大判例

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東京高等裁判所 昭和25年(ネ)311号 判決

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の供述は、控訴人が昭和二十四年十一月二十五日その商号を菊美酒造株式会社と変更し、その旨の登記を経たことは互に爭なしと述べた外、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

証拠として、被控訴代理人は、原審証人渡辺眞、笠原正勝、杉村馬太郎、当審証人佐藤実五郎の各証言、原審(第一、二回)並びに当審における被控訴本人松村茂三郎の訊問の結果を援用し、乙号各証の成立を認めると述べ、控訴代理人は、乙第一ないし第四号証を提出し、当審証人渡辺眞、世古正之輔、平松輝三の各証言を援用した。

三、理  由

(一)  控訴会社は菊美酒精工業株式会社と称したが、昭和二十四年十一月二十五日その商号を菊美酒造株式会社と変更し、その旨登記を経由したことは、当事者間に爭がない。

(二)  原審証人杉村馬太郎、笠原正勝、当審証人佐藤実五郎の各証言、原審並びに当審における証人渡辺眞の証言及び被控訴本人松村茂三郎の供述によれば、昭和二十一年十二月二十日控訴会社がその定款を変更する前は、同会社株式の讓渡承認に関しては、その事務は代表取締役に一任され、代表取締役の一存で自由にその許否を決定することができ、代表取締役たる渡辺眞としては、当時非況にあつた会社の経営を打開する方策として、酒精製造業界における有力者として知られた被控訴人松村茂三郎が、会社の大株主として乘込みその経営に参加することを好ましきことと考え、訴外升田憲元よりその所有株式を被控訴人茂三郎に讓渡することにつき意見を求められた際もこれに賛意を表し、同被控訴人が同年十一月中旬頃右升田との間に本件株式の讓渡契約をするに先き立ち、同年九月中代表取締役としての渡辺の意向を確知すべくこれと面談した際も、右株式の讓受方を歓迎し、予めこれを承認する意思を表明したことを認めるに十分である。同人が代表取締役としてでなく單に個人の資格においてこれを承認したにすきないとの右証人渡辺眞の証言は措信するに足りない。原審並びに当審における被控訴本人松村茂三郎の供述により明かな如く、同被控訴人は升田より多額の代金を以て本件株式を買得せんとするに当り、右株式讓渡につき定款上代表取締役の承認を要するが爲め、前以て代表取締役たる渡辺の意向を確かめたものであつて、同被控訴人としては、若し右渡辺の承諾がなければ株式を買い受けなかつたことは勿論であり、その承認を得るに及び安んじて升田との間の本件株式賣買の契約を締結しこれが履行を了するに至つたものである。かように会社の定款上讓渡制限の定ある株式を取得せんとするにつき、被控訴人茂三郎はこれ丈け周到の用意を盡し、代表取締役たるものの事前の承認ある以上、株式の取得につき法律上事実上何等の支障なきものと信じ取引を実行したところ、控訴会社はその後に至り定款を変更し株式讓渡につき取締役会の承認を要することと改め、本件株式の讓渡承認を拒否し、会社が讓渡につき承認を爲したか否かは取得者より会社所定の名義書換請求書が会社に提出せられた時を基準として決すべきものであつて、その以前における会社当局者との交渉は凡ていわゆる下話の程度を出でず、法律上何等その効なきものである旨主張する。しかしながら適法な権限を有する代表取締役の事前の承認に信頼し、その信頼に基いて株式の讓渡がなされた場合、会社がその信頼を裏切り定款を変更して右讓渡承認を拒否する手段を講じ株式讓受人に多大の損害を與えるが如きことは、社会生活上要求せられる信義に反すること著しく、いわゆる禁反言の法理に徴するも会社はこの場合右讓渡承認を拒み得ざるものというべきである。

以上附加する外、当裁判所も原審とその認定を一にし、右認定に反する当審証人世古正之輔、平松輝三の各証言はこれを採用することはできない。よつてここに原判決の理由を引用する。

然らば、被控訴人等の本訴請求は正当として認容すべく、右同趣旨に出でた原判決はもとより相当であつて本件控訴は理由なきによりこれを棄却すべきものとし、民事訴訟法第三百八十四條第八十九條第九十五條に則り主文のとおり判決する。

(裁判官 大江保直 梅原松次郎 奥野利一)

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