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東京高等裁判所 昭和24年(行ナ)21号 判決

原告 田中暁二

被告 松江靖夫

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

二、事  実

第一、請求の趣旨

原告訴訟代理人は、「昭和二十四年抗告審判第二四二号事件について、特許庁が昭和二十四年十一月二十八日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めると申し立てた。

第二、請求の原因

原告訴訟代理人は、請求の原因として、次のように述べた。

一、被告は登録第三二七一七三号の実用新案権を有したものであるが、原告の製造販売する(イ)号図面に示す搾油機は、右実用新案権の権利範囲に属するものであると主張して、昭和二十二年十二月二日特許庁に実用新案権利範囲確認の審判を請求した。(昭和二十二年審判第六四号)右事件において特許庁は、被告の請求を認容したので、原告は、昭和二十四年八月八日これに対し抗告審判請求をなしたところ、(昭和二十四年抗告審判第二二四号)、特許庁は昭和二十四年十一月二十八日「本件抗告審判の請求は成り立たない。」との審決をなし、右審決書謄本は、同年十二月一日原告に送達せられた。

二、しかしながら、右審決は、実用新案法に準用される民事訴訟法の規定に違背し、争点を逸脱し、かつ原告の主張事実について審理を尽さないのみならず、原告の提出した唯一の証拠方法である人証申請を排斥しながら、被告の申請にかかる証人の不明確な証言に基いて事実を認定し、採証の法則に反して、審理判断をなしている。いまこれを詳しく述べると、次の通りである。

(1)  原告は、(イ)号図面に記載されているような搾油機を製造販売した事実はない。原告が製造した搾油機は、(ロ)号図面に示すようなものであつて、(イ)号図面に示す搾油機とは、別な考案にかかるものである。従つて被告は、確認審判を求めるについて、利害関係人に該当しないから被告の審判請求は不適法として、当然却下されなければならない。しかるに、審決は、証人西島忠作の証言により、原告が(イ)号図面に示す搾油機を製造販売した事実を認定したが、右証言によつては、原告の製造販売した搾油機が(イ)号図面のものか(ロ)号図面のものか毫も明かでない。しかも特許庁においては、この点に関する原告の唯一の証人を採用せず、みだりに、(イ)号図面の搾油機と(ロ)号図面の搾油機とは実質的に同一なりと認定し、殊に甚しいのは、被告考案に係る登録第三二七一七三号実用新案の搾油機の吊上弾機と、(イ)号図面及び(ロ)号図面の各搾油機における押上弾機とが、作用効果の上に格別の差異なしと断定しているが、右の諸点に関する根拠について、何等具体的説明を与えていない。しかし(イ)号図面の搾油機は、原告製造の(ロ)号図面の搾油機とは異なるものであり、いわんや被告の有する実用新案にかかる搾油機とは、構造並に作用の上に、著大な相違があり、この相違は、前記登録実用新案の権利範囲に属しない新規の考案にかかり、原告の権利実施を正当ならしめるものである。審決には、手続の違法及び虚無の証拠による認定若くは重大なる事実の誤認があり、取消を免れない。

(2)  原告の製造した(ロ)号図面に示す搾油機は、木製の左右の機枠(1)(1)を上梁(2)でつなぎ、左右機枠の内側に案内桿(3)(3)を立設し、該案内桿間を上下に摺動する梁(4)を嵌合し、梁(4)の両端に叉状片(5)(5)を取り付け、該両端部に夫々作用させるようにその下方に、案内桿(3)(3)に捲回させた押上弾機(6)(6)を設け、該弾機(6)(6)の下方で案内桿(3)(3)に嵌装した弾機の強弱を調節する調節輪環(8)(8)を、該輪環に穿設した二箇の螺桿挿入孔(9)(9)(10)(10)において螺桿(11)(11)(12)(12)を挿入螺締させるようにし、なお案内桿の下部表面は粗面(13)(13)にし、螺桿(11)(11)(12)(12)を螺締する際、その先端の喰付を効果あらしめるようにし、梁(4)と上梁(2)との間に手動油圧機(7)を介在させる構造のものである。

右の説明によつて明かのように、(ロ)号図面に示すものは、押上弾機の強弱を自由に調節し得るため、弾機の下部を適当の位置に自由に螺締し得る構造であるのに対し、(イ)号図面に示す構造は、押上弾機(6)(6)の下端に接し、止環を嵌挿して、これに止ネヂを施して定持させる点において構造を異にするものである。

さらに、被告の登録実用新案にかかる構造の吊上弾機は、「油圧機の油戻し弁を開いた時には、その蓄えられた弾力によつて、自動的に急速に油圧機を短縮復帰せしめることが、この弾機を設けた狙いである。」と自認しているように、吊上弾機の作用は、実に右に尽きている。換言すれば、油圧を抜いたとき吊垂された梁を原位置に復帰させる丈けの効果作用を有するに止まる。そしてその原位置に復帰する場合、左右の弾機の力の強弱により、梁が水平でなく、或は左に、或は右に傾斜したままであつても、これを矯正し、正しく水平に復帰する作用はない。しかも、案内桿のない吊上弾機は、弾機自体横振するため、一層その弊が甚だしい。かくて再び被圧搾物を圧縮せんとするとき、梁は傾斜したまま下降することにより、圧力は被圧搾物の上に万遍なく及ばないため圧搾の効果は十分に挙らない。これに反し、押上弾機は、単に油戻し弁を開き圧力を抜いた場合、梁を復帰させる丈けの作用のみでなく、圧力を加えて梁を下降させ被圧搾物を圧縮する際、下降する梁の長さ方向の傾斜、横振を妨ぎ、被圧搾物の面に平均に全圧力が及び得る作用を狙つたものである。即ち、(ロ)号図面において、弾機を案内桿に捲回せしめたことは、被告の登録実用新案権とその目的作用を異にすることを示す顕著なものである。

弾機は吊上弾機によるか、押上弾機によるかは、弾機使用の場合に、当業者が任意選択し得る慣用技術に属し、この点に関する差異は、単純な構造上の微差に過ぎないと説明しているが、これは等しく弾機と呼んでも、装置の目的作用について、差異のあることを忘れた形式論で、その誤つていることは、いうまでもない。ことに被告の実用新案権にかかる弾機は、単に原位置に復帰させる目的のみであるから、これを案内桿に捲回させる必要のないのは当然であるが、原告の(ロ)号図面の弾機は、単は原位置への復帰のみでなく、梁(4)下降の際の長さ方向の傾斜、横振を防ぐ作用目的のため弾機自体、横に動くことのないよう案内桿に捲回させたものである。

以上いずれからしても、審決は失当であるからこれが取消を求める。

三、なお、被告主張二の事実について、次のように述べた。

(1)  被告の有していた実用新案権が、昭和二十五年二月八日に消滅したことは争わない。しかし被告の採用する大審院判例は適切でなく、新憲法下当然変更せられなければならないものである。大審院の見解は、実用新案権の範囲確認審判の請求は、現存する実用新案権の範囲を確定することを目的とするものであり、その消滅した後においては、該権利につき範囲確認の審判請求を為し得ないのは勿論、当初においては権利存続しても、審決以前において、その権利消滅すれば、その請求を棄却するものとしたが、かくの如きは甚だしく実情に反し、形式論に堕した議論である。けだし、権利範囲の確認審判請求について、特許庁が不当に権利範囲確認の審決を与えたことにより、審判被請求人から、訴訟を提起した場合、審判請求人は、訴訟において不利と見れば、故意に自己の実用新案権を消滅せしめて、審判被請求人訴訟の提起を無効ならしめ、明かに取り消されるべき筈の審決を採用することにより、権利消滅以前の審判被請求人の行為について、権利侵害を理由として、損害賠償請求の訴において、奇利を得んとするものが少くないからである。かかる場合損害賠償請求訴訟の相手方たる被告は、本訴の内容として権利範囲に付き争い得るとはいうものの、矢張り特許庁のなした不当な審決が、形式的の理由で、そのまま確定していることは、損害賠償請求訴訟において、一応の証拠ともなり、それが裁判官を心理的に拘束することは、拒み得ない事実である。このことが従来学者及び実務家が右判例に対し挙げて反対する所以である。即ち実用新案権消滅後と雖も、該権利消滅以前の行為による損害賠償の問題は、殆んど例外なく残存する故、途中において権利消滅しても、本来の争に係る権利範囲確認を求める必要あり、又そのことが後に無駄な損害賠償請求の本訴の提起を防止することにより、訴訟経済の趣旨にも合致することとなる。

(2)  憲法第七十六条第二項後段は、行政機関は終審として、裁判を行うことはできないと規定している。旧憲法時代における特許庁の審判に対する大審院への上告申立は、所謂確認訴訟の上告審たる性質のものであつた。従つて前記判例は、確認訴訟の性質として、過去の権利関係の確認を許さざるの法意に出た趣旨と解される。これに反し、新憲法下においては、本訴は、行政訴訟事件として、第一審たる性質を有するもので、その制度の上からして、従前の所謂確認訴訟の上訴審とみるべきものではなく、従つて従来の大審院判例はそのまま適用せらるべき性質のものでない。けだし本訴を認めた理由たるや、上述の如く、行政機関は終審として裁判を行い得ず、行政機関たる特許庁のした審決は、本訴においてその当否の判定を受くべく、それが当否の判定は、結局審決当時の状態を標準として決するものと解さねばならならいからである。従つて、たとえ実用新案権が現存しなくても、特許庁の審決当時権利存在し、特許庁がそれを基礎として審決をなした以上、そのままの条件において、実質的に該審判の当否を判定すべく、その後権利消滅したることは考慮さるべき事項ではない。しからざれば、審決の当否は、遂に判定せられないこととなり、結局行政機関の裁判に対し、実質的に終審たる効果を附するような不当なこととなるからである。

(3)  以上の理由で、若し旧判例の見解により、権利が消滅したとの一事により、審決の実質的な当否の判定をなすことなく、本訴を棄却されるときは、原告は次に来るべき損害賠償請求の訴において、実質的に終審たる内容を有する特許庁の審決を援用される不利益を防止することはできなくなり、結局憲法の規定の保護を受け得ないこととなる。

第三、答弁

被告訴訟代理人は、主文第一項同旨の判決を求め、答弁として、次のように述べた。

一、原告主張の請求原因一の事実は争わない。

二、しかしながら、被告が有していた登録第三二七一七三号実用新案権は、原告が本訴を提起した後ではあるが、昭和二十五年二月八日特許法第六十九条第二項の規定により消滅した。従つて右権利消滅後その権利に関しての審決の取消を求める本訴請求は、従来の幾多の大審院判例に示されているように、棄却を免れない。

三、次いで審決の当否について、原告は、(イ)号図面の搾油機を製造販売したことはないと云つているが、それはいつわりである。しかのみならず、(ロ)号図面との差違は、機械の構造上技葉末節にすぎず、しかも要部以外の部分のため、別段必要もないものとして、(イ)号図面に詳細図示することを省略したものである。

第四、(証拠省略)

三、理  由

一、原告主張の請求原因一に記載せられた事実は、当事者間に争がない。

二、被告の有していた、従つて被告が、これに基いて特許庁に権利の範囲の確認審判を請求をした、登録第三二七一七三号実用新案権が、原告が当庁に本訴を提起した後昭和二十五年二月八日、被告が登録料を納付しなかつたため、消滅したことは、当事者間に争のないところである。被告は、この事実に基いて、実用新案権消滅後、その権利の範囲の確認審判における審決の取消を求める本訴請求は、従来の幾多の大審院判例に示されているように、棄却せられるべきものであると主張する。しかしながら、従来の大審院判例も、この点について必ずしもその軌を一にしていないばかりでなく、(例えば、大正十一年(オ)第八七八号、昭和三年(オ)第三六一号、昭和七年(オ)第二〇三四号事件の各判決と昭和八年(オ)第一五九号、昭和十一年(オ)第九九七号、同年(オ)第二〇八四号事件の各判決とは、この点について、反対の見解を示している。)、特許庁の抗告審判の審決が、法令に違反したことのみを理由として、これに対する不服申立の方法を規定した、改正前の特許法第百十五条の規定による大審院への出訴と、事実法律の両面にわたり、広く特許庁の抗告審判の審決が違法なりとして、その取消を求める特許法第百二十八条の二の規定による当庁への訴の提起との間には、おのずから差違が存し、従来の大審院の判例が必ずしも当然に、当庁における審理判決にあてはまるものとはいい得ない。しかのみならず、更に遡つて、一体特許権、実用新案権等の権利の消滅が、その権利の範囲の確認審判請求について、如何なる関係を持つかについて審究する必要がある。民事訴訟法上確認の訴は即時確定の利益がある場合に限つて認められ、しかもすでに消滅した権利についてはこれが即時確定の利益はない。権利消滅後若し、なお何等かの必要があれば、当事者はこれに伴つて起きた、現在の権利又は法律関係、たとえば、所有権が不法に消滅せしめられた場合には、損害賠償請求権について確認を求めれば、権利の保護に欠くるところはないとするのは、民事訴訟法上確立せられた法理であり、従来特許権、実用新案権等の範囲の確認審判請求も、これと全く同一の法理のもとに取り扱われ、特許権、実用新案権の範囲確認審判請求は、現存するこれらの権利の範囲を確定することを目的とし、従つて特許権の消滅した後は、その範囲の確認審判請求を求める利益はないとされて来た。(大審院大正十一年(オ)第八七八号判決参照)しかしながら特許権等の範囲の確認審判請求は、民事訴訟法上の確認の訴とは、必ずしもその性質を同一にせず、その請求の中心は、決して権利そのものの存否の確定にあるのでなく、権利の内容が、他のある一定の権利、物、方法等と如何なる関係を有するか、即ち権利の牴触、侵害について紛争のある場合、その前提問題として、権利の技術的内容たる発明、考案の範囲の確定を求めるものであつて、しかもその必要は、権利の消滅によつて、当然に解決せられるものでもなければ、また消滅するものでもない。このことは、権利の範囲の確認審判請求が、前述のように、主として権利侵害の紛争について、民事訴訟、刑事訴追等他の手続の前提とし、またはこれに関連して提起せられ、しかもこれら民事訴訟等が、権利の現に存在することを必要とせず、権利の現存とは全く無関係に提起し、かつ維持することができることに徴して明白である。元来前述の意味における特許権等の範囲の確定は、これら権利の侵害に基く損害賠償の請求訴訟等において、裁判所が、当然自らこれを審理判断すべき権能と職責を有する事項であるばかりでなく、これを全然裁判所の判断に任せ、我が法制に見るような特許官庁による権利範囲確認の制度を認めていない幾多の法例が存在するにもかかわらず、なお我が特許法が、権利の範囲の確認審判請求の制度を認め、裁判所以外に、特許庁をして、これが認定判断をなさしめているのは、我が国の実情に照らし、かかる事項は、裁判所によるよりも、専門の技術官庁である特許庁をして、これを審理判断させる方が、より一層適切な結果を期待することができるであろうという立法政策上の考慮に出でたものであると解せられるべきであり、そして、この立法政策上の必要が、権利消滅の一事により、権利侵害の紛争それ自体には何等の変更をも来さないのにかかわらず、突如喪失してしまうものとは到底解されない。換言すれば、権利の範囲の確認審判請求は、それ自体を目的とする独立の確認の訴ではなく、他の請求を実現するについての、前提問題の審理判断と観念せられるべきものであるから、両者を全く同一性質のものとして、民事訴訟法上の確認の訴の法理を、これにそのまま適用すべきではなく、それ自身の立場において、その妥当する範囲を決定しなければならないと解せられる。

権利の存否、消滅にかかわらず、権利の範囲の確認審判請求の追行を求める必要があることは、前述のとおりであり、なお他の民事訴訟法の一般の例におけるように、権利の消滅後、これに伴つて起きる、他の現在の法律関係を想定し、これが確認の審判請求に移行するというようなことの全然考えられない権利の範囲の確認審判請求にあつては、権利の在否にかかわらず、およそ他にこれを必要とする事情が存在する限り、(特に、民事訴訟上権利侵害を前提とする損害賠償請求権について、裁判上の抛棄がなされたような特殊の場合を除き、広く裁判上、裁判外で、権利の牴触、侵害に関する争の生ずる虞のある場合は、常にこれを必要とする事情は存するものと解せられる。)これを提起し、維持することができる。すなわち、権利の消滅は、その権利の範囲の確認審判請求の審理、判断に何等の影響を及ぼさないものと解釈するのを相当とする。

これを本件について見れば、被告の登録料の不払による権利の消滅にかかわらず、被告と原告との間に、権利の消滅前における原告の行為にについて、なお紛争の生ずる虞のあることは、弁論の全趣旨に徴し明白であるから、この点に関する前述の被告の主張はこれを採用しない。

三、よつて本案の内容について、審理する。

(1)  被告が原告において製造すると主張した(イ)号図面に示す搾油機と、原告において自ら製造販売したと主張する(ロ)号図面に示す搾油機の両者を、その成立に争のない甲第一、二号証並びに特許庁から送付し来た昭和二十二年審判第六四号事件記録中の、被告提出の審判請求書昭和二十三年十一月四日付補充書記載の(イ)号図面及び説明書と、原告提出の昭和二十三年七月二十二日付追加理由申立書記載の(ロ)号図面及び説明書とによつて対比するに、前者には、後者に明示してある案内桿(3)(3)の下部表面が粗面であること及び右案内桿に嵌装した弾機の強弱を調節する調節論環(9)(9)(10)(10)を固定させる螺桿の数を明らかにしてない外は、右両者は全く一致し、しかも右前者において明らかにしていない前記の諸点は、構造上の細部に亘るものに過ぎず、これがため本件実用新案の権利の範囲の確認には、何等の影響を及ぼすものではないと解すべきであるから、本件事案の判断については、右(イ)(ロ)両号図面に示すものは同一の物品と認定すべく、原告援用にかかる証人高橋忠弘の証言及び検証の結果も、右認定を左右するに足りない。原告は、(ロ)号図面に示す調節論環の位置が移動可能であることを、(イ)号図面に示すものと、重要な相違点としているが、前記図面及び説明補充書によれば、後者においても、止環は螺桿(セツトスクルー)で螺締されておるものであることが認められ、螺桿で螺締したものは、取付け、取外しが自由であることは、いうをまたないところであるから、(イ)号図面説明書に「その下端を定持させ」と記載してあるのは、一般の螺締の場合と同様、「一定の位置に支持させ」たことを意味するものと解すべく、これにより「定位置に固定せしめ」、必要に応じその位置を変更することを不可能ならしめたものと解すべきではない。

これを要するに、本件事案の判断については、(イ)(ロ)両号図面は、同一の物品であると解すべきであるから、右両者が別異の物品であることを前提とする、原告の審決に対する攻撃非難の理由は、これを採用することができない。

(2)  次に被告の登録実用新案と(イ)号図面に示す搾油機との類否について判断する。

職務上当裁判所に顕著である登録第三二七一七三号実用新案液汁搾取機の実用新案公報によれば、右登録実用新案は、その考案の要旨として、「登録請求の範囲」の項に、「機枠(1)内左右に二本の案内桿(3)(3)を立設し、該両案内桿間に、夫々端部(5)(5)を係合せしめた梁(4)を緩く嵌設し、該梁(4)の両端部に夫々吊上弾機(6)(6)を設けて、これを機枠より吊垂支持せしめ、該梁(4)と機枠の上梁(2)との間に、手動油圧機(7)を介在せしめて成る液汁搾取機の構造」と記載されているが、「実用新案の性質、作用及び効果の要領」の項中には、本考案の効果として、「斯る場合若し油圧機機底を直接図示の押枠(10)の如き場所に承けしめて置くときは、被圧搾物の不平均な収縮により、油圧機を傾け扛重桿を強圧により歪曲せしめること往々あるものなり。本実用新案は、右の如き点に鑑みて工夫せられたるものにして、被圧搾物の不平均なる収縮により、油圧機の損することなく、又油圧機の発生する強圧力を傾斜することなき吊垂梁に伝え、該吊垂梁の降下により、押枠を強圧せしめるようになしたことにより、被圧搾物を平均正状に圧搾せしめ得る等の効果あるものなり。」と記載するのみで、前記の請求の範囲の項に記載されている吊上弾機の効果、殊に弾機を吊上式に使用している点の効果については、何も述べていないところから見ると、右実用新案の考案の要旨は、「四角に組み立てた機枠の左右の柱の内側に一本ずつの案内桿を立て、この案内桿に、その両端の係合部を嵌合させて水平状態で上下する移動梁を、両案内桿の間に設け、移動梁と機枠の上梁との間に、手動油圧機を介在させ、移動梁の下に被圧搾物を挿入するようにし、更に移動梁と手動油圧機との重量を支え、油圧機の作動時以外は、常に移動梁を上方に保持して、被圧搾物の出入等に便ならしめるために、移動梁の左右両端部に吊上弾機を附して、機枠の上梁から移動梁を吊持させた液汁搾取機の構造」であるものと解すべく、該構造中「機枠の内側に案内桿を立て、移動梁両端の係合部を該案内桿に嵌合し移動梁の上に油圧機を置き、移動梁の下を被圧搾物を挿入する場所にした構造」が、特に重要な点であつて、「吊上弾機で梁及び油圧機を上方に保持させるようにした構造」は、第二義的のものであることが認められる。

次に(イ)号図面に示す搾油機は、該図面及び前記説明書の記載により、「四角に組み立てた機枠の左右の柱の内側に、一本ずつの案内桿を立て、この案内桿に、その両端に係合金具を嵌合させて、水平状態で上下する移動梁を、両案内桿の間に設け、移動梁と機枠の上梁との間に、手動油圧機を介在させ、移動梁の下に被圧搾物を容れる搾桶を挿入するようにし、更に移動梁と手動油圧機との重量を支え、平時は移動梁を上方へ保持して、被圧搾物の出入等に便ならしめるために、案内桿に押上弾機を捲回し、弾機の上端で移動梁を支え、下端は案内桿に嵌装した止環で受けさせ、この止環は、案内桿に螺桿で締着した構造」のものであることが認められる。

以上両者を比較すると、前者は、広く「液汁搾取機」の構造であるのに、後者は、特に「搾油機」とその用途を限定しているが、搾油機も液汁搾取機の一として前者のうちに包含されるものであり、構造の点では、両者共に、前述のように、「四角に組み立てた機枠の左右の柱の内側に、一本ずつの案内桿を立て、この案内桿に、その両端の係合部を嵌合させて、水平に上下する移動梁を両案内桿の間に設け、移動梁と機枠の上梁との間に、手動油圧機を介在させ、移動梁の下に、被圧搾物を挿入するようにし、更に移動梁の両端部に作用する弾機を設けて、移動梁とその上の油圧機とを平時上方に保持させた構造の液汁搾取機」としては、全く一致し、ただ移動梁と油圧機とを平時上方に保持する装置として、前者が、移動梁の両端に作用する吊上弾機を設け、上梁から吊垂したのに対し、後者では、案内桿に捲回した押上弾機を以つて移動梁を支え、その下端を螺桿で案内桿に締着した止環で支持させた構造を有する点で相違する。しかも右一致点は、前述の本件登録実用新案の最重要点を完全に包含しており、また、前者のように吊下弾機を以つて上から吊持しても、後者のように押上弾機で下から保持しても、平時移動梁を上方に保持させるという点では、効果作用に差異はなく、後者が弾機の力を調節するに都合のよいという効果はあるにしても、右は本件実用新案の効果作用に直接関係のない附加的効果に外ならないものであるから、本件実用新案との類否の判定には、影響を及ぼすものではなく、この場合右弾機に関する移動梁の上方保持装置の構造は、均等のものといわざるを得ない。なお、原告は、(イ)号図面に示された弾機は、単に原位置への復帰のみでなく、梁下降の際の傾斜横振を防ぐ作用の目的のため案内桿に捲回させたと主張するが、梁は上述のように、案内桿によつて、その傾斜及び横振を阻止されているものであり、かつ、押圧螺状弾機の形状が比較的長いときは、その作用を確実ならしめるため、これを案内桿に捲回させることは、機械製作上当然なされるところであつて、すでに押上弾機の作用効果が吊上弾機のそれと均等のものと解せられる以上、これによつて格別の効果作用を発生せしめたものと認めることはできない。結局全体の構造として、(イ)号図面に示す搾油機は、本件実用新案の考案要旨とする構造と類似するものと判定する。

なお原告は、(イ)号図面に示すものにおける押上弾機は、単に移動梁を上方に保持することのみを目的とするものでなく、その圧下作用状態において、これを水平に維持するものあると主張しているが、この弾機の力は、大部分移動梁及び油圧機の重量と相殺され、その余力は油圧機の力に比較し、甚だしく弱いものであるから、この力で梁を水平に維持するというようなことは、到底考えられない。更にまた原告は、(イ)号図面に示すものは、左右の弾機の力に差異のある場合に、下部の止環を移動して、その調節を行い得る点で効果を有し、本件実用新案とは別個の考案を構成し、従つて両者は類似しないと主張するが、本件実用新案と(イ)号図面に示すものと類似するかどうかという問題と、各自が別個の考案を構成するかどうかという問題とは、ある発明とこれが改良発明の場合の関係を考えて見るまでもなく、全然別個に考察すべき問題であつて、(イ)号図面に示す搾油機が、たとえ原告の主張するような別個の実用新案としての考案を構成するものであつても、そのことは、右搾油機が本件実用新案の考案要旨とする構造と類似する構造を具備するかどうかの判定に影響を及ぼすものではない。

以上の理由により、(イ)号図面に示す搾油機は、全体の構造として、本件実用新案の考案の要旨とする構造と類似するものであるから、前者は後者の権利範囲に属するものと判定すべきであつて、以上説明と結局において、同趣旨に出た審決には、所論のような違法はない。

よつて原告の本訴請求は、理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法八十九条を適用して、主文のように判決した。

(裁判官 小堀保 原増司 裁判官梅原松次郎は退官につき、署名捺印することができない。裁判官 小堀保)

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