大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和22年(ナ)57号 判決

原告 青山政行 外四名

被告 東京都選挙管理委員会

参加人(被告を補助するため) 三十九名

一、主  文

被告が昭和二十二年八月二十三日都選発第三九九号を以てなした裁決を取り消す。

昭和二十二年四月三十日執行の東京都北区会議員選挙において当選した者の内岡田十三日、柴崎貞藏、下村元治郎、大野藤吉、渡利千船の当選を無効とする。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は之を五分しその四を原告等その一を被告の負担とし参加によつて生じた訴訟費用は之を五分しその四を原告等その一を参加人等の負担とする。

二、請求の趣旨

原告等は、被告が昭和二十二年八月二十三日都選発第三九九号を以てなした裁決を取り消す。

昭和二十二年四月三十日執行の東京都北区会議員選挙に於て当選した者の内、田辺鉄五郎、松本武男、伊藤清、今津己之助、市橋福次、今井甚之丞、伊津野博、金子兼松、清水国治、大垣元、高橋修男、菅佐原由之助、木内將克、吉田喜久、小松国太郎、高山忠治、田畑信一、阿子島直助、榎本守、林清作、石川喜一郎、小林正身、関根正義、武藤金作、高木直次、岡村愛作、岡田十三日、柴崎貞藏、下村元治郎、大野藤吉、渡利千船の当選を無効とする。

訴訟費用は被告および参加人等の負担とする旨の判決を求めた。

三、事  実

昭和二十二年四月三十日東京都北区の区会議員の選挙が執行せられ原告等はいずれも選挙人であるところ、右選挙に於ての投票総数は七万三千八百五十二票で当選者、次点者の氏名並に得票数は末尾添附の「当選者名及び得票数」とある表に記載するとおりである。而して右選挙は当時施行中の東京都制に基いて執行せられたものであつて同都制によれば、区内に六月以來居住すること(右選挙に於ては昭和二十一年九月二十三日以來北区内に居住すること)が有権者として必要な資格要件であつたところ、之が資格要件を欠く多数の者が投票を行いその投票は無効であるから原告等は之を理由に昭和二十二年五月五日北区選挙管理委員会に異議の申立をしたのに、同委員会は同月三十一日王選発第六五号の決定により右のような無資格者の無効の投票は唯一票しかなかつたものとして原告等の異議申立を却下したので、同年六月二十五日被告委員会に訴願した。被告委員会は之に対して同年八月二十三日都選発第三九九号により次のような裁決をして同月二十六日之を告示した。即ち「右選挙に於ての投票の内右のような無資格者の無効の投票は二十六票あつたものと認め右無効投票二十六票を各当選者の得票数から控除した数が次点者の得票数より少ない場合には選挙の結果に異動を生ずるものとし右選挙に於ける次点者岩脇慂信の得票は六九五票であるから当選人中この無効投票二十六票によつて影響を受ける者即ち当選に異動を生ずる虞のある者は当選者三名即ち渡利千船(得票数六九八)大野藤吉(得票数六九九)下村元治郎(得票数七二〇)であつて当選人中、埴原小次郎外三十六名についてはその当選に異動を生ずる虞がない」との理由によつて「昭和二十二年四月三十日執行の北区会議員選挙はこれを無効とする。但し七二一票以上の得票者埴原小次郎外三十六名はその当選を失はない。昭和二十二年五月三十一日王選発第六五号北区選挙管理委員会のなした決定は之を取消す。」との裁決をした。

原告等は右裁決に不服であるから地方自治法第六十六條第四項に基いて法定の期間内に本件出訴に及んだのであるが右裁決に対する不服の点は次のとおりである。

本件選挙に於て昭和二十一年九月二十三日以來北区内に居住しない即ち北区内六月居住の要件を備へず選挙権のないのに投票した者は末尾添附の「無資格投票者名簿」に記載するとおり合計三百三十四名となる。よつてこの無効投票三百三十四票を各当選人の得票数から控除すれば一〇一一票の得票を得た田辺鉄五郎以下松本武男、伊東清、今津己之助、市橋福次、今井甚之丞、伊津野博、金子兼松、清水国治、大垣元、高橋修男、菅佐原由之助、木内將克、吉田喜久、小松国太郎、高山忠治、田畑信一、阿子島直助、榎本守、林清作、石川喜一郎、小林正身、関根正義、武藤金作、高木直次、岡村愛作、岡田十三日、柴崎貞藏、下村元治郎、大野藤吉、渡利千船等の得票は次点者山脇慂信の得票六九五票から少くなるから同人等の当選は無効である。然るに之を看過し僅かに下村元治郎、大野藤吉、渡利千船の当選の無効を認めたに過ぎない被告委員会の前記裁決は違法であるから之を取消し田辺鉄五郎以下の当選人の当選の無効なることの宣言を求めるため本訴請求に及んだと述べた。(立証省略)

被告指定代理人は原告の請求を棄却する旨の判決を求め答弁として、昭和二十二年四月三十日東京都北区会議員の選挙が執行せられ原告等が選挙人であつた事実、右選挙に於ける投票数、当選者並に次点者の氏名並にその得票数が原告主張通りである事実、原告等主張のような異議の申立、却下の決定、訴願、裁決のあつた事実、右選挙に於ける選挙権の資格要件として当時施行中の東京都制に於て六月以來居住すること、右選挙に於ては昭和二十一年九月二十三日以來居住を必要としたことはいずれも認めるが右居住地は同都制によれば引続き同一区内(本件に於ては北区内)に六月以來居住することを必要としたものではなく唯東京都内に六月以來居住することを必要とした趣旨であり東京都内に六月以來居住したものは選挙当時の居住する区に於てその区会議員の選挙権を有する趣旨と解すべきものである。原告主張の末尾添附の「無資格投票者名簿」の内(1)、菊地傳造(6)、藤田喜代子(14)、工藤芳子(21)、足立清子(23)、大木建太郎(31)、片桐文作(33)、小野岡照子(34)、小野岡スミレ(38)、宮本好雄(39)、宮本テルヨ(42)、一條ハナ(43)、遠藤省吾(44)、遠藤保子(51)、林正美(52)、林チサ子(53)、佐藤石松(54)、佐藤秋子(67)、斎藤正男(91)、島田米子(94)、山岸キク(95)、山岸壽美(96)、山戸袈裟二(99)、柘上美代(100)、丸山リン(101)、畑チヨノ(102)、室田誠が六月以來居住の資格要件を備へない無資格者であつてその投票が無効であつた事実は之を認めるが右名簿記載のその他の者が無資格者であつた事実は否認する。

從つて被告のなした本件裁決は正当であると述べた。(立証省略)

四、理  由

昭和二十一年四月三十日東京都北区会議員の選挙が執行せられ原告等が選挙人であつた事実、右選挙に於ける投票数が七万三千八百五十二票であつて当選者、次点者の氏名並にその得票数が末尾添附の「当選者名及び得票数」の表に記載するとおりである事実、右選挙に対し原告等主張のような異議の申立、却下の決定、訴願、裁決があつた事実は孰れも当事者間に爭がない。

而して右選挙が当時施行中の東京都制に基いて執行せられたことは当裁判所に顕著であり東京都制第十三條には「年齢二十年以上の都民にして六月以來都内に住所を有するものは都議会議員の選挙権を有す」と又同法第百四十五條には「都議会議員の選挙権を有する者にして区内に住所を有する者は区会議員の選挙権を有す」と夫々規定してあるところから考へれば区会議員の選挙権の資格要件としては都内に六月以來居住すれば足り引続き同一区内に六月以來居住することは必要でなく都内に六月以來居住して居る者は選挙当時その居住する区の区会議員の選挙権を有するものと解するを相当とし之と異なり同一区内に六月以來引続き居住する者でなければ選挙権がないとの原告等の主張は採用しない。

次に本件選挙に於て六月以來居住の時期を判定する標準の日が昭和二十二年三月二十三日(臨時補充選挙人名簿調製の現在期日)となり從つて本件選挙に於ては昭和二十一年九月二十三日以來東京都に居住し昭和二十二年三月二十三日当時北区内に住所を有する者が選挙権を有することは昭和二十一年九月二十七日法律第三〇号衆議院議員選挙人名簿等の臨時特例に関する法律、昭和二十二年一月十三日法律第二号衆議院議員選挙法第十二條の特例等に関する法律、昭和二十二年一月十三日内務省令第二号衆議院議員選挙人名簿の臨時特例等に関する件、昭和二十二年三月十五日内務省令第十五号昭和二十二年内務省令第二号(衆議院議員選挙人名簿の臨時特例等に関する件)第一條の特例に関する件、昭和二十二年三月三十一日内務省令第二十三号昭和二十二年内務省令第二号(衆議院議員選挙人名簿の臨時特例等に関する件)第一條の特例等に関する件によつて明白である。

よつて右選挙に於て昭和二十一年九月二十三日以來東京都内に居住しないのに拘らず投票をした者の有無について審査するに末尾添附の「無資格投票者名簿」記載の内(1)、(6)、(14)、(21)、(23)、(31)、(33)、(34)、(38)、(39)、(42)、(43)、(44)、(51)、(52)、(53)、(54)、(67)、(91)、(94)、(95)、(96)、(99)、(100)、(101)、(102)の二十六名の者が昭和二十一年九月二十三日以來東京都に居住したことがなくて本件選挙に於て投票した事実は被告の認めるところであり、又成立に爭のない甲第四号証の五の1、同八の5、同十一の6、7、10、11、同十二の13、14、同十五の3、同十六の3、同十八の15、同十九の1、7、同二十の5、同二十一の3、同二十二の8、9、同二十三の1、2、によれば小野沢樂子、高橋義雄、高橋ハヤ子、大沢嗣夫、大沢文子、須田祐弘、斎藤ヒナ、柴田仁太郎、加藤美男、波木武雄、波木あき、飯倉はつ、飯倉俊子、山形わか、丸山ハル、平野文夫、篠田は津子、福田隆、佐藤政男(当時の住所滝野川四百三十七番地)が本件選挙に投票をした事実が認められるところ、証人小野沢樂子、高橋義雄、高橋ハヤ子、大沢嗣夫、須田祐弘、斎藤ヒナ、柴田仁太郎、加藤美雄、波木武雄、飯倉武、飯倉俊子、山形わか、丸山ハル、佐藤政男(記録第三八九丁年齢四十一歳、職業会社員、住所東京都北区滝野川町四百三十八番地)平野文夫、篠田は津子、福田隆の各証言によれば前記小野沢樂子、高橋義雄、高橋ハヤ子、大沢嗣夫、大沢文子、須田祐弘、斎藤ヒナ、柴田仁太郎、加藤美男、波木武雄、波木あき、飯倉はつ、飯倉俊子、山形わか、丸山ハル、平野文夫、福田隆、篠田は津子、佐藤政男の十九名は東京都内には昭和二十一年九月二十三日以來居住したものではなく一番古くから居住した者でも精々同年十月からで同年十一月又は十二月或ひは昭和二十二年になつてから東京都内に居住するに至つたものでその前はいづれも東京都外に居住して居たことが認められる。然らば右十九名は六月以來東京都内に居住する資格要件を欠き選挙権がなかつたものと云ふべく從て同人等の投票は無効である。右十九名並に前記被告の認める二十六名を除くその余の原告等主張の末尾添附の「無資格投票者名簿」記載の者が原告等主張のような無資格者であつた事実については成立に爭のない甲第二号証の一の1乃至36以下同二十三の1乃至4の申告書は証人伊知地弘子、石塚ゆき、緑川キヨ、平野喜代治、溝口純一、大畑治、松野美知子、の各証言によつて窺ひ得るが如くに申告人等に対し申告の内容、趣旨、記載方法について十分に理解せしめる丈の方法が徹底しなかつた爲め申告人等自身に於て記載せず便宜第三者に依頼して記載せしめたり又自ら直接記載した場合に於ても正確な記載方法の認識を欠いた爲め記載欄の趣旨に適合しない記載がなされたり兎角杜撰に陷り或ひは眞実に副はない記載がなされたりして居ることが認められるから他にその記載内容の眞実を裏付けるべき的確な証拠がない限りその記載内容を輒く措信し難く本件に於てはこのような証拠はない。

前記十九名並に被告の認める二十六名を除くその余の原告等主張の「無資格者投票名簿」記載の者が無資格者であつた事実についてはこの点に関する甲第五号証の一乃至二十九の記載内容、原告青山政行本人の供述は後段の認定に照し採用し難くその他原告等の立証によるも到底右事実を確認出來ない。却て証人島田一、鈴木市太郎、五月女丑男、西村興人、花積芳子、五月女花子、石塚ゆき子、伊地知弘子、大池久子、高木光子、松村マツ子、緑川キヨ、平野喜代治、百武戍子、溝口純一、大畑治、森廣志、丸岡福太郎、荒木有信、荒井太郎、小沢豊吉、波木一衞、松野美知子、吉野志め、吉野京子、渡辺敏、渡辺みよ、七井弘美、島田たけ、川名さと、加藤アキ、西村とめ、獅子倉万三、谷口ふく、杉山ゆき、大館清、川崎エイ、前田千代子、滝沢タカ、村上富代吉、村上操、森啓子、松沢あき、石山八千代、田村トキ、澁谷啓治、澁谷文子、米山勝太郎、小林精一郎、田中キヨ、入船トミ、松尾元信、原とよ、栗原丑松、栗原清、栗原信子、原トミ子、佐藤政男(記録第四〇一丁年齢二十七歳、職業官吏、住所東京都北区昭和町二丁目百十五番地)の各証言によれば前記無資格投票者なりとして原告等の主張する名簿記載の者の内島田一以下約二十名前後の相当数の者が昭和二十一年九月二十三日以來東京都内に居住して居た有資格者であつた事実が認められる。

然らば本件選挙に於て無資格の投票者は結局被告の認める二十六名に前記認定の十九名を加へ四十五名であつたと認むべく、右四十五名の投票は無効であるところ秘密投票を嚴守する制度の下に於てはその無効投票が何人の得票として算入せられてゐるかを審査するの方法がなく、從てその無効投票四十五票を各当選者の得票数から控除した数が次点者の得票数よりも少くなれば選挙の結果に異動を生ずること明かであり、本件選挙に於ける次点者岩脇慂信の得票は六九五票であるからこの無効投票四十五票によつて影響を受ける者、即ち当選に異動を生ずる虞のある者は当選者中五名岡田十三日(得票数七三九)、柴崎貞藏(得票数七二三)、渡利千船(得票数六九八)、大野藤吉(得票数六九九)、下村元治郎(得票数七二〇)であつてその他の当選者の当選には何等の影響がないことはその得票数から明白である。

而して投票の無効を主張するのは單に当選無効の事由たるに留まり選挙無効の事由とはならないこと樓言を俟つ迄もなく明かであるところ被告のなした前記裁決に於ては原告等の主張事由を以て選挙無効の事由と解し本件選挙は無効であると判定したのは誤りであるのみならず、岡田十三日、柴田貞藏の当選を有効と認めたのは違法であるから本件裁決を取消し岡田十三日、柴田貞藏、下村元治郎、大野藤吉、渡利千船の当選を無効なりと認めその余の原告等の請求を理由がないものとして排斥し、民事訴訟法第八十九條、第九十二條本文、第九十三條第一項本文、第九十四條を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺葆 浜田潔夫 牛山要)

(別表省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!