大判例

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東京高等裁判所 平成9年(行コ)160号 判決 1998年4月22日

控訴人

甲野太郎

被控訴人

東京税理士会荻窪支部

右代表者支部長

岩川作丕圖

右訴訟代理人弁護人

狩野祐光

牛嶋勉

主文

一  本件控訴を棄却する

二  控訴人の損害賠償請求中、当審で拡張した部分を棄却する。

三  控訴人の当審における新請求に係る訴えを却下する。

四  本件中間確認の訴えに係る請求中、支部規則の無効確認及び支部会費の請求の無効確認を求める部分を棄却し、その余の右訴えを却下する。

五  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人の幹事会が平成三年四月一六日にした議案「決算報告書における発生主義会計採用の件」に関する議決は違法であることを確認する(当審における新請求)。

(3)  被控訴人は控訴人に対し、金二七〇万円及び内金二〇〇万円につき平成八年六月一五日から、内金七〇万円につき平成一〇年二月五日から、各支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え(当審で請求を拡張)。

(4)  (中間確認の訴えに係る請求)

① 控訴人に適用される東京税理士会会則は昭和三九年六月二九日現在効力を有した会則のみであることを確認する。

② 被控訴人が昭和五五年一〇月一三日から施行している支部規則が無効であることを確認する。

③ 被控訴人の控訴人に対する支部会費の請求が無効であることを確認する。

(5)  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(6)  右(3)についての仮執行の宣言

(なお、制裁処分無効確認請求に係る訴えは、当審における訴えの交換的変更により取り下げられた。)

二  被控訴人

(1)  主文第一、二項同旨

(2)  当審における控訴人の新請求を棄却する。

(3)  本件中間確認の訴えを却下する。

(4)  主文第五項同旨

第二  事案の概要等

次のとおり付加、訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の第二記載のとおりであるから、これを引用する。

一  事案の概要

本件は、被控訴人が、その幹事会において、支部会費未納分を未収入金として決算報告書の貸借対照表及び財産目録に資産として計上し、かつ、その内訳として支部会費未納者の氏名及び未納金額を記載する旨の議決(以下「本件議決」ということがある。)をしたこと並びに平成四年から平成七年までの各六月に開催した定期支部総会の議案書(以下「本件各議案書」という。)中の財産目録の未収入金欄に控訴人の氏名及び平成二年度以降未納となっている控訴人の支部会費の金額を記載した上、本件各議案書を被控訴人の会員に配布し、東京税理士会に提出し、被控訴人事務所内に保管した各行為(以下「本件各行為」という。)が、控訴人に対する違法な制裁処分に該当するとして、また、被控訴人が控訴人に対し過大な支部会費を請求するなどして違法に控訴人の名誉を侵害し営業を妨害したとして、本件議決の違法であることの確認及び以上の違法な行為によって控訴人が被った精神的損害の賠償として金二七〇万円及びこれに対する遅延損害金の支払いを求めるものである。

二  争いのない事実及び証拠により容易に認めることのできる事実

原判決三頁一〇行目冒頭から同八頁二行目末尾までに記載されたとおりであるから、これを引用する(ただし、同四頁三行目の「東京税理士会」の前に「東京税理士会会則六八条の規定に基づいて」を、同五頁三行目の「第二四一〇号」の次に「)」をそれぞれ加え、同六頁一行目の「東京税理会」を「東京税理士会」に改める。)。

第三  争点及びこれに対する当事者の主張

一  主たる争点

1  本件議決の違法確認を求める訴えの適法性

2  本件議決及び本件各行為の違法性

3  本件中間確認の訴えの適否及び当否

二  当事者の主張

1  争点1(本件議決の違法確認を求める訴えの適法性)について

(一) 控訴人の主張

右訴えは公法上の当事者訴訟として適法である。

(二) 被控訴人の主張

右訴えは行政事件訴訟法四条所定の当事者訴訟に該当せず、不適法である。

2  争点2(本件各行為の違法性)について

次のとおり補正するほか、原判決九頁一〇行目冒頭から同一三頁三行目末尾までに記載されたとおりであるから、これを引用する。

原判決一一頁末行の「プライバシーを毀損し」の次に「、業務を妨害し」を加え、同行末尾の次に、行を改めて次のとおり加える。

「被控訴人は従前から収支計算書の脚注において会員数、会費免除者数、未納者数を表示してきており、その上に未納者の氏名及び未納金額を本件各議案書に記載するのは権利の濫用である。また、未納者中、控訴人のみについて記載したのは違法な差別である。控訴人の支部会費のうち昭和五八年度から同六三年度までの分一四万四〇〇〇円については支払い済みであり、昭和五五年度から昭和五七年度までの分は時効消滅しているにもかかわらず、被控訴人はこれらの年度の支部会費を不当に請求している。控訴人はこれに対して被控訴人に対し個人別支部会費台帳のコピー及び支部経費取扱要領の交付を請求したが、被控訴人はこれを拒否してあえて二重請求をやめなかった。」

3  争点3(中間確認の訴えの適法性及び当否)について

(一) 控訴人の主張

(1) 控訴人は、昭和三九年六月二九日、東京税理士会に入会し、その際同会の会則の交付を受けたが、爾後改正された会則の交付を受けていない。

したがって、同会が昭和四四年六月二四日に改正し、昭和四五年三月一三日から施行した改正会則も、右改正会則を昭和五二年六月二二日更に改正して設けた支部に関する規定も、控訴人に対しては効力が及ばない。そもそも、税理士法上税理士会の組織の一部にすぎない支部を法人格なき社団たらしめる右改正規定は、会員の入退会の自由を侵害する違法なものである。

(2) 同様の理由により、被控訴人が自らを法人格なき社団たらしめた昭和五五年一〇月一三日制定の支部規則も、結社の自由を定めた憲法二一条一項に違反するもので、無効である。

(3) したがってまた、被控訴人が、右のように憲法に違反して入退会の自由を剥奪した支部会員から昭和五五年度以降支部会費を徴収しているのは、憲法二九条に違反している。なお、控訴人は支部会費一四万四〇〇〇円を支払っており、被控訴人は重複請求をしているものである。

(4) よって、控訴人は、被控訴人役員の共同不法行為につき先決関係にある前記(1)の会則の効力、支部規則の効力、支部会費請求の効力について中間確認の判決を求める。

(二) 被控訴人の主張

右中間確認の訴えの目的たる法律関係は、本来の訴訟の目的たる権利又は法律関係に対し先決関係にないので、右訴えは不適法である。

第四  当裁判所の判断

一  本件議決の違法確認を求める訴えの適法性について

公定力を有するいわゆる行政処分以外の行為について違法を主張する者は、原則として、端的にその違法又は無効の結果としてもたらされる法律効果を主張して自らの権利の実現を図れば足り、右違法自体の確認を求める法律上の利益を有しないものというべきである。いわゆる行政庁の不作為の違法確認の訴えが許されるのは、行政庁の第一次判断権との関係で、端的に不作為の違法を特定の内容の処分行為に対する作為義務に結びつけることができないため、不作為に代わる何らかの行為を求めるにはこのような訴訟形態をとるほかないという特殊な場合であるからにほかならない。本件議決は行政処分に当たるものではないうえ、これに関して右に類する特殊な事情が存しないことは明らかであるから、この点の控訴人の訴えは不適法である。

二  本件損害賠償請求について

次のとおり訂正するほか、原判決の「事実及び理由」の第四の二(原判決一五頁三行目冒頭から二一頁一行目末尾まで)記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一五頁七行目の「東京税理士会会則」の次に(「乙第一号証)」を、同九行目の「支部規則」の次に「(乙第二号証)」を、同九行目から一〇行目にかけての「認められ」の次に「(右会則及び支部規則が有効に制定されたものと認められることは、後に中間確認の訴えに対する判断として判示するとおりである。)」をそれぞれ加え、同一七頁九行目の「過半数」を「過半」に、同一一行目から同一八頁一行目にかけての「法四九条四項の規定により」を「法四九条の六の規定の類推適用により」にそれぞれ改め、同九行目の「支部経理取扱要領」の次に「(乙第五号証)」を加える。

2  原判決二〇頁五行目末尾の次に行を改めて次のとおり加え、同六行目の「6」を「8」に改める。

「6 控訴人は、本件各行為が不当な差別であり、権利の濫用に当たると主張するが、権利濫用の主張は控訴人の独自の見解であって到底採用することができず、また、他の会費未納者との間で不当な差別があったことを認めるに足りる証拠はない。

7 更に、控訴人は、支部会費の過大な請求をされたと主張するが、乙第七号証によれば二重請求の事実はないことが明らかであり、時効消滅の点については、時効消滅の効果は控訴人の時効の援用によって初めて生ずるものであるところ、被控訴人が会費の請求をした時点で控訴人が消滅時効を援用したことについては主張も立証もない。なお、被控訴人が控訴人の個人別支部会費台帳のコピー等の交付請求に応じなかったとしても、そのことが直ちに控訴人の慰籍料請求権を根拠づけるものとも解し難い。」

三  中間確認の訴えについて

まず、控訴人は、東京税理士会の昭和四四年六月二四日以後の各改正会則は控訴人に交付されていないから控訴人に効力を及ぼさないとして、その旨の確認を求めるが、本件の本来の請求とは別に、第三者である被控訴人との間で右会則の控訴人に対する効力の確認を求める法律上の利益があるとは認められず、このような請求については被控訴人は被告適格を欠くというべきである(仮に右会則の効力いかんにより被控訴人の控訴人に対する支部会費徴収権が左右されるというのであれば、端的に右徴収権の有無を争えば足りる。)から、右請求に係る訴えは不適法である。なお、右改正後の会則が仮に控訴人に直接交付されていないとしても、乙第七号証及び本件弁論の全趣旨によれば、控訴人は右税理士会の会員として右会則改正を知る機会を優に有したものと認められ、そうである以上、右会則の効力を争う余地はない。

次に、被控訴人の支部規則の無効確認を求める請求は、結局法人格なき社団としての被控訴人に控訴人が強制的に入会させられたことをもって違憲とし、控訴人が被控訴人の構成員たる地位にあったことを否定するものであるところ、税理士法が税理士会の支部の設置を認め、これに一定の権限を付与している趣旨が、支部を独立の社団とすることまでも予定するものかどうかについては論議の余地があるとしても、同法が税理士会により税理士の職務遂行の公正維持のためにある程度自治的な体制を定め、税理士会が支部を設置し、支部を通じて会員に対する指導、連絡、監督を行うものとするとともに、会則を定めて大藏大臣の認可を受けなければならないこととしている趣旨に照らせば、右会則において支部を独立の社団としての性格を持つものとすることも可能なものと解すべきである。その結果、当該税理士会の会員は、社団としての支部の構成員をも兼ねることになり、会員である以上は社団としての支部の構成員であることを免れられず、支部規則に基づき支部会費負担等の義務を負うという意味での束縛を受けることになるが、既に税理士法において前記のような趣旨で税理士会への加入が強制されていることからすれば、同様の趣旨に由来する右の程度の束縛をもって憲法の定める結社の自由に反するものということはできない(なお、前記のとおり支部規則制定の根拠となる東京税理士会会則が有効と解される以上、右会則の無効を理由に支部規則の無効を主張する余地のないことはいうまでもない。)。したがって、この点の請求も理由がない。

次に、支部会費の請求の無効確認を求める請求の趣旨とするところは明確を欠くが、善解すれば、控訴人が被控訴人の構成員であった時期の支部会費の支払い義務の不存在確認を求めるものかと考えられる。しかし、控訴人が右請求の根拠とするところは、結局前記支部規則無効確認請求の根拠とするところと同一に帰するから、その理由のないことは前述したところから明らかである。なお、控訴人は、被控訴人が支部会費の重複請求をしているとも主張するが、その理由のないことは前記のとおりである。

四  以上によれば、控訴人の損害賠償請求を棄却した原判決は相当であり、控訴人が当審で拡張した部分の損害賠償請求もまた棄却すべきであり、また、控訴人が当審で新たに追加した違法確認請求に関する訴えは不適法として却下を免れない。更に、控訴人の中間確認の訴えのうち、支部規則の無効確認請求及び支部会費の請求の無効確認請求の部分は請求を棄却すべきであり、その余は却下すべきである。よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 加茂紀久男 裁判官 廣田民生 裁判官 三村晶子は、転任のため、署名押印することができない。裁判長裁判官 加茂紀久男)

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