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東京高等裁判所 昭和24年(新を)140号 判決 1950年7月29日

控訴人 被告人 須山茂男

弁護人 西村兼吉

検察官 渡辺要関与

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役二年に処する。

原審における未決勾留日数中六十日を右本刑に算入する。

当審の訴訟費用は被告人の負担とする

理由

本件控訴の趣意は末尾に添附してある弁護人西村兼吉作成名義控訴趣意書と題する書面記載の通りである。これに対し当裁判所は左の如く判断する。

論旨第一点について。

判決で認定する事実はそれが犯罪構成要件に該当する事実であると犯罪の違法性や責任性を阻却する事由若しくは刑の加重、減免の事由刑の量定に影響ある事由であると右犯罪の日時場所に関するものであるとに拘らずすべて証拠によつてこれを認定することを要しその証拠は公判に於て適法に証拠調をなし被告人の意見弁解を聴くか少くともその機会を与え且異議あるものには反証の機会を与えたものであることを要する右証拠調をしない証拠を以て事実を認定することは不意打で公正な訴訟手続ということはできないこれは刑事訴訟法第一条の精神にもとるから斯から措置は許されないものと解すべきであるただ判決に証拠説明をするには最少限度の要求として罪となるべき事実に対する証拠を示せばよいことになつていてその半面右事実以外の事実については証拠説明を必要としないことになつているが、このことから罪となるべき事実以外の事実はいかなる証拠によつて認めても差支えないように解するのはそれは事理を究明しないことに基く誤解である原判決を見ると被告人の前科の事実認定の証拠として前科調書を引用しているが原審公判調書を調べると検察官から前科調書を提出した形跡なく従つて裁判官においてこれを取調べた証跡もない全記録を繰返して見ても前科調書は記録に編綴せられていない斯くの如き全く公判に顕出せられなかつた証拠――前科調書といえども他人の名を騙つて裁判を受けたためにはからずも前科者になつていたということは皆無の事実でないことに想倒すべきである――を以つて前科の事実を認定したのは違法である。論旨理由あり原判決は破棄せらるべきである

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 吉田常次郎 判事 保持道信 判事 鈴木勇)

控訴趣意書

第一点原審判決は公判に提出されない証拠を採用して事実認定の資料とした違法がある。

即ち第一審判決によれば被告人は昭和二十一年八月二十九日窃盗罪で懲役一年に処せられ後九月に減刑昭和二十二年五月三十一日刑の執行を終えたものであるが云々と被告人が前科あることを認定し之れが認定証拠として被告人の当公廷における判示同旨の供述並久住紋九郎外四名の被害者提出の被害届、証人小暮明子、同坂田すみ子の尋問調書及び前科調書をあげている然し右公判調書によれば被告人に前科ありと認定された証拠である前科調書は公判に検察官より提出されていないのみならず被告人もその点について何等供述されていない斯のことは原審判決が公判に現われない虚無の事実を認定されたもので違法である

(その他の控訴趣意は省略する。)

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