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東京高等裁判所 平成9年(行コ)190号 判決 1998年10月29日

東京都港区三田五丁目二番一八―三一三号

控訴人

沢節子

右訴訟代理人弁護士

南木武輝

東京都港区芝五丁目八番一号

被控訴人芝税務署長

市岡冨士雄

右指定代理人

竹村彰

木上律子

尾辻七郎

蜂谷光男

笹崎好一郎

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一申立て

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対し平成五年二月二二日付けでした次の各処分を取り消す。

(一) 控訴人の昭和六二年分以後の青色申告の承認の取消処分

(二) 控訴人の昭和六二年分ないし平成元年分の所得税の各更正処分

(三) 控訴人の平成二年分及び平成三年分の所得税の各更正処分及び各過少申告加算税賦課決定処分(ただし、平成五年七月二日付け各加算税変更決定により一部取り消された後のもの)

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

控訴棄却

第二事案の概要

事案の概要は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の事実及び理由第二に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決二九頁四行目の「一項」の次に「一号」を加える。

二  原判決三三頁一〇行目の「提示要求がされた」を「提示要求が的確されたにもかかわらず控訴人が正当な理由がなくこれを拒否した」に改め、同三四頁三行目の「原告は、」の次に「平成四年一〇月二三日の武川調査官らの調査の際、手元にある書類以外は提示できなかったが、これは、右調査が無予告のものであり、」を加え、同六行目から同七行目にかけての「もらっていた。」を「もらっていたため、手元にある範囲で提出したもので、控訴人には、要求された帳簿書類の提出を拒否する意思はなかった。次に、控訴人は、同年一一月四日の調査の際にも、提示要求に対して一部提示できないものがあったが、当日の調査は不提示の件以外は順調に進展していたのであり、この時点において控訴人は昭和六二年分の帳簿書類の有無、所在について確たる回答ができなかった可能性もあるが、それは五年も前のもので手元になかったこととその重要性を認識していなかったためであって、正当な理由のない提示の拒否とまではいえない。」に改め、同一〇行目の「していたが、」の次に「武川調査官は、同年一二年二一日、村上税理士の事務所に赴いて、増減差額内訳表(甲二)を交付し、昭和六二年分は申告どおりとし、昭和六三年分以降につきスウェーリーに係る貸倒金等の経費計上を否認すること等を内容とした修正申告案を打診し、昭和六二年分の帳簿書類の提示要求を事実上撤回した。それ以後は、」を加える。

三  当審における付加主張

1  控訴人

本件における調査の経過、帳簿書類不提出の経緯によれば、被控訴人側は社会観念上当然要求される程度の提示を求める努力を継続したとはいえない反面、被控訴人側には、不提示についてそれなりの理由が存したものであり、特に、被控訴人側が内訳書の内容による修正申告案に対する控訴人の提案を受け入れることはできないこと、昭和六二年分の帳簿書類の提出が必要になったことを的確に説明していれば、控訴人はその提示に応じたのであって、本件青色申告取消処分は、その重大な不利益性を考えると控訴人に対し過酷に過ぎ、裁量権の濫用に当たる違法なものである。

2  被控訴人

控訴人の主張は争う。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所も控訴人の請求をいずれも棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の事実及び理由第三に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決六三頁三行目の「あったのであるから」から同五行目の「ものでない。」までを「あったのであって、右発言の誤りによって、昭和六三年分及び平成元年分として申告されたスウェーリーの経費等を確定する必要がなくなるわけではない。」に改める。

2  原判決六六頁六行目の「なかった。」の次に「武川調査官は、右提示されたメモの写しを持ち帰ることをしなかったが、これはかねて提示を求めていた帳簿書類に当らず、これによって確かな調査ができる見込みがなかったためである(仮に、右提示されたものがホステスごとの売掛帳(甲二三)であったとしても、それが右帳簿書類の提示として十分なものとはいい難いことは甲一〇の二に照らして明らかであって、同調査官がその写しを持ち帰らなかった理由はそのためであると認められ、これを同調査官に昭和六二年分の帳簿書類の調査を必要としなかったためと認めることはできない。)。」を加える。

3  原判決六七頁末行の「対し」の次に「持参した増減差額内訳表(甲二)に基づき」を、同六八頁三行目の「した」の次に「(控訴人は、被控訴人が、控訴人に修正申告を打診した段階で、昭和六二年分の帳簿書類の提示要求を事実上撤回した旨主張するけれども、被控訴人の担当職員が控訴人又は村上税理士に対して右撤回を明示的に告げたことも、これを推測させる言動をしたことも認めるに足りる証拠はない。もっとも、修正申告案においては昭和六二年分の申告は従前のままとする前提であったことが窺われるけれども、控訴人が修正申告に応じない場合でも右前提は維持する意向を示したとまでは認められないから、右修正申告案の提示によって前記の帳簿書類の提示要求を撤回したとみることはできない。)」をそれぞれ加え、同六九頁六行目の「十分な」を「被控訴人の担当係官の示した」に改める。

4  原判定七五頁五行目の「供述するが、」の次に「同調査官が当日控訴人宅に臨場した経緯からすれば、右帳簿書類の提示を要求しなかったとは考え難く、この要求に対して控訴人が右帳簿書類の所在を明らかにした形跡はないことに、」を加え、同七行目の「記載は、」から同八行目から九行目にかけての「反する」までを「記載を併せ対照とすると、」に改める。

5  原判決七八頁四行目の「しなかったこと」の次に「、武川調査官が以上に加えて更に提示を求める努力をすれば控訴人から右帳簿書類の提示を受けることが期待できる状況にはなかったこと」を加える。

6  原判決七九頁三行目の次に改行して次のとおり加える。

「控訴人は、前記<1>ないし<3>の際、可能な範囲で控訴人の書類提出の要求に応じていたもので、正当な理由なく提示を拒否したものではない旨主張する。しかしながら、右いずれの際にも、控訴人は求められた帳簿書類の所在を明らかにしなかったばかりでなく、<3>の際には、提示したもの以外の帳簿書類は廃棄して残っていない旨虚偽の説明までしており、その後、これらを預けてあった知人の倉庫から返還してもらったといいながら、その旨を控訴人側に知らせることもしていないのであって、以上の右経過に照らして、控訴人の主張は採用できない。」

7  当審の主張に対する判断

法一五〇条一項一号の取消事由がある場合に、税務署長が青色申告の承認を取り消すかどうかは合理的な裁量に委ねられているものと解されるところ、控訴人は、被控訴人による本件青色取消処分は右裁量権の濫用に当たると主張する。

しかしながら、控訴人は、武川調査官によるスウェーリー関係等の帳簿書類の提示要求に対して一貫してその提示を拒み、所在さえ明らかにしなかったものであり、被控訴人の担当職員からの修正申告の打診に対しても、その根拠を示すことなく、一部の修正に応じるが、右係官の提示した修正申告には応じないこととした上、依然として右帳簿書類の提示に応ずる姿勢をみせなかったもので、その後の控訴人の態度をも併せ考慮すると、本件青色取消処分当時、被控訴人において控訴人に対して右回答が受け入れられないことを説明した場合には控訴人が右帳簿書類の提示に応ずることを期待できるような状況にあったとは認められないから、本件青色取消処分が裁量権の濫用に当たるということはできず、控訴人の主張は採用し難い。

二  よって、控訴人の請求はいずれも理由がなく、これを棄却した原判決は相当であるから、本件控訴をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六七条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 筧康生 裁判官 滿田忠彦 裁判官 信濃孝一)

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