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東京高等裁判所 昭和25年(う)2451号 判決 1950年12月19日

被告人

古内勝敏

主文

原判決中被告人に対する有罪部分を破棄する。

被告人を懲役十月に処する。

但し本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

押収の出刃庖丁はこれを没収する。

訴訟費用中原審証人柿沼春男に支給した分は被告人は原審相被告人古内賢治、古内マツと連帯して負担しその余は被告人の単独負担とする。

理由

弁護人小祝二郎の控訴趣意第一点について。

論旨は要するに、本件公務執行妨害の点は己に逮捕状が発布されているに拘わらず、急速を要するときでもないのに逮捕状を所持せず、且つ被疑事実の要旨を告げないで被告人を逮捕しようとした場合であるから、刑訴法第二〇一条第一項、第二項、第七三条第三項に背反するものである。従つて本件判示第一のうち公務執行妨害の罪を構成しない被告人の行為は刑法第三五条、第三六条の適法行為であるというにある。よつて按ずるに何人も法律の定める手続によらなければ、その自由を奪はれないことは憲法第三一条の保障するところである。そして逮捕状によつて人を逮捕するためには、刑訴法第二〇一条所定の手続を経なければならぬことは固よりである。故に逮捕状による逮捕に際し、前掲規定によらないで人を逮捕することは司法警察員の職務として違法であることは洵に所論の通りである。しかし職務行為が違法ということと職務行為としては全然なく単に個人の行為として見るべきこととは区別すべきである。後者の場合にはこれに対し公務執行妨害罪の成立がない。が前者の場合には違法であるが、公務の執行として刑法上保護すべき場合がある。さて本件判示第一の事実について記録により調査するに、原審の証人柿沼春男に対する尋問調書によると被告人に対する逮捕の命令は十二月十三日午後二時過頃、山口刑事から電話であつたのに、翌十四日午前六時三、四十分頃被告人方に赴き罪の要旨を告げ、被告人を逮捕しようとしたのであるが、逮捕状なしで逮捕せねばならないような特別の事情はなかつた旨の供述記載並びに本件逮捕状には昭和二十四年十二月十三日発布せられ、その有效期間は同月十九日まである旨の記載によると、本件逮捕は被疑事実の要旨を告げたうえ、これをなさうとしたことは認められるが、前記法条にいわゆる緊急を要する場合であつたとは認められない。故に本件逮捕は違法である。しかしこれは一個人の私的行為と見るべきでなく、違法ではあるがやはり職務行為と解すべきである。そして前述のような事実関係の下では職務行為として刑法上保護するのが相当である。従つて被告人において柿沼巡査に対し右職務行為をなそうとした際判示行為に及んだ以上公務執行妨害罪の成立がある。被告人の行為は刑法第三五条、第三六条の適用を見ることはできない論旨は理由がない。

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