東京高等裁判所 昭和24年(新を)2543号 判決
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(理由)
原判決が認定した犯罪事實の中第一の窃盜の點につき證人早坂英男に對する裁判官の尋問調書の一部を證據としており、右調書が檢察官から刑事訴訟法第二二七條による證人尋問の請求があつたので裁判官が同證人に對し同法第二二八條の尋問を爲した上その供述を録取したものでありその尋問の際被告人を立合はせずに之を行つたことは、所論の通りである。しかしながら刑事訴訟法第二二七條第二二八條は要するに搜査に關する規定であり搜査の段階に於て檢察官が後日の爭に備えて愼重に證據を準備せんが爲に裁判官に證人の取調を請求しておく必要を生ずることも多いであろうし、この請求を受けた裁判官が搜査に支障を生ずる虞れがないと認めた場合は格別苟も支障を來す虞ありと認め乍ら尚反對尋問權行使のため被告人被疑者又は辯護人を立會はせることを要するものとすることは、檢察官が右請求に及んだ趣旨を沒却するものであるから被告人等を立會はせずに證人を尋問することも己むを得ないものといわねばならない、しかもかようにして作成せられた證人尋問調書と雖も反對尋問を受けていないのであるから原則として直には、證據とすることは、認められないで唯限られた場合に例外として證據能力を認められているに過ぎない(刑訴第三二〇條第三二一條參照)のであるから搜査上必要な事態に對處するために設けられた右刑事訴訟第二二七條第二二八條を違憲なりと斷ずることは著しく失當である。飜つて本件を看ると原審が所論早坂英男に對する證人尋問調書を證據としているのは前記のように例外的に證據能力を認めた場合に該當したが故ではなく原審公判廷に於て檢察官の同調書の證據調の請求に對し辯護人は之に同意し被告人もこれに何等の異議を述べなかつたからであることは記録上明白なところである。憲法第三七條第二項に(刑事被告人はすべての證人に對して審問する機會を充分に與えられ……る權利を有する。」と規定したのは、被告人にいわゆる反對尋問權を確保されるためのものであるがこの反對尋問權は決して放棄を許さない權利でない、刑事訴訟法第三二六條第一項はこのことを前提とし檢察官及び被告人が證據とすることを同意した書面又は供述は原則として證據能力を有することを定めたものである。從つて被告人又は辯護人から原審公判廷に於て證據調請求に異議を述べることによつて容易に所論證人尋問調書を證據とすることを阻止し反對尋問權を行使する機會を捉え得た筈であるに拘らず事茲に出でず却つてこれに同意を與え反對尋問權を自ら放棄した以上原審が刑事訴訟法第三二六條第一項に則つて所論尋問調書を證據としたことは少しも違法ではなく論旨は理由がない。