大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成9年(行コ)207号 判決 1998年8月19日

東京都港区高輪四丁目一九番七号

高輪フラット二〇四

控訴人(原告)

池上由美子

右訴訟代理人弁護士

下村文彦

伊藤惠子

福田孝昭

東京都港区芝五丁目八番一号

被控訴人(被告)

芝税務署長 田巻達也

右指定代理人

加島康宏

須藤哲右

佐々木正男

小野雅也

古瀬英則

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人が、控訴人に対し、平成六年一二月一九日付けでした控訴人の平成四年分の贈与税決定及び無申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。

三  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

第二事案の概要等

本件事案の概要等は、次の一のとおり原判決を補正し、二のとおり控訴人の当審における主張を付加するほか、原判決事実及び理由の「第二 事案の概要」、「第三 争いのない事実等」、「第四 争点及び当事者の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の補正

原判決四頁六行目の「東ハト」の次に「旧商号・東鳩製菓株式会社。以下「東ハト」という。)」を加え、同五頁二行目の「東鳩総合開発」を「東ハト」と、同八行目の「乙第二、第三号証、」を「乙第二ないし」とそれぞれ訂正し、同七頁九行目の「第一一」の次に「、第一五」を、同一二頁八行目の「(争点3)」の次に「、右贈与契約が合意解除されたか(争点4)」をそれぞれ加える。

二  控訴人の当審における主張

1  贈与税の負担に関する控訴人の錯誤(争点2に関して)

小林と控訴人との間で、小林が本件マンションを控訴人に贈与する旨の申込みをし、控訴人がこれを承諾したとしても、控訴人は、その贈与税は小林が負担するものとの条件を履行する内容であると信じたが故に右贈与を受ける認識であったのに対し、小林には、右贈与税を自ら負担する意思がなく、ひいては右贈与自体の確定的意思が存しなかったから、控訴人と小林との間には意思の合致がなく、控訴人の右贈与契約時の意思表示は、要素の錯誤により無効である。

そうでないとしても、控訴人は、右贈与税を負担する意思をもたずに右贈与を承諾したものであるから、控訴人の右贈与契約時の意思表示は、動機の錯誤により無効である。

2  合意解除(争点4)

小林と控訴人は、平成五年七月二三日ころ、本件マンションの贈与契約を合意解除した。

第三争点に対する判断

一  当裁判所も、当審における資料を加えて本件全資料を検討した結果、控訴人の請求はいずれも理由がないから棄却すべきものと判断する。

その理由は、次の二のとおり控訴人の当審における主張に対する判断を付加するほか、原判決事実及び理由の「第五 争点に対する判断」に説示のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決一八頁一一行目の「相続税」を「贈与税」と訂正し、同一九頁七行目の「甲第二号証」の次に「、乙第九号証」を加える。)。

二  控訴人の当審における主張に対する判断

1  贈与税の負担に関する控訴人の錯誤(争点2に関し)について

控訴人は、小林から本件マンションの贈与を受けるに際し、その贈与税を小林が負担することが条件となっていたと誤信した旨を主張する。

しかし、引用原判決の説示するように、そもそも控訴人が贈与を受けたのは本件マンションではなく、本件マンションの売買代金等相当額の金員である上、甲第一五号証及び原審における控訴人本人の供述によっても、控訴人と小林との間で、控訴人が本件マンションを取得することによって生ずべき贈与税の負担が話題となったこと、控訴人は、何らの金銭的負担なしに本件マンションの所有権を取得することを期待していたことがうかがえるにとどまるのであって、控訴人は、本件訴状において、控訴人と小林との間で、贈与税を誰が、いつ、どのようにして支払うか、贈与税の支払方法、支払原資を誰が負担するのかが本件では全く考慮されていないと主張している(請求原因五(1)、(2))のであるから、控訴人と小林との間で、右贈与税の負担に関する双方の意図ないし思惑等が明確な条件として表示されたとは認められないというべきである。

また、仮に、控訴人に右贈与税の負担に関して錯誤があったとしても、本件売買代金相当額の金員の贈与契約と贈与税相当額の金員の贈与契約とは、その趣旨、目的、履行期を異にする別個の契約であるから、後者に関する錯誤が当然に前者の無効原因となるものではない。

そうすると、控訴人の主張するような贈与税の負担に関する事柄が本件売買代金相当額の金員の贈与契約の要素となったことはないというべきであり、また、右契約に際し、控訴人主張の動機が表示されたものといこともできないから、この点に関する控訴人の主張はいずれも理由がない。

2  合意解除(争点4)について

控訴人は、小林と控訴人は、平成五年七月二三日ころ、本件マンションの贈与契約を合意解除した旨主張する。

しかし、そもそも、控訴人と小林との間で本件マンションについて贈与契約が成立したものとは認められないことは引用原判決の説示するとおりである上、小林が平成五年七月二三日付けで、控訴人に対し、控訴人所有の本件マンションの名義を東鳩総合開発の名義に移転するのと引換えに、本件マンションと同等以上の価値を有する不動産をシャリマー名義で購入することを約束する旨を記載した念書(本件念書)を差し入れたこと、控訴人は、同年八月五日、シャリマーを設立し、小林に対して本件念書の内容の履行の確保を求めたが、小林がこれに応じなかったため、合意に達しなかったことも、引用原判決の説示するとおりである。

そうすると、控訴人主張の合意解除の事実は認めることができず、この点に関する控訴人の主張も理由がない。

三  よって、同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法六七条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 塩崎勤 裁判官 橋本和夫 裁判官 川勝隆之)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例