東京高等裁判所 昭和25年(う)5003号 判決
記録並びに原審が取り調べた証拠に現われた事実によると原判決の事実認定に過誤がなく被告人の弁解するように詐欺の意思なかつたものとも認められない。
論旨は被告人は曽て橫浜の日本貿易会社に勤務したことがあり、注文を受けたような生地を入手するあては少くとも主観的にはあつたし現に二回に亘り代品を提供した点などを挙げ詐欺の意思なかつた旨を強調するが、前掲説明のとおり詐欺の犯意はこれを認めるに十分であるし、代品の提供は犯罪後の挙動であるから犯行そのものの成否を左右するものではない。
なお詐欺罪の成否を定める標準の一つである欺罔手段は信義則に合するかどうか即ち一般通常の見地から正直であると認められるかどうかの点にある。若し一般通常の見地からする正直に関する平明な法則に反すると認められる程度の欺罔手段(例えば計画的欺罔、違法な工夫、悪い手練策省略又は習慣(イル・プラクテイス)のいずれたるを問わず)の施用によつて人を錯誤に陥入れ、その財物を騙取したときは詐欺の罪を構成するものというべきである。被告人が仮りに電車内等で被害者諸井昭次と何回か同車した際世間話の序に話した結果本件洋服の買入方を依頼されたのであつたとして、判示欺罔手段は一般通常の正直に関する法則に反するものである。要するに原判決には所論のような不合理な恣意的判断ありとは認められない。
論旨はいずれも理由がない。
同第二点について。
(前略)
なお、浦和地方検察庁川越支部とすべき箇所に川越支部検察庁とあることは所論のとおりであるが右は前掲記載を簡省略にしたものであることが何人にも一見明瞭であるから所論のように刑訴規則第五八条に反するものとは認められない。
蓋し、同法条の精神は官吏等作成者の所属官公署の同一性を認識しうる程度の記載あるを以て足るものと解せられるからである。