東京高等裁判所 昭和25年(う)1914号 判決
原判決挙示の証拠中被告人の労働基準監督官に対する第一回供述調書と相沢藤次郎名義の始末書の記載及び証人相沢藤次郎の原審公判廷に於ける供述とを綜合すれば被告人はその経営せる土木建築請負の事業に使用せる労働者相沢藤次郎に対し昭和二十三年九月分賃金二百円と同年十月分賃金の中八百円を夫々月末の支払期日に支払わなかつたが同年十一月には同月分賃金三千八百円に対し四千九百七十円を支払つており、更に同年十二月分の賃金四千五百五十円の中四千百円を同月末支払つたのみであつたが、昭和二十四年四、五両月分の賃金五百円に対し七百円を支払つた事実が認められるのである。従つて右賃金支払を、清算すれば結局被告人が相沢藤次郎に対し未払賃金残高は金八十円のみであることは所論の通りである。しかし労働基準法第二十四条は「賃金は毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない」と規定しているのであるから、前記のように昭和二十三年九月分と十月分の賃金の一部合計千円を夫々その月の末日までに支払わなかつたこと明白な以上、これによつて同法第百二十条の犯罪は成立するものといわねばならない。従つてたとえ右期日後に至つて被告人から未払賃金を支払つても、民法上の債務不履行の責は免れても一旦成立した犯罪が消滅する理由がないから原審が昭和二十三年九月分の賃金二百円と同年十月分の賃金八百円の支払を期日に支払わなかつたことを認めたのは正当である。而して被告人が同年十一月支払つた賃金超過分千百七十円の中千円は前記九月分十月分の未払賃金に充当しなお百七十円の超過支払が残つているのであるから、これを同年十二月分の賃金支払に充てるのが相当であつて、この百七十円を右十二月分賃金支払に加算すれば同月分の未払賃金は二百八十円となるわけである。昭和二十四年一月に支払われた二百円の超過賃金は昭和二十三年十二月分の賃金不払の犯罪成否に影響のないことは前段説明と同一である。原審は右昭和二十三年十二月分の賃金不払額は八十円のみと認定している。しかし証人住谷自省の証言は被告人の前記超過支払の事実に触れるところなく明確な根拠がないから当裁判所は採用し難いと考える。しかし被告人のみが控訴している本件に於て被告人に不利益に事実を認定すべきではないし、昭和二十三年十二月分の被告人の支払わなかつた賃金額が総計二万千二百円(右相沢藤次郎分を除外する)にも達するのであるから前記の相沢藤次郎の分の不払額の誤認は結局判決に影響なしといわねばならない。従つて論旨はその理由がない。