東京高等裁判所 昭和24年(ネ)475号 判決
控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が訴外喜多村守一に対してなした昭和二十二年十月十一日付第二五四五号建築許可は無効であることを確認する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
被控訴人指定代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
三、事 実
当事者双方の事実上の陳述は、控訴代理人において、(一)本件土地は控訴人の所有であるに拘らず、被控訴人が訴外喜多村守一に対し、本件土地に建築することの許可を與えたのは、右土地に対する控訴人の所有権を侵害する行政処分であつて、右許可は憲法第二十九條に違反し無効である。(二)被控訴人が建築許可を與えるには登記簿を調査する等本件土地の実体上の所有権を調査すべきであつたのに、これを調査しないで許可を與えたのは違法であり、又建築許可の申請書には土地所有者の承諾書を添附すべきであるのに、右喜多村守一のなした建築許可の申請書には土地所有者である控訴人の承諾書が添附されていない。然るに被控訴人が右申請を許可したのは違法である。從つて右いずれの点よりしても本件建築許可は無効である、と述べ、被控訴人指定代理人において、建築許可があつてもその敷地の私法上の権利に消長がないから本件建築許可によつて控訴人の本件土地の所有権は侵害されない。從つて右許可は憲法第二十九條の違反とはならない。被控訴人が建築許可を與えるについては、その敷地の実体上の権利まで調査することは法規上要求されていないし又建築許可の申請書に土地所有者の承諾書を添附しなければならない法規上の根拠はない、と述べた外は原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。(立証省略)
四、理 由
訴外喜多村守一が訴外伊達定宗を相手方として東京都中央区木挽町一番地の五宅地二十四坪一合九勺の内六坪九合三勺につき、東京地方裁判所に賃借権設定並びに條件確定の申立をなし、昭和二十二年六月十九日同裁判所から控訴人主張のような内容の決定(甲第二号証の一、二)を得た上、該決定書謄本を添附して、被控訴人に対し右土地に建築することの許可申請をしたところ、被控訴人が同年十月十一日付をもつてこれが許可を與えたことは当事者間に爭がなく、成立に爭ない甲第一号証によれば、控訴人が伊達定宗から右土地を買受け昭和二十二年二月二十一日に、同月二十日付賣買に因る所有権取得登記を経由したことが認められる。控訴人は、右喜多村守一には右土地につき何等使用権がないのに、被控訴人が同人に対し前記建築許可をしたのは、控訴人の右土地に対する所有権を侵害するもので、右許可は憲法第二十九條に違反し無効である、と主張するから審案するに、地方長官(現在は知事)が與える建築許可は建築法令に基いて、その敷地に建築を許可することが建築行政上支障がないと認めた場合になす行政処分であつて、建築許可の申請者が、その敷地の実体上の使用権を有することは許可の要件でなく、建築許可が建築法規に抵触しない限り、申請者に実体上の敷地使用権がなかつた場合でも許可は固より有効であると解するを正当とする。換言すれば、建築許可はその敷地の私法上の権利関係とは何等直接の関係のない行政処分であつて、建築許可があつたからといつて、許可を得た申請者がその敷地につき何等実体上の使用権を取得するものでもなく又敷地の実体上の権利者の権利は建築許可によつてごう末も影響されるところはないのである。故に被控訴人が右土地につき喜多村守一に與えた建築許可によつて、控訴人の右土地に対する所有権は何等侵害されたものということはできない。從つて右建築許可が控訴人の右土地に対する所有権を侵害するものであるから憲法第二十九條に違反し無効であるとの主張は理由がない。
次に控訴人は、被控訴人が前記建築許可をするについては、登記簿を調査する等右土地の実体上の所有権を調査すべきであつたのに、これを調査しないで許可を與えたのは違法である。又建築許可の申請書には土地所有権の承諾書を添附すべきであるのに、本件土地の所有者である控訴人の承諾書の添附してない喜多村守一の許可申請に対し許可を與えたのは違法である、と主張するけれども、建築許可の申請者が敷地の実体上の権利者であることは、建築許可の要件でないことは前記のとおりであるから、被控訴人が右土地の所有権者が何人であるかはこれを審査する義務はなく、又地方長官(現在は知事)にはかかる実体上の権利の有無を審査決定する権限もないから、被控訴人が本件土地の所有権を調査しないで許可を與えたとしても何等違法ではなく、次に建築許可の申請者に敷地の所有者の承諾書を添附しなければならない法規上の根拠はないから、本件許可申請書に敷地の所有者である控訴人の承諾書の添附がないのに本件許可を與えたからといつて許可は何等違法ではないから、控訴人の右主張もまた理由がない。
以上認定のとおりであるから、控訴人の本訴請求はこれを失当として棄却するの外はなく、これと同趣旨に出た原判決は相当である。よつて本件控訴を棄却すべきものとして民事訴訟法第三百八十四條、第九十五條、第八十九條に從つて主文のとおり判決する。
(裁判官 大野璋五 柳川昌勝 浜田宗四郎)