東京高等裁判所 昭和25年(う)1500号 判決 1950年8月12日
被告人
倉門喜一
主文
本件控訴はこれを棄却する。
理由
前略。先づ沢田喜道の控訴趣意書第二点について按ずるに、裁判所法第七十四条が、裁判所では日本語を用いると規定しているのは、裁判所における訴訟行為の用語として、口頭、書面一切の行為に日本語を用いることを要求しているものと解すべきであるが、このことから外国語で作成された証拠物である書面、又は証拠書類は、当然証拠能力を否定されるものというべきではない。蓋し、刑事訴訟法第百七十七条は、国語でない文字、又は符号は、これを飜訳させることができると規定しているから、右の外国で作成された書類も、飜訳に依りその内容を明らかにした上、これを証拠として提出するにおいては、裁判所がこれに証拠能力を認め得ない理由はないし、又裁判所法第七十四条の要請に反することもない訳である。これを本件について見るに、原審第二回公判調書の記載に依ると、原審検察官は、原審公判廷において原判示事実の立証として所論の、ウォルター、P、キュラム作成の犯罪捜査官報告書を、他の証拠書類とともに取り調べを請求し、被告人竝に被告人の原審弁護人は、いずれもこれを証拠することとに同意したので、原審検察官はこれを和訳し朗読した上、裁判官に提出したことを認めることができるのである。しからば、原判決が、原判示事実認定の証拠の一つとして、所論のウォルター、P、キュラム作成の犯罪捜査官報告書の記載の一部を引用し、且右報告書の記載文であること、原判決竝に右報告書自体に徴し明らかであるが、右報告書の記載は前記のように、証拠とすることの同意を得た上和訳して朗読されているのであるから、適法に証拠調を経た証拠書類の記載であり、その報告書が英文であるからとて、裁判所法第七十四条に依つて証拠能力迄も否定されるべきでないことも、亦前示の通りであるから、これを原判決が、原判示事実認定の証拠に援用したことは、何等所論のように訴訟手続上の法令違反を犯したものということはできないのである。従つて、原判決にこの点の法令違反があると主張する論旨は理由のないものである。