大判例

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東京高等裁判所 昭和24年(ネ)689号 判決

控訴代理人は、原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、第二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は本件控訴を棄却するとの判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は原判決事実摘示のとおりであるからここにこれを引用する。

<立証省略>

三、理  由

成立に争のない甲第一号証の二、及び原審並に当審(第一回)における被控訴人親権者中島美津子の供述によれば、中島美津子は昭和二十三年二月二十一日被控訴人を分娩したことを認めることができる。よつて控訴人と被控訴人との間に親子関係が存在するや否やにつき案ずるに、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認める甲第七号証、原審証人中島藤九郎、同中島ふゆ、原審並に当審(第一、第二回)における被控訴人親権者中島美津子、原審における控訴人本人(一部)の各供述によれば、控訴人(当時四十三歳)は昭和二十二年五月十六日夜千葉県安房郡岩井町久枝所在岩井町漁業会自動車車庫内において中島美津子(当時十八歳)との間に初めて性交をなしたが爾後同人との間に同月二十一日、及び同年六月初旬から同年九月中旬まで五回、即ち、前後七回に亘り性交関係を継続したことを認めるに足る。この認定に牴触する原審証人平野又五郎、原審並に当審証人平野あきよ、原審並に当審における控訴人本人の各供述は上記被控訴人親権者中島美津子、及び原審証人明石太郎の各供述と対比し採用しない。また乙第五、第六号証によつても右認定を覆すに足らない。而して成立に争のない甲第二、第三号証によれば、被控訴人は前示昭和二十三年二月二十一日中島美津子の初産として、且普通の成熟児として出生したことが認められるところ、これによれば被控訴人の右出生の日は控訴人と中島美津子との間に初めて性交のあつた前示昭和二十二年五月十六日から起算し二百八十二日の経過後であることが計数上明である。しかも成立に争のない甲第十一号証及び当審鑑定人石丸秀敏鑑定の結果に徴すれば、妊娠期間は一般に二百六十日から二百七十日までであるけれども、妊娠の状況、殊に初産の場合には妊娠期間が二百八十日前後に及ぶ場合のあることを認めることができる。更に原審証人松岡やす、同中田健一郎、同大山哲郎、同中島藤九郎、同中島ふゆ、原審並に当審(第一回)における被控訴人親権者中島美津子の各供述を綜合すれば、中島美津子は昭和二十二年五月頃前記岩井町漁業会に事務員として勤務していたが、熱心且真面目に執務し、平素品行上に悪評を被つたことはなく、況や同人において控訴人以外の男子と情交関係を結ぶようなことはなかつたことを認めることができる。当審証人笹川三郎、原審並に当審における控訴人本人の各供述によつてもこの認定を覆すに足らないし、他にこの認定を左右するに足る証拠はない。以上の事実を参酌すれば、被控訴人は他に特別の事情がない限り、中島美津子が控訴人と性交の結果懐胎分娩したものと認めるのが相当である。しかるに、(一)、真正に成立したものと認められる乙第一乃至第四号証、同第十一号証、当審証人田辺正雄、同高田操の各供述、当審鑑定人高田操鑑定の結果によれば、控訴人の精液中の精子は昭和二十三年中の検査の際にはその多数のものが運動不活発であり、また昭和二十五年中の検査の際には大半未熟精子または死滅精子であつたこと、即ち、遅くとも昭和二十三年頃にはその生殖能力の薄弱な状態であつたことを窺うことができる。しかしながら控訴人におけるこの状態は、昭和二十三年五月頃から昭和二十六年二月頃までに亘る診察鑑定の結果により明にされたものであることは、右証拠自体により認められるところであるから、これから遡つて昭和二十二年五月頃においても、既に控訴人が授精力欠如の状態にあつたものと即断しえないことは、右証人田辺正雄の供述に徴するも明なところである。また、(二)、当審鑑定人石丸秀敏作成の鑑定書には中島美津子が昭和二十二年五月十六日当時には受胎不能の状態にあつた旨の記載があることが明である。而してこの判断が中島美津子における四十日の月経周期が正確順調であつたこと、最後の月経始期が昭和二十二年四月八日であつたこと(鑑定の際の中島美津子の供述に従つたもの)を前提としてなされたことは右鑑定書の記載に照し容易にこれを認めることができるところ、原審並に当審(第一、第二回)における被控訴人親権者中島美津子の供述によれば、元来中島美津子においては控訴人との間に性交関係を生ずる以前には、その月経周期が四十日前後に亘り不定であり、且一箇月間月経閉止を見ることもあつて不調であつたことを認めることができるから、この事実及び成立に争のない甲第十、第十一号証をも参酌すれば、右鑑定書の記載は、その鑑定の前提事実が相違しているところから、容易にこれを採用することができない。更に、(三)、同鑑定書には控訴人と被控訴人との各指紋、掌紋、人類学的相似を検討対比して父子関係の存在を推測せしめるに足らない旨の記載があることが明であるけれども、これを同鑑定書中のその余の記載及び成立に争のない甲第九号証、当審証人阿部米太郎の供述を対照すれば、指紋、掌紋、人類学的相似における相似性の少いことは直に父子関係の不存在を断定せしめるに足らないことが明である。なお、(四)、原審並に当審証人平野あきよ、当審における控訴人本人の各供述によれば、平野あきよは遅くとも昭和七年一月中に控訴人と結婚同棲しながら爾後現在まで妊娠を見たことのないことが認められるけれども、この一事を以て控訴人が生来全然生殖無能力であつた者と即断するを許されないことは論をまたない。以上のように(一)乃至(四)の事実によつては、被控訴人が控訴人と中島美津子との性交により懐胎分娩せられたとする前示認定を動かすに足らないし、他に右認定を左右するに足る証拠はない。しからば控訴人と被控訴人との間には父子関係が存在するものというべく、従て控訴人の子であることの認知を求める被控訴人の本訴請求は正当であつて、これを認容した原判決は相当であるから本件控訴は理由がない。

よつて民事訴訟法第三百八十四条第八十九条第九十五条を適用し主文のとおり判決をする。

(裁判官 薄根正男 岡崎隆 奥野利一)

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