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東京高等裁判所 昭和24年(ラ)145号 決定 1949年11月29日

抗告人 鈴木光太郎

訴訟代理人 西村義太郎

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告理由は、抗告人提出の末尾添付の抗告理由書記載の通りである。これに対し次のように判断する。

民事訴訟法第六百九条の規定によれば差押債権者から執行裁判所に対し第三債務者の陳述を求める催告の申立があつたときは、執行裁判所は執行吏に対し「第三債務者に差押命令送達後七日内に同条所定の事項を陳述すべき旨催告すること」を命じ執行吏は同条第二項前段により右の陳述を求める催告を差押命令の送達証書に記載して第三債務者に告知することを要するものであるから、差押債権者の右催告の申立は差押命令の申請と同時にするか、或は少くとも差押命令の発送前にすることを要するものと解すべきである。即ち第三債務者はその催告を受けることによつて七日の期間内に法定の事項を陳述する訴訟上の義務を課せられ、これを怠るときは同条第二項後段により損害賠償の責任を負うものであるからこれが到達したかどうかは第三債務者に重大な利害関係を及ぼすものである。従つてその到達の確実を期し、この点に遺漏なからしめる必要上、前記のように差押命令の送達証書に催告を記載する制度を採用したものである。

しかるに抗告人が昭和二十四年四月四日原裁判所に本件債権仮差押命令を申請し原裁判所が右申請を容れて同月六日仮差押決定をなし、右決定が同月十一日までの間に債権者代理人、債務者及び第三債務者に到達していること並に抗告人がその後同年九月二十四日にいたり執行裁判所たる原審に第三債務者の陳述を求める催告の申立をしたことは、いづれも記録上明白であるから、右催告の申立は不適法と言はざるを得ない。抗告人が抗告理由で主張しているところは、すべて右と異る見解の下に原審の措置を攻撃するもので採用に値しない。その他原決定には何等違法の点を発見することができないから、抗告人の申立を却下したる原決定は正当で本件抗告はその理由がない。

よつて民事訴訟法第四百十四条、第三百八十四条を適用して主文の通り決定する。

(裁判長裁判官 渡辺葆 裁判官 牛山要 裁判官 猪俣幸一)

抗告の理由

原決定の理由とする処は、民事訴訟法第六百九条による第三債務者の陳述を求める催告の申立をするには差押債権に対する「差押命令の申請と同時に、尠くとも差押命令の送達前に」しなければならないというのである。しかし斯ういう理由は果して何を意図しているのかサッパリ判らない。一体何の為に右の申立を判示の如くに制限しなければならないのか。試みに、判示に従つて適時に申立をしたとしても、事務上の手違いによつて差押命令は第三債務者に送達されたが催告は裁判所によつて忘れたまま放置されたということが発見された場合を想像してみればすぐわかることである。

抑も民事訴訟法第六百九条が催告の期間を「差押命令ノ送達ヨリ七日」としたのは一に債権者たる申請人の利益の為に設けた期限であつて、決して第三債務者の利益の為のものではない。従つて同規定の期間は債権者の同意ある限り之を更に長期とすることは差支えのないもので、その意味では、同規定は一種の所謂訓示規定と解すべきである。此の事は右の催告の申立を伴わないに拘らず債権差押命令(本件に在つては仮差押命令)を出した(原決定の用語に従えば「送達」して了つた)原裁判所自体が最も良く知つている筈である。何となれば本件の差押命令は今だに取消されていないからである。右の民事訴訟法の規定が債権者の利益保護の一点を重心とするものであることが判れば既に債権差押命令送達後の催告申立が決して違法でないというわけも判るであろうから、茲に原裁判を取消して本件催告の申立の理由あることを解説して頂きたく本抗告に及んだ次第である。

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