東京高等裁判所 昭和24年(ラ)15号 決定
一、当事者
抗告人 ○島○美
相手方 ○島○
二、主 文
原審判を取消す。
本件を宇都宮家庭裁判所眞岡支部に差戻す。
三、理 由
本件抗告理由の要旨は次の通りである。
抗告人は昭和十九年五月三十一日先代○一の死亡により、その家督相続をしたもので当年十歳である。而して先代○一は相手方の長男に当り、即ち抗告人は相手方の孫に当るものである。然るに相手方は物価騰貴のため生活困窮したりと称して、抗告人に対し扶養請求の申立を為したところ、原審はこれを認容する審判をした。しかし、この審判は次の点より見て明かに失当である。
(一) 相手方は本年五十六歳であるが、未だ壯者を凌ぐ健康に惠まれた上、山林二町歩を所有し、その内一町歩を開墾して陸稻を耕作し、又畑一反歩宅地内の畑一反歩を耕作しているばかりでなく、副業として繩ないをしており、その副業の收入のみにても一月一万円以上とせられており何等扶養を要するものではない。
(二) 仮に相手方が扶養を要するものとしても、相手方には抗告人以外に二男○(大正十年五月三十日生)三男○信(大正十三年十月九日生)二女○子(昭和二年七月十二日生)四男○郎(昭和五年五月三十日生)五男○男(昭和七年十月二日生)六男○男(昭和七年十月二日生)の六名の直系卑属があるのに、原審が漫然抗告人にのみ扶養義務を認めたのは失当である。
(三) 本件の如き扶養に関する処分は家事審判法第九条乙類に属するものであり、斯る審判事件はこれを調停に付したときと雖も、同法第二十四条第一項を適用し得ないことは同条第二項によつて明かである。然るに原審が本件につき同法第二十四条を適用したのは明らかに法規に違背したものと謂わなければならない。
仍て原審判を取消し相当なる裁判を求める次第である。
本件記録によれば抗告人は昭和十九年五月三十日先代○一の死亡により家督相続をしたものであり、相手方は○一の母にして、○一はその長男なること、相手方には抗告人以外に直系卑属のあることは明らかである。而して、直系血族は相互に扶養する義務があるから、相手方において扶養を要する事情があるとしても、本件にては、数人の扶養義務者存し、斯くの如く扶養義務者数人ある場合には、民法第八百七十八条により、その扶養すべき者の順序を定めることを要し、又扶養の程度又は方法は、同法第八百七十九条によりこれを定めることを要するに拘わらず、原審は、斯る点に充分の思を致すことなく、却つて扶養に関係なく、然も抗告人と相手方以外の第三者に関する告訴事件の取下、その他の事項につき審判しているのは、失当であると謂わなければならない。
加之、本件の如き扶養に関する処分は、家事審判法第九条乙類八に属し、斯る事件はこれを調停に付した場合と雖も、同法第二十四条第一項による審判を為し得ないことは、同法第二項の明定する所なのに拘わらず、原審は本件につき同法第二十四条を適用して審判したものの如くである。斯くの如きは扶養に関する審判事件につき、審判手続において誤を犯したものと謂わなければならない。
仍て、本件抗告は理由あるを以て、原審判を取消し、本件を宇都宮家庭裁判所眞岡支部に差戻すべきものとし、家事審判規則第十九条第一項を適用して、主文の如く決定する。