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東京高等裁判所 昭和25年(う)1414号 判決 1950年7月18日

被告人

岡八重子

主文

本件控訴は之を棄却する。

理由

前略。第二点は、原判決は、審判の請求を受けた事件に付判決をせず、審判の請求を受けない事件について判決をした違法があると謂うのである。仍て按ずるに、原判決の判示する第二の事実は、起訴状に依れば、被告人は本件建物一棟を西川浩に賃貸するに当り同人より権利金十五万円を受領したというにあたつて、その添附の別紙賃貸一覧表の記載に依れば、右賃貸の始期は昭和二十三年六月一日であるから、その権利金受領の時期はその頃であることは自明である。そしてこれに対する罰条として、起訴状は、地代家賃統制令第十二条第十八条を掲げている。之に対し原判決は、被告人は昭和二十三年六月西川浩に本件建物を賃貸するに際し神奈川県知事の認可を受けずして同人より借家権利金として現金十五万円を受領したものと認定し、昭和二十三年政令第三百二十号に依る改正前の地代家貸統制令第十八条第一項第二号第十一条第六条第一項を適用したものであることは所論の通りである。これに依つて見れば、原判決は起訴状記載の公訴事実に、「神奈川県知事の認可を受けないで」という事実を附加して認定したものであるが、更に右起訴状の記載に依れば、第一に、被告人が神奈川県知事の認可を受けないで本件家屋を西川浩に判示の家賃を以て賃貸した事実を記載し、これを受けて第二として、前示の如く権利金を受領した事実を記載したものであるから、当然に、右権利金の受領に付いても県知事の認可を受けないで為したものである趣旨はこれを窺うに足りるところであり、結局此の点に関する原審の認定は、訴因の追加変更等の問題を生ずる迄もなく、固より公訴事実の同一性の範囲内にある認定というべきものである。只起訴状は此の事実に対する罰条として、前記の如く地代家賃統制令第十二条第十八条を掲げたものであるが、右第十二条は同令第三条(第十一条において準用する場合を含む)の脱法行為を禁止する規定であるところ、本件においては、本件違反当時その借家に付、右第三条に規定する如き停止統制額も認可統制額も有しなかつたものであるから、それの脱法行為禁止の規定を適用する余地は存有せず、原判決の適用した、前記改正前の同令第十一条第六条に該当するとなすのが正しい。即ち起訴状はその罰条を誤つたものに過ぎない。此の誤りは本件に於て、被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞がないから公訴提起の効力に影響を及ぼすものではない。

又いはゆる罰条は、公訴事実に対する法律的判断をいうものであるから、これが適用は窮局に於ては裁判所の権限に属するものであり、被告人の防禦に実質的な不利益を及ぼさない限り裁判所は特に罰条の変更を命ずることなくして、起訴状と異なつた罰条を適用し得るもるのと解すのを相当とする。されば原判決は、起訴状に記載せられた公訴事実と同一性ある事実を認定した上、適法に罰条の適用を為したものというべきであつて、これを以て審判の請求を受けた事件に付判決せず審判の請求を受けない事件に付判決をしたものと為すことはできない。即ち論旨は理由がない。

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