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東京高等裁判所 昭和24年(行ナ)17号 判決

特許庁から送付して来た本件の特許出願に関する記録中の、昭和二十四年四月十二日付原告の訂正にかゝる明細書の記載によれば、原告の出願にかゝる発明の要旨は、「火床上方の焔室と、これに続いた被加熱体伝熱室との境界部位に、燃焼生成物及び過剰空気等の混合体の通過方向に直角またはなるべくこれに近い方向に延長した一部的隔壁を設けて、両室間の通路を絞り、右の絞られた通路面積を火床面積の約五分の一ないし五分の二の範囲とすることを特徴とする燃焼装置」であつて、その目的とするところは、これによつて焔室内火焔の周辺と焔室の大部分の側壁並びに隔壁直下の焔室頂部との間に、燃焼生成物未燃焼可燃瓦斯、過剰空気及び水分等の混合物を一時停滞させ、これを可燃瓦斯の引火点以上に加熱して、完全燃焼を生じさせると同時に、その全瓦斯状混合体を高温度に加熱した後、これを伝熱室内に進入せしめ、これにより煤煙の生成を防止し、燃料の燃焼効率を著しく増大せしめ、粗悪炭をも容易に完全燃焼せしめて、有効に使用し得る燃焼装置を得ることにあるものであることが認められる。

同記録中に存する審決書によれば、審決は、昭和九年実用新案出願公告第八八六四号の説明書及び図面の記載を引用し、これと原告の出願にかかる発明とを比較して、両者は火床上方の焔室と被加熱体伝熱室との境界部位に、一部的隔壁を設けて、両室間の通路を絞り、未燃焼瓦斯、過剰空気等を混合せしめるとともに、輻射熱の反射によつて、燃焼を完全にならしめるものである点において、互に一致している。ただ原告の出願においては、隔壁を通過瓦斯の方向に、ほぼ直角の方向に設け、瓦斯の通路面積を火床面積の約五分の一ないし五分の二の範囲としたものである点において相違するけれども、そのために特殊の作用及び効果を奏するものであることは、原告の主張及び提出した書類の上では認めることができないので、結局前記の相違点は、当業者が特考を要せずして、容易に取捨選択し得る設計上の微差に過ぎないものといわざるを得ず、両者は、全体として、その作用及び効果の上においても大差なく、同一発明に属するものと認めざるを得ないものとして、原告の出願にかゝる発明は、特許法第四条第二号に該当し、同法第一条に規定する特許要件を具備しないものとしたものであることを認めることができる。

よつて本件の出願にかゝる発明が、果して審決のいうように、特許法第四条第二号に該当し、特許の要件を具備しないものであるかどうかを判断する。

その成立に争のない乙第二号証(昭和九年実用新案出願公告第八八六四号公報)によれば、右引用の公報に記載せられたものは、汽鑵用燃焼装置であつて、火床の長さの稍半ばに位置する焔管内に、断頭半円錐状の覆筒を、その大径の方を焚口に向けて、焔管に密接し、かつ円錐の中心線を焔管の中心線とほゞ一致するように装置し、次に火橋上に覆板を載置し、その前方を火橋の前面に突出せしめ、また覆筒と覆板との間には、側壁を設け、側壁、覆筒、覆板によつて、火焔の通路を形成させたもので、これにより燃焼瓦斯を混乱させて、その相互間の接触を良好にし、また壁等によつて、燃焼に基く輻射熱を反射させ、それ等によつて完全燃焼を行わせんとするものであることが認められ、また同図面によれば、前記側壁、覆筒、覆板によつて形成せられる隔壁は、火焔通過方向にほゞ直角な方向に設けられており、しかも火焔通路面積と火床面積との比は、五分の一強となつていることが認められる。

今これを、原告が本件発明の特徴なりとする諸点と対比して考察するに、先ず原告は、本件の発明は、原特許である特許第一六九三二四号発明における、いわゆる待避局所の形成に関連して、理想的な燃焼のための待避局所をいかなる部位に、いかなる構成を以て、かつ火床面積といかなる割合を標準として構成されるかを、発明決定したものであると主張するが、引用公報に記載された燃焼装置は、前述のように、汽鑵火室内の火床上に、火焔通路の一部を遮断する隔壁を、火焔通過の方向に略直角な方向に設けて、燃焼室と伝熱室とを区分し、かつ、その覆板の下部は、説明として、「待避局所」なる語は使用していないけれども、原告のいわゆる「待避局所」と同一の構造と作用を有するものといわなければならない。そしてその隔壁の部位、方向が両者互に一致していることは、前記認定により明らかである。

次に通焔孔の面積と火床の面積との対比数値を、五分の一ないし五分の二となした点についても、引用公報に記載された燃焼装置における比率が、五分の一強であることは、先に認定したところであるが、その成立に争のない乙第一号証の一、二、三(昭和二十年七月二十日丸善出版株式会社発行の菅原菅雄著「蒸汽鑵及蒸汽原動機」)によれば、同書に記載せられている、原告の出願発明と同一の構造を有する機関車鑵における通焔孔の横断面積は、炉格面積の五分の二強に当ることが認められる。すなわち原告が本件発明の特徴とする通焔孔の面積と火床面積との対比数値についても、原告の本件出願前に国内に頒布せられていた刊行物に、同一の事例が記載せられ、特にこの点についても、格別の創意が行われたものとは認めることができない。

してみれば、本件発明は、新規性を欠き、特許の要件を具備しないものといわなければならない。

原告は、本件の発明は、特許第一六九三二四号発明の追加の発明であるから、原発明の要素である「待避局所」なる観念を基として審査されなければならず、また前述の、通焔孔と火床面積との対比数値は、それ自身ではなく、隔壁の部位、方向と関連せしめて審査しなければならないとして、審決を非難しているが、追加の特許発明は、原特許発明に改良又は拡張を加えたものであると同時に、それ自身新規な発明を構成するものでなければならないことは、いうをまたない。しかるに原告の右追加特許出願にかゝる発明が、特許の要件を具備しないものであることは、前段で述べたところであり、また審決は、「待避局所」なる用語自体こそ使用していないが、引用公報の記載と原告の出願発明内容を対比するにあたり、原告が請求原因二において詳細に説明している「待避局所」に相当する観念、構造は、これを考慮におき、また通焔孔と火床面積との対比数値も、隔壁の部位、方向と関連せしめて判断していることは、先に認定した審決の記載自体から明らかであるから、原告の右の非難は当らない。

原告は、また新案にしても、特許にしても、工業化し得るものでなければならないものであるのに、審決の引用した実用新案公告は、一片の机上設計に過ぎず、工業化し得ないものであるのに対し、原告の出願発明は、原発明と相俟ち、従来の卓抜な燃焼効果を、更に優秀完ぺきならしめたものであると主張するが、原告の提出援用する証拠を以ては、未だ果して、原告の本件出願発明が、原告主張のような効果を挙げているかどうかは、これを認定することができないし、また引用した刊行物の内容が常に必ずしも実用新案または特許としての要件を具備することは、これを要しないものと解すべきであるから、原告の右の主張は、これを採用しない。

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