大判例

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東京高等裁判所 昭和25年(ネ)594号 判決

控訴人は、被控訴人に対し、古河電気工業株式会社株式五十円全額拂込済二百株(内訳百株券ケ第九三〇号、五十株券ス第一一三〇号及び同ス第一一六七号、いずれも名義人岩井眞之助)と引換に、金三万九千八百円及びこれに対する昭和二十四年八月八日からその支拂済まで年六分の割合による金員を支拂え。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。

二、事  実

控訴代理人は、原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決を求めると申し立て、被控訴代理人は、本件控訴を棄却するとの判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、原判決の事実の項に記載されたところと同一であるから、これを引用する。

<立証省略>

三、理  由

被控訴人が有價証券の賣買を業とする株式会社で、控訴人が被控訴人に対し、昭和二十四年一月五日主文第二項記載の古河電気工業株式会社株式二百株を、その名義人岩井眞之助名義の白紙委任状を添付し、代金三万九千八百円で賣り渡じ、被控訴人が同日控訴人に対し右の代金の支拂をしたことは、当事者間に爭がない。そしてその成立に爭のない甲第一号証の一、二、同第二号証の一乃至三及び原審証人福島正己の証言によつて眞正に成立したと認める甲第一号証の三乃至六、同第二号証の四、五並びに原審及び当審証人福島弘己、原審証人赤木康成の各証言を考え合せると、被控訴人は、控訴人から前記の株券を買い受けると即日これを他の証券会社に轉賣し、その証券会社は更にこれを他の証券会社に轉賣し、最後にこれを買い受けたものが、前述の白紙委任状を用いて、株式の名義を書き換えようとしたところ、白紙委任状に押された岩井眞之助の印鑑が、会社に届けてある印鑑と相違したため、会社では名義書換を拒んだので、右株券は今度は逆の経路をたどり、順次各証券会社の手を経て被控訴人に返還されたので、被控訴人は、控訴人に対し、種々交渉したけれど、控訴人はこれに應じなかつた。一方被控訴会社は、印鑑相違の実情を調査した結果、右株券は、名義人岩井眞之助が訴外田中信二に名義書換を依頼して預けておいたところ、田中信二は僞造した岩井の印鑑を使用して、岩井名義の白紙委任状を僞造し、この白紙委任状を前記の株券に添付して、控訴人に賣り渡し、控訴人は、更にこれを被控訴人に賣り渡したものと判明したことが認められる。およそ白紙委任状付で株式を賣買する場合、白紙委任状に押された名義人の印鑑が、名義人の会社に届けてある印鑑と同一で、かつ、名義人の意思に基いて押されており、從つて、株券の買受人がこの白紙委任状を用いて株式の名義書換をしようとするときは、何時でも名義書換をすることができるものであることは、たとえ明示的に表示されないとしても、改めて特に明示的に表示することを必要としない程はつきりとかゝる取引の最も重要な内容をなすもので、もし、かゝる場合委任状に押された印鑑が僞造のものであることが判つていたならば如何なる者といえどもその株券買受の意思表示をしないことは火を見るよりも明らかなことであるから、本件における被控訴人の右株券買受の意思表示は、法律行爲の要素に錯誤があり、無効といわなければならない。しかも原審及び当審証人福島弘己、原審証人赤木康成の各証言によれば、控訴人と被控訴人との間には、これより先すでに数度の株式の取引があり、互に十分信頼の関係に立つていたものであることを認め得るばかりでなく、特に信用を重んじ、迅速に取引をしなければならない証券会社の取引において、その賣買締結に先きだち、一々会社の印鑑簿と対照するが如きは到底期待されないことで、これを取り立てゝ、被控訴人に重大な過失があつたものとはいわれない。

以上の次第により、本件の賣買は無効であるから、控訴人は、被控訴人に対し前記株券の返還を請求し得ると共に、被控訴人に対し、受領した代金三万九千八百円を返還しなければならない。被控訴人は右代金として交付した金銭につき、これを交付した日である昭和二十四年一月五日から損害金の支拂を求めているが、右債権については、履行の請求を受けたときからはじめて遅延損害金を生ずるものと解せられ、被控訴人が控訴人にこれを請求した日時が被控訴人の提出援用した証拠で確実に認められるのは、その成立に爭のない甲第四号証の書留内容証明郵便が通例の事態では控訴人に到達したと認められる昭和二十四年八月七日であるから、控訴人は被控訴人に対し前記金額に対しその翌日である同月八日からその支拂済まで商法所定年六分の法定利率による損害金を支拂う義務があるものとしなければならない。

すなわち、被控訴人の本訴請求は、以上認定の限度でその理由があり、これを認容することができるが、その余は失当として棄却を免れない。よつて原判決を右の限度で変更し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第九十二條但書、第八十九條、第九十五條を適用して、主文のように判決した。

(裁判官 中島登喜治 小堀保 原増司)

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