東京高等裁判所 昭和25年(う)4646号 判決
次に、食糧緊急措置令第一三条にいう「収用を拒み、妨げ」る行為は刑法第九五条にいう「暴行又は脅迫を以て公務員の職務の執行を妨害する」行為に対する特別法の関係にあるものとして規定されたものではない。食糧緊急措置令第一条の規定による主要食糧の収用を行う官史に対し暴行又は脅迫を用いて、その収用行為を妨害するときは、一面右措置令第一三条にいう「収用を妨げ」る場合に該当すると共に、他面刑法第九五条にいう「暴行又は脅迫を以て公務員の職務の執行を妨害する」場合に該当するものといわなくてはならない。従つて、これと同一の見解の下に、被告人等の判示所為に対し右両法条に規定する罪の観念的競合の成立を認め、刑法第五四条第一項前段の規定を適用して被告人等を処断した原判決の措置には違法ありとするわけにはいかない。従つて論旨第二点は理由なきものといわなくてはならない。
次に、食糧緊急措置令第一条の規定に依る主要食糧の収用は、同令第二条の規定により当該官吏をして収用令書を交付させてこれをすること、同令の規定する所によつて明らかであるが、右措置令の施行規則第五条に規定する官報又は府県令の公布と同一の方法に依る公示手続は、右収用令書の交付手続とは別個のものであつて、収用令書の交付手続が右公示手続の履践の有無によつて、その効力を左右されることはない。そうして、収用を受ける者が不在の場合に、当該官吏が収用令書をその家屋内に差置いた以上、茲に収用令書の交付のあつたものと見て何等差支えないのであるから、判示収用官吏鈴木一のした収用手続に違法の跡ありとすることはできない。従つて該収用手続を以て違法なりとする見解を前提とする論旨第三点は、おのずから理由なきものということができる。