東京高等裁判所 昭和25年(う)2343号 判決
原審が本件証明書について、本来無価格である偽造のものを不当に高価な価格で販売する目的を以て所持したものと認定し、物価統制令第十三条の二第三十五条刑法第六十条を適用したことは原判決の事実の摘示法令の適用によつて明かである。
よつて本件の如き偽造の割当証明書に物価統制令の適用があるか否かについて案ずるに、物価統制令は物価の安定を確保し社会経済秩序を維持し国民生活の安定を図るを目的とし、同令に所謂価格等の中には国民生活に関係ある物の価格、運送賃、保管料、保険料、賃貸料、加工賃、修繕料、その他給付の対価たる財産的給付が広く包含せられ、この観点から、統制額の遵守と共に、不当高価、暴利、抱合、物々交換等の禁止、統制額違反、不当高価販売等の目的を以てする物品の所持禁止がそれぞれ規定されているのであるから、右の証明書も亦同令の対象となるものと解すべきである。尤も本件偽造に係る証明書は刑法偽造罪の対象となることは勿論であるが、刑法偽造罪の成立があることから、直ちに物価統制令の適用がないものと速断することは許されない。蓋し、刑法と物価統制令はそれぞれの保護法益を異にし、それぞれの目的を有するからである。窃取又は横領に係る物資の処分についても物価統制令の適用があると解せられるのも亦保護法益の相違に由来するのである。元来臨時物資需給調整法に基いて正当に発行された割当証明書についてすら、その転々譲渡の禁止規定があるので、その価格は本来無価格と解すべきところ、その禁止に違反した取引価格が不当な場合に於ては、物価統制令の適用ありと解すべきであるから、まして、本件の如き偽造の証明書は取引禁止物件として本来無価格と解すべきであり、他面において真正の割当証明書と極めてまぎらわしく、真偽の判定が困難であり、このことが異常にして不法不当な取引価格を生ずる原困になつていて、これが現物化される危険性があり、現物化された場合においてはその現物に割当証明書の不当取引額が加算されて、更に譲渡され、或は製品に加算されて、結局製品価格昂騰の原因となること真正な割当証明書の不当高価売買におけると径庭の少ないことが看易い道理であるから、物価統制上これを放置することを得ないものと解すべきである。
原審はこのような観点から、本件の証明書について物価統制令の適用あるものとし、正当な割当証明書についてすら、転々譲渡が禁止せられ、正当な対価として認められるものがないので右偽造の証明書も亦本来無価格なるものと看做し、これを著しく不当に高価に販売する目的を以て所持するものとして物価統制令第十三条の二を適用したものと認められるのであつて、全く相当であるといわねばならない。尚原審はその事実摘示と併せて見ると、同令第九条の二に違反してこれを取引する目的を以て所持した事実を認定したことが明かであるから、法令適用において特に第九条の二を引用しなくとも法令の適用に不備があるものということはできない。
所論はいずれも理由がない。