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東京高等裁判所 平成10(行コ)53 労働事件裁判例

主 文

一 本件控訴をいずれも棄却する。

二 控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一 申立て

一 控訴人ら

1 原判決を取り消す。

2 被控訴人は、控訴人ら各人に対し、それぞれ一〇〇万円及びこれに対する平成

五年一一月一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

二 被控訴人

本件控訴を棄却する。

第二 事案の概要

事案の概要は、次のとおり付け加えるほか、原判決「事実及び理由」中の「第二

事案の概要」に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

一 原判決書三頁四行目の「信用組合労働組合」の次に「連合会」を、同九頁八行

目の「労働委員会」の次に「制度」をそれぞれ加える。

二 控訴人らが当審において敷衍、補足した主張

1 本件任命行為は、次のとおり東京労連排除を企図してされた違憲かつ違法なも

のである。

(一) 都労委の労働者委員は連合が発足する以前の第二九期(平成元年一一月一

日任期開始)までは労働組合の系統別に従った任命が一貫して行われてきたが、連

合の発足を機にしてこれが突如として一変し、第三〇期、第三一期と続いて定数一

三名の労働者委員のうち一一名を連合東京系の委員が占め、東京労連系の委員は一

名も任命されないという事態となった。このように連合東京を重視し東京労連を排

除するという事態は、都労委のみならず労使の代表等を構成員に含む各種審議会、

委員会においても顕著であり、東京都以外の地方自治体でも同様である。しかも、

被控訴人は、本件通牒の存在とこれまでの確立していた系統別任命の実態を承知し

ていながら、不当労働行為救済申立事件の多くが非連合系の労働組合又は個人によ

りされているという現状や第三〇期において東京労連系の委員を労働者委員に任命

しなかったことで生じた都労委の混乱と事件の滞留という事態を省みず、公正な任

命を求める東京労連系の諸組合からの事前要請を無視して、連合東京との間で事前

調整を行い東京労連を排除した本件任命行為をした。

(二) このような事実をみれば、被控訴人が東京労連の排除を企図して本件任命

行為をしたことは明白である。そしてこのような差別は、日本国憲法一四条で保障

されている法の下の平等に違反し同二八条で保障されている労働者の団結権を侵害

するものであると同時に、同九九条が定める公務員の憲法尊重、擁護の義務にも違

反するから、本件任命行為は裁量権を逸脱した違法なものである。またこのような

連合偏重、全労連排除という目的は不正な動機又は他事考慮に当たるから、その点

からも裁量権を濫用した違法な行為というべきである。

2 また、都道府県知事は労組法の趣旨に則って労働者委員を公正に任命すべき法

律上の義務を負っているから、同知事の労働者委員任命行為は羈束裁量であるとこ

ろ、同法の趣旨に則って多数の者の中から少数の者を選択する場合には同法の趣旨

に沿った任命基準が不可欠であり、本件通牒がこれに当たる。したがって、これに

違反してされた本件任命行為は違法である。なお、最高裁判所は、個人タクシー事

業免許事件について裁量基準の定立の必要性を判示している(最高裁判所昭和四六

年一〇月二八日判決・民集二五巻七号一〇三七頁参照)。

3 さらに、労働委員会は、個々の具体的な不当労働行為救済申立事件において、

使用者による団結権侵害から労働者、労働組合を救済する等の役割を担う機関であ

り、これを担う労働者委員は、そのような個別具体的事件の申立人である労働者、

労働組合の利益代表として事件の解決に当たるのである。このことから明らかなよ

うに、労働者委員は、こうした具体的事件の申立人の利益を捨象した抽象的な「労

働者全体」あるいは「労働者一般」の利益を代表するものではなく、具体的事件の

申立人の利益を擁護し事件を解決することを通じて労働者全体の利益である団結権

の擁護等に資することが求められているのである。労組法一九条一項は、労働者委

員が右のように個別具体的事件の当事者である労働者、労働組合の利益を代表すべ

きことを定めた規定である。

4 労組法一九条の一二第三項は労働組合の推薦に基づいて労働者委員を任命すべ

き旨定めているが、その趣旨は、当事者の利益代表たる労働者委員を含む労働委員

会の各委員らと申立人(労働者又は労働組合)との信頼関係のもとに具体的事件の

解決を図ろうとするものであり、労働者委員についていえば、労働委員会の構成に

おいて申立人が信頼できる利益代表たる労働者委員の存在が求められているという

ことができる。また労働関係調整法三一条の五は、労働争議の仲裁に関して仲裁申

請人組合が労働者委員を指名すべきことを定めている。これは労働委員会における

労働争議の仲裁の成否において申請人組合と労働者委員との間の信頼関係が決定的

に重要であるとして設けられた規定であるが、不当労働行為救済申立事件における

労働者委員にあっても申立人との間の信頼関係が決定的に重要であることに変わり

はなく、申立人が指名できる労働者委員が存在しない状態を作り出すような労働者

委員の任命行為は労働関係調整法三一条の五に違反する。

第三 証拠関係

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、

これをここに引用する。

第四 当裁判所の判断

当裁判所も、控訴人らの本件請求はいずれも理由がないと判断する。その理由

は、次のとおり付け加えるほか、原判決「事実及び理由」中の「第三 争点に対す

る判断」に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

一 原判決書二八頁三行目の「一六万名」の次に「(なお、いずれの労働団体にも

加盟していない労働組合に所属する組合員の数は約一〇〇万名である。)」を加

え、同三〇頁四行目の「必ずしも申立人の希望していない」を「申立人の希望にと

らわれず」に、同三二頁一行目の「中間的」を「中立的」に、同三行目の「第四

項」を「第三項」にそれぞれ改め、同六行目の「る。」の次に次のとおり加える。

「もっとも、現実には各系統ごとに対立、対抗している労働界について労働者一般

の利益というものを具体的に観念することは著しく困難であり、個々の労働者、労

働組合ごとに利害や方針が異なることが考えられるから、労働組合が推薦した者の

中から労働者委員を任命したからといってその者が当然にすべての労働者の立場を

代弁できるというものではない。しかしまた、同項が労働者委員の任命を労働組合

の推薦に基づくものとしたのは推薦労働組合の個別の権利を保護する趣旨に出たも

のでないことは労働委員会の性格に照らして明らかであるから、労組法は、労働者

委員の任命を労働者の利益を一般的に代表すると考えることができる労働組合の推

薦にかからしめることにより、その被推薦者の中から任命された労働者委員が理念

的に労働者一般の利益を代表する立場に立つものであるとし、同様に使用者団体の

推薦に基づいて任命される使用者委員は使用者一般の利益を代表するものと位置づ

け、これに中立的な公益委員を含めた三者構成をもって労使紛争を解決するのにふ

さわしい機関として位置づけたものと理解することができる。」

二 同一一行目の「方が」を「ことが」に改め、同三三頁一行目の「しかし、」の

次に「多数の労働者、労働組合を抱え系統による対立、対抗を繰り返してきた労働

界の現状は、単に系統ごとの組織労働者数に応じて労働者委員の任命数を割り振れ

ばその多種多様の意見等が労働者委員の任命に反映されるというような単純なもの

ではないと考えられる上、」を加え、同三行目の「のであって」を「ことからすれ

ば、労働界の多種多様の意見等をどのような方法によって労働者委員の任命に公

平、公正に反映させるかについては、まさに任命権者である都道府県知事がその時

々の労使関係や労働組合の系統、組織率、労働者の意識等を含む労働界の現状を見

定めた上、その責任において考慮、判断すべき事柄に属するというべきであり、系

統ごとの組織労働者数に応じて労働者委員の任命数を割り振るという方法が唯一絶

対なものということはできない。すなわち、そのほかにも系統に重きを置かずに人

物本位で労働者委員を任命する方法やその逆に多数を占める系統を重視して労働者

委員を任命する方法、あるいは系統ごとの労働委員会への申立事件数を重視して労

働者委員を任命するという方法等を考えることができるのであり、労組法及びその

関係法令にも労働者委員の任命に関する具体的基準の定めがないことに照らせば、

任命権者である都道府県知事が、労組法が労働委員会制度を規定した趣旨及び労働

委員会の果たすべき役割、労働界の現状等を総合的に勘案して、その広汎な裁量に

基づいて労働者委員の任命をすることが労組法上予定されているとみるほかない。

したがって、同法が」

三 控訴人らの当審における主張について

1 控訴人らは、本件任命行為が東京労連排除を企図してされたものであると主張

する。しかし、労働者委員の任命は任命権者である都道府県知事が労組法が労働委

員会制度を規定した趣旨や労働委員会の果たすべき役割、労働界の現状等を総合的

に勘案し、その広汎な裁量に基づいてするものであるから、労働組合から推薦され

た候補者を当初から審査の対象から除外したり、あるいはこれを除外したと同様の

取扱いをするなど、右推薦制度を設けた趣旨を没却するような特別の事情が認めら

れない限り、労働者委員の任命について裁量権の濫用又は逸脱があるということは

できないと解されるところ、証人aの証言によれば、被控訴人は、従前の例になら

って、労組法所定の資格審査を経た労働組合から推薦を受けた候補者全員について

関係部局における所要の審査手続を経た上、その中から同法一九条の四第一項の欠

格事由のない者でかつ労働者委員としてふさわしい人物を第三一期の労働者委員と

して任命したことが認められるから、右のような裁量権の濫用又は逸脱の事実を認

めることはできない。控訴人らはそれまでの系統別に従った任命を突如として変更

したなどと主張するが、労組法が特定の系統から労働者委員が任命される利益まで

保護するものでないことは前記のとおりであり、また系統別の任命をした場合には

系統による委員の独占を来たし、そのことはまた系統に属さない労働者からの批判

を招くという問題点を含んでおり、控訴人らが主張する系統別の任命が唯一公平適

正な任命方法ということはできないから、これを変更したからといって、直ちに東

京労連に属する労働組合から推薦された候補者を審査の対象から除外したり、ある

いはこれを除外したと同様の取扱いをしたということにはならない。また、控訴人

らが主張する都労委の混乱と事件の滞留の事実や系統別の任命を主張する控訴人ら

の意見が被控訴人の採り入れるところとならなかったことその他の事情を合わせて

みたとしても、これらの事実は被控訴人が労働者委員の任命について考慮すべき事

情にすぎず、これらの事情が重視されず東京労連に属する労働組合から推薦された

候補者が労働者委員に任命されなかったとしても、そのことで控訴人らの右候補者

を審査の対象から除外したり、あるいはこれを除外したと同様の取扱いをしたと認

めることはできない。

2 次に控訴人らは、都道府県知事が行う労働者委員の任命行為は覊束裁量であ

り、労働者委員の任命基準として本件通牒が存在している旨主張する。しかし、本

件通牒は労働者委員任命の指針としての行政通達であり、法的拘束力のある任命基

準たり得ないことは前述したところであり、前記のとおり都道府県知事は労組法の

規定に従いその広汎な裁量権に基づいて労働者委員を任命するのであるから、その

任命についての具体的な基準を設定することはその性質上困難であるといわなけれ

ばならない。控訴人らが指摘する最高裁判所判決は法律が国民の職業選択の権利を

一般的に制限した上例外的に許可する場合の許可の基準についてのものであるか

ら、本件とは事案を異にし、適切でない。

3 さらに控訴人らは、労働者委員は個別具体的な事件の申立人である労働者、労

働組合の利益代表として事件の解決に当たることが労組法上予定されているから、

労働委員会の構成において申立人が信頼できる利益代表たる労働者委員の存在する

ことが労組法上の要請である旨主張する。しかし、労働者委員は労働委員会を構成

する一員として公益的見地から個々の事件の解決を目指すのであり、申立人の利益

を代弁する代理人とはおのずからその立場を異にしているといわなければならな

い。また、労働委員会の運営において申立人と労働者委員との信頼関係が重要であ

ることは改めて指摘するまでもないが、労組法が多種多様の申立事件を処理するに

ついて、それぞれの申立人の系統や利害等の多様性を反映させるに十分な数の労働

者委員定数を定めることなく、最大でも一三名の労働者委員をもって事件処理に当

たることを定めていることは、労働者委員に対し、多種多様の申立人の利益を直接

代弁する代理人とは異なった立場から申立人との信頼関係を築き公平かつ公正に事

件の解決を目指す役割を求めたからにほかならない。控訴人らは異なる系統の労働

者委員との間では信頼関係が保てない旨主張するが、労働者の全てが系統に属する

わけではないから、控訴人ら主張の労働者委員の任命をしたとしても系統に属さな

い労働者らからの不満はなお残り、系統ごとに一定数の労働者委員を割り当てるこ

とは系統による労働者委員の独占、あるいは系統の優遇としてまた別の批判を招く

ことになる。このようにしてみると、控訴人らの主張は控訴人らが属する系統の利

益を代弁する側面を有していることを否定することができず、こうした事情は被控

訴人が労働者委員の任命について諸々の事情の一つとして考慮することは格別、こ

れが労組法の要請であるということは困難である。したがって、個々の申立人の利

害や意向を前提としてこれに適う労働者委員が確保されていないことをもって本件

任命行為の違法をいう控訴人らの主張は失当である。そして、労組法が定める労働

者委員の諸権限はもとより労働関係調整法に基づく労働者委員の権限(同法三一条

の五等)は、いずれもこのような労働者一般の代表としての労働者委員を前提とし

たものであるから、個々の申立人の利害や意向を前提として労働関係調整法違反を

いう控訴人らの主張もまた理由がない。

4 以上の次第で、裁量権の濫用ないし逸脱をいう控訴人らの主張はいずれも理由

がない。

第五 結論

よって、本件控訴は理由がないから、これをいずれも棄却し、訴訟費用の負担に

つき民事訴訟法六七条一項、六一条、六五条一項を適用して、主文のとおり判決す

る。

(平成一一年二月一五日弁論終結)

東京高等裁判所第一七民事部

裁判長裁判官 新村正人

裁判官 生田瑞穂

裁判官 宮岡章

当事者目録

東京都昭島市<以下略>

控訴人 b

埼玉県春日部市<以下略>

控訴人 c

東京都新宿区<以下略>

控訴人 d

東京都台東区<以下略>

控訴人 全国自動車交通労働組合総連合東京地方連合会

右代表者執行委員長 e

東京都台東区<以下略>

控訴人 東京地方医療労働組合連合会

右代表者執行委員長 f

東京都豊島区<以下略>

控訴人 全日本金属情報機器労働組合東京地方本部

右代表者執行委員長 g

東京都港区<以下略>

控訴人 化学一般全関東地方本部

右代表者執行委員長 h

東京都北区<以下略>

控訴人 全日本運輸一般労働組合東京地方本部

右代表者執行委員長 i

東京都新宿区<以下略>

控訴人 東京水道労働組合

右代表者中央執行委員長 j

東京都文京区<以下略>

控訴人 全国印刷出版産業労働組合総連合会東京地方連合会

右代表者執行委員長 k

東京都江東区<以下略>

控訴人 全日自労建設農林一般労働組合東京都本部

右代表者執行委員長 l

東京都港区<以下略>

控訴人 全国信用金庫信用組合労働組合連合会東京地方連合

右代表者中央執行委員長 m

東京都中央区<以下略>

控訴人 全労連・全国一般労働組合東京地方本部

右代表者中央執行委員長 n

右一三名訴訟代理人弁護士

上条貞夫

同 松井繁明

同 志村新

同 橋本佳子

同 菊池紘

同 大野裕

同 中野和子

同 中村文則

同 則武透

同 新宅正雄

東京都新宿区<以下略>

被控訴人 東京都

右代表者東京都知事 o

右指定代理人 p

同 q

同 r

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