大判例

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東京高等裁判所 昭和25年(う)1319号 判決

検察官の控訴趣意は末尾添付の控訴趣意書と題する書面記載のとおりであつて之に対し当裁判所は次のように判断する。

本件につき原審で適法に取り調べた凡ての証拠を検討するに、先づ被告人の原審公廷における供述その他昭和二十四年四月二十日附司法警察員に対する供述調書、並びに検事に対する供述調書の各記載によると被告人は居村川上村根古谷部落の世話係又は受検組合長として同部落所在の川上村農業協同組合所属の第八号支庫の管理を同組合から依託され同支庫に在庫する政府管理米等の保管の事務に従事中昭和二十三年三月中二回に亘り六俵と四俵計十俵の米を同倉庫内から搬出したが、右はいずれも一重俵で票箋もなくこの分は検査を了した昭和二十二年度の供出米でなく繰越しになつた無籍米かとも思つたし、その頃近く郡の食糧検査所から係員が検査に来ることを聞知したので之を入庫して置いては工合が悪いと思い本庫の主任とも相談の上一時自宅に搬出の上完全なものにして入庫する考えであつた。

然るに同年四月九日、自分の部落に火災があつたので無断でその米をその救済用に使つたが、後で埋合せをする考であつて自己に領得する意思はなかつたと謂うのであつて、少くとも被告人が職務上管理を依託されていた前掲川上村農業協同組合所属の第八号支庫から計十俵の米を搬出しその後居村の火災に際し之を救済用として正規の権限に基かないで流用した事実は右供述乃至供述記載と他の関係証拠とを対照して優に之を肯認し得るところである。

原判決は検察官の公訴事実に対し単に犯罪の証明なしとして無罪の言渡したのであつてその理由の詳細については之を知るに由ないが、前掲被告人の弁疏乃至一切の証拠関係から考えると右被告人が搬出したという米十俵については(一)公訴事実に訴因として明示された同支庫内の政府管理米十俵であることの証拠がないから結局公訴事実の証明なしと断定したか或は(二)右が政府管理米であるとしても被告人の右搬出行為乃至之を部落の火災に際し救済用として流用しても不正領得の意思の発現と認められず従つて横領罪は認められないと断じたか、そのいずれかにあるものと推測するの外はない。

しかし(二)の点については被告人の弁解その他原審証人田暮甲一の供述等により右搬出行為自体を以て不正領得の意思発現と認めることは妥当でないにしても、その後之を正規の権限に基かずして自己の部落の火災に際し救済用として流用した以上、横領罪の成立すること疑う余地がない。蓋し横領罪の成立に必要な領得の意思は必ずしも自己の占有する他人の物を不法に自己の物として自己に領得する意思のみに限るものでなく、かかる物を第三者に不正に領得させる意思も亦これに当ると解すべきだからである。

従つて本件において問題となるのは前記(一)の点についてであるが成る程被告人の前掲供述乃至供述記載、又は前記搬出に当つたという来栖秀雄、渡辺幸正の各司法警察員に対する供述調書の記載にある如く、仮りに右搬出の米十俵が一重俵に包装され或は票箋がついていなかつたとしても右事実だけでは直ちに以て政府管理米にあらずと速断し得ない筋合である。何となれば論旨に指摘するように主要食糧検査令施行規則等の規定上も検査を受ける玄米等につき例外として一重俵の包装を許される場合もあり、又票箋等の破損脱落することあるを保し難いから、之に対処する規定も設けられているのであつて、更に本件の場合について観るに当審証人花沢三郎、日暮甲一の各供述に照しても当時実際の慣行としても一定の場合に単俵のまま検査を了した事例もあつたことが窺い得るからである。

原審としては須らくこの点についてなお審理を尽した上公訴事実の有無について判断を加うべきであつたに拘らず漫然犯罪の証明なしと断じたのは結局審理不尽の結果判決に影響を及ぼすこと明らかな事実の誤認あるに帰するから到底破棄を免れない。

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