大判例

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東京高等裁判所 昭和25年(う)4479号 判決

記録に依ると、被告人に対する起訴状には、公訴事実として第一、第二、の割当公文書と引換えないで綿糸(単糸)十六番手及び二十番手の各左撚チーズを不当に高価である代金で譲受けた事実を記載し罪名罰条として臨時物資需給調整法違反(同法第一条、第四条)指定生産資材割当規則違反(同規則第九条)物価統制令違反(同令第九条の二、第三十四条)を掲記してあり、原審第一回公判期日において原審検察官は右起訴状を朗読したのであるが、その後検察官は訴因及罰条の変更請求書を提出し、これには、公訴事実第一、第二の不当高価譲受の事実をいずれも、公定価格超過譲受の事実に変更し、罪名罰条を物価統制令違反、同令第三条、第三十四条、昭和二十三年七月十五日物価庁告示第四七四号と変更する旨を記載し、原審第三回公判廷において公訴事実第一、第二中左撚チーズとあるを左綛チーズに、物価統制令第三条の次に第四条を追加し同令第三十四条を第三十三条に変更した上、右訴因及び罰条の変更請求書に基いて陳述し、原判決は論旨摘録の通り事実の認定並びに法律の適用をしたことを認めることができる。

すなわち起訴状においても訴因及び罰条の変更請求書においても公訴事実中には、割当公文書と引換えないで綿糸を譲受けたという臨時物資需給調整法違反の訴因が記載されているにかかわらず、右変更請求書には特に罪名罰条を物価統制令違反として、その法条を掲げる丈で臨時物資需給調整法違反という罪名も罰条も掲記していないのに、原判決は、物価統制令違反の訴因の外、臨時物資需給調整法違反の訴因をも認定してこれに同法の罰条を適用していることとなるのである。元来起訴の効力としては、公訴事実として記載された同一事実の全部に及ぶものであるから、検察官が物価統制令違反の訴因だけ起訴したとしても、これと想像上数罪の関係にある臨時物資需給調整法違反の訴因に起訴の効力が及ぶこととなり、これを原審が附加認定しても請求を受けない事件について判決をしたことにはならないのであるが、かような措置を執ることは、刑事訴訟法第二百五十六条が、起訴状の要件を定めるについて罪名を挙げ、且つ罰条を記載することを要するものとして審判の対象となる範囲を明確にし、被告人の防禦権が、不当に侵害されないようにした趣旨に反するし、又同法第三百十二条が、かような場合には、検察官に訴因の追加を命じて被告人に防禦の機会を与えさせようとしていることにも反するものといわねばならないのである。従つて原審としては須く検察官に対し、訴因及び罰条の変更請求書に記載されている臨時物資需給調整法違反の事実は単に情状として記載されているものであるか、又は同法違反という罪名及びその罰条を右変更請求書に記載するを誤つて遺脱したもので、依然起訴状記載の通り臨時物資需給調整法違反の訴因についても審判を求めるものであるかどうかを釈明し、若し前者であるならば、同法違反の公訴の取消であるから刑事訴訟規則第百六十八条に依り、その旨の書面を提出させその後者であるときは、同法違反の訴因の追加を命じた上この訴因を認定すべきであつたのである。それ故右の手続を践まないでいきなり臨時物資需給調整法違反の訴因をも認定してその罪責を問うている原判決は違法であり、この違法は判決に影響を及ぼすものといわねばならない。論旨は結局理由がある。

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