費用として1億1000万円(諸経費1000万円を含む。)を加算したことについては,客観的に適正であるという明確な裏付けはないといわざるを得ないが,一方において,さきに認定したとおり,①P2市民部長が積算会社に上記「用途係数の変更」に伴う耐震強化工事の費用として約1億円を要することを確認していること,②三鷹市の「起案書」(甲86の2)において,水平震度を民間施設の1・25倍とするには,一般に躯体工事費用の7パーセント程度を必要とし,躯体工事費用は総工事費用の50パーセントとされている(本件建物の躯体工事を30億円とすると,その50パーセントの7パーセントとは1億0500万円となる。)ところ,これをあながち不当とするに足りる資料もないことに照らすと,三鷹市の担当者において,その裁量権の範囲を逸脱して,耐震強化工事の費用を不当に高額に加算したとまで認めるには足りない。

イ よって,控訴人らの主張(1),ウは,いずれもこれを採用することができない。

(4)  控訴人らの主張(2),アについて

上記認定判断のとおり,本件建物売買契約が違法とは認められないから,これと一体として締結された本件土地売買契約が違法であるとの控訴人らの主張は,その前提を欠き,理由がない。

(5)  控訴人らの主張(2),イについて

ア 控訴人らは,本件土地の売買契約について,三鷹市と白石建設との間において,予め本件土地建物の買入れ代金の総額を80億円とする合意が成立していた旨主張するが、これを認めるに足りないことは,さきに認定判断したとおりである。

イ そして,三鷹市が公社を通じて白石建設から買い入れた本件土地の価格が,市長の裁量権の範囲を逸脱したものでないことは,原判決の認定説示(原判決111頁11行目から同119頁4行目まで)のとおりである(ただし,111頁11行目冒頭の「(二)」を「(ア)」と,113頁10行目冒頭の「(三)」を「(イ)」とそれぞれ改める。)から,これを引用する。

ウ よって,控訴人らの主張(2),イも,採用することができない。

(6)  まとめ

以上によれば,本件土地建物売買契約に基づく公金の支出が違法であることを前提とする控訴人らの請求は,いずれも理由がないことに帰する。

3  結論

よって,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 増井和男 裁判官 佐藤武彦 裁判官 田代雅彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例