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東京高等裁判所 昭和24年(新を)806号 判決 1950年5月06日

控訴人 被告人 中沢秀彦

弁護人 松本晋 大橋弘利

検察官 渡辺要関与

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年に処する。

被告人から金千円を追徴する。

理由

本件控訴の趣意は末尾に添附してある弁護人杉本晋同大橋弘利共同作成名義の控訴趣意書と題する書面記載の通りである。これに対し当裁判所は左の如く判決する。

論旨第一点について。

捜査官の請求によつて起訴前になした勾留等に関する書類は総て捜査官に送付し、事件が起訴せられたら刑事訴訟規則第百六十七条第一項によつて勾留状は裁判官に差し出すことになつているが勾留の前提である刑事訴訟法第六十一条による被告人の陳述録取調書は検察官の手許に留め置く取扱になつている。

それ故に右録取調書が記録にない一事を以て右勾留が被告人の陳述を聴かずしてなされた違法のものだと断定することはできないのみならず、仮に論旨のような不当の勾留であつたとしてもその間になされた第三者である小松照雄、辻市平、竹森源太郎に対する検察官の供述調書に影響を及ぼしたものとは認められないから結局判決に影響を及ぼしたものということはできない。論旨はそれ故に理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 吉田常次郎 判事 保持道信 判事 鈴木勇)

控訴趣意書

原審の訴訟手続には法令の違反がありその違反が判決に影響を及ぼすことも明らかでありますので原判決は破棄を免れないと信じます。被告人は昭和二十四年一月二十八日佐倉簡易裁判所裁判官安藤弘の勾留状によつて勾留されて居ります。刑事訴訟法第六十一条によりますと被告人に対し被疑事件を告げこれに関する陳述を聴いた後でなければできないと規定されて居ります。しかし本件記録の如何なる部分を検してみましても右の所謂勾留訊問をしたという証拠はないのであります。結局被告人はかかる違法な手続により同年二月十日迄勾留せられて居たと断定せざるを得ません。その勾留期間中に本件犯罪事実を認定するに付原判決に証拠として採用されて居る向後菊枝に対する警察官の供述調書と小松照雄辻市平竹森源太郎に対する検察官の供述調書が作成されて居ります。即ち被告人が違法に勾留され自由を全く奪われて防禦権の行使を封殺されている間にかような証拠書類が作成せられしかも証拠として採用されているのであります。かかる場合にはたとえ公判で被告人が証拠とすることに同意しても刑事訴訟法第三百二十六条第一項の所謂「相当」とは認められないと存じます。そうであるならば証拠と出来ない書類を証拠としたことになり訴訟手続の違法が結局判決に影響を及ぼすことになりますから原判決は破棄を免れないと思います。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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