大判例

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東京高等裁判所 昭和25年(ネ)824号・昭25年(ネ)1499号 判決

控訴人は被控訴人に対し東京都板橋区板橋町六丁目三千百九十六番地所在木造瓦葺二階建家屋一棟建坪十三坪七合五勺二階四坪七合五勺を明渡し、かつ昭和二十三年一月一日より同年十月末日までは一ケ月金七十五円、同年十一月一日より昭和二十四年六月末日までは一ケ月金百八十七円五十銭、同年七月一日より昭和二十五年七月末日までは一ケ月金三百円、同年八月一より右家屋明渡済に至るまでは一ケ月金六百八十一円の各割合による金員を支払うべし。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

本判決中、家屋明渡並びに金員支払を命ずる部分は、被控訴人において担保として金三万円を供託するときは、仮りに執行することができる。

二、事  実

控訴代理人は、「原判決中、控訴人敗訴の部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求めると申立て、被控訴人の附帶控訴に対しては控訴棄却の判決を求め、被控訴代理人は、控訴人の控訴に対しては控訴棄却の判決を求めると申立て、附帶控訴として主文第一項乃至第三項と同趣旨の判決並びに仮執行の宣言を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、被控訴代理人において、被控訴人は従来昭和二十四年七月一日以来本件家屋明渡済に至るまでの一ケ月金三百円の割合による賃料乃至相当賃料同額の損害金の支払を求めていたところ、昭和二十五年八月十五日物価庁告示第四七七号を以て家賃の統制額は同年八月一日より修正されることゝなつたが、右建物は昭和十三年以前の建築にかゝり、その賃貸価格は金二百六円であつて、また右建物敷地の借地坪数は二十一坪七合五勺あり、その坪当り賃貸価格は金三円八十八銭であるから本件家屋の修正統制額は一ケ月金六百八十一円となる。よつて叙上の修正統制額による賃料を以て相当賃料とみなすべきものであるから、原審における請求を拡張し昭和二十五年八月一日以降右家屋明渡済に至るまでの損害金については、右修正統制額たる一ケ月金六百八十一円の割合により支払を求めるものであると述べた外、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

<立証省略>

三、理  由

被控訴人先代永井仙蔵は昭和十三年十二月中、同人所有にかゝる東京都板橋区板橋町六丁目三千百九十六番地所在木造瓦葺二階建家屋一棟建坪十三坪七合五勺、二階四坪七合五勺を賃料一ケ月金三十円、月末払の約定にて、期間を定めず控訴人に賃貸し、被控訴人は、昭和二十年七月四日右仙蔵の家督相続をして、賃貸人の地位を承継した事実は本件当事者間に争いがない。

而して被控訴人が昭和二十四年八月十六日到達の書面を以て控訴人に対し、昭和二十三年一月分以降の延滞賃料の支払を催告し次いで昭和二十四年八月二十日到達の書面を以て控訴人に対し、賃料不払を理由として右賃貸借契約を解除する旨の意思表示をなしたことは、控訴人の認めるところである。

よつて右賃貸借契約解除の適否について、判断を加える。

本件家屋が昭和十三年以前の建築にかゝることは弁論の全趣旨に照し明かであり、当初の昭和十三年十二月における右家屋の約定賃料が一ケ月金三十円であつたことは前述の通りであるから、右家屋の賃料の修正統制額は、地代家賃統制令に基く物価庁告示によつて、昭和二十二年九月一日から一ケ月金七十五円、昭和二十三年十月十一日からは一ケ月金百八十七円五十銭、昭和二十四年六月一日からは一ケ月金三百円に、それぞれ増額されたものである。

(イ)  しかるところ、控訴人が昭和二十二年十二月中、右家屋の賃料を同年十月分より前示修正統制額たる一ケ月金七十五円に増額することを承諾したことは、控訴人の認めるところである。

(ロ)  次に被控訴人が昭和二十三年十月中及び昭和二十四年六月中の二回にわたつて、それぞれ前記家賃修正率の告示が出た後、控訴人に対し、家賃増額の請求をなしたことは、当事者間に争いがない。ただ右賃料増額請求に当り金額の明示がなかつたことは、原審証人永井克政の証言によつても明かであるが、叙上の如く、家賃修正率の告示後になされた賃料増額の請求は、他に特段の事情の認められない本件においては、修正統制額と同額の増額請求をなしたものであつて、控訴人もその趣旨を了知し得たものと認めるのが相当である。而して修正統制額は当時の当該家屋の相当賃料と認むべきものであるから、借家法第七条の法意に則り、増額請求の時から修正統制額と同額に賃料増額の効果を生じたものと解すべきであるから、本件においては、増額請求の都度、それぞれ前記修正統制額たる一ケ月金百八十七円五十銭並びに金三百円の賃料に各増額されたものとする。ただ増額請求の日時については、前述の如く、昭和二十三年十月中及び昭和二十四年六月中というにとどまり、その日時を確定し得べき証拠はないから、少くとも前者については昭和二十三年十一月一日より後者については昭和二十四年七月一日より右増額賃料の支払義務あるものというべきである。

従つて控訴人は本件家屋につき、少くとも昭和二十三年一月一日よりは一ケ月金七十五円、同年十一月一日よりは一ケ月金百八十七円五十銭、昭和二十四年七月一日よりは一ケ月金三百円の各賃料を支払うべき義務あるものとする。

しかるところ控訴人は、本件家屋につき被控訴人が賃貸人として必要な修繕義務を履行せずまた控訴人の支出した修繕費用の償還をもなさずして、賃料増額を請求することは、失当であると主張する。しかしながら、叙上の如く、修正統制額による賃料増額の請求が是認せられる所以は、客観的に相当なる賃料額を形成せんとする目的に出でたものであつて、かゝる客観的に妥当なる賃料を形成するに当つては、賃貸人が修繕義務を履行したか否か若しくは賃借人のなした修繕改良の工事及びその費用の償還の如何の如き、当事者間の特殊事情は、これを考慮にいるべきものではないと解するから、かゝる特殊事情の存在を前提として、叙上賃料増額請求の効力を否定せんとする控訴人の所論は採用することはできない。更にまた控訴人の主張する如く、控訴人が右家屋に修繕を加えたことにより必要費の償還請求権を有するとしても当然には叙上増額賃料の支払を拒絶し得べきものではない。

次に控訴人は、昭和二十三年一月以降の賃料については、被控訴人に弁済のため現実に提供したが、受領を拒絶されたので供託したから、控訴人には履行遅滞の責のないのは勿論、賃料債務も消滅したものであると抗争するけれども、控訴人が弁済の提供をなしたに拘らず、被控訴人がその受領を拒絶したとの事実については、当審証人米田ひちの証言、原審並びに当審における控訴人本人の供述は、原審証人永井克政の証言に照し措信し難く、他に右事実を明認するに足る確証はないばかりでなく、成立に争いのない乙第一号証、原審並びに当審における控訴人本人訊問の結果に徴すれば、控訴人の供託した賃料は一ケ月金三十円の割合によるものであることが明かであるから、右は適法なる供託とは認め難く、弁済の効力もない。従つて叙上控訴人の主張は失当である。

しかるところ叙上の如く、控訴人のなした供託は弁済の効力を生ずるに由なく、他に昭和二十三年一月以降前記修正統制額による賃料の支払のあつた事実は認められない。

而して被控訴人が昭和二十四年八月十六日到達の書面を以て、控訴人に対し、昭和二十三年一月分以降の延滞賃料の催告をなしたことは前述の通りであるが、成立に争いのない甲第三号証の一、二によれば、右賃料の催告は単に「遅滞なく支払つて貰いたい」という趣旨にとどまり、所謂催告期間は明示されていないことが認められるので、かゝる催告は、相当な履行期間を定めたものとはいい得ないけれども、前述の如く被控訴人は、その後昭和二十四年八月二十日到達の書面で、控訴人に対し右賃貸借契約解除の意思表示をなしたものであつて、右催告後、契約解除の日までに経過した三日の期間は、履行のための相当の期間と認むべきものであるから、これによつて右契約解除の効力を否定するには足りないものである。更にまた、前掲甲第三号証の一、二によれば、控訴人主張の如く、右催告には、支払を求める延滞賃料額が明示されていないことは明かであるが、前述のように、増額請求により既に賃料増額の効果を生じている以上、もはや、控訴人のいうが如く、支払金額につき、今更被控訴人と協議決定するの必要はないものと考えるから、右三日の期間を以て、履行のため不相当なる期間となす控訴人の所論は採用できない。

従つて右期間内に弁済のあつたことの認められない以上、右賃貸借契約の解除の意思表示は有効にその効力を生じたものであるから、被控訴人の主張する原状回復義務の不履行を原因とする契約解除の適否を判断するまでもなく、本件賃貸借契約は解除により終了したものというべきである。

されば控訴人は被控訴人に対し、前記家屋を明渡すべき義務あるとともに、昭和二十三年一月一日より同年十月末日までは一ケ月金七十五円、同年十一月一日より昭和二十四年六月末日までは一ケ月金百八十七円五十銭、同年七月一日より昭和二十五年七月末日までは一ケ月金三百円、同年八月一日より明渡済に至るまでは一ケ月金六百八十一円の割合による賃料乃至相当賃料同額の損害金を支払うべき義務あるものとする。(昭和二十五年八月一日以降の相当賃料同額の損害金を一ケ月金六百八十一円と認定した理由は次の通りである。昭和二十五年八月十五日物価庁告示第四七七号により同年八月一日以降の家賃に適用される修正統制額については、(イ)成立に争いのない甲第五号証の一、二並びに弁論の全趣旨に徴すれば、本件家屋の昭和二十五年七月三十日現在における賃貸価格は金二百六円であることが認められ、同家屋が昭和十五年以前の建築にかかることは前述の通りであるから、その純家賃額は一ケ月金五百九十七円四十銭となり、また、(ロ)前掲甲第五号証の一、二並びに弁論の全趣旨に徴すれば、本件家屋の所在する宅地の昭和二十五年七月三十日現在における坪当り賃貸価格は金一円八十銭であることが認められ、右家屋の敷地が二十一坪七合五勺であつて被控訴人がこれを借地していることは、控訴人の明かに争はないところであるから、これを自白したものとみなすべく、従つてその地代相当額は金八十四円三十九銭となるから以上(イ)及び(ロ)の金額を合算した金六百八十一円(一円末満の端数は切捨)が修正統制額となるところ、右は正に相当賃料に該当するものと認むべきである。よつて右金額を以て、昭和二十五年八月一日以降右家屋の明渡不履行により被控訴人の被むるべき損害と認めた。)

果して然らば被控訴人の本訴請求は正当であるからこれを認容すべく、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを排斥し、叙上の趣旨に原判決を変更した上、民事訴訟法第九十六条、第八十九条、第百九十六条に則り主文の通り判決する。

(裁判官 渡辺葆 浜田潔夫 牛山要)

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