東京高等裁判所 昭和25年(う)5057号 判決
捜査機関が刑事訴訟法第百九十八条第一項の取調を為すに際し事前に被疑者に対して供述拒否権のあることを告げなければならないことは、寔に所論の通りである。然し同一捜査機関が同一の訴訟手続に於て時を接し同一人を取調べる都度毎回其の告知を繰返さねばならないものでないことは、元来右供述拒否権自体が憲法第三十八条第一項に明定されて居て国民全般が之を知悉して居り又知悉して居なければならないところであることからしても明らかであると謂わねばならない。今之を本件について観ると、所論の供述調書は被告人の副検事に対する第三回の供述調書であるから其の調書の冒頭に供述拒否権を告知した旨の記載がなくても、之を以て直ちに右副検事は其の取調を為すに当り全然右の告知を為さなかつたものと即断し右調書は其の告知を欠いた違法の供述調書であると為し得ない許りでなく、本件記録を精査すると右供述調書については、被告人が原審第三回公判廷で原裁判所に対し之を証拠とすることに同意し且原審が其の作成された当時の情況の信頼的保障に関する調査を為し、其の結果之を証拠とすることを相当と認めたものであることを容易に看取出来るから、原審が右供述調書を本件罪証に供したのは寔に相当であつて原判決には所論のような違法はなく、此の点に関する論旨は理由がない。