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東京高等裁判所 昭和24年(新を)3557号 判決 1950年4月15日

被告人

金田一郎こと

権得光

外一名

主文

本件控訴はいずれも之を棄却する。

理由

被告人両名の弁護人渡辺喜八の控訴趣意書第一点、(本件については適法な告発がないとの論旨について)。

(イ)  本件の事案は酒税法第五十三条違反の罪にかゝるものであるから、国税反則取締法の規定に従い収税官吏の告発のあることを要し、その告発が起訴の条件を為すものであることは所論の通りである。弁護人は本件被告人等に対する起訴は適法な告発なくして為されたものであるから、原裁判所は宜しく公訴棄却の判決を為すべきものであつたと主張するので、此の点につき按ずるに、先ず被告人李永守に対する告発は昭和二十四年五月二十九日附で三条税務署収税官吏大蔵事務官星野清により犯則違反者逃亡し居所分明ならざることを理由として為されたことは、記録上明である。而して国税犯則事件について、財務局長又は税務署長でない一般の収税官吏が告発を為し得る場合は、犯則嫌疑者居所分明でないとき、逃走の虞あるとき、証憑湮滅の虞あるときの三場合に限られること法律上明であるが、事件が之等の場合に該当するや否やの認定は、当該収税官吏の判断に任じているものと解すべきところ(最高裁判所昭和二十四年(れ)第九一二号、同年七月二十三日第二小法廷言渡判決参照)原審公判廷に於ける証人星野清の供述に依れば、被告人李永守は本件事件発覚し、係官の捜査を受けた際肩書地に住居はあつたが、現にその住居に居らず、その現在地を知ることができなかつたことは明であるから、収税官吏としては、結局居所分明ならざるものと認定したものと謂うべく、仮に弁護人所論の如く、同被告人が当時商用で単に二、三日住居を離れたに過ぎないものとしても、その際の判断としては固より相当であつたと云わなければならない。従つて此の点に関しては、右告発に何等の違法は存しない。次に同被告人に対する本件の告発は同被告人が宮島恭平と共謀して免許を受けずして醪を製造したとの事実に対するものであるのに起訴は免許を受けない者の製造した醪を所持したというにあることは、洵に所論の通りである。併し乍ら酒税法は、酒税の確保を本旨として免許なき酒類醪等の製造を禁止すると共に、かゝる密造にかゝる酒類醪等が所持、譲渡等により不法に市場に流出転々することをも制限して、以てその目的に遺憾なきよう所期したものであり、密造と不法所持とは原則と補充の関係にあり、而も密造には、その結果として必然不法所持の段階を包含することは見易き道理であつて、只たまたま密造と所持との主体が同一に帰する為、原則の密造の点のみを問題にするに過ぎない。従つて当初密造の事犯と見られたところが、その密造の主体と所持の主体とを異にした結果、単に不法所持の事犯と見られるに至つても、その間事実の同一性を害しないものといわなければならない。本件発覚の端緒は、原判示日時頃、判示場所に於て被告人等が免許を受けずして、製造せられた醪を所持した事実にあつて収税官吏は、之によつて直ちに被告人等が密造を為したものと思惟し、その旨の告発を為したところ、検察官に於て取調べの結果不法所持の事犯として処理したものであることは、記録を通じて明なところであつて、かゝる起訴は固より相当と解すべく、告発なくして起訴したとの違法は存しない。然らば被告人李永守に対する本件起訴はいずれの意味に於ても適法であつて、此の点を攻撃する本論旨は理由がない。

(ロ)  次に被告人権得光に対する告発について検討するに、右告発は起訴後のものにかゝること、及び前記法定の場合以外告発権なき一般の収税官吏たる大蔵事務官星野清の為したるものにかゝることは、洵に所論の通りである。従つて此の点から云えば、同被告人に対する本件の起訴は同被告人に対する適法な告発なくして、為されたものであることは明である。併し乍ら刑事訴訟法第二百三十八条第二項第一項に依れば告発を待つて、受理すべき事件について、共犯の一人に対して、為した告発は他の共犯に対しても、効力を生ずることは明であつて、本件は被告人権得光が被告人李永守と共謀の上、判示犯行を為したものであり、被告人李に対し、既に適法な告発のあつたことは前示の通りであるから、同告発は被告人権にも及ぶことは当然であつて、同被告人に対する本件の起訴は固より適法である。尤も右被告人李に対する告発には、同被告人が被告人権と共犯たることについて言明するところはないけれども、捜査及び審理の結果実体的に共犯たる関係にあれば足るものであることは、本来公訴の提起が検察官の専権に属することに鑑み、前記法条の解釈上疑を容れる余地はないものと解すべきである。従つて被告人権に対して適法の告発なきことを前提とする論旨は理由がない。尚弁護人は原判決が本件に於て適法な告発のあつたことを判示しない点につき論難するところがあるけれども、かゝる告発は起訴条件に過ぎないから、起訴の適否を判断するについては、当然審査すべき事項であるけれども、一旦その適法を認めて実体の審理に入り有罪の判決を為す場合には、かゝる事項はいわゆる罪となるべき事実ではないから、固より之を判示するの要はない。此の点の論旨も亦理由がない。

(ハ)  同弁護人の控訴趣意書第二点(本件焼酎原料醪が酒税法の醪なりや否の判断なく、且之が認定は採証の法則を誤つた違法があるとの点について)酒税法にいわゆる醪は、それ自体としては、同法にいう酒類でないことは酒税法の各規定を検討すれば自明のところである。従つて醪が酒類に必要な一度以上のアルコールを含有すべきことは何等、その要件ではない。只之を濾過して清酒となし、之を蒸溜して焼酎となし、その侭用いて濁酒となす関係上何程かのアルコール分を含有することが予想せられるに過ぎないものであつて、畢竟一定の原料を仕込み之を醗酵せしめるに至つた場合、酒税法にいわゆる醪となるものと解すべきである。原判決は本件醪を焼酎原料醪と判示したが焼酌原料たると清酒原料たるとにより差異あるものでなく、要するに、酒税法の対象とする醪たることを判示したものに外ならないから、更に右醪が一度以上のアルコールを含有した旨の判示を必要としないことは当然である。而もその醪たるの認定は、原審が適法に為した証拠調の結果に基くものであつて採証の法則に違背したと認むべき事由はない。即ち原判決の挙示する証拠の中原審公判に於ける証人星野清の供述は同人が、収税官吏としての経験に基き、自ら実験した結果を供述したものであり、単に同人が本件の告発者たるの一事により、その信憑力が左右せられるものではない。又原審が、その認定の資料に供した告発書は少なくとも被告人李永守に対するものについては、所論の如く証拠能力のないものではない。蓋し告発は捜査官憲に対する犯罪事実の申告であつて、事実の報告を内容とするものであり、此の点に於て裁判所に対し、審判の対象を提供する起訴状と同一に断ずべき限りでないからである。

(ニ)  尤も原審に於て検察官は右告発書を本件の起訴要件の立証の為に取調べを要求し弁護人に於て之に同意したものであることは明であるけれども、裁判所は必ずしも、当該証拠の証明力を立証事項の範囲にのみ限定すべき理由はないと解すべきであるから、苟くも証拠能力のある限り、採つて以て他の事実認定に供するも妨げないものと解すべきである。原審が被告人李永守に対する告発書の如何なる部分を採つて、判示事実の如何なる部分を認定したかは判文上、必ずしも明でないけれども、之を以て採証の法則に違背したものと為すは当らない。(原審は被告人権得光に対する告発書をも採用しているが、該告発が適法のものでないことは前述の通りであるから原審は此の点に於て、証拠能力なき証拠を採用した違法があるが右証拠を除くも原審認定の事実は、他の証拠により之を肯認し得るところであるから、此の点の違法は判決に影響を及ぼさないものと解さねばならぬ。)従つて結局本論旨も亦理由がない。

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