大判例

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東京高等裁判所 昭和25年(ネ)238号 判決

控訴人等は、原判決を取消す、昭和二十三年十月二十三日当時の逓信大臣が控訴人等に対してなした懲戒免官の処分はいづれもこれを取消す、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする、との判決を求め、被控訴人等は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、控訴人等において、

(一)  連合国軍事裁判所の為した控訴人等に対する裁判は外国裁判所の裁判であつて、控訴人等個人に対し国際法上の効力を有していることは争わないが、それと同時に日本国の国内法上の効力をも併せ有するものと解釈することはできない。軍事裁判の拘束力については何等の日本の国内法の規定が存在しないのであるから、控訴人等に対する軍事裁判は日本の国内法上、控訴人等を含む日本のいかなる国家機関ないし第三者をも拘束しない、この事は連合国の日本管理がいわゆる間接管理であつて連合国の設定する法規はそのまゝ日本の国内法となるのでない法理からしても明かである。

(二)  控訴人等が軍事裁判所の裁判で認定された行為を行つたことはないが、仮にそのような行為があつたとしても、右は官吏懲戒令第二条第一項第二号の「職務の内外を問わず官職上の威厳又は信用を失うべき所為」に該当しない、控訴人等は連合軍の将校の命令に従うべき職責を有しなかつたのであるから、連合軍将校の命令に従わなかつたとしても「官職上の信用」を失うべき行為には該当しない。偽証行為も同じ理由で「官職上の信用」を失うべき行為に該当しない。尚「威厳」などという概念は国民全体の奉仕者たる公務員とは相容れないもので新憲法上死文化している、

(三)  控訴人篠崎光治は被控訴人郵政大臣に対し、控訴人山内敏夫は被控訴人電気通信大臣に対し、夫々本件処分の取消を求める、と述べた外原判決事実摘示記載のとおりであるから、こゝにこれを引用する。(証拠省略)

三、理  由

控訴人篠崎が昭和十九年十月逓信局通信書記補に任官し、昭和二十年十月横浜郵便局管理課に勤務していたが、昭和二十二年十月以降は全逓信労働組合中央闘争委員として組合事務に専従してきた事実、控訴人山内が昭和二十年九月逓信技手に任官し、昭和二十一年四月以降東京搬送電気通信工事局に勤務していた逓信技官である事実、昭和二十三年十月二十三日当時の逓信大臣が控訴人等を官吏懲戒令第二条第一項第二号に規定する「職務ノ内外ヲ問ハズ官職上ノ威厳又ハ信用ヲ失フベキ所為アリタルトキ」に該当するものとして、懲戒免官に処した事実は当事者間に争がない。

而して控訴人等は右懲戒処分は控訴人が連合国軍事裁判所で処罰を受けたというだけの事実に基いてなされたがそれを目して前記法条の「行為アリタルトキ」となしたのであると主張しているが、真正に成立したと認められる乙第一ないし第三号証、第六ないし第八号証を綜合すれば、控訴人等が、昭和二十三年三月二十六日の所謂全逓争議にあたり、連合国軍の占領目的に影響を及ぼす行為をなしたことを理由として軍事裁判に附せられ、有罪の判決を受けたときの当時の東京逓信局長より当時の逓信大臣官房秘書課長あての報告に基き、控訴人等の本属長官であつた右逓信大臣は官吏普通懲戒委員会に審査を要求したため、第五十三回官吏普通懲戒委員会は昭和二十三年九月十日控訴人等に対する懲戒事件を審査し、軍事裁判所の事実認定及び同裁判所の審理経過報告書を資料として、「控訴人両名は昭和二十三年三月二十六日頃東京附近において占領軍の担当官ヂヤーウイン・ジー・クローレー陸軍中尉より、東京大阪間電話テレタイプ二回線を復旧せよとの正式命令を受けながら、この命令を故意に拒み、また控訴人山内敏夫は昭和二十三年四月十三日東京で行われた右軍事裁判所の公判において、宣誓の上陳述するにあたり連合国軍犯罪搜査係(CID)より脅迫せられて口供書を作成したと虚偽の事実を述べたという事実を認定し、これに官吏懲戒令第二条第二号第三条第一号を適用し、本官を免ずべき旨を本属長官たる当時の逓信大臣に上申し、逓信大臣は右上申に基き控訴人等を免官処分に附した事実を認めることができるから、控訴人等に対する懲戒処分が、控訴人等が軍事裁判所において処罰を受けただけの事実に基いてなされたから違法であるとの控訴人等の主張はその理由がない。

次に控訴人等は当時の逓信大臣が国内法たる官吏懲戒令に基く手続において外国裁判所である軍事裁判所の裁判に拘束されるものと解した点において本件懲戒処分は違法であると主張しているのでこの点について判断する。被控訴人等もまた軍事裁判所の事実認定が官吏懲戒手続についてわが行政官庁を拘束するものと解すると答弁しているが、この点については連合国最高司令官又は他の連合国官憲より何等の一般的指令はないし、その他わが行政官庁が右軍事裁判所の事実認定を尊重することは差支えないとしても別段これに拘束されると解すべき法理上の根拠もないけれども前記認定の如く懲戒処分の原因たる事実が前掲乙号各証によつて十分認定し得られる以上、仮りに当時の逓信大臣において懲戒処分をなすにつきこの点の解釈に誤解があつたとしてもその事実に基いてなされた本件懲戒処分の効力には影響を及ぼさないものといわなければならない。

更に控訴人等は控訴人等に占領軍官憲の命令を拒んだ事実があるとしても、かゝる行為は「ポツダム」宣言、極東委員会の十六原則、日本国憲法等により保障された労働組合活動として為されたもので違法性がないと主張しているけれども、連合国最高司令官または他の連合国官憲の発する指示についての最終解釈権は発令官憲にあることは連合国最高司令官指令第二号第一部第四項に明記せられて居り我が官憲並びに私人は権限ある連合国官憲の命令に誠実且つ迅速に服さなければならないのであるから、(同指令第一号第十二項参照)控訴人等の右主張は理由がない。

なお控訴人等は連合軍将校の命令に従うべき職責を有しなかつたのであるから、連合軍将校の命令に従わなかつたとしても、官吏懲戒令第二条第一項第二号の「官職上ノ信用」を失うべき行為に該当しないと主張しているけれども、前掲指令第一号第十二項によれば、「日本国ノ及日本国ノ支配下ニ在ル軍及行政官憲並ニ私人ハ本命令及爾後連合国最高司令官又ハ他ノ連合国軍官憲ノ発スル一切ノ指示」に従うことを要するのであるから、控訴人等が連合国軍官憲の命令を拒んだことは、控訴人等の職務権限如何に拘らず、指令違反の責任を免れず、ひいては、連合国占領下の日本政府の官吏として「官職上ノ信用」を失うべき所為に該当することは明かである。

しかして、控訴人等が前記認定の行為をなした際の事情(前掲乙号各証によつてこれを認める)及び連合国最高司令官指令第一号第十二項の趣旨を斟酌すれば、本属長官が官吏懲戒令所定の懲戒方法中免官の処分を撰択し、控訴人等を免官処分に附したことは相当であるといわねばならない。

以上いづれの点からするも本件控訴人等に対する懲戒免官処分には違法の点がないのであるから、これが取消を求める控訴人等の請求は失当として棄却せらるべきもので、これと同趣旨の原審判決は正当である。

よつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十五条第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤直一 藤江忠二郎 猪俣幸一)

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