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東京高等裁判所 昭和24年(新を)2555号 判決 1950年4月11日

被告人

北島一雄

主文

本件控訴を棄却する。

理由

前略。

控訴趣意第一点について。

論旨の要領は、被告人に対する起訴状謄本は、公訴提起後二箇月以内に、同人に送達されなかつたので、本件公訴は無効に帰した。即ち(一) 被告人は昭和二十四年二月二十三日起訴されたが、同年七月十一日原審第三回公判が終るまで、遂に本件起訴状謄本を受領しなかつた。(二) 又仮に本件の場合、被告人は在監者であつたので、その監獄の長に本件起訴状が送達されれば足ると解しても、本件起訴状謄本は、警視総監宛に送達されたものであつて、被告人が当時留置されていた、代用監獄の長たる蔵前警察署宛に送達されたものではないから、右は適法な起訴状謄本の送達があつたとはいえない。(三) 本件勾留状には、被告人を勾留すべき監獄を警視庁管下警察署と記載されてあり、これがため警視総監を当該監獄の長と解したとしても勾留すべき監獄を、このように不特定広範囲に定めることは、被勾留者の人権保護の趣旨から見て、違法であり、かかる違法な勾留状に基き起訴状謄本が警視総監に送達されたとしても、右は適法な送達があつたとは解し得ない。以上によつて、本件公訴は起訴後二箇月の経過により、無効に帰し原裁判所は公訴棄却の判決を言渡すべきにかかわらず、有罪判決を言渡したのは違法であるというにある。

しかし、記録編綴の被告人に対する起訴状謄本及び弁護人の選任できる通知書の送達報告書の記載によると、本件起訴状謄本は弁護人の選任出来る通知書とともに、警視総監宛(但し蔵前警察署在監という附記がある)に、昭和二十四年二月二十八日千代田区霞ケ関一ノ一ノ一警視庁刑事部押送係において、巡査山本春喜により、受領されていることが明である。そして、右警視総監は代用監獄たる警察署留置場の長ではなく、その長は即ち、当該警察署長であることは所論のとおりであるが、警視総監は、その管下警察署を指揮統轄しているものであつて、原審証人山本春喜・同三留英伍の各証言、原審第三回公判調書中、原裁判所の蔵前警察署の保管にかかる令状送達授受簿と題する帳簿に対する検証の結果の記載を綜合すると、警視庁における押送係は日々管下各警察署における在監人を明瞭に調査知悉し、各警察署留置看守係と緊密の連絡を保ちつつ、各留置場における在監人に対し、警視総監宛送達された書類の伝達を行つており、警視庁管下においては、個別的に各警察署長宛書類を送達することよりは、むしろ警視総監宛に、その送達をすることが却つて迅速適確に、これが目的を達し得る実情にあることが認められる。そしてかかる取扱は、何等在監人の利益を害せず、刑事訴訟法の精神に反するところがないから、本件においても、被告人に対する起訴状謄本を被告人の在監する蔵前警察署長に送達しないで、蔵前警察署在監と附記して、これを警視総監に送達したことは、何等違法ではない。次に右三留英伍の証言によれば、被告人に対する本件起訴状謄本は、前記のように、警視庁押送係が受領した後被告人が在監する蔵前警察署看守係巡査三留英伍に伝達され、同巡査は、その頃被告人に対し、弁護人の選任通知書とともに、これを示し、且つ、読み聞かせた上、被告人承諾の下に改めて、被告人のため、これを保管していたことが明かであり、かかる措置は適切な取扱とはいうを得ないが、被告人は、右起訴状謄本の読み聞けにより起訴状記載事項を諒知したものと解されるので、かかる場合においては、被告人に対する起訴状謄本の交付があつたものと認めるのを妥当とする。次に又勾留状には勾留すべき監獄を記載しなければならぬことは無論であつて、被告人に対する本件勾留状に記載された勾留すべき監獄は、警視庁管下警察署と表示してあることは、所論のとおりである。しかし、右の表示が適法であるかどうかは暫くこれをおき、すでに勾留状を執行され、監獄に在監する者に対し、起訴状謄本が適法に送達された以上は、右勾留すべき監獄の表示に不備欠点があつたとしても、これを理由に起訴状謄本の送達の適不適を論ずることは、当を得ない。そして被告人に対しなされた本件起訴状謄本の送達が適法であることは、前に説明したところであるから、論旨はいずれの点よりするも理由がない。

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