東京高等裁判所 昭和25年(う)2358号 判決 1950年11月21日
被告人
井口謙治こと
小林徳蔵
主文
本件控訴を棄却する。
当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
弁護人所龍璽の控訴趣意について。
(前略)論旨は原審は前記自白調書の非任意性が原審弁護人により主張せられ、これが捜査にあたつた船橋市警察署刑事某の取調の請求をなしたところ、右の証人の取調に先立ちまず、右自白調書の取調を行つたことは訴訟手続に法令の違背があると主張するからこの点について考えるのに、原審公判調書によれば論旨の指摘するが如き順序によつて証拠調のなされていることは明らかであるけれども自白調書は被告人又は弁護人によりその任意性を争われることにより直ちに証拠能力を争うものではなく、裁判所は形式上それが証拠能力があると認められる場合には、訴訟の経過に鑑み任意性について争のあるまま一応これが証拠調を行い任意性については右証拠の取調後において供述の内容その他諸般の情況に照らしてこれを検討し、然る上これを証拠として採用するか否かを決定し得るものと謂わなければない。従つて原審が所論の供述調書につき任意性に争あるまま一応その証拠調をなしたのは何等違法と目すべきではない。而して原審は右自白調書の証拠調をなしたその後において船橋市署警察吏員石塚孝文千葉家庭裁判所勤務裁判所書記官補吉野三之助等を証人として尋問し、本件自白調書の作成された当時における取調の状況、暴行、脅迫の有無等について仔細にこれを検討した上、右自白調書は強要に基き作成せられたものでないことを確めた後、これを証拠として採用したものであることは、原審公判調書の記載に徴し明白であり、且前記各証人の供述により本件自白調書が自白強要の結果作成されたものではないと認定することは、論理の法則経験則に鑑みるもいささかも不合理ではないからこの点に関する論旨も理由がない。