東京高等裁判所 昭和25年(ウ)216号 判決
被申立人を仮処分債権者、申立人等を仮処分債務者とする東京地方裁判所昭和二十三年(ヨ)第五四四号仮処分命令申請事件について同裁判所が昭和二十三年三月二十四日なした仮処分命令中被申立人に使用許可を命じた部分はこれを取り消す。
申立人等その余の申立はこれを却下する。
申立費用はこれを四分しその三を申立人等、その余を被申立人の各負担とする。
この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
二、事 実
申立人等代理人は、主文第一項記載の仮処分命令はこれを取り消すとの判決を求め、その理由として被申立人は申立人等に対し被申立人所有の東京都千代田区神田神保町一丁目十一番地所在木造トタン葺三階建一棟この建坪二十二坪四合六勺、外二階二十二坪四合六勺三階十三坪四勺の家屋明渡を求める本訴に先立ち東京地方裁判所に仮処分命令を申請したところ、同裁判所は該申請を相当と認め、昭和二十三年三月二十四日附を以て「目的家屋の占有を執行吏に移し、その現状を変更しないことを條件として二階の約八疊及び三疊の二室を被申立人にその余は申立人等にそれぞれ使用を許し、湯殿、便所、台所、物干、電気、水道、瓦斯は被申立人及び申立人等の共同使用とし、被申立人には一定の出入口、板間階段、廊下を通行の爲使用を許す」旨の右主文第一項掲記の仮処分命令を発し、同年四月二日その執行がなされた。次で被申立人は申立人等を被告として同裁判所に昭和二十三年(ワ)第一、二三三号家屋明渡請求の本訴を提起したが昭和二十五年八月十日被申立人(原告)の請求を棄却する旨原告敗訴の判決がなされた、被申立人は右判決に対し昭和二十五年九月二十五日当高等裁判所に控訴を提起したが右第一審判決は控訴審においても取り消される虞がないばかりでなく、被申立人は昭和二十五年十月九日に至り本件目的物件より退去して東京都千代田区東神田五番地所在の家屋に移轉居住しているので最早本件仮処分の必要なきに至つたもので右は民事訴訟法第七百五十六條第七百四十七條所定の事情の変更に該当するから右仮処分の取消を求めるため本件申立に及んだと陳述した。<立証省略>
被申立代理人は申立人等の申立却下の判決を求め、答弁として申立人等主張の経過により、その主張の如き被申立人(原告)敗訴の判決がなされた事実及び被申立人が当該目的物件より退去して東京都千代田区東神田五番地所在の家屋に居住している事実は認めるがこれを以て直ちに仮処分取消の事情変更があつたものとは言い得ないと陳述した。<立証省略>
三、理 由
申立人等主張の経過により、その主張の如き被申立人(原告)敗訴の判決がなされた事実は当事者間爭ないところなるも、右判決の正本である甲第一号証によれば、原告が敗訴したのは本件建物の賃貸借の解約につき正当の事由があるものとは考えられないとの判定が下されたためであるが、原告が本件建物の明渡を受ける必要も相当強いものであることは右判決の理由中において認められているところであるから、控訴審における審理の結果を待つにあらざれば、控訴審において取り消される虞があり得ないとの即断は到底下すことはできない。從つて未だ本件仮処分を全面的に取り消し得べき事情の変更があつたものとはなし難い。
しかし、成立に爭なき甲第二号証(点檢調書)によれば被申立人(仮処分債権者)一家は昭和二十五年十月九日に至り目的物件より退去し現住せず且つその遺留品も全く存在しないことが明かであり、被申立人が現在千代田区東神田五番地所在の家屋に居住していることは被申立人の認めているところであるから、本件仮処分命令中被申立人に本件建物の一部分の使用許可を命じた部分はこれを維持するの必要なきに至つたものと認められるから、この部分についてはこれが取消をなし得る事情の変更があつたものと言うことができる。
よつて申立人等の本件申立は右認定の限度においては理由あるも、その余は失当であるからこれを却下すべきものとし、申立費用の負担につき民事訴訟法第八十九條第九十二條本文、仮執行の宣言につき同法第百九十六條第一項を適用し、主文の通り判決する。
(裁判官 大江保直 梅原松次郎 奥野利一)