東京高等裁判所 昭和24年(ラ)92号 決定
一、当事者
抗告人 ○田トラ
二、主 文
本件抗告はこれを棄却する。
三、理 由
本件抗告の要旨は、女性である抗告人の名「トラ」は甚しく非民主的な名であり、又動物の虎にも通じ、女性の名として極めて不適当であるばかりでなく、かかる名で呼ばれることは本人に於て侮辱を感ずることをも免れ得ない。即ち惡婆を「オトラバアサン」と呼ぶことは巷間周知の事実である。従つて抗告人自ら右の名を嫌忌するのは勿論、その内縁の夫も改名を希望しておる。以上の次第で抗告人は原審に改名の許可を申立てたが却下されたので原審判を取消し、更に原審に差戻すか、又は抗告人の名「トラ」を「友紀子」と改名することを許可する旨の裁判を求めるというのである。
案ずるに戸籍上の名を容易に改めることを許すときは個人に対する同一認識を害し、引いては、社会生活に支障を生ずる虞があるので改名は正当の事由がある場合に限り許されるのである。
本件に於て抗告人の名「トラ」は猛獸虎の名とその音に於て共通であるためその名から纎細優美な女性的な感覚は生じ難いけれども特定の女性個人の名として用ひられる「トラ」の名が非民主的であるとは到底解し難い。従来幼兒に命名の際かよわいと思はれる女性のため強い者の名をとり、又生れ年の干支に因んでその干支の名をとることは往々世上に存する事例であつて、「トラ」の名が女性の名として必ずしも不適当であるとは認められない。又仮に悪婆のことを「オトラバアサン」と呼ぶことありとしても、「トラ」そのものの名称に蔑視若くは罵詈の意味を含むものとは認め難く、而して他から侮辱を受けるいわれがない場合に、その名である「トラ」の名で呼ばれても侮辱を感ずべきでないことは言を俟たない。要するに抗告人主張の改名の事由は主としてトラの名に対する抗告人等の主観的な好悪の感情に基くものであつて右事由を以ては戸籍法第百七条第二項にいわゆる改名についての正当な事由がある場合に当るものと解することはできない。抗告人の本件改名申立は理由がなくこれを排斥した原審判は相当である。
他に原審判には違法又は不当な点はないから本件抗告を理由なしと認め主文の通り決定する。