東京高等裁判所 昭和25年(う)3157号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
(爭点)
問題の公判調書には、被告人出席の公判廷において、裁判官は、検察官から証拠書類について取調の請求があつた際、弁護人に対し「右書面を証拠とすることに同意するかどうかを問い、且証拠調について意見があるかどうか」を尋ねたところ、弁護人は、「右書面を証拠とすことに同意し、且証拠調に対する意見はない」と陳述した旨の記載はあるが、被告人に対し同意の有無を尋ねたことや被告人が如何に答えたかについては何らの記載もない。原判決はこの書面を事実認定の証拠に採用している。論旨はこの書面を証拠能力のないものとして原審の採証を争つている。
(判旨)
弁護人は、その職務の性質上、被告人の訴訟行為について一般的代理権を有するものと解すべきであるから、検察官から取調請求のあつた書面に対し、たとえ、被告人自身から、直接に、それを証拠とすることに同意する旨の明示の意思表示がなかつたとしても、弁護人がそれを証拠とすることに同意し、被告人がそこに立ち会つていながら、弁護人のした右の同意に対し、即時異議を述べない場合には、被告人の同意があつたものと解するが相当であるというべく、従つて弁護人のした前示同意に対し、立ち会つていた被告人から異議を述べた形跡の記録上認められない本件においては、弁護人の同意した前示の書面については、被告人の同意があつたものと認めるのが相当であつて、且つその書面が作成されたときの情況を考慮しても、相当と認められない訳ではないから、該書面は、刑訴法第三二六条によつて証拠能力を有するものといわなければならない。
(説明)
弁護人に同意の有無を尋ねても、なお被告人にもこれを尋ねるのが、より妥当ではあろうけれども、適切な異議の申立を期待している新刑訴の当事者主義的性格を考慮すれば、判旨の如く解して差し支えないであろう。被告人と弁護人は相対立する当事者の一方の側に属するもので、若し弁護人の同意を被告人が承知しないなら即座に是正できる筈であるし、裁判所の措置に手続上の間違があれば、直ちに訴訟の專門家である弁護人を通じてなり与えられている異議権を活用すべきである。