大判例

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東京高等裁判所 昭和24年(新を)76号 判決

右の者に對する窃盜被告事件につき、甲府簡易裁判所が昭和二十四年二月十六日言渡した有罪判决に對して、被告人から適法な控訴の申立があつたので、當裁判所は、檢事野本良平關與の上、審理を遂げて次の通り判决する。

【主文】

原判决を破毀する。

本件を甲府簡易裁判所に差戻す。

【理由】

本件控訴の理由は、末尾添附の控訴趣意書と題する書面記載の通りであつて、これに對する當裁判所の判斷は次の通りである。

弁護人藤田控訴趣意書第一乃至第三點について。

按ずるに裁判所が押收物を還付する場合は、刑事訴訟法第百二十三條第一項第二項第百二十四條第一項に各規定する三場合であつてその何れの場合であるとを問わず、押收物を還付するには檢察官及び被告人又は弁護人の意見を聽かなければならない(同法第一二三條第三項第一二四條第一項)然るに原審の昭和二十四年一月三十一日の公判調書を査閲するに、檢察官が自轉車二台の證據調を請求し、裁判官は之が證據調をした後之を直ちに提出者に還付して居り且つ其の還付をするに當つて檢察官及び被告人又は弁護人の意見を聽いて居らないことは洵に弁護人所論の通りである。然るに本件記録全體を調査するも、右自轉車二台については原審裁判所は前記のように單に證據調を爲したに止まり直ちに之を提出者たる檢察官に還付して居るのみであつて、其の何處にも該自轉車を原審裁判所に於いて押收したと認められる形跡がないから原審裁判所は、證據調後該自轉車を留置する必要がないものと認めて還したものと解するの外はない。果して然らば前記檢察官に對する右自轉車の還付は 刑事訴訟法に所謂押收物の還付に該當しないものと謂うべきであつて、右自轉車が押收物件であることを前提としてその還付手續に違法ありとする弁護人の主張は其の事由がない。又右自轉車については裁判官に於いてこれを展示して然る後これを提出者に還付して居ることは前記調書の記載により明白であるから、これによれば右自轉車は證據調終了後一度裁判官に提出されたものと解すべきであつて同法第三百十條所定の手續は適法に履踐せられたものと謂うべくこの點についての手續に違法ありとする弁護人の主張も亦その事由がない。然し乍ら前段説示のように右自轉車について原審裁判所が押收手續を爲さずして直ちに之を提出者たる檢察官に還付し乍ら司法警察職員の領置したに過ぎない右物件を押收物としてその存在を證據として擧示し且つその一台については被害者還付の言渡を爲したのは結局虚無の證據を罪證に供した失當あると共に違法の被害者還付の言渡を爲した失當があつてこの點に關する論旨はその事由があり原判决は到底破毀を免れない。蓋し刑事訴訟法に於いては證據物の存在を證據として擧示し又はこれについて被害者還付の言渡を爲し得るのは、裁判所に於いて押收物として留置しおる場合でなければならぬと解すべきであつて、現にこれを留置してないときは該物件について縱令司法警察職員又は檢察官が之を領置して居つた事實があるとしてもその後還付せられたか否か或は滅失、毀損、變更等ありたるや否等を知るに由なく、而も斯かる失當は明らかに原判决に影響を及ぼすものと認め得られるからであり又押收物の被害者還付を爲すに際しては、裁判文上その被害者の何人であるかを明示することを要するものではなく、該物件が判示犯罪事實の賍物であることを如り得る程度に判示するを以つて足るものと解すべきであつて還付を受くべき被害者の何人であるかを明示しない原判决に所論のような違法があるという論旨はその事由がないけれども、既に前段において説明したように本件自轉車は押收物ではないのであるから、之を被害者還付の目的としたのは違法であり、この違法は判决に影響があること明らかであるからである。

以上の理由により原判决は弁護人所論の如くその違法ありと信ずべき事由があつて之を破毀すべきものであるから、各弁護人其の余の控訴趣意についての説明は全部これを省略し刑事訴訟法第三百九十七條、第三百七十九條、第四百條に則り原判决を破毀し本件を甲府簡易裁判所に差戻すこととする。

仍つて主文の通り判决する。

裁判官 中野保雄 龜崎弘尚 渡邊好人

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