東京高等裁判所 昭和24年(ラ)172号 決定
(1) 原審裁判所は、罹災都市借地借家臨時処理法第二条第一項但書に「他の法令により、その土地に建物を築造するについて、許可を必要とする場合は、その許可を要する」と規定され、本件土地の所在する甲府市は、市街地建築物法並びに昭和二十一年勅令第三八九号戦災都市における建築物の制限に関する件の適用ある土地であるから、本件土地について借地権譲渡の申出をするについては、右法令による許可を必要とする旨判断したけれども、その解釈は余りにも狭義に過ぎる解釈である。
(2) 何となれば仮に原審裁判所の解釈するように、賃借権の設定又は譲渡の申出をするについて、建築の許可を受ける必要があるとすれば、その許可官庁においては、すべて建築許可申請に土地所有者の承諾書を添附させることにしているけれども、土地所有者の承諾など期待できない場合には、建築許可の申請もできないことになり、罹災建築物に居住していた者を保護しようとする罹災都市借地借家臨時処理法の目的に叶わないことになる。
(3) 又原審裁判所は、相手方が甲府市橘町一番地の五の宅地の南側半分に建物を建築し、抗告人の主張する別紙目録記載の土地うち、南側の幾らかについては、抗告人の申出当時既に賃借権にもとずく建物所有の目的で現に使用している場合に該当する旨認定しているけれども、相手方の建築した家屋は、抗告人の主張している土地には全然抵触していないし、現在でも空地のまま放置されているにかかわらず、原審裁判所は現地の検証もしないで、相手方審問の結果だけを一方的に採用して漫然書面の上だけで、この裁判をしたものである。
以上二つの理由から、この裁判の取消を求めるため、本件抗告の申立に及んだ次第であるというのである。
当裁判所は本件抗告理由の当否について、次のとおり判断する。
(4) 原審裁判所は、本件土地が市街地建築物法及び昭和二十一年勅令第三八九号戦災都市における建築物の制限に関する件の通用ある土地であるのに、抗告人は借地権譲渡の申出をするについて、罹災都市借地借家臨時処理法(以下は略して単に罹災都市処理法と表示)第二条第一項但書及び第三条に規定せられる「建物を製造するについての許可」を受けていないからという理由で、抗告人の申立を却下する裁判をした。
(5) しかし罹災都市処理法第二条第一項但書に「他の法令によりその土地に建物を築造するについて、許可を必要とする場合にその許可がないときは、その申出をすることができない」旨規定せられているのは、市街地建築物法のように、建築物取締の必要上どこに建築するにしても、必ず許可を必要とする建前になつているけれども、確実にその許可が受けられる場合の許可までも、包含する趣旨に解すべきではないことは、もちろんのことながら、昭和二十一年勅令第三八九号戦災都市における建築物の制限に関する件の関係においては、その勅令が戦災都市である甲府市に適用があるからといつて、甲府市のどこに建築するにしろ、すべてこの勅令にもとづく地方長官の許可を必要とするものではなく、その勅令の第二条に規定せられている「都市計画法第十六条第一項の土地の境域内、同法第十一条ノ二の公園、緑地若くは広場の境域内、又は市街地建築物法第二十六条第二項に規定せられているため、その土地に建物を築造することが一般的に禁止せられ、ただ特別の事情があるときにだけ 地方長官の許可を受けて、建物の築造ができる場合にその許可も受けないのにこの制限を無視して、借地権を取得させたところで、後日地方長官の許可が受けられない場合には 借地権取得の目的を果さないことになり、土地の使用関係を紛糾させるばかりでなく、都市計画事業の執行をも妨げることになるので、前記のような指定を受けた土地については、予め建物築造の許可を受けてからでないと、借地の申出ができないものとした趣旨に解するを相当とする。
(6) ところで本件土地が右勅令の第二条に規定せられる公園、緑地、広場又は道路などの敷地に指定せられた地域でないことは当審証人牛村多喜雄の証言に徴しても明かなところであるからその土地に建物を築造するについて、右勅令にもとずく地方長官の許可を必要としないものといわなければならない。
したがつて抗告人が建物築造についての許可を得なかつたことを理由に、抗告人の申立を却下した原決定は失当たるを免れない。
(7) 原審裁判所は抗告人が借地権譲渡の申出をした当時、相手方は賃借権にもとずき、建物所有の目的をもつて本件土地をすでに使用していたものと認定しているけれども、当審における証人飯島みよの証言、抗告人並びに相手方の各本人審問の結果と検証の結果とを綜合すれば、抗告人は甲府市橘町一番地の五、所在の木造瓦葺平家二戸建一棟(建坪二十五坪)の北側の一戸(建坪十二坪五合、別紙図面参照)を、その所有者である相手方から賃借しこれに居住するうち、昭和二十年七月六日の空襲の際罹災焼失その後右建物の敷地は空地のままになつていたもので、検証当時においても、相手方は菜園として利用しているに過ぎない状況にあつたことを認め得るので、この点に関する原審裁判所の判断も不当といわなければならない。
(8) 然りとすれば、抗告人の本件申立は抗告人が居住中罹災した家屋の敷地に関する部分は、相当と認められるにかかわらず、前示のような理由で、その申立を却下したのは、失当というほかない。
よつて非訟事件手続法第二五条、民事訟訴法第四一四条、第三八九条第一項を適用して主文のとおり決定する。